第46話 予期せぬ危機
<戦いの技式>
第46話 予期せぬ危機
大型ショッピングモール〝ストア・スキャット〟は、都心部から少し離れた場所に位置し、二本の道のみでの交通になる。
当然オープンはまだしておらず、近隣住民には事前にL-gst側が連絡をしている為、この二本の道を走る車は全て関係者のものである。
もし例外が存在するのならそれは、紛れもない…敵である──
—19:02—
闇夜を照らす街灯が並ぶモールへと向かう道の一本、北ゲートに繋がるそこに未登録の車が九台進んでいた。
やがて北ゲートをくぐって敷地内に入った九台は、地上駐車場をスルーして真っ直ぐ地下駐車場へ向かい、適当な所に車を停めた。
「ようやく着いたなー!チラシで見るよりもデッカくてMaximum!な施設じゃねえかっ!」
「おうるさいですよクロユリ…、我々は遊びに来た訳じゃないのですから、もう少し節度を持ってお静かに…」
<〔Perspective:グレナ〕>
車九台で総勢52人…結構な人数でも狭さを感じさせない広さ…、モール内はもっと広いんだろうかね…。
いくつかのグループに分けて宝石を探すか…?いや…万が一にもL-gstの奴等と鉢会わせた場合に、教祖の盾になる人材は減らせない…。
仕方ないね…、人数は多いけどこのまま全員で移動するのが賢明か…。
「ほら行くよアンタたちっ!はぐれずついてきなっ!」
~人数が多い為、階段で移動中~
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
上りきった先に広がるのは予想通りの賑やかな空間…、行き交う人々の群れで通路の先が見えない。
変に迷う前にマップで現在位置だけでも確認しとかないと迷子者が出るかもね…。
他のメンバーをその場に残して近くのマップに目を向けたが…、あー…細かすぎてよく分かんないねぇ…。
「アザミかリンドウっ!ちょっと手伝っとくれっ!」
手伝いに来たアザミと協力して、なんとか大まかな現在地を確認出来た…。が…肝心な宝石の展示場所が載ってなかった…。
でたらめに進んで時間を無駄にするよりかは…店員に聞いた方が早いかね…。
「ちょっとアンタ、アタシ等に案内をしとくれ」
「かしこまりました。行き先はどこでしょうか?」
帽子を被った小柄な店員…永刃らしき物は見当たらないし…、コイツは大丈夫そうだね…。最悪人質にでも利用出来そうだ…。
宝石展示のチラシを見せて店員の後ろを追う、その間も周囲の警戒は怠らない。この人混みなら…隊員共が紛れていても不思議じゃないからね…。
来るなら来な…!返り討ちにしてやるよ…!
「ふぃー、スッキリしたぁ…」
<〔Perspective:朝凪〕>
標的の到着前に待機場所の四階に移動した私は、ジュースの飲み過ぎによる尿意をトイレで出し切った。
これで懸念点は無くなった!いつでもバッチコーイ!
「おーい、こっちだこっち!急げ急げー!」
手すりに腰掛けながら手招く帆野さんの下に駆け寄り、私は手すりから身を乗り出して辺りを見渡した。
ライトに照らされた無人の通路はどこか無機質で、ちょっぴり怖いと思えてしまう…。一人でここに迷い込んだらチビっちゃうかも…。
「滑って落ちんなよー?いくら私等でもここから落ちたらただじゃ…おっ!」
帆野さんが声を出すと同時に私も気が付いた。誰も居なかった筈の通路に、ぼんやりと人の姿が見えてきた。
それは次第にハッキリと見えてきて、賑やかで楽し気な声も聞こえてきた。無機質だったモール内は一瞬にしてその姿を変えた。
「縮っちの効果範囲に入ったか…、私等の出番も近いかもな」
私たちの行動開始は白唯さんの先制攻撃が合図となる。帆野さん曰く…「白っちの攻撃は派手だから、見なくても音で分かる」らしい…。
なので下手に見つかってしまうリスクを避ける為、私と帆野さんは宝石展示エリアから少し離れた位置で待機している。
流石にここに居て見つかるなんて事はない…よね…?
“♪♪♪~♪、♪♪♪~♪、♪♪♪~♪──”
突然帆野さんに掛かってきた電話の音にビクッとした…。作戦中に電話が掛ってくる事はまず無い筈…、非常事態の時以外は…──
[大変です帆野龍位っ!南ゲートから未登録の車がもう一台入ってきましたっ!今はまだ車の停め場所を探していますが、いずれモール内に入ってしまいますっ!]
「何だとォ…!?まさかアジトに残されてた奴等か…!?クソ…見誤った、どうする…──ってオイ!」
「私が行きますっ!モールに入られる前に止めて直ぐに戻ってきますからっ!」
帆野さんの電話を聞いた私は手すりを飛び越えて三階の通路に飛び降り、南入口を目指して駆け出した。
確か南入口は三つ…、宝石展示エリアは南西側にあるから…西側の入口は多分縮さんの効果範囲内にある筈…。仮にそこから入られてもそこまで問題ない筈だ…。
目指すべきは中央入口と東側の入口だけど…中央→東口ルートで本当に間に合うだろうか…。──考えても分かんないし、気合で間に合わせよう…!
