第41話 進化
<戦いの技式>
第41話 進化
なんとか永気コントロールの習得に成功はした。でもこれでようやく戦況が五分五分になったというだけで…まだまだ先が分からない…。
こっちの能力もまだ知られてないだろうけど…向こうの才式の仕組みも分かんない…。能力は【煙】…とかで間違いないと思うんだけどなぁ…。
「そろそろいいかにゃあ…?お互いに休憩はお終いで…?」
掴流雲が引いて塀から降りてきたザクロは、私に向けて不敵な笑みを浮かべ、背後にモクモクと煙を出し始めた。
もうちょっと考える時間が欲しかったけど…流石にそうはいかないか…。ん~何か分かりそうなんだけどなぁ…。
「“乱殴雲”!!」
背後の煙から放出され、色んな角度から一斉に向かってくる煙拳を跳んで回避した。さっきまで乗っていた塀の部分が崩れ落ちる程の威力…さっきよりも攻撃の威力が上がってるかもしれない…。
またさっきみたいに全部切り落として距離を詰めたいけど…向こうも警戒はしてるだろうし、またあのびっくら雲の攻撃が怖い…。
であれば…今攻撃すべきは本体じゃなくてびっくら雲の方…っ!
道路に着地すると同時に私は一目散にびっくら雲に向かって行き、攻撃が放たれる前に永刃で真っ二つにした。
切れたびっくら雲はただの煙の様に霧散して消えていった…。それと同時に強い違和感に襲われた。
何かが…違う…今までの煙とは明確に何かが…違っている…。
今の手応え…実体がない…っ!?でもびっくら雲の攻撃にはちゃんと実体があったし、事実それでダメージも負っている…。
なんなんだこの得体の知れなさは…。どういう訳なのか知らないけど…びっくら雲だけが他の才式と少し外れている様にも感じる…。
クソ…全然分かんないぞ…っ!何か…何か手掛かりは…──っ!
ザクロにふと目をやると、胴体と左袖が部分的に赤黒く染まっていた。
胴体の方は私が攻撃したから勿論だけど…、左袖…つまり左腕の方はいつ…?私は攻撃してないし、返り血にも見えない…。
左腕を怪我をする様な場面だって別に…──っ!
…そうか、分かった…。やっぱり私の考えは正しかった…、ただ一つ…びっくら雲だけが他とは全く違う異質な才式だったんだ…。
「ふふ…っ!分かっちゃったよ、あなたの才式の仕組みが…っ!」
ザクロの才式は大きく別けて二種類。最初から実体のある煙と、実体のある煙を放出する普通の性質の煙…即ちびっくら雲の二つ。
前者は私の予測通り、それに該当する才式は一度に一種類までしか使用出来ない負荷代償を科している。
そして後者…これはまだ同時に発動出来る可能性があるから何とも言えないが、明確な負荷代償が二つある…。
その一つは──“びっくら雲から放たれた攻撃は、能力者自身にも効果がある”っというものだ。恐らく間違いない…。
掴流雲がびっくら雲から放たれる直前…ザクロはそれに気付いて塀の上に回避した。自分で使った時は平気で道路の上に立っていたのにだ。
そしてあの左腕の怪我…、私が雲雀斬りを決める直前に放たれた降針雲によって負った傷だろう…。
あの時…油断で防御が疎かになったんだと思ってたけど、本当は降針雲のダメージのせいで防御が遅れ…結果的に攻撃が通ったんだ…。
そしてもう一つの負荷代償…それは──“びっくら雲から放たれる攻撃の種類とタイミングは、能力者本人にも分からない”…つまり完全ランダムな攻撃…。
でなければ…あんな至近距離で降針雲が放たれる事も、道路に居ながら自分にも影響のでる掴流雲が放たれる事もないだろうから…。
「ふ~ん…戦いの中でそこまで気付かれるのは初めてだにゃあ…。で・も…?分かったところで何が変わるというんだにゃあ?まだこっちの手札は残ってるんだからにゃあっ!!“雲海猛魚”!!」
背後から爆発的に膨れ上がった煙から、ウツボの様な姿をした細長くてめちゃくちゃデカいのが四匹出てきた。
あれは恐らく実体の煙…ならひとまずあれに集中して対処すべきか…?
