第40話 ザクロ
<戦いの技式>
第40話 ザクロ
「返せェ…?まるで私が誘拐犯みたいに言っているけど、それは勘違い…。私等はあくまできっかけを与えただけ…後は全部エリカの意思で行動してるんだからにゃあ」
「噓だっ!!沙月ちゃんはそんな…あんな事しようとする人じゃないっ!!」
ダメだ…冷静になれ私…っ!熱くなるな…平静を保て…鼓動を整えろ…。そしてコイツが何者なのか考えるんだ…。
私“等”って事は…少なくともまだ一人以上がバックにいる…。目的は…無差別殺人…?それとも個人的な復讐…?
…多分前者の方かな…。復讐目的な殺人なら、沙月ちゃんに「逃げろ」なんて命令はしない筈…。私を足止めしている間に後を追わせるのが自然だ…。
あの男性が狙われたのは完璧に気まぐ…れ…?
狙われた男性…女性の異能犯…、偶然…じゃないよね…。多分…いや絶対にこの異能犯は…哀薔薇の集と関係がある…っ!
そして…もし本当にそうなら…沙月ちゃんも…
“沙月の奴…なんか最近家に帰ってないみたいなんだ…。”
きっとそれが原因…認めたくないけど、そう考えれば合点がいく…。
なんで…なんであんなに優しかった沙月ちゃんが…どうしてこんな事に…。
いや今は止めよう…考えたって何も答えは出ない…っ!今すべきは私情の優先じゃない…危険を及ぼす異能犯の確保だ…っ!
私は永刃を構えて戦闘態勢をとった。実戦訓練で指摘された課題を意識しながら永気の増幅を行っていく。
「ギャッキャッキャ♪力強い永気…正義感と怒りが入り混じってて…美味しそうだにゃあ♪死ぬほど後悔させて殺してやるにゃあ…っ!!」
相手も永刃を抜いていよいよやる気だ…。増幅された永気からも只者ではない事がピリピリ感じられる。
多分このザクロの能力は【煙】…変幻自在に形を変えられる煙を操る能力…。
煙に乗ったり物理的な攻撃が出来たり…煙に実体があるのはそういう才式なんだろうか…。いずれにしても警戒しなくちゃいけない点だ…。
攻撃範囲は煙と考えるとかなり広そう…伊国と似たタイプだし…距離を取る行動にあまり意味はないのかも…。
「はぁあああああっ!!」
突如ザクロの体からもくもくと煙が立ち上って小さな雲の様なものが出来上がっていく。うかつに攻める事も出来そうにない…。
「“降針雲”!!」
出来上がった雲の表面に小さなイボの様なものが無数に浮かび上がり、それがやがて針となって雨の様に向かってきた。
細く鋭い針は、針と針の間隔も凄く狭く…間を抜けるように躱すのは不可能…。やむを得ず距離を取って回避する。
数は脅威だけどスピードはそこまで速くない。回避しようと思えば回避出来るから…この攻撃はあまり心配が要らないように感じる。
ついでに煙に永刃を触れさせ、能力を発動させておく。これでさっきみたいに突然攻撃がきてもある程度対処が出来る。
攻める準備は整った…っ!私の能力に対応される前にケリをつける…っ!
【脚】を発動して、迂回するように距離を詰める。針をぶった切って真っ直ぐ最短で向って行ってもいいが…まだ能力を見せる必要はない…っ!
真横まで移動し、【脚】を解いて【集】を発動させ、出せる全力の一撃を振るう。
「“燕躰打ち”!!」
かなり良い攻撃だった筈だが…強化式の切替で生まれた一瞬の間、それがギリギリ防御に間に合う時間を与えてしまった。
それでも威力は十分で、ザクロを遠くにぶっ飛ばす事が出来た。あれで標識か電柱にぶつかってくれればダメージにもなるけど…。
「“クッショ雲”…!」
ザクロの背中から広がった煙はさっきまでとは違い、まるで上質なクッションの様な性質に変化した。勢いは殺され、結局ダメージはなしか…。
「素早い動きと強力な一撃…強化式の扱いが上手いねェ…っ!より一層楽しくなってきたにゃあっ!!“掴流雲”…!!」
ザクロは屈んで左手を地面につけると、そこから波の様に地を這いながら辺りに広がっていく煙を出し始めた。
煙の先には無数の白い手がついており、煙にのまれた標識はその手に掴まれてベキベキと音を立てて拉げていく。あれに掴まるのはマズい…っ!
私はどんどん近付いてくる煙に背を向けて走り出し、塀を蹴って近くの電柱の出っ張りに掴まって回避した。
幸いあの煙は上にまで登ってくる様子はない…。でもこっちも攻め辛い…このままこの煙が消えるのを待つべきか…
「本当にすばしっこい小娘だにゃあ…。もしかしてロベリアを捕えた隊員はお前かにゃあ…?」
──っ!ロベリアって名前…確か桃乃さんが捕えた…哀薔薇の集の一員…っ!
