第37話 戦力外通告
<戦いの技式>
第37話 戦力外通告
「じゃあまずこの資料を見てくれ」
帆野さんは机の上に広げられた資料の一枚を指差した。そこには地図が載っており、赤い印が二つ書かれていた。
「薔薇の宮には本館ともう一つ別棟と呼ばれる施設があるが、別棟はまるで別物だった。本館の“薔薇の宮”とは関係がないと言ってもいい。問題なのは別棟だ…」
帆野さんは印の一つに指を置いた。もう一方がその薔薇の宮本館だとすれば…確かにかなり距離がある…。明らかに不自然だ…。
「別棟は気性が荒くて手の付けられない患者の為の治療施設…ってのが表向きの姿だが、実際は例の窃盗団で“哀薔薇の集”って奴等の都合のいいアジトだった…」
説明によるとそこは、やり場のない復讐心を抱いている患者の心の脆さに付け込んで精神的に追い込み、自分たちの仲間に引き込んでいるらしい…。
わざわざ自分たちの求める人材を探す必要がなく…しかも定期的に薔薇の宮から補充する事が出来る…。悪の人材確保には…確かに都合がいい…。
「既に結構な人数が哀薔薇の集に組していて、しかもかなり組織的…やりずらい事この上ない…。当然異能犯も一人二人なんてもんじゃねえ…」
「厄介ですネェ全く…。今までその者たちが異能犯と知られなかったのも、組織的な統率のおかげかもしれませんネェ…」
それだけ上の人間の言う事に忠実な人が多いって事か…。隷属的に従順…命令次第で何でもやる危険な存在…。
話では“教祖様”と呼ばれてる人物に、様付けで呼ばれてる人物、永刃所持の数名、以下無能力者大勢で構成されているらしい。
思ったより…大規模だなぁ…。
「しかも異能犯って事がバレた影響で警戒は強化され、今後の動きについてもかなり慎重な考え…余計に捕えづらくなった訳だ…」
「何か手立ては…?一斉に捕えられそうなチャンスとかはないんですか…?」
どうやってそこまでの情報を得られたのかは知らないけど…そこまで分かっているのなら何か作戦でも立てられそうだけど…。
「よく聞いてくれたっ!!実はこの天才で美しい帆野様は、もう既に一つ作戦を練っているのだっ!!」
「訂正しますと、実際に作戦を練ったのは部下で、帆野は「明日までにいい作戦の案頼むわっ!」っと無理を言い出しただけです」
またバラされてる…。またおどおどしてる…。威厳がないなぁ…。
「とりあえずっ!考えた(考えさせた)作戦を言うぞっ!」
-作戦説明中-
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──って作戦だっ!そして早ければ一週間以内に決行する予定で、もう既に着々と準備も進めているっ!」
なるほど…大分省力されててほとんど分かんなかった…。桃乃さんもポカンッとしてるし…多分私と同じで分かってない…。
「それで…?ただその情報と作戦を我々に伝えに来たのは何故です…?今の情報だけなら、第二支部だけで対応も出来るでしょうに…まあ何となく予想はつきますが…」
確かに伊敷さんの言う通り、ただその作戦を実行して哀薔薇の集を相手取るなら、僅か支部員四名の第三支部にこんな情報を話す必要はない筈…。
第二支部の所属隊員数がどれ位か知らないけど…流石に第三支部よりは少なくないよね…?
