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戦いの技式  作者: 叢月
哀薔薇の集編
43/76

第42話 覚悟

         <戦いの技式>


         第42話 覚悟

「──あのぉ…縮さん…?もう大丈夫ですよ…髪拭かなくても…」


「ダメダメっ!ちゃんと拭かないと風邪引くからっ!そうなったら作戦に参加だって出来なくなるんだからっ!」


異能犯との戦闘を終えた私は、三下さんと関係者を呼んで後始末をお願いした。私は先に支部へ帰るように指示を受けた為、三下さんに送ってもらった。


支部に帰るなり縮さんと桃乃さんが軽いパニックを起こし、私は伊敷さんに治癒式を施されて治療を受けた。


大体の傷はたちまち治ったのだが、折れた骨はそう簡単に繋がらないらしく…左手とあばらの完治は数日後になるらしい…。


あばらの痛みで手が十分に上げられず、左手にも力が入らない…なので縮さんに髪を拭いてもらっています。それが今です。


「──いやぁ、なんと言いますか…君は面倒事によく巻き込まれる人ですネェ…。とは言え、ひとまず無事に戻って何よりですよ」


そう言ってキッチンから出てきた伊敷さんは、私にお茶の入ったカップを手渡してくれた。湯気の立つ暖かいお茶…雨で冷えた体に染み込んでいく…。あったけぇ…。


お茶をひと口啜って一息つくと、玄関から電話を終えた三下さんが戻ってきた。電話の相手は現場に残った関係者らしいけど…


「おや三下さん、捕えた異能犯に関して何か分かりましたか?」


「朝凪さんが言っていた通り、哀薔薇の集の関係者である事が分かりました…。何かの目的があってあの場所に現れたらしいですが…その目的は依然不明です…」


──…そうとは思っていたけど、ほんの少し…ほんの僅かに…哀薔薇の集との関係がない事を願ってもいた…。沙月ちゃんがそうだと…思いたくなかったから…。


心の底から…そう願っていたから…。


「そうですか…分かりました、また何か分かったら教えてください。それと朝凪くん、君ももう今日は早目に帰って傷を癒してください。その傷では訓練も鍛錬も満足に出来そうにないですからネェ」


「…分かりました。それじゃあ…お疲れ様でした…」


こうして私の一日は終わった…、心に深いもやもやを残して…。






<哀薔薇の集 アジト> ‐01:00‐


「さて…急遽皆に集まって貰ったのは他でもなく、ザクロが…エリカの朱の儀の最中にL-gst(奴等)に捕まってしまいました…」


ザクロの身柄確保を知った教祖はその日の内にメンバー全員を招集し、午前1時にその報せを伝えた。


突然の事にざわつく面々…、それは幹部以上の者たちも同様だった。構わず教祖はペースを崩さず話を続けた。


「エリカの話では、その時ザクロと対峙していた隊員数は一名のみ…、その後増援が来たかどうかは不明ですが…結果としてザクロが敗れたのは事実のようです…」


その言葉を聞いて、今までざわついていた全ての者が口を閉じた…。嫌な静けさの中、教祖だけが口を開く。


「これを受けて…皆がどう思ったのかを聞きたいの…。まずは幹部の皆の意見を聞きたいわ…、何かあるかしら…?」


部屋の中央に横並びで立つ幹部たちはいずれも俯いていたが、次第にゆっくりと顔を上げて心境を口にした。


「──お言葉ですが…ザクロは我々幹部の中でも、比較的高い実力を有しておりました…。性別の負荷代償(制限)を設けていなかったザクロを失ったのは…、哀薔薇の集全体の戦力としてみても…かなりの痛手…、無勢…無骨…」


「リンドウの言う通りです教祖様…。ロベリアとザクロが居なくなった今、相手に関わらず即戦力となりえる者は…教祖様と最高幹部のお二人と私のみ…。カルミア、クロユリ、リンドウはいずれも負荷代償の影響で…どうしても相手を選んでしまいます…」


それを聞いた教祖は少しの間沈黙し、教祖から見て右側の壁に寄りかかる二人の人物…最高幹部の二人にも意見を求めた。


二人も幹部の四人と同様に初めは黙っていたが、グレナの隣に立っていた人物が不意に左手を挙げた。


「何かしら…()()()()…?」


「──確かにザクロを失ったのは痛いが…戦力不足については今に始まった話じゃないだろう…。もとより我々の力は戦い目的じゃないのだから、これ以上奴等との戦闘を避けさえすればいい…。確か…次の盗みで最後にするんだろう…?教祖様…?」


教祖は静かに頷き、前を向き直った。


「今から五日後…とある大型ショッピングモール内で期間限定で宝石の展示会が行われるという情報を掴んだわ…。そこではかなり希少な宝石が沢山展示されるそうだから、その宝石の全てを頂いて…盗みから手を退きましょう」


