第32話 帆野参上!
<戦いの技式>
第32話 帆野参上!
「んんーーー、問題ナシ!直ぐにでも退院して大丈夫でしょう」
「おお~!じゃあもう直ぐに退院しちゃいます!」
<城野総合病院〔Perspective:朝凪〕>
見舞いに来てくれた人たちが帰ってしまって一人になった私は、とりあえず目覚めた事を看護師に伝え、医師の診断を受けていた。
五日間意識を失っていた私だけど、回復しなかった意識以外のほとんどが治っていた。折れた骨も傷ついた内臓もほぼ完治していた。
脳波の検査で問題がなく、退院の許可を貰った私は、荷物をまとめて手続きを終わらせて病院のドアを開けた。
時刻は午後二時半、まだまだ多くの人が働いている。五日前の戦いが無かったかのような普通の光景が広がっている。
「─さて…支部に向かう前に、あれ…買うか…」
ありがとございしゃっしたー by店員
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
少し寄り道をしながら無理ないペースで歩き続け、一時間程で支部の前に到着した。庭にも訓練場にも誰もおらず、全員中に居るんだろうか?
入口に向かいドアの前に立つ。っとここで、さっき寄った雑貨屋で購入したレインコートを身に着ける。
さてここで、どうしてめちゃくちゃ天気のいい日に雨具を身に着けたのを説明しよう。それは主に縮さんが原因である。
知っての通り、縮さんの涙の量は一般人の約十倍。泣けば小さな洪水が出来る程…。噓じゃないよ、ホントだよ?
なので多量の涙から服を守るために、わざわざ晴れの日にレインコートを着ているのだ。自分でもちょっとシュールに思う…。
覚悟を決めて中に入って玄関を抜けると、応接間に桃乃さんと伊敷さんの姿があった。縮さんは…居ないみたい。
「おやおや、これはビックリですネェ。朝凪くん、もう体は良いんですか?それとどうして雨具を…?今日は一日中晴れの予報だった筈ですが…」
「朝凪ちゃん良かったです~!ずっと意識が無かったのですっごく心配してました~!ホント良かったです~!」
ああ…桃乃さんの無垢な笑顔…、心が洗われる…。
「ありがとうございます桃乃さん…!あとこのレインコートは縮さんの涙対策で着てたんですけど、縮さんは居ないんですか?」
「縮くんは現在お仕事中ですから、脱いでも平気ですよ」
むぅ…せっかくお小遣いを使って買ったのにぃ…。まあ濡れなくて良かったけれども、なんだろうこの哀しみ…レインコートが泣いてるよ…。
ごめんなレインコートよ、お前は用済みだ…封!!
※レインコート「えっ?」
「さてさて、実は朝凪くんが寝込んでいた間に色々と起きていましてネェ、今から順を追って説明しますから、とりあえず座ってください」
応接間のフカフカのソファーに腰を掛けて、伊敷さんが淹れてくれたお茶をひと口飲んで話に耳を傾ける。
「まず何から話しましょうかネェ、朝凪くんを死の淵に追いやった…ゴホンゴホンッ、朝凪くんが健闘した異能犯の事から話しましょうか」
伊敷さんはカップを置いて話し始めた。私を死の淵に追いやった異能犯の事を…その異能犯の事をねェ…!
「これは昨日の出来事なのですが…」
-昨日-
<〔Perspective:縮〕>
「おや、帰ってきましたか二人共。どうでしたか朝凪くんの様子は?」
「ダメ…今日も目覚めなかった…」
朝凪ちゃんが入院してから四日…未だに朝凪ちゃんは目を覚まさない…。
私が朝凪ちゃんの所に辿り着いた時にはもう、朝凪ちゃんは救急車のレッカーに乗せられていた。血まみれの朝凪ちゃんを見る事しか出来なかった…。
もう少し速ければ…助けに入れたかもしれないのに…。
「まあこればっかりは落ち込んでいても仕方ありませんよ。朝凪くんが持ち堪えて目覚めるのを祈りましょう」
実際それしか出来ない…それが辛い…。
「朝凪くんは私たちの中でも群を抜いてタフですから、きっとそろそろ起きますよ。心配ばかりしていないで、貴方たちも仕事に…」
“ガチャンッ!!ドタドタドタッ…!”