中央入口を目指して手すりから手すりへ、通路から渡り通路へと様々な所に飛び移りながら最短を目指して突き進む。
出来る限り急いでいた為かもう中央入口が見えてきた。私は近くの柱に身を隠して様子を窺うも、自動ドアは動かず、外にも人の姿は見えない…。
まだ駐車場に居て…今こっちに向かって来ているのか…?それとも…──
私は少し悩んだ挙句、東口に向かう決断をした。なんとなく違う気がした…、嫌な予感がずっと心に広がったままだったからだ…。
ここから東口までは数百メートル…【脚】使用中の今なら数十秒もあれば着ける距離、まだ十分間に合える…!
長い通路を走り抜けていると、奥の方に開けた場所が見えてきた。それと同時に…自動ドアの開く音と5人の影も見えた…。
5人は戸惑っている様な素振りで辺りをきょろきょろと見まわしていた。当然だ…照明が付いているのに、中には誰の姿も見えないんだから…。
あと10秒もあれば到着のところで、5人の内の1人がスマホを取り出して何かを打ち込んでいる。十中八九…仲間への連絡だろう…、させない…!
私はポケットに手を入れて中から支給拘束具を取り出すと、それを前に放り投げて勢い良く蹴り飛ばした。
風を切りながら真っ直ぐ宙を駆け抜ける拘束具は、五人の近くの柱に大きなひびを入れて止まった。
突然の音と衝撃に気を取られている間に、私は素早く永刃を抜いてスマホを持っている女をみねうちで沈めた。
更にその近くに居た三人も同様に気絶させ、残る1人に目を向けた瞬間…私の動きは止まってしまった…。
そこには驚いた表情で私の顔を見つめる沙月ちゃんの姿があった…。出来れば作戦のほとんどが終わるまでは会いたくなかった…。
それから少しの間何も言葉出ずに沈黙が続いたが、沙月ちゃんが口を開いた…。
「──なんで…どうして…私の邪魔をするの…?友達なのに…どうして…、また…私の邪魔をするの…朝凪…?」
沙月ちゃんの言葉が私の覚悟を大きく揺らした…。私と沙月ちゃんは友達…でも今は交われない敵同士…、そう考えるだけで頭痛がした…。
「私もう分かんないよ…、何が正しいのかも…何が間違ってるのかも…。自分の居場所だって…、だからようやく見つけたのに…なんで…」
哀しみの感情が表情となり…頬を伝う涙に、沙月ちゃんの抱える苦しみが表れていた…。決して1人では抱えきれない、考えもつかない程の苦痛を…溜め込んでいたのだろう…。
やがて沙月ちゃんは涙を流したまま私の事をキッ!と睨み付けると、腰からナイフを手にとって私に向けた。
ナイフを持つ両の手が小刻み震えていて、そこには哀しみと怒りという…決して交われない感情が出ていた…。
「どうして私から居場所を奪おうとするの…っ!?私にはもう…哀薔薇の集しか無いのに…、もう他に何も無いのに…、私の邪魔をするなァァ!!」
“ブシュッ!”
突き刺さったナイフの先からぽたぽたと滴り落ちる鮮血が…、真っ白な床を赤く汚していく…。
自分がした事に驚いた様子で沙月ちゃんはナイフから手を離して、血で濡れた両手を見つめたまま立ち尽くしていた。
幸い左手で受け止めれたおかげでそこまで大事には至らなかったが、貫かれた左手と…そこから溢れた血は十分沙月ちゃんにショックを与えた…。
これ以上は沙月ちゃんの精神に関わると思い、私は手刀で沙月ちゃんの気を絶った。力なく倒れ込む沙月ちゃんを受け止め、近くの壁際にそっと寝かせた。
“どうして私から居場所を奪おうとするの…っ!?”
“友達なのに…どうして…”
「ごめんね…沙月ちゃん…、友達だから…道を間違えて欲しくないんだよ…私…。嫌われてでも…それでも正しくあって欲しいんだよ…私…。ごめんね…ごめん…」
私は袖で目を擦って、帆野さんの下に急いだ…。──いや…少し急ぎ過ぎていたのかもしれない…。
“────テロンッ♪”
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「おっ、良かった間に合ったか朝…っちー…。──あー…結構手強かった感じ…?左手…ちゃんと感覚あるぅ…?」
「はい…、このくらいなら問題ないです…」
なんとか行動が始まる前に元の位置に戻る事が出来た私は、応急処置の為にポケットから包帯を取り出した。
戻る事に集中し過ぎたあまり、左手の事なんてほとんど気にしてなかったから…床に血の跡とか残ってるかもしれない…。
出来るだけ目立たないルートを通ったとは言え…流石にちょっとマズいだろうか…。うーん…そこは神に祈ろうか…。
「本当の戦いの前に怪我しちゃってまぁ…、ほら包帯よこせ、片手じゃ上手く巻けねえだろ?ほら早く」
私は言われるままに帆野さんに包帯を渡し、応急処置をして貰った。少しキツく巻かれてちょっとだけ痛むけど…かさばらなくて動かしやすい。
これならまだ全然使い物になる…!まだまだ頼むよ左手ちゃん…!
