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戦いの技式  作者: 叢月
哀薔薇の集編
39/76

第38話 挑戦と魔の手

         <戦いの技式>


         第38話 挑戦と魔の手

「殺す気で掛かってきてくださいネェ…?そうすれば…かすり傷のひとつでも付けられるかもしれませんよォ…?」


余裕な態度…でも全然隙が無い…。ただの攻撃じゃ…文字通りかすりもしない程の力の差を初撃で感じ取れた…。


様子見はここまで…っ!ここからは全力で勝ち(とり)にいく…っ!


「“幡 強化式(はん きょうかしき) 【脚】(きゃく)”!」


【脚】のスピードで一気に間合いを詰めて攻撃を叩き込む…っ!これならたとえ永刃の攻撃を防御されても蹴りを入れられる…っ!


思いっ切り踏み込んで、一瞬で木刀を構えもしない伊敷さん頭部付近に飛び込んだ。十分に永刃が届く間合い…っ!木刀のでの防御ももう間に合わない…っ!いける…っ!


左から右に向かって振った永刃の一撃は、確かに顔の中心を捉えていた。【脚】の使用で加速は十分、避けられるだけの速度じゃない筈…。


だが伊敷さんは余裕な素振りで攻撃を躱した。しかも後ろに退くでもなく…一歩も動かずにその場で躱した…。


でもまだ蹴り攻撃が残ってる…!今の姿勢じゃ次の攻撃は流石に避けられない…っ!今度こそいける…っ!


右足を思いっ切り後ろに引いて狙いを定めた瞬間、伊敷さんに永刃を振り切った右手を掴まれた。


グイッと右手を下に引かれた私は空中でバランスを崩し、蹴りを放つより早く背中を地面に叩きつけられてしまった。


視界が一瞬チカッと真っ白くなる程の衝撃が走り、畳の上で横になった。


「永刃と蹴りの二段構え、悪くない攻撃でしたよ?【脚】の発動から攻撃に転じるまでの速さも及第点ですし…油断してると足元をすくわれちゃいますネェ」


そう言う伊敷さんは息一つ乱れてない…。何が足元すくわれるだ…そんな気さらさらないくせに…。


次の策を練るために起き上がって一度距離を取った。スピード任せの攻撃じゃ意味がなかったし…多分力任せの攻撃も効かないんだろうな…。


となれば…っ!


私はもう一度【脚】を発動させて、伊敷さんではなく立っているポールに向かって飛び出した。

そしてポールからポールへ、より速くより正確に次々と飛び移る。


真っ正面からの攻撃が効かないのなら…躱すのが難しい速度で、躱すのが難しい角度から攻撃するしかない…っ!


いくら伊敷さんといえど、この動きの全てを目で追う事は出来ない筈…っ!焦らず慎重に隙を伺えば攻撃のチャンスは十分ある…っ!






“シュッ! シュッ! シュッ! キンッ!シュッ! シュッ!”


<〔Perspective:(‐伊敷視点‐)伊敷〕>


フフッ…良い動きですネェ。【脚】を使っているとはいえ、あの細長いポールをあれだけの速度で移動するのは容易じゃない…。


普段の鍛錬と度重なる能力戦を経て得た身体能力…出会った時とはまるで別人の様ですネェ…。良い顔つきですよ朝凪くん。


突きと二段攻撃、二度の攻撃を躱した訳ですから…恐らくはそれを警戒してのこの行動…。死角から攻撃する算段という訳ですね。


ですが少し慎重になりすぎではないですか…?さっきよりも速度が落ちていますし…せっかくの作戦が台無しに…


“シュンッ!!”


背後から一層大きな音…!仕掛けてきますか…!


ですが残念でしたネェ…朝凪くん…。並みの人じゃ目で追うのも困難…ですが私は君の気配で動きを追えます…!


だから…君がこれからどんな攻撃するのかも粗方…


「はあああああっ!!」


攻撃の気配が分かり易いのは君の弱点ですネェ…朝凪くん…。右から左への横振りの攻撃…これなら簡単に…


──っ!右から左…?しかもこれは…左手の攻撃…!


やや姿勢を後ろに傾けながら振り返り、考えていた通りの攻撃を躱す。…が、やはり攻撃は左手…!しかも握っているのは永刃じゃない…!あれは…



 “キンッ!”



そうか…素早く移動する中でポールを能力を使って斬ったのか…!移動の中で聞こえたあの音は適応させるために触れた時の音…!


初撃が躱される事を前提にわざと大振りにして、さっきみたいに対処されない様に工夫もしている…。


しかも間髪入れずに本命である永刃での攻撃…流石に今の姿勢で躱すのは不可能…。考えましたね…朝凪くん…。


ですが…! “ガシッ!”


