第47話 衝突する正義と悪
<戦いの技式>
第47話 衝突する正義と悪
<〔Perspective:カラシナ〕>
突然グレナがスタッフに殴り掛かって何事かと思ったが…まさか嵌められていたとは迂闊だった…。何もかもが…全て最初から私等を誘き出す為の罠だったのか…。
しかも縮…恐らくは幻覚と幻聴に関係する能力なのだろうが、あれ程違和感なく幻覚を扱えるだけの技量…相当の実力者だな…。
視界に他の仲間らしき姿はないが…ここまで完璧に準備しておいて、単独で私等を相手しに来たとは考えにくい。確実に見えない場所に仲間が居る…!
「“幡 感知式 【域】!”」
「“幡 探知式 【壱門】”」
私に併せてカルミアが探知式を発動、これで周囲の永気と遮蔽式を使っている奴の位置が分かる。まあ恐らくは無駄だろうけど…
──感知式には反応なし…、妨害式で周囲の永気流れを乱してやがるな…。縮もそう…遮蔽式は使ってないし、カルミアを見る限り永気の探知も出来てない。
妨害式でどこかに身を隠しているで確定だな…厄介な事しやがる…。それならその状況を利用してやるまでだがな…。
「──っ!グレナ右だっ!右から単独で誰かが近付いてるぞっ!」
曲がり角の陰から唐突に姿を現したそいつは、足音を出来る限り抑えながら真っ直ぐグレナに斬り掛かった。
「“危難隆起刹”!!」
「“砲撃砕”!!」
青白い永気を纏った永刃の一振りに対し、グレナも強烈な一撃をぶつけて相殺した。その場を包む弾ける金属音が、両者の力を現わしている。
グレナは左拳で追撃をしたが、上手く避けたそいつは縮の隣に移動した。そこでハッキリと姿が見えたが…コイツも女か…。
明らかに哀薔薇の集がどういう連中なのかを知った上での待ち伏せ…、恐らく他の隊員も女性ばかりだろうな…。
「うー…すいません…防がれちゃいました…」
「ううん、良い攻撃だったよ!気にしない気にしない!」
──今の攻撃…なんだか妙だな…。確かに今の攻撃は狙いも良かったし…もし当たっていれば倒せこそしないが、十分なダメージになっていただろう…。
だからこそ何故だ…?何故あの女は…あのタイミングで幻覚を解いた…?幻覚に気付かれたとはいえ、上手く操れば攻撃のカモフラージュは出来た筈だ…。
凡ミスか…?いや…ここまで周到な待ち伏せをする程の奴等が、そんなつまらない失敗をするとは思えん…。
なら何故だ…分からん…、考え過ぎか…?
「カラシナ後ろだっ!アンタの能力で防御しなァっ!!」
グレナの言葉に反応して後ろを振り返ると、恐らく四階から降りてきたであろう逆さで宙に立つ見知らぬ女が、光の塊を複数生み出していた。
「“爆砕光弾”」
一瞬強い光を発したと同時に、一斉に光の塊を飛ばした。かなりの速度…幹部以上ならギリギリ避けられなくもないが、手下の半数は失うだろう…。
──クソったれ…っ!!
“ボォーーーーーーンッ!!!”
微かに建物全体が揺れた様に感じる程の衝撃が走り、辺りを爆煙が覆い隠した。
建物の事などお構いなし…今の攻撃で私等の戦力を半分にするつもりだったか…。だが残念だったなァ…っ!
爆煙が次第に薄れていくと、周囲には幾本もの茨が生き物の様に蠢きながら仲間を囲んでいた。
“怒れる姫の茨”…私の才式…、あの程度の攻撃を防ぐことなど朝飯前だ…!
「退けっ!正義の奴隷共っ!!」
囲んでいた茨を操り、それら前後の敵に向けて放った。高硬度と高威力を併せ持つ茨の槍だ、串刺しになれっ!
「──っ!胡桃ちゃん、伏せてっ!」
チッ…!二人組の方は咄嗟に身を屈めて茨を避けたか…、だが後ろの女はそうはいかないだろ…!着地隙は必ず生まれる…回避の暇はない…!
殺った…!まずは1人目…!
「“〝気鋭士魂〟流月裂き”!!」
“スパッ!”
──な…っ!?なんだアイツ…なんで切れる…!?コンクリートも貫通出来る威力と硬さの茨だぞ…!?
上から降りてきたもう1人…これで4人か…。どいつもコイツも…厄介そうな能力者ばかり…!──イライラしてくる…!
コイツ等の狙いは哀薔薇の集だろう…?思い通りにさせてたまるか…!
「グレナァっ!教祖様連れてここを脱ろ!教祖様だけは逃がすんだっ!」
教祖様さえ生き残っていれば…また哀薔薇の集は蘇る…!仮に全員がここで捕まっても…私等の意思は決して死なない…!