そう言って教祖は一枚のチラシを前に出して見せつけた。それを見た何人かはやる気を抱き、また何人かは…不安を口にした。


それもその筈、僅か短期間の間に幹部が二人捕まっているのだから当然の事…。事実L-gst((第二支部))の警戒は強まっている…。


「皆の懸念も分かるわ…、でもこれ以上長引けば事態はより悪化します…。やるしかないのです…、哀薔薇の集の…メンバー全員の()()を叶える為に…。やりましょう皆さん…、我々の理想郷を創る為に…!」


玉座から立ち上がった教祖に、他のメンバー全員は揃えて片膝をついた。それは強い忠誠心と同時に、これから始まる最後の盗みに対しての覚悟の表れ…。


そして理解していた…、盗み(それ)が決して思い通りには進まない事を…。L-gstとの戦闘が…、仲間の犠牲が…避けられない事を…。


無論それは…教祖も同じ…


「アジトには最小限の人数だけを残して、他のメンバー全員で出向きます…!例え戦いが起ころうと起きまいと…もう二度とアジトへは戻りません…!我々は楽園へ往く…、もう後には退けません…共に往きましょう…!」


もはや誰一人として…不安も恐怖も抱く者は居なかった…。その場にあるのは…ただ一つの曇りなき害意のみ…──






‐次の日‐


<〔Perspective:(‐朝凪視点‐)朝凪〕>


「おはようございまーすっ!」


「朝凪ちゃん、おはようございます~」


朝起きてびっくり、昨日のもやもやがまるで噓の様に綺麗サッパリ消えていた。寝るとストレスが半分になるって本当なんだね。


何度考えたって現実は変わらない…、沙月ちゃんが哀薔薇の集に組してるのも…私はしっかり受け止める事にした…っ!


頑張って作戦に参加して…私の手で…沙月ちゃんを止めると決めたのだ…っ!


「おはよう朝凪ちゃん、怪我の具合はどう?」


「バッチリですっ!ほら、もうちゃんと腕も上がりますよっ!ほらほらっ!」


昨日は肩より高い位置に上げるだけで凄く痛んでいた…、戦闘中はアドレナリンのおかげで気付かなかったけど…終わったら吐きそうな程の痛みに襲われた…。


でも寝て起きて元通り元気ハッピー!!めっちゃ動く動くっ!なんか前よりも肩の関節が柔らかくなった気さえするっ


「…相変わらず治りの早さが凄まじいですねー…。完治に数日は掛かるって支部長言ってたのにー…」


確かに私の治りの早さはちょっと異常だとも思う…。トラックに撥ねられた時も、私の回復力が無かったら即死だったって医師に言われた…。怖っわ…。


自分の回復力にひしひしと恐怖を感じていると、奥から伊敷さんがやって来た。片手にスマホを握っているし、電話してたのかな?


「おや朝凪くん、もう怪我の具合はいいんですか?本当君は…化け物並の回復力ですネェ…、ある意味異能犯よりも怖いですよ…」


「んな…っ!?失礼な…っ!誰が化け物ですか誰が…っ!私はただのかわいい普通(?)の女子高生ですーだっ!」


まったく…誰が薄気味悪いモンスターですか…。※そこまでは言ってない


「──ところで伊敷さん、どこに電話してたんですか?もしかして昨日の事に関して、何か分かったんですか?」


「いえいえ、この電話は別件ですよ。今騒がれてる“死を招く厄(サイス・ドロー)”に関しての新しい情報が本部から回ってきましてね」


──っ!〝死を招く厄(サイス・ドロー)〟…奄仙島(えんせんじま)を襲った異能犯組織…。嫌でも忘れらないあの恐怖…、脳裏に浮かぶ莉燔(少女)の姿…。


握った手が小刻みに震えている…。


「それで…?本部の人はなんて…?」


「東京のみで悪事を働いていると考えられていた〝死を招く厄(サイス・ドロー)〟ですが、どうやら複数の場所でも活動していたそうです…。襲撃があったのは()()()()()()()()()()()()()()()の七県…。東京と同じで、襲撃があった日はいずれも()()()()()()が行なわれていた場所でした」


別の場所でも…しかもピンポイントで昇格試験を…。いよいよ目的が本格的に分からない組織(奴等)だな…。


私と同じ様な被害者も沢山いるのかな…。


L-gst(エルジスタ)を狙っているのは確かですが…はっきりと目的が分からない以上、我々も警戒を強めないとですネェ」


いずれまた戦う時が来るのかな…、その時ちゃんと…戦えるかな…。


また恐怖が私の体を蝕んでいく…、あの時の光景が…目の前に広がる…。



“ガチャンッ!! …トタタタタタタタッ!!”


「フハハハッ!野郎共ォっ!ご機嫌な帆野様の登場だァ!!」

「今日も元気なわれねも居るッス!!」


うわぁっ!?抱いてた恐怖の全てが吹っ飛ぶレベルに騒がしい人たちが来たァ!?いよいよチャイムもノックもしねえっ!頼むぞ立派な大人ァ!!


