第50話 怨念の魔獣
<戦いの技式>
第50話 怨念の魔獣
-3階-
「次は貴方の番です、ご覚悟を」
<〔Perspective:白唯〕>
今のでクロユリが1人減りましたが…、流石にアレでやられはしないでしょうし…直ぐに戻って来るでしょう…。
その前に出来る限りリンドウに削りを入れないとですね。もう既に建物内はボロボロですし…今更加減も必要ないでしょう。
「──あまり調子に乗らないで下さいまし…!私の本気はこんなものではありませんことよ…!」
そう言葉を残すと、次第に永気が増幅していく。どうやらただの強がりではなさそうですね…面倒な事です…。
敵は全員が女性…、支部長の予想通りならば、何人かは女性相手に有効な能力・才式を持っていない筈。
もしリンドウがそうでないのなら、桂位の私がここで倒すことは必須。胡桃と桧凪さんに与える負担を少しでも減らす事が、作戦成功に大きく繋がる。
削りなんて考えは捨てましょう…。出来る限り素早く、可能な範囲で永気を抑えながら確実に戦闘不能にする…!
「 “爆砕光弾” 」
先手必勝、これから明らかに能力・才式を使おうとしている者を前に、わざわざそれを待つ必要はありません。
頭上に3つの光弾を生み出し、全てを同時に放った。勢い良く向かって飛び、やがて大きな爆発音と共に爆煙が広がった。
直撃…なら仮に防御が間に合ったとしてもかなりのダメージを負う筈…。手応えはありましたが…果たして…
「──もう攻撃は終わりですの…?それとも…まさか今ので私がやられるとでもお考えで…?あまり調子に乗るなと申し上げたでしょう…?」
突然強い風が吹いて爆煙が辺りに流れ、中から姿を見せたのは…濃色の不気味に蠢く何か…。
触手の様なものが10本生え、鋭い爪の生えた猛獣の様な脚も4本あり、それが大きな球体の体らしき部位から伸びている。
そしてその上に上半身だけの状態のリンドウが見える。──…正直言って…心底気持ち悪い…。何なのですかあの見た目は…。
「──醜い姿でしょう…?私も嫌いなんですのよ…コレ…。だから仲間の誰にも見せたくありませんの…特にクロユリには…」
クロユリ…さっき吹き飛ばしてしまったあの方ですか…。2対1を避けるために分断しましたが…まさかそれがトリガーになろうとは…。
「私の能力は【怨念】…。私は恨みや憎しみを溜め込み…それを様々な効果に変化させられますの」
つまりあれはその様々な効果の内の1つ…。見た感じ…ただ実体が付与されているだけのようですが…。
「貴方たちが女性隊員のみで私たちを捕えにきたのは、性別の縛りによる負荷代償を利用する為でしょう…?どうやってお調べになったのかは存じませんが…確かに私たちの中には対男性に特化している者がいます。私を含めてね…」
と言う事は…リンドウも負荷代償を科している…。ですが…それならばあの気味の悪いものは…?あれに何の意味が…?