願うは教祖様の思い描く理想郷…!私等の命の全ては…教祖様の未来の為に…!
「──…分かった…、行くよ教祖ォ!アンタも来なっ!」
一瞬間を開けたグレナは、直ぐに切り替えて教祖の手を引き、近くに居た手下の1人を連れてこの場を後にしようとした。
だがその行く手を阻もうとする敵の意思を、視線と態度の微妙な変化から感じ取れた。させてたまるか…!
私は新たに生み出した茨を、グレナの進行方向に伸ばして道を作った。それと同時に奴等からは壁になるように出来るだけ茨を密着させた。
唯一私の茨を切った女も、これだけ何本も重なっては切れないと判断してか動こうとはしない。そしてグレナたちは角を曲がって見えなくなった。
──後のことはグレナに任せて…私たちはコイツ等をどうにかせねばな…!
まずは敵の情報の整理からだ…。姿を見せてから…縮を除いてコイツ等は永気を隠していない…、増幅した永気から大雑把に実力は測れる…。
1番下は…あのアホ毛の女か…、ハッキリと能力は分からんが…見たところ気功派に属する能力者とみていい筈だ…。
その次が4階から降りてきた後ろの2人…。片方は爆発する光の弾を…もう1人はずば抜けた剣術を駆使するタイプか…。
能力が分からない分桃乃の方を警戒したいが…あの光弾の爆発と威力は厄介…。実力もほぼ同じだが…幹部以上でなんとかなるだろう…。
──問題はあの縮だ…!未だに永気を隠したままで実力が測れないが…間違いなくアイツが1番強い…!
幻覚を操れる能力も最も脅威になりえる…!アイツだけは教祖様に近付かせるわけにはいかない…!確実に殺す必要がある…!
私は壁として伸ばしていた茨を戻して、永刃を抜いて臨戦態勢に入った。
「胡桃ちゃんっ!」
「分かっていますっ!」
私が1歩踏み出した瞬間、前方の2人が突然息を合わせて右の通路に駆け出した。教祖様とは逆方向だが…ここで逃がすわけにはいかん…!
「カルミアとカルミア隊は私と一緒に来いっ!奴等を確実に殺す!」
私は考えるよりも速く、逃げた2人の後を追った。胡桃の方は最悪逃げられてもいいが…縮だけはダメだ…。
ここで見失えば…奴は幻覚を使って仲間の姿に化けるだろう…、そうなれば仲間内で疑心暗鬼が生まれる…。もはや連携も信用も意味を失う…。
絶対に…息の根を止めてやる…!!
<〔Perspective:アザミ〕>
カラシナ様がカルミアを連れて行ってしまわれた以上…、残るメンバーでこの2人を討ち取らねばならぬ道理…!
こちらは負荷代償を背負った者が2人居るが…数的有利はこちらにある…!上手く囲めば突破もそう難しくはあるまい…!
向かい合ったまま暫し膠着状態が続いていると、不意に敵2人は顔を合して小さく頷くと、内の1人が背を向けて通路の奥へ駆けて行った。
白唯…何となく能力が分かっている以上、桃乃よりも対処は出来るだろう…。となれば…
「クロユリっ!リンドウっ!お前たちの部下を連れて奴を追えっ!桃乃の方は私と部下で相手をするっ!」
「分かったっ!Maximumにいくぜっ!!」
「貴方も十分お気を付けて…、油断大敵…」
指示を出した私は、瞬時に目先の敵へ斬り掛かった。その隙にクロユリたちは横を通り抜けて追いかけて行った。
頼んだぞお前たち…全ては教祖様の為に…!
「貴様の相手はこの私だ…っ!教祖様の邪魔はさせん…っ!」
「…想う気持ちは素敵ですが、手を汚してまで尽くさなきゃならない忠誠なんてありません!目を覚まさせてやります…!覚悟してくださいっ!」
『桃乃 ⅤS アザミ』
“ドゴォォン!! パリンッ! ズガガガガッ!!”
「待て貴様等っ!どこへも逃がしはせんぞっ!!」
<〔Perspective:縮〕>
「あっぶな…!うわっ、壁の破片がっ!?んーあっぶな!!」
教祖側と戦う帆野さんペアに変な負担が掛からない様に逃げながら離れてるけど…そろそろキツくなってきたかも…。
正確には私はまだ大丈夫だけど、胡桃ちゃんがちょっと危ないかも…。さっきから結構当たりそうで冷や冷やしてる…。
それにしても…なんで私の幻覚バレたのかなぁ…?幻覚の操作には抜かりなかった筈なのに…そういう能力者が居たって事…?
