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戦いの技式  作者: 叢月
哀薔薇の集編
35/76

第34話 薔薇の宮(2)

         <戦いの技式>


         第34話 薔薇の宮(2)

‐AM9:00‐ -薔薇の宮-


<〔Perspective:(‐縮視点‐)縮〕>


「──う~ん…ふわぁーーよく寝たぁ…」


潜入捜査二日目の朝。私はカーテンを開けて、体いっぱいに優しい日差しを浴びた。心地の良い清々しい朝、良い事ありそう。


顔を洗って歯を磨き、髪を整えて服に着替え、新しい包帯を巻き巻きしてカツラをセット。うん、縮ちゃん今日も完璧…っ!


何か手掛かりを掴むために頑張ろうっ!



<〔Perspective:(‐帆野視点‐)帆野〕>


「──う~ん…あーーダリィ…、(ねみ)ぃ…(つれ)ぇ…」


潜入捜査二日目の朝。私は掛け布団をどかして体を起こした。カーテンの隙間から入る朝日…寝起きすぐはキツい…。眠い…。


目をこすってなんとか目を開け、寝ぼけたまんま服に着替え、ずれた眼帯をしっかり整える。うん、まだ眠い…。


眠気に負けずに今日も頑張るか…。



“ガチャッ”



「おはようございます帆野さん!今日も頑張りましょう!」


ドアを開けると、同じタイミングで縮っちも出てきた。元気だねェ若いもんは…、20代後半は辛いですよ…。


「おはおは、今日も頑張ろうか…。それと外に出たら帆野じゃくて兎永ね…?」


「そうでした…今日も頑張りましょう兎永さん」


さ~て、今日はどうしようかな…?確か午前10時に集会があるとかなんとか言ってたし、調査はそれが終わってからか…?


正直めっちゃめんど──


「ちょっと何なのっ!一体どこに連れていくつもりなのっ!?」


朝っぱらから耳に響く大声…頭が痛えな…。いや頭の痛みは元からあったな…これは多分二日酔いか…?


「あれ…?あれって確か…森野さん…?」


森野…?誰だそいつ、縮っちの知り合いか…?にしたって随分暴れてんな…一応見に行った方が良さそうだな。


通路の先の方で、職員数名が森野と呼ばれる女を部屋から引っ張り出そうとしてるのか…?何でまたそんな事に…。


「あの…どうかなさったんですか…?どうしてそんな無理やり…?」


「ああ、気になさらないで…っ!森野さんは今日から別棟に移転する事が決まったので、今はその準備をと…」


移転、別棟…?何…?薔薇の宮(ここ)って本館的な感じなやつだったの…?おっかしいな…部下がちゃんと調べた筈なんだけどな…。


私も事前に調べておくべきだったか…?いやそれが出来ないから部下に頼んだのか…、戦い以外の仕事しねえからな私…。


「ほら行きますよ森野さんっ!しっかり治療してもらわないとっ!」


「放っておいてよっ!やめて、やめてよっ!」


一応心を病んでる女性設定がある為、私と縮っちは手を出せずにその場でただ見ていた。なんか複雑な気分…眠気とんだわ…。


最後は森野の方が諦めたように職員に連れていかれた。嵐の様な騒がしさだったな…一体何が何やら…。


「まあ、大丈夫だと思いますよ…?昨日簡単な説明を聞いたんですけど、そこまで怪しくは聞こえませんでしたし…」


「ほぉん…なるほどね…」


連れて行った職員の表情からして、噓をついていた様には見えなかったが…まぁ…今は一旦置いておくか…。


気を取り直しまして、早速調査に…行きたくねえなァ…。でも縮っちの前だしなァ…先輩らしさは見せたいよなァ…。


さーてさて、ほんじゃ重い脚を動かしましょうかね。まずはどこから調査するかな…、人の出入りが多そうな場所から行くか…?


──となると…



-玄関ホール-


人の出入りが多い場所となれば、まあここが定番だよな普通。持って来てた隠しのカメラの一つ、ここに設置すっか…?


んー、考えててもしょうがないし、とりあえず設置しておくか。となれば…早速部屋に取りに戻りに──ッ!!


幡 妨害式(はん ぼうがいしき) 【辺】(へん)”…!


