第39話 悪癖
<戦いの技式>
第39話 悪癖
“バァンッ!!”
「ハイッ、そこまで…っ!今日の所はこれで終わりにしましょう、お疲れ様でした朝凪くん。──大丈夫ですか…?」
「はぁい…らいひょうぶれふ…」
実戦訓練開始から大体20分が経ちました…。はいそうです…ボッコボコのメッタメタにされましたねそれは…。
後半は伊敷さんを異能犯と思って、割と本気で殺す気で挑んだのに…結局触れるどころかかすりもしませんでした…。
なんでだろうね…?伊敷さん…能力も才式も幡式も使ってなかったのになんであんなに強いんだろね…?意味わかんねー。
そんな事を延々と考えながら体を起こした。節々が痛い…特に最後の…思いっ切り背中を叩きつけられたのがめっちゃ痛い…。
「いやー驚きましたよホント、思った以上の成長でしたネェ。能力も幡式も自在に使いこなせていましたし、身体能力も動体視力も悪くなかったですヨ?」
ならもうちょっと苦戦とかして欲しかったなぁ…なんて…。
「ただ勿論君の弱い部分、改善すべき部分も分かりましたので…包み隠さず全部教えてあげますよ、私ってば優しいですネェ」
「はい…ありがとうございます…」
むぅ…一体何を言われる事やら…、覚悟して聞こう…。
「まず一つ目、君の攻撃に関して。君の攻撃は強化式によって生まれた力と速度、それが合いまった鋭い攻撃が多い…ですが太刀筋が実に単純なんですよネェ。躱すのも受け流すのもチョー簡単なんですホント、フェイントも全然意味がないんですヨォ」
うわぁ…何も言えなーい…。思い当たる節がありすぎてぐぅの音も出ないや…。事実それで伊敷さんにぼろ負けしたしね…。
何度も何度も工夫したりフェイント入れたりしてたのに、それが全部通用しなかったのはそれが原因か…。にしても当たらな過ぎとは思うけど…。
「二つ目は君の永気ですかネェ。元々君の潜在永気量は一般隊員に比べてずっと少ないんですが…更にそこに永気の無駄遣いが重なってしまってるんです」
「永気の…無駄遣い…?」
私の永気遣いのどこかに無駄があるって事…?っていうか私の永気量ってそんなに少なかったの…!?初耳なんですけど…!?
「朝凪くん…君は普段戦う時、永気はどうしていますか?」
「戦う時ですか…?それはまあ…いつでも能力を発動出来る様に永気を増幅させますけど…違ってました…?」
私の能力には永気が必要不可欠、故にいざという時に使えないのは困るので、基本的に戦いの始まりから終わりまで永気は増幅させっぱなしなのだ。
「うーんとですネェ…間違いではないんですけど、朝凪くんの場合は増幅の加減がまだ制御出来てないんですよ」
むぅ…?いまいちよく分かんないや…。詳しい説明求むぅ…。
「君の能力は永気が無ければ使えませんし、増幅させて永刃に纏わせるのは大事です。ですが能力上、永気を多く流すのは永刃周りだけで済む話ではないですか?」
あー…確かに言われてみれば…、無意識にそうしてたけど、私の能力って別に全身に永気を多く巡らせる必要ないね…。
「今の朝凪くんは永刃に纏わせている永気量と、朝凪くん自身を纏っている永気の量が同じなんです。当然能力を使えば永気を消費しますし、ただ増幅させても勿論消費する…、即ち君は今永気を無駄に消費している状況なんです」
うぇ…?う~ん…そう言われてもいまいちピンと来ない…。
「なので君が今覚えるべきなのは、永気の効率いい増幅のさせ方です。順序良くいきましょうか」
そう言うと伊敷さんは少し手を前に出し、その上に人形サイズの白い人型永気を作り出した。立体模型みたいで分かり易い。丁寧に永刃まで持ってるや…すご…。
人型永気を見つめていると、体部分の周りに半透明な永気が漂い始めた。
「今のこの状態が能力未使用の朝凪くんです。そしてこれが、能力を使った際の朝凪くんを表したものです」
体部分を覆っていた永気が永刃の方に流れていき、体と同じ様に包み込んだ。こうして客観的に見ると面白いなぁ。
「さて朝凪くん、今のを見てさっき言ってた事がより一層分かるでしょう?」
確かに…体部分だけの時と永刃も含めた時、どっちの時も体部分を覆っている永気の量が変わっていない…。
増幅して体外に放出した永気量は、永刃に纏わせている分…後者の方が遥かに消費が多い…。なのに体の方に何の変化もない…これが問題か…。
「普通ならば永刃に永気を流しているので、体の方の永気は少なくなる筈なんですが…、加減が出来ない君は、どうやら自動に近い形で体の永気を補填してしまっている訳なんです。無駄に消費してしまっているのはこれが原因ですネェ。そこで…っ!」
うぉ…っ!?びっくりした…急にこっち振り返るのやめてよ…。
そっと胸を撫でおろしながら伊敷さんの手元の人型永気に注目した。人型永気の全体にはまだ半透明な永気が纏わせられている。
「体全体の永気を永刃に流し込むのではなく、部位ごとで永気を分けて、それを永刃に流す。全体ではなく部分的に、です」
そう言うと人型永気に変化があった。全身に勢いよく漲っていた永気が次第に弱まっていったが、永刃周りの永気だけが強いままになっている。
これが理想的な…永気の流れ…なのかな…?