「──っと、これで良しっ!心配だった増援の問題も片付いたし、後は合図を待つだけなんだが…、おう…っ!?」
「あれ…っ!?あれあれ…っ!?」
さっきまで見えていた幻覚が突然スッと消えていき、賑やかだった幻聴も引いていってただの静寂に戻った。
作戦では確か…幻覚で油断している所を白唯さんが先制攻撃するって手筈だったのに…、何故か先に幻覚の方が解けた…?
「どうなってんだ…?向こうで一体何が起きてんだ…?」
-朝凪が元の場所に戻る少し前-
「到着しました、あちらが宝石展示エリアになります」
「ああ…あれがそうかい…、ご苦労だったね…もう下がっていいよ…」
<〔Perspective:グレナ〕>
白い柱のオブジェクトが等間隔に六本並んだその中に、ショーケースに入れられた宝石が遠目でも分かる。
あれだけ目立つ見た目でも初見でここに辿り着くのは難しいだろうね…、スタッフに案内させたのは間違いじゃなかった…間違いじゃなかったけど…
まあ今日オープンの施設だし…こんなに広いんだからスタッフが迷うのもしょうがないんだろうけど、それでも想像以上に時間を削られたね…。
謎に三階をぐるぐると回った挙句…結局四階にあるってんだから笑えない…。あんまり時間を掛けられないってのに…
とは言え急ぎ過ぎてはミスを生む、まずは普通の客になりきって盗るチャンスを窺うのが賢明だろう。
ひとまずアタシたちはただ宝石を眺め、盗む優先順位をつける作業に入った。もし途中で邪魔が入った場合、それらを確実に持って帰る為にだ。
「ん~どれもキラキラできれ~い♪全部持って帰っちゃいたい美しさねェ…」
「これなら十分上納金に…いや大幅にプラスになるんじゃないか?もしそうならMaximum!じゃねえかっ!」
一部純粋に楽しんでる連中もいるけど…アタシもさっさとやろうかね…、──っ?
ポケットに入れていたスマホが小さく揺れた気がして、手に取って見るとメールが一件届いていた。
送り主は…ダリア…?アジトに貯め込んだ上納金を別の場所に移した後で、この場所で落ち合う予定だった筈だけど…何か不都合でもあったのかね…?
スマホの操作をしてダリアが送ってきたメールを開く。内容は──
〔今到着しましたが、本当にここであっているのですか?人の姿が全然みえn〕
〝ここであってる〟?何を言ってるんだい…ここまでの道のりはしっかり教えた筈だし、店名だって忘れてないだろうに…。
それに〝人の姿が全然みえ〟…、──っ!!まさか…まさか…っ!?
アタシは周囲を見渡した…、買い物をする夫婦に楽しそうに会話する若い男女、目に映る全ての光景には当たり前が広がっている…。
本来なら疑う余地もないというのに…今だけはこの状況がとてつもない危機に感じられた…。──確かめるしかないね…。
アタシは宝石展示エリアを監視しているスタッフにそっと近づき、拳を振り上げって一気に叩きつけた。
“ドォンッ!!”
「オイっ!なんのつもりだグレナっ!!何故無駄に騒ぎを大きくするっ!?」
──本気で打ってはないにしろ…今のは決して悪い拳じゃなかった…。
少なくとも素人に躱せる程遅くはなかったし、格闘技経験者でも防御がやっとの攻撃だった筈なのに…。
拳はひびだけを床に残して止まった…、あのスタッフ…避けた…!拳を振り下ろすよりも速く、その場から一瞬で離れた…!
左の方を向くと、柱のオブジェの間にそのスタッフは居た…。静かに立ち尽くしてこっちを見ているスタッフの女は、明らかに目つきが変わっていた。
「アンタたちっ!構えて周りに注意しなっ!もう既に敵が居る、どこから襲って来るか分からないよっ!」
周囲の人間たちは突然の騒ぎに驚いている素振りをしているが、演技である可能性やその中に紛れている可能性もある。
円を描くようにして周囲を警戒していると、そのほとんどが薄っすらとぼやけていき、そして完璧に見えなくなった…。
残ったのは例のスタッフだけ…そしてそのスタッフの姿も薄っすらと変化していき、永刃を携えた白髪の女が姿を現した。
「出たね…L-gst…!!」
【第46話 予期せぬ危機 完】
開戦待ったなし! 次回に続く!
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