「──ッ?帆野さん…今のって…?」


「はいシーだよシーッ!気付いてない振りましょうね~芽歌(めいか)っち…?」


玄関ホールの小窓の一つ、そこから一台の普通車が停まっているのが見えた。そしてドアを開けて中から二人組の女性が出てきた。


咄嗟に妨害式を使ったのは、その二人組が目に入ったからだった。確証があった訳じゃないが、どこか一般人とは佇まいが違う気がした。


中に着ている服は別々だったが、上に着ている特徴的な黒い衣装が嫌でも目に入った。詳しくは知らんけど…医療従事者には見えねんだよなぁ…。


万が一にも窃盗団の一味だった時を警戒しての妨害式…。報告によれば幡式を使える奴がいるらしいし…探知式を使われたら厄介だからな…。


「あの人たち…怪しい…。窃盗団…の関係者ですかね…?でもどうして妨害式を…?探知されない為なら遮蔽式のが良くないですか…?」


「遮蔽式でも良かったんだけど…ほら、遮蔽式って感知式はスルー出来ないからさ…。二人組だし…探知・感知の両方を使ってたら厄介じゃん…?」


だからこその妨害式【辺】だ。【辺】は自分を中心に狭い範囲に妨害効果を張り巡らせる妨害式、これなら一応大丈夫…なんじゃねえかと思う…。


「まあただの考え過ぎって可能性もあるし、バレてる様子もないから問題ないだろ…。やべっ…!こっち来る…っ!隠れろ隠れろ…っ!」


急いで柱の後ろに身を潜めて、入口に近付いて来る二人組を待ち構える。


やがて自動ドアの向こうから二人組が姿を現した。やっぱりどこか雰囲気が普通じゃない…帆野様の目は誤魔化せないぞ…?


「すみませ~んっ!連絡を受けて来た別棟の者ですが~っ!」


「あっ、お待ちしておりましたっ!患者の手続きも終了していますので、すぐにでもそちらで治療をお願い致します。ほら行くわよ、森野さん」


スタッフルームから出てきた森野は、さっきとは打って変わって大人しくなっており、どうやら移転の件を受け入れたらしい。


その移転先に問題がありそうな訳だが…。考えてる場合じゃないな…怪しまれないように自然な態度で振る舞って、部屋にある()()を取りに行かないとな…


私は縮っちに目配せをして立ち上がり、静かに柱の裏から出ていった。


「帆野さんいつの間に…っ!まだ集会には時間がありますけど…」


「ええ、そのようですね…。まだ慣れてなくて…つい時間を誤ってしまいました…。部屋に戻りますね…失礼します…」


職員と黒衣装の女の間を抜けて通路に向かう。間近で黒衣装の女をチラッと見たが、やっぱ異様な雰囲気を感じる…。


私は速足で部屋へと戻り、持ってきたカバンを開けて中身を机に置いていった。中には薔薇の宮(ここ)の資料やパソコン、小型監視カメラ数台、盗聴器なんかも入ってる。


私は監視カメラ…の横にある小さなケージに手を伸ばした。中にはL-gst(エルジスタ)の者なら馴染み深いアイツが入っている。


そう…“イイトカゲ”だっ!皆覚えてるかな?歩位たちの昇格試験で島中に放たれていたお利口さんなコイツを。


イイトカゲは人間の言葉を理解して従順に言うことを聞いてくれる、L-gst(エルジスタ)が品種改良して生み出した唯一無二の爬虫類だ。


流石に私が別棟まで調査しに行くのは少しリスクだからな…イイトカゲ(コイツ)にカメラを取り付けて調査してもらおうと考えた。


「──てな訳だからさ、よろしく頼むぞ~トカゲちゃんっ!今回の調査はキミに掛かっているからな、期待してるぞ?」


イイトカゲは顔を上げて、私の目を見て小さく頷いた。いいなぁトカゲって…私って結構爬虫類好きなんだよなぁ…。


指先で頭をなでなでして餌を与える、これがイイトカゲに指示を出す準備だ。


私は部屋の窓から外に出て、玄関近くの茂みに身を隠した。もう玄関ホールには戻れないし、ここから指示を出さなきゃなの面倒だな…。


さて、そろそろ出てくると思うんだが…ちょっと遅いな…。まさか縮っち見つかったか…?まあ別に見つかってもあんま問題ないけどさ…。


──っと、出てきた出てきた。トカゲを乗せた手を茂みの隙間から伸ばして、しっかり覚えさせる。


「あの黒衣装の二人と、その隣にいる森野(黒髪の女性)を尾行しろ。いいか…?くれぐれも見つからないように慎重にな…?」


トカゲは同じ様に私の目を見て小さく頷き、手の上から飛び降りて普通車の方に駆けていった。


超小型カメラを着けているとはいえイイトカゲの動きは俊敏で、あっという間にタイヤまで辿り着いた。


やがてターゲットが車のドアを開けて中に入ったその隙に、トカゲもスルスルッと車内に体を滑り込ませた。一先ず潜入は成功だな。


だが黒衣装の二人組と森野がどっちも後部座席に…フロントガラスの透過率が濃いせいで気付かなかったけど、運転席にもう一人居たのか…。


やがて車は静かに発進し、門をくぐって外へ出た。トカゲの存在がバレなければ、あの車の行き先も分かるだろう。──さて、部屋に戻るか。


辺りを見渡しながら見つからない様にこっそり窓から部屋に戻った私は、カバンの中からパソコンと機材類を取り出して、パソコンを起動した。そして支部に電話を掛けた。


「──もしもし帆野だっ!イイトカゲを使っての調査を始めたから、GPSを使って常に居場所を辿ってくれ、頼んだぞっ! “プツッ”」


電話を終えた私は専用のソフトを立ち上げて、トカゲに取り付けているカメラとパソコンを接続(リンク)させた。


取り付けている超小型カメラは、そのサイズと限りなく軽い設計故に録画などが出来ない仕組みになっている。


なのでカメラが映した光景は別の機器でしか保存が出来ず、見ることも出来ない。だから面倒なパソコンの立ち上げが必要なのだ。


「──よし、接続完了っ!視界良好、音量良好、カメラのISO感度も良好っ!カメラのGPS機能も…多分良好っ!」


後は何か進展があるまで待って──



“コンコンッ”



うげ…っ!やっべ誰か来た…っ!縮っち以外にこの状況を見られたら本格的にマズい…っ!?隠せ隠せ急げ急げェ!!