永刃を振り下ろされる前に、握っている朝凪くんの右手ごと左手で掴んで攻撃を阻止。危ない所でした…やりますネェ…。


攻撃を阻止された朝凪くんが次にとる行動は…思った通り左手のポールで追撃…。これも正確に顔狙い…思ったより容赦ありませんよね朝凪くんって…。


右手を掴んだまま懐に潜り込み、手をねじって背負い投げみたいに放り投げる。朝凪くんはしっかり受け身を取って攻撃の構えを崩さない。


まだまだ青い果実ですが…成長の幅は底が見えない…。これなら一週間どころか予想よりずっと早く…期待大ですネェ…。


「さあさあ朝凪くん…。まだまだ時間はあります…何度でもどうぞ…?」








-哀薔薇の集 アジト-


小さな灯りに照らされた仄暗い廊下、今はほとんど誰も滞在していないアジトの廊下を歩く人影が一人。


その人物はただ真っ直ぐに続く廊下を一定のペースで進み、一番奥の部屋のドアに手を掛けて中に入った。


部屋の中は図書館のように本棚が並んでおり、廊下と大差のない薄暗さで数本のロウソクの()が静かにゆらゆらと揺れていた。


そんな部屋の中央、ソファーに座ってロウソクの小さな灯りの中で静かに本を読む人影が一人…。


「──どうしたの()()()…?集会じゃないのに貴方がここに居るなんて珍しいけれど…何か気になる事でも…?」


そこに居たのは教祖様と呼ばれる人物。教祖は一度だけ顔を向け、そして何もなかったように再び本に目を落とした。


「いや別に…特に何か用があるって訳じゃないよ…。ただ少し教祖(アンタ)と話がしたかっただけだけど…邪魔だったかい…?」


「…いいえ、貴方なら構わないわグレナ…お話ししましょう…?」


読んでいた本をパタンッと閉じて向かいのソファーに誘う様な仕草をして見せ、グレナはそこにボフンッと腰掛けた。


「──ったく…いつからそんなに本を読むようになったんだい…?昔は全然読書になんか興味なかっただろうに」


「そうね…時間が少しずつ私を変えていったのかもしれないわ…」


教祖は机に積み重ねられた本を前に、どこか寂しめな目でそれを見つめていた。


「…ねえ“八重子”、覚えてる…?私と貴方…二人で()()()日の事を…」


「ああ…忘れてないよ…」





----------------------

‐一年前‐


雨が降りしきり、雷鳴轟く薄暗い公園。本来なら人っ子一人居ない公園のベンチ、そこに座る一人の女性、その前に立ち尽くす八重子が居た。


ベンチに座っている女性はびしょ濡れで俯いたまま一向に動かない。それを心配そうに見つめながら、八重子は傘を差している。


「──いつまでこんな事をしてるんだい…いい加減帰ろう…花月(はるな)…」


「──────。」


花月と呼ばれた人物は一切応答することなく俯き続けている。ただただ流れる沈黙の中で、雷と雨音だけが静寂をかき消す。


一層分厚い雲が空を覆い、更に強い雨が二人を襲った。


「やあやあ君たちっ!こんな雨の日に何をしてるんだい…?風邪を引いてしまうよ…なんてね…?」


背後から聞こえた謎の声に、八重子はバッと後ろを振り返った。


そこには真っ黒なレインコートを着ている謎の人物が一人。はっきり顔は見えないが、笑みを浮かべて二人を見つめている。


「誰だいアンタ…っ!アンタには関係ないだろ、どっか行きな…!」


謎の人物を遠ざけようと声を上げるが、一切気にすることなく二人の傍に近付いていき、花月の前で止まった。


「君の事を調べたんだ…大変だったみたいだね…?信じていた彼に裏切られた挙句…犯罪の片棒を担がされ、君は拘置所…彼は何処へやら…。不幸だね…君は…」


「アンタ…何者だい…!一体何のつもりで…!」


八重子は怒りを覚えて、反射的に傘を手放し胸ぐらに掴み掛かった。それでも一切怯むことなく、その人物は喋り続ける。


「君は運良く仮の自由を手に入れた…自由が手の内に戻って来たんだ…。なのに君は濡れたベンチに座ったまま…本当にそれでいいのかな…?このままジッとしてたって、君を裏切った彼は謝りには来ない…のうのうと生き続けるだけだ…。然るべき裁きを下したいとは思わないか…?()()したいとは思わないのかな…?」