「からのォ…っ!!“びっくら雲×2”!!」
うげ…っ!?やっぱりあれは複数出せるのか…これは厄介…っ!いつどんな攻撃がくるかも分からない以上…ずっと気を張ってないとダメだね…。
「さぁ行ってこい!!朝凪をぐちゃぐちゃに嚙み殺せにゃあっ!!」
その指示で四匹は一斉に大口を開けて私に突進してくる。私も迎え撃つ構えをとり、気を調えてその時を待った。
先陣を切った一匹の頭上からの嚙みつきを十分に引き付けて躱し、返しの一撃でズバッ!と首を刎ねた。
勢い良く道路に嚙みついたその部分にはひびが入り、アスファルトの一部が捲れていた。予想以上の威力だ…。
今の攻撃に続いて残りの三匹も襲い掛かってきた。動きは単調なのに…一匹一匹のサイズがデカい分、同時にこられると中々反撃に転じれない。
上手く攻撃をさばきながらチャンスを見つける長い戦い…、永気コントロールが出来てなかったらどうなっていたか…。
一匹を早々に片付けたからなのか、残る三匹は連携している様な動きで三位一体の攻撃を繰り出してくる。
一匹が前から攻め、それをサポートする様に横から一匹、近くで様子見をするのが一匹…。どこから崩していけばいいのかが分からない…。
強引に首を刎ねにいくと、必ずどっちかの猛魚の妨害を受ける。ちょっと一部を削った程度じゃ、全く攻撃の勢いが落ちないのも厄介なところだ…。
そこで私は一度猛魚から距離をとった。そうすると猛魚たちは一心不乱に私を追って、攻撃をしようとどんどん近付いてきた。
「よし…異能犯とびっくら雲の間に十分な距離が出来た…っ!これなら万が一にも妨害は出来ないだろ…っ!いくぞ…っ!」
まず私は猛魚の攻撃を十分に引き付けた上で、【脚】を使って一気にお腹の下辺りまで潜り込んだ。
そして追撃にきた二匹目の猛魚の攻撃を躱して踏み付け、高い位置で様子見をしているもう一匹に永刃を振った。
首は刎ねられなかったが、下顎の部分を切り落とす事には成功した。これで幾分か戦力を削ぐ事が出来た筈…
「まだだにゃあっ!そーれェっ!!」
ザクロの手から放たれた煙の塊は勢い良く猛魚に向かって飛んでいき、さっき切り落とした下顎部分を修復した。
クソぉ…しっかり首を刎ねなきゃ効果がないか…。これで振り出し…どうやって猛魚を仕留めるべきか…。
そう考えている間にも猛魚たちの攻撃は続き、さっきの私の攻撃の影響からかより一層攻撃が激しさを増していく。
様子見をしていた猛魚さえもが容赦なく攻めたててきて、いよいよ反撃の隙がほとんど無くなってしまった。
でも完全にチャンスが無いわけでもない。さっきみたいに虚をついた行動が出来れば…まだ全然反撃は可能…っ!
ここからは…その場の思い付きで…即興の臨機応変スタイルで戦う…っ!
私は猛魚の攻撃を避けながら目に付いたとある物の傍に向かい、それを持ち上げた。そのとある物とは、へし折れた道路標識だ。
私は道路標識を振り上げるのと同時に【集】を使って右手を強化し、体全体を使って思いっ切り道路に振り下ろした。
衝撃でアスファルトは砕け散り、辺りを塵埃が覆った。ほとんど前が見えない状況…それは猛魚たちも同じ事だろう。
でも私にはなんとなく猛魚の居場所が分かる。煙とはいえ元が永気である以上、私なら感じ取る事が出来る…っ!
【脚】を発動、良く狙いを定めて…──そこだっ!!
「“〝気鋭士魂〟疾風”!!」
身を屈めて両足で一気に猛魚に突っ込んだ。永刃を前に構え、切るというより貫く感じで猛魚の一匹の首を落とした。
私は体を翻して塀の側面に着地し、感覚を研ぎ澄ませてもう一度〝疾風〟で攻撃を試みた。
一度目の疾風で少し塵埃が晴れたのか、さっきよりも視界が良くなっており、私が到達する前に狙っていた猛魚に気付かれた。
だが〝疾風〟は今の私が持つ剣技の中で最速の技、あの巨体では気付かれた所で避ける事も出来ずに攻撃が通る筈だ…。
その予想通り、何もさせることなくズバッと首を両断した。塵埃は完璧に晴れてしまったが、これで残りは一匹のみ。
このままあと一匹やってしまってもいいが…出来る事ならコイツは残しておきたいのが正直なところ…。
コイツを倒せば格段に動きやすくはなるし、気を張る必要もなくなる…。でもザクロに才式の余裕を与えたくはない…。
自分で解除するかもしれないが、これだけの巨体…解除して次の才式発動までには時間が掛かる筈だ…。
その時間によっては、びっくら雲に警戒を向けながら攻める事も出来るだろうし…もしかしたらそれで倒しきれるかもしれない…。
リスクはあるけど…こっちのが確実に倒せる可能性が高い…っ!一匹残したままザクロを叩く…っ!
