第49話 胡桃の戦い方!
<戦いの技式>
第49話 胡桃の戦い方!
「オゥラアアアッ!!」
「そいやああああっ!!」
<〔Perspective:クロユリ〕>
チッ…!小柄で力もそこまで強くねえのに…今一歩決め手に欠ける…!剣術だって私と同レベル…私のが有利な筈なのに…!
アイツが永刃に纏わせてる青白い永気が気になって攻撃が浅くなる…、だからダラダラと戦闘が長引く…!白唯とは違って…全く能力が分かんねえ…。
グレナ様が前に…「得体の知れない気功派の能力が1番嫌いだ」って言ってたけど…ようやくその意味が分かった様な気がする…。
だが少しの情報もある…!アイツに斬られた奴の多くが…どこか様子が変になっている…。精神に何かしら異常をきたす能力…かもしれねえ…。
「おんどりゃアアアアアッ!!」
大振りな攻撃が私の顔のすぐ前を過ぎた。紙一重で攻撃を避けた私は、未知の能力への恐れを押し殺して腹部にカウンターを決めた。
小柄で軽い体は容易に宙へと浮き上がり、勢い良く壁に激突した。良い当たり…これで100%の動きはもう出せないだろ…!
回復の機会を与えず一気に畳み掛ける為に、床で今も片膝をついている胡桃との距離を詰めた。
呼吸が整わないからか、胡桃は腹を押さえて下を向いており、青白い永気もいつの間にか消えていた。
完全に隙だらけ…反撃はおろかまともに回避すら出来ねえだろ…!
「──“危難隆起刹”…!”」
「うお…っ!?」
下を向いて痛がっていた筈の胡桃は突然、何事もなかったかの様に素早く構えを取り、例の青白い永気を纏わせた永刃で反撃をしてきた。
咄嗟に攻撃を止めて後ろに跳んだが、少し腹を斬られてしまった…。薄皮一枚程度の軽傷だが…何が起きるのやら──
「あばら骨の1~2本はぶち折るつもりだったんだが…よく反撃出来たなァ…!そのMaximumなガッツだけは認めてやるぜ…!」
「エッヘン!日頃からキッツイ拷m…、しごきに耐え凌いでるからね!甘く見られちゃ困るのだよ!──うっ…」
手を口に当てて吐きそうなポーズをしているあたり…無事ではなかったみたいだな…。なんであんな見栄張ったんだよコイツ…。
「うむむぅ…こうなったら致し方なし…!私の奥の手を見せてあげましょう…!うむむむむむむぅ…!!」
永刃周りに漂っていた青白い永気が突然全身を包み込むように溢れ始めた。未だにハッキリと能力が分かってないのに…これ以上理解出来ないのは勘弁だぞ…。
何が起きても反応出来る様に少し距離を置いて様子を伺っていると、徐々に溢れていた永気が薄れていく。
そして完璧に永気が感じられなくなったと同時に、胡桃はカッ!と目を開いた。そしてその直後──
「うわああああっ!!?来ないでください…っ!痛いのは止めてくださいぃ…!いやぁ…来ないでぇ…」
「──…っ?」
「──…っ?」
「──…っ?」
「──…っ?」 ※クロユリ含む全員
あー…うん…?なんだコイツ…急にへたり込んでビクビク怯え始めたぞ…?さっきまでとはまるで別人じゃねえか…。二重人格だったのコイツ…?
「うわああああっ!!白唯さーん…っ!」
「なっ!?オイコラ待ちやがれ、戦いの最中だぞ分かってんのか…っ!?」
私は部下を連れて外聞もなく逃げる胡桃を追った。謎に足速いのが腹立つな…!ちょこまかしやがって…!
腕を大きく振り、出来る限りの全速力でなんとか距離を縮めていく。今も後ろを見ずに悲鳴を上げたままの胡桃の背中に手が届く。
さっきみたいに反撃に転じて来る様子もなく、私はこの一振りで決め切るつもりで永刃を頭上に構えた。
──…っ!?
あとは永刃を振り下ろすだけ…たったそれだけで終わらせられる。すぐにでもリンドウのとこに戻れる筈なのだが…突如謎の不快感が襲ってきた。
それは…ゾクッとした寒気の様な感覚…、それがほんのわずかな間に全身に広がっていった。
「ヒイイィ…!離れてェェ…!!」
「げっ、しまっ──」
謎の不快感によって生じた一瞬の硬直は、接近に気付かれ反撃を許すには十分な隙であった。おまけに防御もおそまつになり、右腕に攻撃を受けてしまった。
さっきのと同じ危難隆起刹…、こりゃあマズったぞぉ…。ただでさえまだよく分かってねえのに…追加オーダーはMaximumに勘弁だぜ…。
「ってかアイツどこ行ったっ!?オイっ!アイツはっ!?」
「あっちですクロユリ様っ!追いかけましょう、あっちです!」
逃げ去ろうとする胡桃の背中を見失わないよう直ぐに後を追うが、不思議と足取りがさっきよりも重い。うっすら冷や汗まで浮かんできた…。
私は今…あんな奴相手に…恐怖してるのか…?ちょっと斬りつけられただけでか…?それともこれが胡桃の能力の正体なのか…。
クッソ…!なんであんな…追われる草食動物みたいな奴にこんな考えさせられなきゃいけねえんだ…!