“復讐”という言葉が出た時、花月は初めて反応を示した。やつれた顔を上げて、その人物に何かを求めるような眼差しを向けた。


「法は頼れない…あれは生易しい罰だけを下して満足する為のものだ…。君の苦痛はそんなものじゃないだろう…?ひどいよね…法はいつも君の様に苦しむ人々を余所にして、悪にばかり手を伸ばす…。狂ってるよね本当…」


謎の人物は何かを思い浮かべた様に、濁った天を仰いだ。そして再び二人の方に顔を向けて話し始めた。


「もし君が復讐(それ)を求めるのなら…ボクが手を差し伸べてあげる…。力をあげるよ…君が(こっち)の世界に来る覚悟があるのなら…ね…?」


そう言ってレインコートの中のカバンに手を伸ばし、そして何かを取り出して花月の前に出して見せた。それは…巧刃器(こうじんぎ)だった。


「これを手にした瞬間…君は無条件で悪となり、この世に不吉を招く()になる…。それでも構わないのならこれを持ちたまえ…。そしてボクに見せてくれ…厄となった君が、一体この世にどんな(わざわい)を呼ぶのかを…」


花月は少し間をおいて、ゆっくり巧刃器に手を伸ばした。弱々しい右手でそれを握った瞬間、強い光が放たれ、巧刃器は永刃へと姿を変えた。


綺麗な光沢のある刃が、雨に濡れて妖しく光る…。


「これで準備は終わり…どんな能力(ちから)が発現するかは後のお楽しみ…。ここに行くといい…永気や能力について詳しく教えてくれるからさ」


謎の人物はどこかの住所が書かれた紙切れを渡した。


「それじゃあボクはもう行くよ…。君の活躍…期待してるよ…」


「ちょっと待ちな…っ!!」


二人に背を向けて公園を出ていこうとした謎の人物を、八重子は呼び止めた。歩を止め、顔をだけを二人の方に向ける。


「…花月だけ…花月にだけそんなもの背負わせる訳にはいかない…っ!()()…まだあるかい…?花月が悪に染まるなら…友達のアタシだって一緒だ…っ!」


「──フフッ 仲良く二人で地獄旅って訳だ…面白いね…君たち…」


もう一つ強い光が公園を包み、巧刃器は再び刀へと姿を変えた。それを見届けた謎の人物は何も言わずにまた背を向けて歩き出す。


「あっ…あの…っ!貴方の…名前は…」


それまでずっと黙っていた花月がようやく口を開き、公園から一歩外に足を出した謎の人物に名を問いかけた。


謎の人物は少し頭を上に傾け、少しの間その場に立ち尽くしていた。そしてゆっくり振り返り、口を開いた。


「“バシリス”…それがボクの名前さ…。勿論偽名だけど…もし君たちがまたボクに逢えたら、その時は教えてあげてもいいよ…。ボクは“楽園”で待ってる…」

----------------------





「あの出会いがきっかけで…私たちは人生は大きく景色を変えたのよね…。私は復讐を果たし…楽園に行くための資金を集めるようになった…。そして同じ境遇を持つ仲間を集めて…哀薔薇の集を結成したのよね…」


「あの胡散臭い奴に出会ってから僅か一年でよくここまで来たもんだよ」


少し下を向いて今日に至るまでの過去の記憶に浸る二人の沈黙が、部屋の中により一層深い静寂を生んだ。


その時間は少しの間続き、グレナが口を開いた。


「次で()()にするんだろう…?メンバーは決まってるのかい…?」


「…ええ、次を最後にすると決めた時からもう決まっていたわ…。最後の仕事は全員で…哀薔薇の集全メンバーで挑むって…」


その言葉にグレナは少し驚いた表情で教祖を見たが、何かを覚悟した教祖の顔を見て、グレナは何も言わずに言葉を呑んだ。


「──朱の儀を四人同時に指示したのはその為か…。でも別にそこまで焦らなくても良かったんじゃないのかい…?楽園(目的地)に到達してからでも遅くないと思うけどね…?」


「そうね…でもやっぱり最後の仕事の前に、あの四人とも繋がりを強くしておきたいって思ったの…。私にとって皆は…家族の様な存在(もの)だから…」


また静寂が部屋を包み込む。二人はなんとなく分かっていた…次の仕事が上手くいこうとも失敗に終わろうとも…全員で楽園にはいけない事を…。


家族とも思える仲間の事を…見捨てなくてはいけない場面が来る事を…。


「そうだ、一応アンタに伝えておくよ。今日から三日後の午後、例の()()()らしいよ」


「──そう…それは何より…。楽しみね…素敵な赤が流れる事を期待するわ…」


そう言って教祖は少し微笑んだ…。静寂がまた部屋を包み込む──




【第38話 挑戦と魔の手 完】

いよいよ何かが…始まる…? 次回に続く!

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