「あーうん…その事なんだけどな…。ちょっとコレ見てほしいんだけどさ…まあ多分コレ見たら大体分かると思うんだけど…」
そう言って帆野さんは一枚の写真を持ち上げた。それはさっき私が目を止めた残酷な写真…不意に目を逸らしてしまった…。
私はまだそういうのに耐性がないが、縮さんたちはしっかりあの写真と向き合っている…。いずれ私も耐性出来るかな…。
「あ~、なるほど…。そういう事か…」
「確かにこれは…第三支部にも来ますねー…」
縮さんたちは何かに気付いたように小さく頷いた。私も覚悟を決めて写真に向き合うが、残酷な光景以外に何も分からなかった…。
伊敷さんはとっくに分かっている様子だったので、伊敷さんに「教えて!」の意味を込めた眼差しを向けた。
──あっ、気付いた。あっ、多分察してくれた。
「朝凪くん、以前“代償”について話したのを覚えていますか…?」
えっと…確か…才式の構築に必要な要素…だったっけ…?“負荷代償”と…“視覚代償”…だったかな…? ※第4話参照
「その内の負荷代償の中に、「性別の縛り」というものがあるんですよ。名前で大体分かるかもですが、男性と女性を効果の区切りにするものです」
そう言って伊敷さんは更に詳しく性別の縛りについての説明をしてくれた。私なりに簡単にまとめようと思う。
まず初めに、能力の効果対象は基本的にかなり大まかに分けられていて、それは「生物」か「無生物」かの二つである。
才式はそこから更に細かく効果対象を絞る代償を組む事で、より良い強力な効果を得られるようになるそうだ。
その中でも“性別の縛り”はかなり細かい分類らしく、「オス・メス」「男・女」によっても、人間以外か人間かで効果対象が違ってくるとのこと。
「この写真とコイツ等が全員薔薇の宮と関係してる場合…能力者の何人かは性別の縛りで才式を構築してる可能性が高い…」
男か女のどちらかにしか効果が及ばない…。その反対に定めた性別の方には、通常の数倍の威力を発揮する…。
だから女性隊員だけで捕えたいと帆野さんは考えているらしい。被害を抑えられるのならそれに越したことはないね。
「ただ即戦力になりそうな女性隊員がさ…如何せん第二支部少なくてな…。ここにいる白っちともう一人…合わせて二人しか居ねんだ…」
確か…第一支部の方は調査で人手が足りないんだったっけ…?犯罪者集団をたった三人で捕えるのは無理があるもんね…。
だから第三支部の人手が必要って話らしい…。まあ私を含めて第三支部に所属してる隊員の四分の三が女性だからね…。
「だからさ伊敷…っ!私に二人貸してくれ…っ!」
──うん?二人?即戦力の二人ってなると…まあ縮さんと桃乃さんだよね…。
・・・。──っ!? 私要りませんかァ…!?戦力外通告ですかァ…!?
「そんなぁ…」
ああ声出ちゃった…っ!ビックリしちゃってついつい声が…っ!
「可哀想ですが仕方のないことでしょう。特別処置待遇を受けた隊員の導入なんて不安材料にしかなりません」
白唯さんの一言が更に心に突き刺さる…。そりゃ確かに一度負けたけど…私だって力になりたいし…、帆野さんの役に立ちたい…。
「あーえーっと…別に特別処置待遇だからってのは関係ないけど…、今の朝っちはちょっと実力不足感が否めなくてな…。前回はなんとか一命を取り留めれたけど、次もそうなるとは限んないからな…。分かってくれ…」
「ぁぅぅ…」
正論…実際負けてるし死にかけてるし…確かに実力が足りてない…。何より私の身を案じて言ってくれてるから…何も言えない…。
縮さんはうつむく私の肩に手をのせて慰めようとしてくれたけど…心がまだ下を向いてしまっている…。
「…そうですネェ、確かに帆野さんの言う通り…朝凪くんはまだまだ未熟…。今のまま戦いに出す訳にはいきません」
ぁぅぅ…
「──ですが裏を返せば、作戦までに今より実力を上げればいいって話です。それなら文句ないでしょう?」
おおっ!伊敷さーん…きっと何とかしてくれるって信じてました…っ!
「そりゃ文句はないけどよ、作戦までにったって…早けりゃ一週間以内で決行するって言ったろ…?流石に間に合う訳が…」
「本人にその気があれば何も問題はないでしょう。まあ勿論、期限付きなので厳しく指導していくつもりですがネェ…」
むぅ…何故かちょっとだけ嫌な予感がする…。
でもこのチャンスは無駄にしない…っ!一週間以内に今の自分よりもレベルアップしてみせる…っ!絶対に強くなる…っ!
「まあ伊敷がそう言うなら信じてみるか…。じゃあ一応朝っちが作戦に参加する前提で更に作戦を練るから、頼んだぞ伊敷と朝っち!」
「せいぜい頑張って下さい、桧凪さん…」
そう言って帆野さんたちは支部を後にした。それにしても…どこか白唯さんに嫌われている様な気がする…。出会ったばかりの伊国みたいな感じがする…。
特別処置待遇だからかな…?いや間違いなくそうだね絶対…。
「それで?実力を上げるって言ってたけど、具体的にどうするの?帆野さんの話じゃ、“早ければ一週間”…そんな僅かな期間で強くなるなんて…かなり無理あるんじゃない…?」
むぅ…、言われてみれば確かに…意気込んだいいけど、冷静に考えてそんな事って可能なのかな…?