「小さいのでちょっと分かりずらいでしょうが、今これは指先の部分だけが大量の永気を放っている状態です。朝凪くん、ちょっとやってみてください」
「うぇ…?あっはい、やってみます…っ!」
右手をバッと開いて指先に神経をとがらせ、徐々に徐々に永気を増幅させていく。簡単に見えてこれが意外に難しい…。
むしろ指先以外の永気を抑え込むのが難しい…。蛇口の水を指で押さえている様な感じで…気を抜くと全身の永気が一気に増幅してしまいそうだ…。
指先の永気もまだまだ永刃に纏わせるには程遠い量…。もっと…もっと…っ!
「朝凪くん、かのコロンブスがアメリカを発見した年を知ってますか?」
「コ…コロンブスですか…?えっと…確か…、“いーよこの国コロンブス”だったから…1492年…?──うわぁっ!!」
別の事を考えた瞬間、全身の永気が溢れんばかりに増幅してしまった。ほんの一瞬だったけど、今までで一番増幅量が大きくなった気がする…。
「おやおや朝凪くん…気を抜いちゃダメじゃないですか、しょうがないですネェ君はまったく…。よく年号分かりましたね…」
「誰のせいですか誰のっ!?頑張ってたんですから邪魔しないでくださいよ伊敷さんっ!!」
でもちょっと話しかけられただけで維持が出来なくなるのは、多分これが今の限界なんだろうね…。まさかこんなに難しいなんて…。
どこかを増幅させると…どうしても全身の永気が引きつられちゃう…。むぅ…我ながらなんて厄介な永気…。
「これからタイムリミットまでの数日間、毎日私との実戦訓練と永気のコントロールに心血を注いでいきましょう。それでも間に合うか分かりませんがね…。それともう一つ…これはさっきまでとは少し内容が変わりますが…」
…?伊敷さんの様子が変わった様な気が…どこか言葉に詰まってる…?
何を言おうとしてるのか理解出来ずにいると、伊敷さんは左の方を指差した。そっちに何が──…っ!?
その光景を目にした瞬間、サーッと血の気が引いていくのを感じた…。そこには散らばったポールの切れ端が落ちていた…。
やってんなァ私…10本中10本全て切っちゃってるや…。
「まあネェ…あくまでも実戦を意識した訓練ですし…周囲の環境を利用するのは大事なことです。ですがネェ…一応ポールは支部の備品なのでネェ…」
「はい…すみませんでした…」
それから六日が経過した。今だに伊敷さんに攻撃がかする事もなく…そもそも本気で相手にすらされていない…。
木刀を手に持っているのにもかかわらず、今だにそれを使っていない…。全部素手で圧倒されてしまっている…。
永気コントロールもまだ満足に出来てない…進捗度合いを表すなら良くて15%って感じ…。あらら…マズいね朝凪ちゃんね…。
そして今は訓練の休憩という名目でおつかいに出ています。休憩…?
今日は天気がすこぶる悪く、久しぶりの大雨に見舞われた。分厚い雲が空を覆い、まだ15時なのにかなり暗い。辺りの建物には明かりが灯っている。
普通ならゆっくり買い物に行くのだが、伊敷さんに「移動中は常に【脚】で」と言われているので、また建物の上を飛び移りながら移動してます。休…憩…?
なので動きやすい様にレインコートを身に纏ってのおつかい、ようやくまともに使えた気がするよレインコート…。
頼まれていたお肉やら野菜などの食材をスーパーで購入し、これから支部に戻る。また【脚】か…意外と疲れるんだよねあれ…。
人気の少ない路地に入って建物の上に飛び乗り、支部に向かって駆け出した。
ただでさえ視界が悪く、雨に濡れて建物の屋根は凄く滑りやすくなっている。滑り落ちてしまわないように、一歩一歩慎重に踏み込んで移動する。
雨の影響で道を歩く一般人はほとんどおらず、全員が傘を差しているので、誰かに…特に知り合いに見られる心配がない。
レインコートをしているとは言え、風も雨も強く冷たくめちゃくちゃ寒い…。だから私は行きの時よりも速度を上げて支部に向かっていた。
そしてトラブル発生…。
“ズルッ!”
「うわああああっ!?」
少し広い路地に当たり、勢いつけて反対の屋根に飛び移ろうとしたその時、着地した左足がつるんッと滑って落下した。
なんとか空中で体勢を整えれたおかげで受け身が間に合い、無事に無傷で済んだ。良かった…流石にあの高さで背中から落ちてたら間違いなく大惨事になっていた…。
滑らないようにって警戒してたのになぁ…、やっぱり急ぎすぎは良くないね…。幸いほとんど人も居ないし、向こうを歩く二人も気付いてない様子だ。
今のうちにまた屋根に──…?