「第三支部の皆様、おはようございます。ウチのバカアホマヌケ☆自主規制☆(ピーーーーーーーーー)支部長がお騒がせしてすみませんでした…」


「えぇ…!?ちょっと…っていうかかなり言い過ぎじゃない…?私これでも白っちの上司だよ…?敬おう…上司を…」


なんだろう…なんか面白いなこの人たち…。にしても酷かったなぁ…今の言葉…、規制が無かったら全年齢対象が崩れてたろうね…。


特に何も言われてないわれねさんも…なんか凄く青ざめた顔してるし…。元気なわれねさんがすんごく冷や汗かいて黙り込んじゃってるし…。


「あのえっと…お邪魔しますぅ…」


そう言ってもう一人見知らぬ人物が入ってきた。なんだろう…なんかめっちゃ萎縮してる様に見える…。多分白唯さんに怯えてる…。


「紹介致します、こちらは“天恫(あまず) 胡桃(くるみ)”、今回の作戦に参加する私の後輩になります。どうぞお見知り置きを…」


「えっと…よろしくお願いします…へへっ…」


ぎこちない笑顔からもどこか緊張が伝わってくる…。そんなに緊張しちゃうような人はここに居ないと思うけどなぁ…。でも私も最初こうだったかも…


「オホン…っ!気を取り直して…来たぞォ私がァ!!しかも今日は第三支部の娘たちに手土産を持っての参上だァ!」


そう言って私は持っていた箱を手渡された。黒の箱に金の模様が描かれた箱は、どことなく高級感に包まれていて、甘美で気品溢れる香りが漂う。


「さあ喜べ娘たちっ!今回の手土産は…開店前から行列の出来る超人気ケーキ専門店『暦月(こよみづき)』のチーズケーキだっ!!」


「おおおおおおおおおっ!」

「わああああああああっ!」

「やったああああああっ!」



     -実食中- う、美味い…っ! by朝凪

     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



「さてさて…一息ついきましたし、そろそろ本題に入ってくださいよ。君が来たって事は、例の作戦についての事でしょう…?」


「まあな…!ようやく準備も粗方済んだし、何より…哀薔薇の集(アイツ等)が予想通り食い付いてきた…っ!これで当初の予定通りに作戦を進められる…!」


おお…っ!本当に帆野さんの読み通りになった…っ!てことは…あのハチャメチャな作戦も本当に実行するんだ…、準備も粗方済んだって言ってたしね…。


帆野(支部長)…念の為もう一度作戦を確認しておきましょう。胡桃もまだ作戦についてしっかり理解してはいないでしょうし」


「そうだな…、もっかいおさらいしとくか」


前回一度帆野さんが作戦を説明していたのだが…未確定だった部分の説明が省かれていたので、この説明でそれが聞けるのだろうか…。


「まず今回の作戦をざっくり簡単に言っちゃえば、“罠を仕掛けて、そこに来た奴等を一網打尽にしちゃおうっ!”ってもんだな!そして肝心の罠がこれだっ!」


帆野さんは一枚のチラシを取り出してテーブルの上に置いた。そこには──


[大型ショッピングモール“ストア・スキャット”が近日オープン!]


──っと書かれていた。そしてその下、そこにはショッピングモール内の店舗の紹介欄があるのだが…そこに気になるところが…


[オープン記念!三日間の期間限定で国宝級の宝石の展示が決定!10カラットのダイヤの指輪から稀少な宝石まで、皆様是非この機会をお見逃しなく]


──まさか…これを盗みに来たところを捕えるって事…!?上手くいきそうではあるけど…大分リスクあるんじゃ…


「もう分かって貰えたと思うが、ここに書いてある宝石を餌におびき寄せるっ!そしておびき出す作戦の舞台がこれだ!」


帆野さんは一枚の写真を掲げた。そこには立派なショッピングモール…っと一緒に重機やらヘルメットを被ったおじさんたちの姿があった…。


う~ん…?これはぁ…?


「実はこのショッピングモール…完成間近ってだけでまだ完成してねえんだよ。当然オープンだってまだもう少し先だし、宝石の展示なんてありゃしねえ」


「──っ?」

「──っ?」

「──っ?」


私は縮さんたちと同じ様に首を傾げた…、どゆこと…?


「一般市民に被害が出ないように戦う為、完成間近のショッピングモールをお借りした。今現場の方では簡単な内装工事を行って貰っている訳だ」


想像以上に大規模な事をしている…!?なんて特大な罠…!?ひ…引くわぁ…。


「これなら思う存分戦えるだろ?哀薔薇の集(アイツ等)をボコボコにしてやんぞっ!」




【第42話 覚悟 完】

善と悪…両者動く…! 次回に続く!

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