「ですが私もバカじゃありませんわ…。女性の方と戦える様に例外を1つ作りましたの…、それがこれです。とは言っても…本来の力には遠く及びませんがね…」
そう言ってはいるが、何とも言えない禍々しい姿のせいで警戒が解けない…。実体化以外にも恐らく何かある筈…。
「さて…仕上げに入りましょうか…」
うねうねと蠢く触手が突然一直線に伸び出した。ですがその全てが私に向く事はなく、それらは後ろで待機していた部下の方々へと伸びた。
あっと言う間に触手に締め上げられ、高く吊るされた。一体何をするつもりでいるのでしょう…。
「何をなさるのですかリンドウ様…!?私たちは敵では──」
「ええ…そんな事は重々承知しています…、貴方たちが役立たずである事も…。能力を持たぬ兵など…戦場では平民並みに無価値なのですよ」
部下である筈の方々に掛けられた冷たい言葉。それを聞いた全員は皆同じ様に困惑の表情を浮かべながら硬直している。
「上下関係の敷かれた組織の中では…無能な者は養分になる以外に価値なんてありませんわ…。だから貴方たちも…大人しく私の贄になってくださいまし…」
徐々に彼女たちの締め上げが強くなっていき、苦悶の表情に変わっていった。同士討ち…であるのなら介入はしない方が良いのでしょうが…、もやもやしますね…。
ですが今の状況的には同士討ちが最も望ましい…。無能力者とはいえ、数的不利がなくなるのは好都合…。
「ふざ…けんな…!私たちだって…目標の為に…復讐の為に教祖様に仕えてるのに…!こんな勝手な事…許される筈が…!」
「復讐…ですか…、残念ですが私貴方たちの下らない復讐劇に興味ありませんの…。気の毒ですが諦めて下さいます…?」
──…。
「…クソったれ…、恨んでやる…呪ってやる…!」
締め上げられながら、何人かは悔し涙を流し始めた。そしてそれに呼応するかの様に、リンドウの永気が力強くなっていく…。
少し厄介な事になりそうな予感が、ひしひしと胸をざわつかせる…。
「──まあ…こんなものですかね…。ご苦労様でした…おやすみなさい」
触手は締め上げたまま勢い良く彼女たちを床に叩きつけた。意識を失ったのか…吐血したまま誰一人動かなくなった。
「──救いようのないクズですね…貴方」
「救われなかっただけですわ…、貴方の様な気取っただけの汚れた正義にね…」
強まった永気は気味の悪い下半身に流れていき、徐々に肥大化していく。触手は増え、角の様なものまでが2本生えてきた。
明らかなパワーアップ…あれがもう1つの才式効果ですか…。
「驚きましたでしょう…?この“怨念の魔獣”は、触手で絡めとった相手の恨みや憎しみを吸い上げる事も出来ますの。もちろん…ただ大きくなるだけじゃありませんのよ…!」
私の方に手を向けると、それに反応して1本の触手が振り下ろされた。無意識に背後に跳んで避けれたものの、かなり危ないところだった。
床にひび…、私の力では受け止めきれないかもしれない…。しかもその触手が全14本…接近戦は無理…、となれば──
「辺り一帯ごと吹き飛ばす…! “爆砕光弾唄” …!」
“ボォーーーーーーンッ!!!”
爆砕光弾唄…本来は最大3発までしか撃てない爆砕光弾を8発まで増やし、私の背後からじゃなく、敵の周囲8方向から狙い撃つ才式…。
負荷代償がキツいですが…その分威力は爆砕光弾の比ではない。あの巨体相手に…果たしてどれだけ効き目があるのか…。
立ち込める爆煙が少しずつ晴れ、その中に影が見えた。あのロンリネスの影はあるが、触手とリンドウの姿は見えない。
やがて爆煙は完全に消え去り、その姿をハッキリと確認出来た。
ロンリネスの体は至る箇所が傷付いていて、所々に焦げ跡が残っていた。前脚は床に伸び、体全体が傾いている。
同じくボロボロに傷付いた触手は、一か所にまとまってドームの様な形を形成していた。リンドウがあった場所を守るように…。
「──うるさいわ熱いわ…、本当に騒がしい能力ですのね…!その全てが癪に障りますわ…憤怒…憤慨…!」
ゆっくり解けていく触手の中から、こちらを睨んで怒りを露わにしている。リンドウへのダメージはそこまでのようだ。