少し遠くを歩く二人の人影…。前を歩く中年の男性らしき人物は、ビニール傘を差しながら濡れないように少し高い位置にカバンを持って歩いている。
その後ろには私と同じようにレインコートを身に着けた小柄な人物。後ろ姿だけじゃ性別が分からないが、その人物に微かな違和感を覚えた。
前の男性の後ろを歩いているその人物は、何故か一定の距離を保って歩いている様だった。根拠はなかったけど…例え様のない何かを感じた。
本当は直ぐにでも支部に帰りたいところだけど…モヤモヤが胸に残った私は、気付かれない様に二人の後を追う事にした。
交差点にぶつかり信号を待っている間も、やはり距離を保っている様な不自然な間隔が空いている…。やっぱりこの人…何か…変…。
その後も二人の後をバレないように追跡すると、先頭の男性は路地裏に入っていった。この人もあの迷路路地の使用者だったのか…。
そして当然の様に後ろの人物も同じ路地に入って行くのだが、その時だけは少し早足で男性の後を追った。
全身に嫌な予感が広がっていく…。私は最悪気付かれてもいいという気持ちで走って路地に入っていった。
そこで目にしたのは雨に濡れて妖しく光るナイフを手にした人物、そして何も気付かず歩き続ける男性の姿。
そしてレインコートの人物は気付かれない様に慎重にナイフの間合いまで近付いて、静かにナイフを振り上げた。
「何してるんですか…っ!」
ナイフが振り下ろされる直前に、私はガッとその手を掴んで制止した。男性は私の声でようやく後ろを振り返り、怯えた声を出しながら逃げていった。
レインコートの人物は必死に右手を振り払おうと必死になって暴れだした。押さえつけようとしたその時、一際強い風が路地を抜けた。
真っ正面から風に当てられてレインコートのフードが頭から外れた。
私はその人物と目が合い、今までにない程に驚愕した…。
「──沙月…ちゃん…!?」
「──朝…凪…!?」
ナイフで襲おうとした人物の正体…、それは沙月ちゃんだった…。沙月ちゃんも私と同様に驚きの表情を浮かべていて、血の気が引いたように顔が青ざめていた。
私はこの状況が理解出来ず、少しの間体が固まって動けなくなった…。目の前にいるのは間違いなく沙月ちゃんだ…。
「そんな…どうして…?なんで…沙月ちゃんが…こんな…」
動揺で頭の中がぐちゃぐちゃになって…上手く言葉が出て来ない…。まだ目の前の光景を受け入れられてしない…。
“ヒューンッ!”
上から何かが落ちてくる様な音が聞こえて、ようやくハッとなった私は手を離して後ろに跳んだ。その直後やはり何かが私の立っていた場所に落ちてきた。
なんだコレ…、白い…煙の…柵…っ!?
「ギャッキャッキャ♪まさか邪魔が入るなんて…運がないにゃあ…。ほらほら、見てないでさっと逃げなよエリカ…?ギャッキャッキャ♪」
突然見知らぬ女性が柵の上に降りてきた。誰だか分からないけど…確実に正義サイドじゃないのは分かる…!永気からして…この人が能力者なのも…!
逃げろと言われた沙月ちゃんは、おどおどしながら私に背を向けて路地の先に走っていってしまう…。
「待って…っ!沙月ちゃん待って…っ!」
沙月ちゃんは私の呼び掛けに応えず、どんどん奥に行ってしまう…。
私は永刃を抜いて煙の柵に斬り掛かったが、ガキンッ!と弾かれてしまった…。見た目はどう見ても煙なのに、まるで金属の様な手応えがあった…。
よく考えたら当然か…柵の上に人が乗れるんだ…煙でも確かな実体があるって事か…。クソ…っ!少し時間を無駄にした…っ!
普通じゃ切れない…なら能力でぶった切れば──
「“乱殴雲”!!」
突然煙の柵がボコボコと膨れ上がり、やがてその全てが握り拳の形となって私に向かって飛んできた。
咄嗟に永刃を前に構えて防御を試みたが、全ては防ぎきれずに数発食らってしまったが…後ろに跳んでいたおかげでダメージは少ない…。
それでもフードが頭から外れる程の勢い…もろに食らうのはマズい…。
「ギャッキャッキャッキャ♪ちょっと注意が散漫してるんじゃない?今お前が見るべきはエリカじゃなくてワタシじゃないかにゃあ?」
柵から降りてきた人物の手には永刃らしき刀の姿…。異能犯で間違いない…コイツが沙月ちゃんに何かしたんだ…っ!
「あんまり目立つなって言われてるけど、こうなったらしょうがないよね?好きにやっちゃっていいよね?ぶっ殺しちゃっていいよねっ!ギャッキャッキャ♪」
「うっさい!!沙月ちゃんを返せェっ!!」
【第39話 悪癖 完】
立ち去る沙月の背で、朝凪とザクロが向かい合う! 次回に続く!
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