やっぱりこの異能犯も哀薔薇の集のメンバーか…。──…って事はやっぱり…沙月ちゃんもその仲間か…
「まあ今更そんな事はどうでもいっか。それより…いつまでも電柱にいて大丈夫かにゃあ…?ギャッキャッキャッ…」
その言われた瞬間ガクンと小さく電柱が揺れた…。下を見ると無数の手が電柱を掴んでひびを入れている…。
マズい…!このままだと折れる…!しかも折れる角度によっては住宅に電柱が倒れる…!それだけは回避しなくちゃ…っ!
次第にひびは広がっていき、予想した通りに電柱は音を立てて倒れ始めた。そして最悪な事に…電柱は近くの住宅の方を向いている。
マズいマズいマズい…っ!永刃で切ったところで…細切れにでもしないと意味がない…っ!…やるしかない…っ!
「“幡 強化式 【流】!!”」
私は一足早く電柱から住宅の屋根に飛び移り、また直ぐに電柱に向かって跳んだ。そして左手で拳を握り、思いっ切りの力で電柱をぶっ叩いた。
倒れかけた電柱は向きを変えて道路に倒れた。【流】にして正解だった…、もし【集】だったら空中で砕けてしまってたかもしれない…。
被害はゼロに出来たけど…その代わりに…電柱を叩いた左手からはぽたぽたと血が滴り落ちている…。
親指と…小指がちょっとだけ動く程度か…。流石に永気の自己治癒力だけじゃ…この戦い中に治る事はないだろうし…もう左手は使い物にならない…。
“強化式はあくまで力を強める効果なだけで、皮膚が硬くなったり頑丈になったりはしませんのでご注意を…”
分かってはいたし…状況的にしょうがなかったとは言え…これでかなり不利になった…。もしぶっ飛ばされたりしても…受け身がとれるか分からない…。
慎重に立ち回らないと即ゲームオーバー…辛い戦局だ…。
でもただ不利なだけじゃない…今までの戦いであのザクロの能力(才式)の特性が分かった…っ!
それは…一度に使える才式が一種類だけということ…っ!
乱殴雲も、降針雲も、さっきの掴流雲も…一度才式を解除してからでないと次の攻撃に転じられないんだ…っ!
事実道路に溜まっていた掴流雲が消えていく。二つ以上使えるなら、発動しっぱなしでいた方が戦いを有利に進められる筈だ…。
そうしないって事はつまりそういう事なんだろう…。
「さあさあ、どんどんいくにゃあっ!“乱殴雲”!!」
再びザクロの左右に人並みの大きさの雲が出来上がっていく。私は攻撃が来る前に塀から降りて迎え撃つ準備をした。
雲がボコボコと膨れ上がり、間もなくして複数の白い拳が一斉に向かってきた。速度は煙針よりも遅い…これなら余裕…っ!
私は向かってくる拳を切り裂きながらザクロに向かって前進していった。
【流】はまだ継続中、そこまで剣術に長けている様には見えないし…このままの速度で接近して一気に攻め込めば倒せるかもしれない…っ!
最低限の振りで拳を切りながらどんどん異能犯に近付いていった。あと数メートル…この調子ならいける…っ!
「──ふんっ!“びっくら雲”!!」
突然円を描くように腕を回すと、掌から出てきた煙が小さな雲の様になってふわふわと宙を漂いだした。
──っ!?二つ以上才式が使えるの…っ!?なら何で今までは一度才式を解除してたんだ…っ!?クソ…分かんない…っ!
でもここまで来たらもう止まる訳にはいかない…っ!どんな攻撃がきても機転を利かせて対処する…っ!それしかない…っ!
ようやく拳の源の煙まで到達し、ザクロを私の間合いの中に入れられた。この距離なら…たとえ強化式を使えたとしても間に合わないだろう。
これなら力でゴリ押しが効く…っ!恐れずに押せ私…っ!!
“プクプクッ…ビャッ!!”
もう一歩で攻撃を入れられるその瞬間、懸念を抱いていたびっくら雲から無数の煙針が凄い勢いで飛び出した。
既に攻撃の構えを取っている私には、それを避けるどころか防御さえ間に合わない…。せめてめの抵抗として、深手を負った左手で顔を隠した。
威力はそこまで無いものの、無数の煙針は容易に肌を貫いて筋肉に突き刺さった。右半身に走る鋭い痛み…降りしきる雨に混ざって血の雫が飛び散る…。
でも足は止めない…!痛みを…考えるな…っ!!
「“ ‶気鋭士魂〟雲雀斬り ”!!」
「うああああ…っ!!」
さっきの煙針で私が止まると思っていたのか、防御の姿勢が不安定だったおかげで防がれることなく攻撃が通った。
胴を大きく斜めに斬りつけた渾身の一撃を食らったザクロは、吐血して苦しんでいるがまだ倒れる気配はない。
「がふっ…よくもやってくれたにゃあ…っ!ズタズタに引き裂いて…──っ!」
最後まで言い終える前に、何かに気付いた様に塀の上にジャンプで乗った。今の動きを見る限り…まだ余裕がありそうだ…。
“モコモコッ…バシュンッ!”
