第51話 ぶつかる想い
<戦いの技式>
第51話 ぶつかる想い
-2階-
「 “砲撃砕” !!」
「 “〝気鋭士魂〟雲雀斬り” !!」
<〔Perspective:朝凪〕>
永刃と永刃が勢い良くぶつかり、空気が激しく震える。少しの間押し合いが続いた後、互いに後ろへ戻された。
鍛えて確実に強くなったのに…差があんまり縮まってる気がしない…。動きも全て…ザクロとはまるで違う強さだ…。
「──ちょっとは強くなったみたいだね…。動きのキレも速さも…特に永気操作のレベルが、あの日と比べて格段に上がっている…」
ならちょっとは苦しそうにして欲しいものだけども…、考えようによっては…ようやく同格に上り詰めれたって事かな…?そうだな…そう考えようっ!
この前とは違う…っ!強くなったのは身体能力と永気操作だけじゃないぞ…っ!
「幡 強化式 【流】! “〝気鋭士魂〟裂羅” !!」
「──…っ!」
私は脚に力を込めて一瞬で間合いを詰めた。前までは見てから攻撃に攻撃をあわされていたが、今この時初めてグレナの対応が遅れた。
寸前で防がれはしたが…【流】で強化した攻撃を受け切る事は出来ず、グレナはずっと後方にぶっ飛んで、壁を突き抜けて姿が隠れた。
ザクロとの戦いで得たものは多くあるが、その中で最も伸びていたのは強化式の上昇効果だった。
今では1番スタンダードな【流】でさえ、攻撃力は以前の倍…移動速度も以前の【脚】に並ぶ程に成長していた。
成長を実感していると、穴の開いた壁の向こうから物凄い速度でガレキが飛んできた。咄嗟に体を反らせて避けれたが、ガレキのぶつかった壁にはひびが…。
「──痛ったいねぇ…油断したよ…。力の押し合いじゃあ…もう有利を勝ち取れそうにないね…。ここからは容赦なく能力で攻める事にするよ…前みたいにね…!」
そう言い終わると同時に、開いた穴から次々とガレキが飛んできた。本当にあの日と同じ構図になった…、負けらんない…っ!
私はガレキを避けながら一度退き、さっき壁に衝突したガレキを使って適応を発動させた。まずこうしないと何も始まらない。
問題はここから…!出来るだけ体力を温存、かつ被弾を可能な限り抑えないと…これから先に大きく響く…!この前の二の舞は踏めない…!
永刃を前に構えて【流】の加速にのり、素早くグレナとの距離を縮める。もちろんグレナもそれに合わせて再びガレキを飛ばし始めた。
前みたいにガードレールを使ってジグザクに避ける事は出来ず、遮蔽物も特にない今の状況は…ぶっちゃけるとあの日よりキツい…。
避ける動きは最低限に抑え、胴の真ん中辺りに飛んできた避けずらいガレキだけを斬って突き進んだ。
途中何度か避けるのに失敗して手足を切ってしまいもしたが、それでも順調にグレナとの距離は縮まっていった。
そして遂に約3メートルの距離まで近付き、そこで私とグレナは同じタイミングで強化式【集】を発動させた。
「 “砲撃轟烈砕” !!」
「 “燕躰打ち”!!」
二度目の強烈なぶつかり合いは更に空気を揺らし、近くの床と壁には小さな亀裂が生じ、付近のガラスは音を立てて粉々に砕け散った。
少しも力を緩めれられない拮抗した状況…、そんな中で先に仕掛けてきたのはグレナの方だった…。
「 “特攻吹砲” …!」
力の押し合いの中で突然襲ってきた別の力…。踏ん張りも虚しく…次は私がずっと後方にぶっ飛ばされてしまった…。
壁を抜けて新品らしき棚をいくつも倒して止まった。忘れてた…そういえばあんな才式もあったっけ…、気を付けなきゃ…。
「真っ向から力の押し合いはしないって言っただろう…?もうアンタが優位に立つ事は二度とないよ…決してね…!」
むぅ…やっぱり手数の少なさで圧倒的にアドバンテージ不足だなぁ…。技功派相手だと私の能力もあんま意味ないし…、うぅ…苦しい戦いだなぁ…。
私はおでこから流れ出した血を拭って立ち上がった。…っがすぐにガレキが飛んできて、避ける為にまた横になってしまった…。
そのまま転がって壁の陰に隠れた。その間も絶えずガレキは飛んできて、最早飛び出すのもかなり危険な状況…。どうするか…──おっ!
この危機的状況で私の頭に名案(?)が浮かんだ。私は壁の陰から出ない位置に移動してから、適応の能力で天井をくり抜いた。
斜めに傾いた棚を使って3階に上がり、【流】の速さで素早くグレナが立っていた真上辺りに移動した。
そしてさっきと同じ様に床に切り込みを入れて、全力の力で床を踏み抜いた。
「──なんだいこりゃっ!?」
どうやらピンポイントで真上に出れたらしい。これはチャンス…!この状況を上手く使えば攻撃が決まるかもしれない…!