となれば…確実にあのロンリネスも…。
そして思った通り、みるみる内に傷付いていたロンリネスの体と触手が元に戻っていった。やはりそうなりますか…。
「残念でしたわね…!怨念の魔獣は私の永気が続く限り…何度でも甦りますのよ…!爆発以外に能の無い貴方には倒せっこありませんわ…!」
厄介…ではあるが、勝つ方法は幾つかある。永気切れを待つ…、触手を壊し、再生するより速くリンドウを倒す…。
もしくは…あのロンリネスごと、ガレキの下に生き埋めにする…。…っは流石にダメですね…殺す訳にはいきません…。
永気切れも時間が掛かって現実的じゃない…。爆砕光弾唄の使用で…永気が不安定な今は尚更…。
やはり上手く触手を抜けてリンドウを直接攻撃するしかない…。ハァ…なんて面倒な事でしょう…。
「さあ怨念の魔獣…!あの愚か者を踏み潰しなさい…!原型が判らなくなる程にぺしゃんこに…!」
ロンリネスは私に向かって真っ直ぐ突進を始め、目の前で前脚を上げて踏み潰しに掛かった。
脚を下ろすより速くロンリネスの下を潜って攻撃を回避し、返しに後ろ脚を永刃で3回斬りつけた。
切り口は浅くないが、ゾウ並みに太い脚のせいで切断する事は出来なかった。しかも斬ったとこから直ぐに再生が始まり、体勢を崩すことさえ出来ない。
更に斬りつけようとすると、案の定触手がそれを妨害する。リンドウを斬りつけるにはこの巨体を転ばせる必要があるが、再生と触手が邪魔…。
やはり今の私の剣術だけでは倒せなさそうですね…。永気が安定して才式が使えるようになるまで時間を稼がないといけない…、素の能力だけでどこまで戦えるか…。
私は光弾を1つ生み出し、発射のタイミングを見計らう。素の能力だけでは、光弾は1回につき1発ずつしか放てない…考えなしには放てない。
威力も大してない…精々高速化光弾とどっこいどっこい。あの触手にもダメージはほとんど与えられない筈…。今はやれるだけやらないとですが…。
そう考えていると、またうねうねと蠢いている触手が私に向かって振り下ろされた。これも避けられたが、徐々に速度が上がってきていた。
私は床に叩きつけられた触手の上を駆け上がり、真っ直ぐリンドウに近付いていくが、それを阻むように残り全ての触手が一斉に襲ってきた。
そこで私は光弾を足元に放ち、ロンリネスの背中で爆発を起こした。小規模でも爆煙は発生し、私は触手と入れ違いに前へ進んだ。
これで守ってくれる触手はゼロ、直ぐに戻ってくるでしょうけど…ここで倒しきれる可能性も高い。まだ才式は回復してないですが…もう退けません…!
永刃を握る手に力を入れ、素早く永刃を横に振った。手に永刃を持っていないリンドウには、この攻撃を防げない筈だった。
だが永刃が当たる直前、ロンリネスの中から永刃が飛び出し、寸前で攻撃を防がれてしまった。
火花が飛び散り、響いた金属音が攻撃の失敗を物語った。その後追撃を狙うも、戻って来た触手に背中を押されて落下した。
更にそこにロンリネスに突進を仕掛けられた。角攻撃はガード出来たものの、踏ん張りの効かない空中のせいで、私は後方の壁まで飛ばされた。
衝突の直前に光弾を背後に放っていたおかげで、爆風が衝撃を和らげてくれたが…頭部からは少し出血している…。
「もうお分かりでしょう…?貴方に私を倒すことは出来ない…、無様に戦い続けるは止めにしたらどうです…?無駄…無意味…」
そう言いながらゆっくり近付いてくるロンリネス…、確かにリンドウの言う通りかもしれない…。
「──そうですね…、もう永気消費にばかり気を掛けて貴方と戦うのは止めにします。面倒ですが…本気で相手をしてあげます…」
立ち上がって埃を払い、私は覚悟を決めた。この戦いの後を考えて出来るだけ永気を温存しようと考えていたが止めた…。
不安定だった永気も元の状態に戻り、才式も問題なく使える…。ここからは才式を選びながら慎重に立ち回ることにする。
「本気で相手をする…?調子に乗るのもいい加減したらどうです…!」
怒鳴り声と共に勢い良く触手が伸びた。それに対して私は小さな永気の塊を生み出し、狙いを定めて放った。
「 “隠伏光弾” …!」
“ボンッ!”