もー知らん…っ!考え役のリンドウも居ねえし、難しく考えねえでMaximumに袋叩きにしちまおう…!死ねば能力も解除だ…!
私は恐怖を押し殺し、重い足取りのまま勢い良く追走すると、追う途中でまた少し開けた場所に出て来た。
戦い易いのはこういう場所だが、逃げられてばかりではその限りでない…。ここは強引な手で足止めする…っ!
柱を蹴って高く跳躍し、真っ直ぐ走る胡桃の先に狙いをつけて、空気砲を3発放った。
1発は床をえぐって胡桃の動きを止め、その隙に残り2発で柱を壊し、2階を崩すことで完璧に逃げ場を奪った。
諦めた様に力なくその場にへたり込むと、ゆっくり怯えた顔をこっちに向けてきた。ブルブルと震えながらもまだ永刃は強く握っている。
油断は出来ない…窮鼠猫を嚙むとかも言うし…。追い詰められて…結果何も考えずに能力で暴れてくるかもしれねえし──あっ…
“ゴンッ!”
「ぴっ!?」
既に戦意喪失とも捉えられるとこに、追い打ちの様に上から崩れた床の破片が頭に…。うおぅ…目も当てられねえ…。
「──うぅ…グスッ…うええええええん…っ!もう嫌だよぉ…」
おうおう…ついには泣き出しやがったぞ…。最初の威勢はなんだったんだよマジで…、何したのか分かんねえけど…これなら何もしない方が良かったんじゃ…?
殺すのも…なんか気が進まねえなぁ…まあ殺るけどさ…。しかし久しぶりだ…ここまで心が締め付けられるのは…。
「あー…まあ…出来るだけ一瞬殺してやっからさ、そのなんだ…悪く思うなよ?」
今も消えない恐怖を必死に抑えながら、私は止めを刺すために近付いた。一歩ずつ踏みしめる様にゆっくりと。
もう胡桃は永刃を私に向ける事もしてはこず、両手で自分を抱き締めて涙を流すばかりだった。
永刃にも青白い永気は纏っていない…これは最早勝ちが決まった様なものだ…。さっさと殺っちまって…リンドウのとこに行かねえと…──
「うあぁ…、やだぁ…やだぁ…っ!!」
最後の抵抗の様に声を上げた瞬間、またも異様な事が起きた。突然体が光始めた…それもさっきの様に青白くなく、金色の光が発せられ始めた。
また別の何かか…?コイツどんだけ未知の攻撃手段持ってんだよ…っ!
「うわああああ…っ!あっちいけぇ…っ!!」
その声と同時に光は強まっていき、謎の輝きに目を取られていた瞬間、突然目の前に巨大な金色の手が出現した。
そして次の瞬間には私の体はずっと後ろにぶっ飛ばされた。どうやらあの巨手に思いっ切り押されたようだ…。
なんとか受け身をとって直ぐに元の場所へ走った。甘かった…どんな状況においてもアイツは敵…!一瞬で首を刎ねるべきだった…!
胡桃はまだ動いておらず、変わらず謎の光に包まれたまま怯えていた。だが周りにいた部下が減っている…同じ様にぶっ飛ばされたか…?
「また来たぁ…っ!来ないでってぇ…っ!」
「うっせえ…っ!行くに決まってんだろが…っ!なめんな戦…っ!!」
私が近付いて行くと、まるでそれに反応しているかの様にまた輝き始めた。自動防衛の才式か何かなのか…?
胡桃がグッと目をつむると、今度は三日月形の何かが5つ出現し、それぞれ5方向に直進しだした。
正直余裕で避けられるが…アイツの能力と才式について少しでも情報が欲しい私は、永刃で三日月形のそれに挑んだ。
ぶつかると同時に生じる金属音…踏ん張らないと負けそうな力強さ…、胡桃のどこにこんな攻撃を出来るスペックがあるのか不思議だった。
それでもなんとか打ち勝ち、負けた三日月形は粉々になって消えていった。あれを同時に向けられたら…流石に避ける以外に選択肢はねえな…。
私は再び胡桃に向かって走り出した。
「また来たァ…っ!?」
「何度も言わせんな…っ!テメェを殺すまで一生向って行くからな…っ!」
だがまたしても輝きが強まる。次は何…?
胡桃の背後から何か胴の長い生き物の様なものが出てきた。あれは…何だ…?蛇…?うなぎ…?──まさか龍か…!?