下の様子はよく見えないが、グレナが押さえているからか床は宙でとどまっている。私はもう一度くり抜いた床を強く踏んだ。
「ぐ…っ!考えたね…、でも足りないよォ…!こんなもの…アンタごと屋根までぶっ飛ばしてやるよっ!! “特攻──」
「ふん…っ!!」
グレナが才式を使って床ごとぶっ飛ばそうと考えるのは予想できた。だから才式を発動させるタイミングに合わせて床を真っ二つにして、グレナの懐に入り込んだ。
くり抜いた床(天井?)がまだ手の上にあるグレナは、懐に入った私に気付きはしたが対処の仕様がない。すなわち…大チャンス…!
「 “〝気鋭士魂〟立蓬” !!」
グレナが防御に入る前に、私は上から下に真っ直ぐ永刃を振り下ろした。恐らく今までで一番の攻撃…手応えも十分だった。
それに加えて今の攻撃で少しふらついたグレナの上に床(天井?)が圧し掛かり、グレナは片膝をついた。
かなり効いている筈…そう思った私は片膝をついたままのグレナに永刃を振り下ろした。だが素早く身を躱され、頭を掴まれて壁に叩きつけられた。
一瞬視界がチカッとする程の衝撃が後頭部に走り、更にそのまま強く頭部を押さえつけられ動けずにいると、グレナは追撃を仕掛けてきた。
「 “特攻吹砲” …!!」
頭蓋骨が潰れそうな激痛に襲われ、私は咄嗟に背後の壁を永刃の持ち手でぶっ叩いた。亀裂が走り、直後私の体は壁を突き抜けて近くの柱に衝突した。
咄嗟に機転を利かせて壁を壊せなかったら…多分頭ぺっしゃんこで死んでたかもしれない…。今も頭がガンガン痛む…目眩がしそうだ…。
「 “連射撃砕” …!」
それでもグレナの猛攻は続いた…。柱に寄りかかる私に容赦なく浴びせられる殴打の連撃…、防御している腕が折れそうだ…。
状況を立て直す為になんとか気合で体勢を整え、全ての力を込めて右脚を蹴り上げた。蹴りは完璧に下顎にヒットしたが、それでもグレナは怯まない。
そのまま右脚を掴まれ、凄い力で私は放り投げられた。体中を擦りながら床を転がり…渡り通路の真ん中で止まった…。
「ハァ…ハァ…、効いたよ…アンタの攻撃…。窮鼠猫を嚙むとはよく言ったもんだね…、まさかここまで消耗させられるとは思わなかったよ…」
傷口を押さえながらこっちに向かってグレナが歩いてくる。ダメージが大きいのはお互い様のようで…まだ勝機は失われていない…。
永刃を杖代わりにして立ち上がり、グレナと向き合った。少しの間沈黙が生まれ、さっきみたく再び同じタイミングで強化式を発動させた。
「幡 強化式 【流】…! 」
「幡 強化式 【集】…!!」
グレナは全身を、私は右腕を強化して互いに構えた。 一歩前へ出て、私は全力でジャンプして思いっ切り永刃を上から振り下ろした。
何度目かの永刃同士の衝突…、だが今回は空気が震える程の衝撃は生まれなかった。私はザクロ戦でやってみせたフェイントを仕掛けたからだ。
「 “クレイブ・メテオ”!!」
永刃を手放してがら空きのグレナのお腹に勢い良く拳を突きつけ、そのまま渡り通路の床に叩きつけた。そこから大きな亀裂が生じ、やがて渡り通路は崩れ落ちた。
足場を失って落下していく中で、私は拳を振り切ってグレナを1階にぶっ飛ばした。打ち上げられて落ちてきた永刃を掴んで1階に降りた。
さっきまで通路だったガレキの上に降り立って周囲を見渡すと、大きなガレキを砕いてグレナが姿を見せる。
全力の【集】の拳なのに…まだ全然平気そうだ…。やっぱり…力もタフさもザクロとは比べ物にならない程強い…。
「──戦い方は脳筋なのにフェイントとは…この前とはまるで別人だね…。でもまだそんなもんじゃないだろう…?何をもやもやしてんだい…?」
「…?別にもやもやなんて…」
そう返したが…本当はずっと胸の奥に気持ち悪さが広がっていた…。ただそれを否定して…意識を逸らしていた…。
「──そうかい…、ならアンタは何の為に哀薔薇の集と戦うんだい…?痛い思いして…血に濡れてまで何故アタシに挑んでくるんだい…?」
「そんなの決まって…! …──」
そこで私は言葉に詰まった…。何の為に…、そんなの悪い事をしている哀薔薇の集を倒す為に決まっている…。ただそれだけ…、それだけ…
また胸の奥がざわつく…気持ち悪さが広がっていく…。
「──皆から教祖様って呼ばれてる女はね…名を花月って言うのさ…。唯一無二の…たった一人のアタシの親友さ…」
突然グレナがそう呟いた。私は少し戸惑いを覚えたが、不思議と警戒心が薄れていき…そのままグレナの話に耳を傾けた。
「花月は…物静かだけどいつも表情が明るい子だった…。同じ学校に通って、部活は違ってもいつも一緒に遊んだり帰ったりした仲さ…誰よりもあの子を知ってる…」