私は猛魚の攻撃を躱しながらチャンスを伺った。こっちの狙いを悟られない様に慎重に…疲労で苦戦している様に見せながら…。
一匹になったことで動きが激しくなった猛魚の攻撃は、角度も方向も考え無しなっていた。面倒な連携は無くなったものの…これはこれで厄介だ…。
それでも粘り強く攻撃を躱し続けていると…痺れを切らしてか、高く空へと昇っていき、大きな口を開けて真上から落下してきた。
ギリギリまで引き付けて躱した攻撃はアスファルトを容易に捲り上げ、さっきとは比べのものにならない程の塵埃を立てた。
しかしこれは絶好のチャンス…っ!これなら私の動きを見て取れるものは居ない…っ!ここで攻める…っ!!
私は複数の集中している永気の方に全力で駆け出した。猛魚は前が見えなくて追っては来れないし、永気は依然感じる…解除もされてない…っ!
塵埃を抜ければザクロまでは50メートル位の位置…十分…っ!びっくら雲から出て来る三種の攻撃に警戒してれば…恐れることは無い…っ!
私は勢い良く塵埃を抜けて永刃を握る手に力を入れた──
“ガブッ!!!”
最初に感じたのは腹部に走った激痛だった…。そして訳が分からないまま私の体は後方へと戻され、電柱に激突した…。
そこでようやく状況を理解した…。私の腹部に…あの猛魚が思いっ切り嚙みついていたのだ…。
しかもそれは…さっきまでの猛魚とは違う個体…。警戒していた筈のびっくら雲から放たれたものだった…。
どんどん嚙む力が強まっていき、鋭い歯が私の体内に入っていくのを痛みと一緒に感じ取る事が出来た…。
歯が食い込む度に血が込み上げて口から流れる…。私は歯を食いしばって右手を上げて、振り下ろした永刃で首を斬った。
猛魚の頭が霧散して消え、私はその場にしゃがみ込んで腹部を押さえた…。じわぁ…と広がった血がレインコートを赤く染めた…。
お腹と背中…そして折れたあばら骨が再び強い痛みを発した…。
そこに追い打ちを掛けるように残りの一匹も私を仕留めようと向かってくる…。
私は倒れ込む様に体を屈めて前転して攻撃を躱し、電柱に嚙みついて動きが止まった猛魚の首を下からぶった切った。
「ギャッキャッキャッ!惜しかったにゃあ、残念ザンネン♪びっくら雲から放たれる攻撃は、私が新しい才式を使うと自動で追加されるんだにゃあ…♪」
不覚…そこまで考えてなかった…。しかもあのタイミングで雲海猛魚が出てくるなんて…なんて運の無さ…。
「それに…残った一匹も倒してくれて助かったにゃあ♪雲海猛魚は一度使うと、命令を果たすか全ての猛魚の首が落ちない限り消せないからにゃあ…」
やっぱりそうだったのか…最悪だ…。これじゃあ状況が元に戻った…というより悪化しただけ…、どんどんマズくなってく…。
永気切れがどうとかって話じゃない…急がないと失血死してしまう…。
「もう限界だって近いでしょう…?だからこれで最後…私のありったけの永気を込めた才式でお前を殺してやるにゃあ…っ!“雲海猛魚群”!!」
「────…っ!?」
私は目の前に広がった光景に絶句した…。ザクロの背後から出現したのはさっきの猛魚、しかもそれが今度は八匹に増えていた…。
その光景に啞然とし、私の心の中に絶望感が広がっていく…。
「ギャッキャッキャッ!負け犬に似合う良い顔…っ!沙月にも見せてあげたかったにゃあ…っ!」
──沙月ちゃん…っ!そうだ…そうだ私は…、コイツに…コイツなんかに負けてる場合じゃないんだ…っ!
沙月ちゃんを…取り戻さなくちゃ…いけないんだ…っ!!
私は傷口を押さえながら立ち上がった。心を蝕みかけていた絶望も完全に払い切り、復活した闘志を永刃に込めてザクロに向けた。
もう小細工も一切しない…っ!正真正銘、これが最後の攻防だ…っ!
「嚙み殺せ…っ!!」
「ぶっ倒す…っ!!」
互いが言葉を発し、私と猛魚は同時に前進した。当然猛魚の攻撃の勢いは増していて、一匹ずつ倒していく余裕は今の私には最早なかった…。
猛魚の攻撃を紙一重で躱しながら、私は頭の中で作戦を考える。一度に複数の猛魚の首を落とすべきか…また視界を奪って、その内にザクロを直接叩くか…。
前者をするには…今の私の状態じゃ少し苦しいか…。後者は…またさっきみたいな攻撃がきた時、私も回避出来なくなる…。これ以上のダメージは避けたい…。
──どっちも今の状況じゃリスキーだ…、となれば…
猛魚を一度に全て片付けて、その上で才式を発動させる前にザクロを倒しきる…っ!ここからは短期決戦だ…っ!