音のした方をバッと振り向くと、一瞬目を離した隙にびっくら雲の下から大量の煙が放出されていた。
とめどなく放出される煙は地を這うように広がり、手の形となって向かってきた。煙針の次は掴流雲…?攻撃の法則が分かんない…。
とりあえずアレに捕まるのを避けるために、私も塀の上に避難する。電柱を折るくらいの力だ…絶対に捕まりたくない…っ!
「“乱殴雲”!!」
塀に乗った直後、斜め方向から拳が飛んできた。今までのとは違って広範囲ではなく、かなり密着した状態での攻撃…押し出すつもりか…っ!
永刃を振って押し出されるのを防ごうとしたが、一度に全ての拳を切り落とす事は出来ず…煙が充満する道路に放り出された。
背中から落下した瞬間に、一斉に向かってきた煙の手が全身を鷲掴みにする。
“ミシッ…ミシミシッ…ビキッ…!”
「うあっ…あ…がはっ…!」
鷲掴みにしてくる手が増える度に骨が軋み…嫌な音が耳に入る…。これ以上手が増えるとこのまま殺される…っ!まだ少し体が動く前に…なんとか…っ!
「うっ…うらあああああっ!!」
【流】を発動させ、血管が破裂する勢いで全身の筋肉を力ませる。しがみついてくる手を力任せに引き離し、なんとか反対側の塀に避難できた…が…。
「ギャッキャッキャッ…!随分苦しそうだけど大丈夫かにゃあ…?その気があるなら苦しませずに殺してあげてもいいけど?ギャッキャッキャッ♪」
塀の上でしゃがみ込んでいる私に高らかに笑いかける…。さっきのがかなり効いていて…ぽたぽたと口から血が落ちている…。
あばら骨を数本やられて…呼吸する度に胸に激痛が走る…。右腕も…折れてはなさそうだけど…ひびくらいは入ってるかもしれない…。
他にも脚や顎…挙げたらキリがない位にそこら中が痛む…。
「余計なお世話ですよーだっ!あなただってその傷が痛くて痛くて仕方ないんじゃないですか…?大人しくお縄についてもいいんですよ?」
「ギャッキャッキャッ!バカな事を言うにゃあ…っ!そんなの…お前を殺しても結果は同じだにゃあ…?」
う~ん…永気で少しでも回復しようとか思ったけど…なんかもうちょっとの時間稼ぎにもならなそうだ…。
傷の程度はどっこいどっこい…どっちにも勝ちが傾く不安定な戦況…。──でもそれは…もう一つの懸念点を除いた時の話だ…。
「ギャッキャッキャッ…!余裕を見せてるけど…正直もう辛いでしょう…?私にだって分かるにゃあ、お前…もう長続きしないでしょ…?」
開幕からずっと能力を発動させっぱなし…。しかも戦闘と傷の痛みで永気コントロールに全然集中出来てない…。
怪我の度合いで変化した永気の消費量を考えても…ここまででかなり消費してしまっている…。自分でも底が見えてきた程だ…。
永気量は遥かに相手のが膨大…、この戦いを制すには…永気のコントロールを身に付けるのが絶対…っ!
でも集中が出来ない…。傷が…特にあばら骨の部分がドクンッドクンッと脈動する様に痛みが続いて、意識がそこに持ってかれる…。
ズキンッズキンッと頭も痛んで…、もはや特訓の時よりも永気が安定しない…。凄くうるさく…耳に残る脈動の音全てが…私の邪魔に働く…。
本当にうるさい…、痛む箇所が心臓みたいにドクドクッと──心臓?ドクドクッ?
心臓…心臓か…。心臓はそこだけがいつもドクドクッと動いてる…。速さに違いはあれど、いつも一定のリズムで鼓動を刻んでる…。
いつも最大の大きさじゃなく…上がっては沈んでを繰り返してる。もしかして永気も…常に増幅を大きくするんじゃなくて、強弱が重要…?
私は永刃を握る右手に意識を向けて、永気を普段よりも小さく保った。
そしてあばらに感じる痛みのリズムに合わせて、右手の永気だけをドクンッドクンッと強弱つけて増幅を行った。
全身の永気はなだらかな水面の様に…かつ右手の永気だけは力強く動かし続けた。
最初はつられて右腕の永気も増幅していたが、次第にそれは落ち着いていき、そして遂に私はそれをものにした。
「──っ!…永気の流れが変わった…、何か掴んだようだにゃあ…?」
「うん…っ!これでまだ勝負は分からない…っ!戦いはまだこれからだ…っ!!」
【第40話 ザクロ 完】
遂に掴んだ永気の流れ…!戦況を覆せ…! 次回に続く!
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