伊敷さんの「厳しい」ってなんかヤダなぁ…。骨数本とか軽く折れそう…。
「そうですネェ…やはりより実戦に近い環境でより強い相手と戦うのが一番ですよネェ。という訳で…」
「えっ…支部長まさか…」
何かを察した縮さんと桃乃さんの顔がみるみるうちに引きつっていく…。
「朝凪くん、実戦訓練といきましょう…。あまり時間もありませんし、早速始めましょうか…」
-室内訓練場-
ここは天気が悪い日などに剣技や体力づくりを行う場所。道場みたいな内装をしていて、どこか心が落ち着く。
壁際には大小様々な木刀や竹刀、練習用のマネキンなんかが置かれていて、畳の所々に薄っすら滴血の跡も残っている。
「さてさて、訓練を始める前にまずはこれをどうぞ」
伊敷さんに手渡されたのは透明なフィルムの様な物。細長く中心には穴が空いていてめちゃくちゃ軽い。これは…カバー…?
「いくら実戦に近いといっても、流石にそのままの永刃で訓練する訳にはいきませんから。そのカバーを刃の部分に被せて使うんですよ」
なるほどなるほど…おおっ…!完璧にジャストフィット…!すごーい…重さがほとんど変わらないのに全然切れない…!画期的だぁ…。
「サイズがピッタリで良かったですよ。そしたら次はあれですね、はーいお二人共っ!お仕事ですよー!」
「はーい!」
「了解でーす!」
戸を開けて入ってきた縮さん桃乃さんは、伊敷さんと協力して何かの作業をし始めた。みるみるうちに何かが出来上がっていく…。
平面だった畳のスペースに、細長いポールや高低差のある複数の台などが設置された。作業を終えた二人はそそくさと部屋を後にした。
「戦いにおいて重要なのは…基礎能力と周囲の環境を如何に活用出来るかになります。能力者同士の戦いになれば、更に永気量や能力の相性・練度、幡式と才式の有無などと様々…。短時間で身に着けられるのには限界があります」
だから今は…基礎能力と環境の活用に重点を置くって事か…。うーむ…出来れば才式とか習得したかったけど…しょうがないか…。
伊敷さんは近くあった木刀入れの中から一本を取り出してくるくる回している。いよいよ始まるのだろう…縮さんたちが恐れる時間が…。
「さあさあ朝凪くん…準備も整いましたし、いつでもどうぞ…。能力も幡式も自由に使って構いませんよ…?」
むぅ…凄い余裕だ…完全に舐められてるな私…。まだくるくる回してるし、全然構え取らないし…。見てろォ…。
私は身を低くして永刃を右に構え、一度深く息を吐いて心を落ち着かせる…。
ああは言ってたけど、流石に強化式を使うのはちょっと気が引ける…。格上相手とはいえ…何が起きるか分からないし…最初は様子見でいこう…。
右足を後ろに引いて更に身を低く構える。そして一気に踏み込み、伊敷さんのお腹目掛けて突きを放った。
“斬る”よりも攻撃範囲が狭いかわりに、“突き”は攻撃の出が速くて防御が困難。構えてない伊敷さんじゃ躱すことも出来ない筈…!
──っと思っていたのだが…結果はまるで違った。
左足を軸に体を捻らせて突きを躱した伊敷さんは、右手の人差し指と中指で刃を掴み、手前に引っ張ると同時に私に足を掛けた。
足を掛けられて体勢が崩れた私は、突きの勢いそのままに転がって壁にぶつかった。一瞬何が起きたのかも分からなかった…。
「様子見の突き攻撃ってとこですかネェ。速さは良いですが狙いが少し甘い…腹ではなく胸を狙った方がいいですよ」
むぅ…狙いまで全部バレてたか…。だとしてもあんな完璧な対処が出来るなんて…やっぱりバケモンだなこの人…。
体を起こして再び永刃を構える。忘れてた…この人は縮さんと桃乃さんに圧勝出来る強さを持つ人だった…。
「さてさて、今ので準備運動も済んだでしょうし…様子見はやめて本気で掛かってきなさい。手を抜いて勝てる相手じゃありませんよ…私は…?」
永刃を握り直して真っ直ぐ伊敷さんを見つめた。もう出し惜しみはしない…!持てる全ての力を伊敷さんにぶつける…!
「殺す気で掛かってきてくださいネェ…?そうすれば…かすり傷のひとつでも付けられるかもしれませんよォ…?」
【第37話 戦力外通告 完】
自分を示せ朝凪! 次回に続く!
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