死なない程度に…死ぬ直前まで自分を追い込んで攻めまくる…っ!
【脚】を使って猛魚群の下を潜り抜けてザクロに向かって進む。痛みで吐血しても関係なく突き進んだ。
追って来る猛魚群に目も向けずに真っ直ぐ駆け抜け、あと数歩で永刃が届く所まで接近する事が出来た。
だがやはりここでびっくら雲が変形しだし、私に向けて乱殴雲が放たれる。タイミングはランダムと言っても…少しは能力者本人に有利に働くみたいだ…。
私は体を反らせて攻撃をギリギリ躱し、膝でアスファルトの上を滑りながら更に接近した。その流れを生かして一撃を振るったが、当然防がれてしまった。
更に追撃を仕掛けたいが、後ろから勢い良く迫ってくる猛魚群がそれを許さない。
私は後ろを向いて猛魚の攻撃を躱すと、その一匹を踏みつけて高く跳躍した。電柱よりも高く、辺りが一望できる程の高さまで跳んだ。
八匹の猛魚群は大きく口を開けて、我先に嚙み殺そうと密集して空に昇ってきた。
──狙い通り…っ!これならやれる…っ!これで…全てに片をつける…っ!!
「“幡 強化式 【集】!!”」
頭を下にして、向かってくる猛魚群と向かい合う体勢をとり、私は永刃をグルグルと目の前で回転させた。
より速く、勢いが止まらない様に集中して永刃を回し続ける。そして次第に距離が縮まり、大きく開いた口が近付いてきた。
「“気鋭士魂〝旋風刃戯〟”!!」
衝突した猛魚の体がバラバラになって消えていく。後に続く猛魚群も同じ様に細切れになって、その数をどんどん減らしていく。
これだけやれば再生もクソもないだろう…。これで残るはザクロのみ…っ!
体勢を元に戻し、私は永刃の回転を止めて頭の上に持っていった。全てを込めた一撃で倒しきる…っ!!
さっき攻撃を防がれてた時に理解ったが…ザクロはそこまで腕力が強くない。強化式を使える様子もないし、これなら…っ!
「ハッ…!力任せで私を倒そうって魂胆だにゃあ…?でもそんなに上手く事が進むとは思わない方がいいにゃあ…っ!!」
そう言ったザクロの右肩に小さな雲が出現し、そこから伸びた複数の腕がザクロの右腕にしがみついた。
「これで私の力は実質二倍…いや三倍だにゃあっ!お前程度の強化式如きに劣ったりなんてしないんだにゃあっ!!」
ザクロは私を迎え討とうと構えを取った。あと数秒でその時が来る──その時が…決着の時…っ!
「うおあああああああっ!!!」
「はああああああああっ!!!」
互いが腹の底から声を上げて永刃を振るった──
“キンッ!!!”
永刃同士が激しくぶつかり合い、高い金属音が辺りに響いた…。
雨にかき消された火花と一緒に宙に舞ったのは…一本の永刃…。その時私の手には…永刃が握られていなかった…。
握っていたのは──限界まで力を込めた握り拳…っ!
私は最初から…永刃を握る手に大して力を入れてなかった…。ぶつかり合えば簡単に弾かれてしまう程に…
“君の攻撃は単純なんですよネェ…”
あの跳躍もあの大声も…全ては落下時の攻撃を本命だと思わせるはったり。本当の本命は…流れるように懐に潜り込む事…っ!
大きく永刃を振った以上、直ぐに次の行動には出られない…!この攻撃を…避けたり防いだりは…出来ない…!!
「はああああああああっ!!!」
【集】を込めた右拳を、ザクロのお腹目掛けて思いっ切りぶち込んだ。そして重心を移動させて、アスファルトに向けて拳を振り切った。
「“クレイブ・メテオ”!!!」
“ドォオオオオオンッ!!!”
今まで一番の衝撃がアスファルトに走り、巨大な柱の様な塵埃が空高く舞った。衝撃波が付近の窓ガラスを叩き、近くの塀にはひびが入って崩れ落ちた。
やがて塵埃は晴れていき、白目をむいて横たわるザクロの姿があった…。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…、流石に…地面に叩きつけられたら…クッショ雲で衝撃を和らげられないでしょ…ハァッ…」
ザクロが完全に気を失っているのを確認した私は【脚】を使い、ふらふらの足取りで近くの建物の上まで移動した。
分かってはいたが…どこにも沙月ちゃんの姿は見当たらなかった…。
「…沙月ちゃん──」
沙月ちゃんの行き先を隠すようにより一層強く降り出した雨の中で、私はただ…その場に立ち尽くしていた…。
〚勝者:朝凪〛
【第41話 進化 完】
決着…!それでも雨は止まない… 次回に続く!
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