「兎永さん…大丈夫…?入るわね…?」


うおおおおおおおーっ!?急げええええええっ!!?



“ガチャッ”



「ごめんなさいね兎永さん…、朝食の場に居なかったから心配になって…」


「そうでしたか…心配を掛けて申し訳ありません…。実は朝から少し体調が悪くて…食欲もないんです…」


あ…あぶねェガチで…。咄嗟にバッと布団の中に機材全部隠したけど…なんとかなったな…。焦ったー、寿命減ったー。


「そうだったんですね…分かりました…。でしたら今日はゆっくり休んでください…、私の方から説明しておきますから…集会も休んで大丈夫ですからね…?無理せずゆっくり体を休めてください…、それでは…」


そう言って九ノ瀬さんは去っていった。とりあえずこれで集中して調査が出来るようになったし、布団の中の機材類を並べ直した。


依然としてカメラの光景に変化はなく、トカゲは今も座席の下に隠れているのだろう。脚しか見えねえ…。


──何か動きがあるまではこのまま待ちか…暇だな…。






‐AM11:30‐


<〔Perspective:(‐縮視点‐)縮〕>


や…やっと終わったぁ…。キツかった…本当に…。


集会と呼ばれるそれは、自身の内に閉じ込めた辛い過去やその想いを皆の前で喋る的な活動。これがまぁ…キツい…っ!


ただ聞いてるだけでも心が締め付けられそうに痛いのに…更に自分の経験ウソを喋らなくちゃいけないのが特にキツい…っ!


あとなんで帆野さん居ないの…っ!?体調不良って聞いたけど朝元気だったよね…っ!?何…サボり…?帆野さァん…


まあ帆野さんの事だし、きっと何か意図があっての事なんだろうけどさ…。一応何してるのか後で聞きに行こうかな…?


集会が終わればその後は自由で、部屋で過ごす者や外を歩き回る者、スタッフと一緒に裁縫などの手芸を習う者と色々。


とは言っても、掃除の時間や昼食・夕食などは決められている為、完全に自由と言う訳ではないけれど…。


集会の後はこのまま昼食となる為、帆野さんの部屋に行くのはその後になる。あんまりお腹減ってないんだけどなぁ…。



       パクパクモグモグ♪お食事中

     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



足りない…全然量が物足りない…。ひと口食べたら食欲が出てきたものの、どこかちょっと物足りない…。


我慢するしかないか…しょうがないよね…。


一先ず帆野さんの所に向かって、今何してるのか聞きに行こう。そしてあわよくば何かしらの食料を分けて貰おう…っ!


食堂を抜けて廊下に出て、真っ直ぐ帆野さんの部屋に向かう。部屋の前に立ってドアノブに手を掛けようとしたその時──


「あっ篠崎さん…。篠崎さんも兎永さんの様子を見に…?」


「あっえっと…そうなんです…。私も…ほ…兎永さんの容態が心配になって…」


この人は…誰だったかな…?ここに入院している患者数はかなり多いから…まだ私は全員の名前を把握出来ていない…。


「えっと…その…貴方は…確か…」


「九ノ瀬と申します…。まだここに来て日も浅いですし、覚えてなくても気にしないでくださいね…?」


九ノ瀬…九ノ瀬さん…?ああ、そういえば帆野さんが昨日言ってたかも…酔ってて詳しく覚えてないけど…。


九ノ瀬さんは手にお盆を持っていて、上にはさっきの昼食が載せられていた。どうやら帆野さんに持って来たようだ。


優しい人だけど、恐らく今帆野さんは何かに取り掛かっている最中の筈…。出来るだけ面倒ごとは近付かせない方が良いかもしれない…。


「何度かノックしたんですけど…応答がなくて…。多分寝てると思うので、今はそっとしておきませんか…?」


我ながら完璧なウソ…っ!これなら怪しまれず疑われずに九ノ瀬さんを部屋から離せる…っ!流石縮ちゃん完璧…っ!


「そう…ですね…。もう少し時間を置いてから…また届けに来ましょうか…」


私は九ノ瀬さんと一緒に帆野さんの部屋を後にした。帆野さん…何してるか全然分かんないですけど、面倒ごとは私が食い止めますね…っ!ファイトですっ!




【第34話 薔薇の宮(2) 完】

謎の黒衣装の女性。行き先に一体何が…!? 次回に続く!

[宜しければ、感想やブックマーク等をよろしくお願い致します!]

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