何故かその話を聞いていると、胸の奥の気持ち悪さが薄れていく気がした…。私は永刃を構えてはいるが、その手に力は籠っていなかった…。
「高校に入ってから…あの子に初めて彼氏が出来た…。自分の事の様に嬉しかったさ…あの日の事は今でも夢に見るよ…。でも高校卒業後に…それは起きた…!」
グレナは拳を強く握り込んで、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた…。私はそこで…その先に起きたであろうそれが…悲劇である事がなんとなく分かった…。
恐らくそれこそが…全ての始まりだという事が…。
「花月の付き合ってた男は詐欺グループの一員だった…。ソイツは…何も知らない花月を利用して悪事を働いていた…!花月は…ただの道具だった…」
────…。
「やがて詐欺グループのメンバーの大半が捕まり、花月も警察に捕まった…。利用されただけで何も聞かされていなかった証拠と、初犯だったって理由で執行猶予がついた…。アタシは抱きしめたさ…、アンタも被害者だからってね…。でも悲劇は終わらなかった…」
グレナの話を聞いていると、時間がゆっくり流れているの様な感覚を覚えた。胸が締め付けられるような痛みと一緒に…。
「詐欺の被害者の1人が…多額の借金に耐えきれず自殺した…。それが…それまで憔悴していた花月の心を完全にダメにしてしまった…。罪悪感に押し潰されて…花月《あの子》は壊れちゃったのさ…」
──キツい…悲しい話だ…。犯した罪が消えることはないけど…話を聞く限り確かに被害者の様にも思えた…。だから気にしない…ってわけにもいかないだろうけど…。
きっと私も同じ立場なら…後悔に憑りつかれて壊れてしまうかもしれない…。
「明らかに胡散臭い怪しい奴の言葉も疑えない程に心を病んで、花月《あの子》は本当の悪になった…。運良く警察から逃げた彼氏への復讐だけを抱く異能犯になったのさ…」
そこで話が終わり…沈黙が広がった…。今まではただの狂った異能犯なんだろうと思っていたけど…なるべくしてなった悪の様に思えた…。
騙され…裏切られ…、何が正しいのかも判らなくなったのだろう…。邪な考えが…ただの女性を悪魔に変えた…。
「──そんな花月を1人異能犯にしておけなくて…アタシも異能犯になった…。アタシは花月《あの子》の為に命を掛けて戦える…、アンタはどうだい…?アンタは何の為に戦っているんだい…?」
何の…為に…?その言葉がぐるぐると頭の中を巡った…。正義とか悪とか…、立場とか使命とか…、色んな言葉が巡る…。
その中でふと浮かんだのは…──
「──お前たちがエリカって呼んでる女の子は…沙月ちゃんって言う私の親友だ…。私は…沙月ちゃんが辛いとき…苦しんでる時に支えてあげられなかった…。そんな事も知らなかった…、そんな私が…今更どの面下げてって思ってる…」
それは今まで誰にも言えなかった…内に秘めた本当の想い…。
沙月ちゃんにとって…哀薔薇の集は助けを求めて辿り着いた場所…。それを…何も知らなかった私が沙月ちゃんから奪っていいのだろうかと…。
もしかしたら哀薔薇の集に居る事が…沙月ちゃんにとって一番幸せなんじゃないかと…。沙月ちゃんを止める資格なんて…私には無いのかもしれないと…──
「それならなんで戦場に来たんだい…?そこまで友達を想ってるんなら…黙って見届けてやればいいじゃないか…」
──それが沙月ちゃんの為なのかもしれない…。それが…力になれなかった私にとっての正解なのかもしれない…。──それでも…!
「──私は沙月ちゃんの友達だから…親友だから…!私が…この手で止めてあげなくちゃいけないんだ…!」
私は両手に力を込めて永刃をグレナに向けた。溜め込んでいた感情を吐きだせてスッキリしたのか、私の胸に気持ち悪さは残っていなかった。
「嫌われても…憎まれても…、もうあの頃みたいに戻れなくてもいい…!それが…一度でも友達として…親友として関係を持った私の責務だから…!」
もう迷わない…!もう揺らがない…!綺麗事だって貶されてもいい…!自分勝手と思われてもいい…!私が無理やり元の道に引き戻す…!
永気を増幅させて戦う意思を見せつけた。それに応えるようにグレナも構えを取り、永気を増幅させた。
「絶対にお前たちの悪事を止めてやる…っ!そして絶対に沙月ちゃんを連れ戻す…!覚悟しろグレナっ!!」
「──どうやらもやもやは晴れたみたいだね…。いいだろう…今度こそ確実に息の根を止めてあげるよ…!教祖の邪魔はさせない…!」
【第51話 ぶつかる想い 完]
想いは共に親友の為…! 次回に続く!
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