正面を向いたそれは、2本の髭に立派な角…凶暴そうな目に鋭い牙と…まさしく龍と呼ぶに相応しい姿をしていた。
そこまで大きくはないものの…一体何をしてくるのやら…。三日月形と同じ実体があるのなら…素直に噛みつきとかか…──っ!?
なんて思っていると、龍は私の方を向きながらおもむろに口を開けた。そして強い光とともにビームを放ってきた。
“ドオーーーーンッ!!”
「──ぺっ…あんのヤロー…無茶苦茶しやがって…」
ビーム自体にも実体があった為、なんとか永刃で直撃は防げたものの、勢いと重量には勝てずに壁に激突してしまった。
代わりに龍も消えていった…1発限りの攻撃だったみたいだ…。いやまああんなの連発されたら勝ち目ねえから良かったけども…。
私は再び胡桃に向かって走り出した。
「まだ来るのォ…っ!?」
「テメェいい加減学べよ…っ!?言っとくけどお前か私が戦闘不能になるまでずっと続くかんな…っ!?仲良くなんて出来ねえかんな…っ!?」
とはいえ…さっきみたいな状況がずっと続くと負けるのは私だ…。なんとしてでも近付かなきゃならねえ…っ!
多少の怪我は覚悟の上で突っ込む…っ!やってやらァ…っ!Maximum…っ!
案の定胡桃の周りには槍の様な物が複数生み出されていて、今にも発射されそうな勢いだった。
それでも私は走り出した、最悪死ななきゃ安いと考えながら。それに合わせて槍も放たれた、ここが勝負所…っ!
私は足を止めることなく永刃を振って槍を迎え撃った。槍を弾き、時には肩に刺さりもしたが、私はようやく抜けた。
そして胡桃の首に手をかけた、辿り着けたのだ…王手に…っ!
右肩を槍にやられたせいで永刃はもう振れない…だから首を絞めて殺す。細い首だ…手負いの右手と左でも折れる…っ!
ぎちぎちと絞める手にどんどん力を込めていく。苦しそうにもがく胡桃…次第に顔が赤くなっていく。
この状況だと…クールタイムの長さから考えても、反撃出来て次が最後…。槍が降ろうがビームが飛んでこようが…この手は離さねえ…!
再び胡桃の体が強く輝きを発し始めた。この後の攻撃に耐えれば私の勝ち、私はグッと体を強張らせた。
──のだが…、なにやら様子がおかしい…。今まで通りならばもう何かしらの攻撃に転じていた筈なのに、まったく動きがない。
それどころか胡桃の体は今までとは比べ物にならない程に光輝いていた。それを見て私の頭の中に浮かんだ…最悪の可能性。
爆h…──
「──お前…まさかやんねえよな…っ!?だってお前…正義側だもんな…っ!?まさか爆発なんてしねえよなァ…っ!?オイなんとか言いやが──」
“ボカーーーーーーンッ!!!!”
東京第二支部所属・階級【香位】登録名:天恫 胡桃。彼女が発現させた能力は〝恐怖心〟、気功派に属している。
永気を増幅させている間、自身の恐怖心を操る事が出来、これによって格上相手でも一切怖気る事がなくなる。
そんな彼女の才式は2つあり、1つは“危難隆起刹”。
能力の込められた永気を永刃に纏わせ、その状態で斬りつけた相手の恐怖心を高めるという才式である。
ただし操作は出来ず、あくまで才式効果は「恐怖心を高める」のみで、一度にドカッと高まる事はなく、どんどん蓄積していく。
胡桃が才式を解除するか、才式の効果範囲外に出ない限りずっと恐怖心は変わらない。効果範囲は、現時点では半径75メートルである。
そしてもう1つの才式は、“憂懼変動体”。自身の感じた恐怖をあらゆる攻撃として具現化する才式。
どのような攻撃が放たれるのかは胡桃自身も分かってはおらず、その攻撃範囲も規模も全てが不明であり未知数。
ただし本人が攻撃の全てを分かっていないのは、彼女の負荷代償に関係があった。
この才式の発動と同時に、自身の恐怖心を限界直前まで高めるというものである。それ故に自分の意志で攻撃を繰り出す余裕が消えるのだ。
追い込まれれば追い込まれる程攻撃は多種多様に変化し、時に無数の刃となり、時にビームを放ち、時に大爆発を引き起こす。
「──柱に縛り付けてっと、ふぅ…あー怖かったぁ…。なんて言ってる場合じゃないか…!縮角位の加勢に行かなきゃ…っ!」
彼女もまた…ゆくゆくは角位に到達し得る可能性を秘めた、今はまだ未熟な新芽なのである。
〚勝者:胡桃〛
【第49話 胡桃の戦い方! 完】
危うくも先1勝! 次回に続く!
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