「うぐ…っ!何ですの…突然…!?」
隠伏光弾は唯一私の才式の中で色を持たず、視覚代償が働いていない分威力がかなり控え目な才式。
何も破壊出来ずほとんどダメージも発生しない程に非力ではあるが、目に見えず虚をつく程度の働きは出来る。
突然目に見えない小爆発をうけたリンドウは無意識に顔を手で覆った。その隙に私は中途半端な位置で止まった触手を蹴って上へ跳んだ。
「──下らない時間稼ぎは要りませんわ…!どうせ貴方も他の気功派能力者と同じで、1度に1種類の才式しか使えないのでしょう…!こんなダメージのない攻撃…いくらしてきたって無駄なんですのよ…!」
一斉に伸びてきた触手を永刃と体の重心移動で上手くいなし、ロンリネスの体を跳び越えた。
着地と同時に爆裂散光弾を展開し、ロンリネスの後ろ脚に向けて一斉射撃した。
威力は爆砕光弾に劣るが、連続して同じ箇所に攻撃を加える事で後ろ脚を破壊する事に成功した。
再生される前に素早く背中に飛び移り、触手と共に待ち受けるリンドウに近付く。
「 “壊崩光撃” …!」
この距離なら下手に光弾を放つよりも直接ぶつけた方が効果的、そう考えた私は光弾を刃にくっつけた。
「ここにきて近接攻撃だなんて…そんな隙を与えになるとでも…っ!?この触手がある限り…!貴方の攻撃など恐るるに足りないのです…!」
全ての触手がうねうねと蠢いて、リンドウを囲って守るような動きをし始めていた。あと数歩で辿り着くというその時──
上空から降り落ちた1つの光弾がリンドウに当たった。死角からの攻撃…しかも隠伏光弾よりも威力の強い光弾を。
これによって一瞬触手の操作が遅れ、私は閉じかけていた触手の間を通り抜けれた。遂に間合いに入った私は、容赦なく光弾付きの永刃を振るった。
“ボォーーーーーーンッ!!!”
「キャアアアアアア…ッ!!」
ゼロ距離での大爆発を食らったリンドウは高く吹き飛び、そのまま力なく床に叩きつけられた。それと同時にロンリネスも薄っすらと消えていった。
当然私も…かなりのダメージを負った…。流石にゼロ距離爆発はキツかった…骨の髄まで軋んでいるようだ…。
「──…一体…何を…したんです…?あの時の…頭上から降ってきた光弾は…いつ…仕掛けたのです…?」
リンドウは横になったまま、今にも消え入りそうな声でゆっくり私に問いかけた。
「簡単ですよ、あの時…触手を蹴って貴方の頭上を跳び越えた時に、 “降罠光弾”を仕掛けておいただけです」
触手をいなしている最中、見えないように体で隠しながら降罠光弾の核を上に飛ばしたのだ。
私に気を向けながら同時に触手を操作していれば、上にまで気が向かないのは仕方がない事ですけどね…。まあそれを計算しての事ですが…。
「──…同時に…2種類の才式を使えるのは…何故…?気功派の能力者にとって…〝才式の同時使用限界″の負荷代償は…定番でしょう…?」
「もちろん私もその負荷代償は科しています。ただ降罠光弾は普通の式ではなく拡張術式なので、負荷代償には当てはまらないだけです」
「──…爆発以外に能が無いなんて言いましたけど…まんまと…騙されましたわ…。本当に…癪に障る方ですわね…貴方…」
〚勝者:白唯〛
【第50話 怨念の魔獣 完】
幹部リンドウ撃破っ! 次回に続く!
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