幻覚をわざと解いて、アドリブで胡桃ちゃんに攻撃を仕掛けさせてまで意識を引こうとしたのに…結局白唯ちゃんの攻撃も失敗に終わっちゃったし…。
作戦通りにはいかないもんだね…、どうしたものかな…。
次の手を考えながらひたすら攻撃を避けて走り続けていると、何度目かの渡り通路が見えてきた。
このままだといずれ胡桃ちゃんに限界が来ると感じた私は、胡桃ちゃんに手で合図を出した。一瞬きょとんとしたものの、胡桃ちゃんは分かった様に頷いた。
そして渡り通路の境目に到達した瞬間、私たちは別れて胡桃ちゃんは渡り通路の向こう側に駆けて行った。
出来ればカラシナとか呼ばれてる茨使いに追ってきてもらいたいけど…もし胡桃ちゃんの方に行っちゃったら幻覚で妨害しないとだ…。
まあ向こうもかなりまともな異能犯だし、1番強いあの人はきっと私を追って来る筈。これで上手く戦力を分断出来ればいいんだけど…
「カルミア隊はあのアホ毛女を追えっ!絶対に見失うな、必ず殺せっ!」
おっと…?分断は出来た…けど…、思ってた感じとちょっと違うなぁ…。明らかに幹部クラス以上の2人が私の方に来ちゃった…。
──はぁ…、しょうがない…やるしかないか…。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「ハァ…ハァ…、残念だったな…ハァ…、もう逃げ場はないぞ…ハァ…」
今いる場所はモールの端、イベント事などを行う為に広く作られたドームの様な場所まで逃げて来た。
宝石展示エリアからはかなり離れたし、敵が応援しに来る事もない筈。それに何より…仲間の皆を巻き込まないで済む…。
どうか誰も──近付いてきませんように…。
永気を増幅…そしてイメージ…。能力は大体バレてるだろうし、いつもみたいに能力を偽装する必要もないから、最初からあれでいこう…!
私は少し後方へ跳び、さっきまで立っていた場所に自分の幻覚を置いた。それと同時に複数の幻覚を同じとこから別々の場所に生み出した。
まずは様子見、敵がどんな攻め方をするか…どんな能力でどんな才式を使うのか…本気で攻め込むのはその後だ。
まずは相手の観察から、支部長がいつも口酸っぱく言ってる…これが中々大切なんだよね、悔しいけど…。
「やはり幻覚は貴様の能力だったか。幻覚に隠れてコソコソと…、政府の犬のくせに随分と姑息な奴だなァ…!」
「経験豊富って言って欲しいね、能力の活かし方が上手いってさ…!」
なーにが“姑息”じゃ、どの口が言ってんだどの口が…!お前らだってコソコソ宝石を盗む異能犯のくせに…!
ちょっとムカッとした…絶対に後悔させてやるんだからね…!
永刃を構え、私は幻覚たちと同時に2人の異能犯に向かっていった。ひとまずは後ろの方で様子を窺いつつ、チャンスがあれば攻撃するつもりで。
「ふんっ!どれが本体かに惑わされている間に攻撃しようというわけだ…!だがその手には乗らんっ!“しなやかな姫の茨”!」
突如茨使いの体から勢い良く飛び出た茨は、さっきみた怒れる姫の茨とはまた違った薄青色をしている。
茨使いはその茨を振り回して片っ端から幻覚に攻撃を仕掛け始めた。まるで生きた鞭の様に茨を振り回し、しかも茨自体が意思を持っている様に蠢いている。
流石にこのままじゃ攻められないと感じた私は、一旦その場から後方に退いた。さっきと同じ方法は通じなさそうだね…。
「どうだっ!ちゃちな幻覚如き、私の茨があれば恐るるに足らぬわっ!」
んー困ったなぁ…、あれ実際結構厄介だし…私の剣の腕で斬れるのかな…あれ…。
見た感じさっきの怒れる姫の茨よりかは柔らかそうだけど自身薄…、桃乃ちゃんレベルなら気負い立って攻めていけるのになぁ…。
とりあえず何か策が浮かぶまではさっきみたく幻覚使って、ちょっと攻め方変えたりしながら相手の永気を削ろうかな…?
それとももう本気で攻めるべきか…うーん、どうしようか…。
私の才式ならあのしなやかな姫の茨にも対抗は十分出来るけど…問題はもう1人居るって事だ…。
私の“幻園彩華”は…対象に時間感覚が延長する幻覚を見せる才式だけど…、1人にしか対象を絞れない…。
2人以上だと…どうしても他の奴に妨害されちゃうし、幻園彩華発動中は他に幻覚も見せられないんだよね…。困った困った…。
ふふっ…最近あんまり全力で戦う機会がなかったから、なんかちょっと楽しくなってきちゃったや…。
「どうしたァ…?まさかもう打つ手がないのか…?なんとかしてみろ、さっき言ってた経験だの能力の活かし方でよォ!」
「余裕だよ…!姑息な異能犯になんて負けないもんね…!」
『縮 ⅤS カラシナ&カルミア』
【第47話 衝突する正義と悪 完】
第三支部の先輩2人が永刃を抜く…! 次回に続く!
[宜しければ、感想やブックマーク等をよろしくお願い致します!]