「よっ伊敷!|この私が直々に足を運んできたぞォ!!」
室内に広がっていたどことなく暗い雰囲気が、突然の訪問者の声でかき消された。全員が玄関から姿を現したその人物に目を向けた。
「…せめてチャイムを鳴らしてから入って来てくださいよ…。相変わらず騒がしい人ですネェ、今日は何の用ですか…?」
唐突に入って来た人物…、聞き慣れた声に見慣れた容姿、そしてあまりにも特徴的過ぎるあの眼帯…。あれは…
「あー帆野さんだ!あの時以来ですね!」
「オッス縮っち!あの時っつうと奄仙島以来か…あんときゃお疲れ。桃っちも元気そうで何より!…っとオイ伊敷、あの新人の子は?もう元の生活に戻ったのか?」
「朝凪くんの事ですか?朝凪くんなら、今は色々あって入院中ですよ」
口の足りない支部長に代わって、私から帆野さんに詳しく何があったかを伝えた。四日前に起こった事と、朝凪ちゃんの現状を…。
「なるほどェ…桃っちが異能犯を捕えたって報告は聞いてたけど、まさか別でも戦いが起きてたってのは知らなかった…迷惑掛けちまったな…」
「それで…?そんな事を話しに来た訳じゃないのでしょう…?無駄は省いて、さっさと本題に入りましょう」
帆野さんは「そうだな」っと呟いてソファーに座り、手に持っていた資料を机の上に広げてみせた。資料に目を落としながら帆野さんの話しに耳を傾ける。
「四日前に桃っちが捕えた異能犯と、その取り巻き二人の調査を警察と協力して行ったんだが、そこで三人に気になる共通点を見つけてな。それがこれだ…」
帆野さんはちょうど目を向けていた資料の一枚を指差した。そこには“薔薇の宮”と書かれた文字と、建物の写真が載っていた。
広い敷地に建てられた大きな建物に、庭一面に綺麗に咲き乱れた薔薇の花々。個人的に一度訪れてみたいと思ってしまう。
「ここは異性トラブルによって病んでしまった女性を限定にした福祉施設だ。出生も育ちも違うこの三人唯一の共通点がこの建物だ」
心に寄り添う福祉施設が異能犯と繋がってるって事か…。もし本当にそうなら…病んだ心につけ込んで悪事をさせてるって可能性も…嫌な話…。
「ただ…電話で色々聞き込みはしたが、ロベリアなんて名前の奴は知らないの一点張りでな…。中々この施設の詳細が分からないんだ…」
共通点があるのに何も知らない施設か…怪しさぷんぷん…。
「そこで、だっ!伊敷、ちょっとばかし縮っち貸してくれないか?深いとこまで調査する為に、潜入捜査しようと思っててな」
「えっ…!?帆野さん潜入捜査するの…!?私も…!?」
帆野さんの口から飛び出た思わぬ言葉に、つい立ち上がって驚いてしまった。潜入捜査とか…やった事ないしですごく不安なんですけど…。
「潜入捜査って…それは第三支部じゃなく司さんの方に相談したらいいじゃないですか」
「そりゃしたさ…!でも第一支部は今、死を招く厄とか言う連中の捜査で手が回らないんだとさ…!」
昇格試験でのあの事件…あれ以来本部は死を招く厄の調査にばかり人手を割いてるから仕方ないのか…。
「第二支部は今回の窃盗団の調査を担当してる関係で、支部員がほとんど聞き込みの調査で忙しくてな…。だから頼む…!縮っち貸して…?」
手を合わせて支部長に頭を下げる帆野さん。帆野さんには恩があるから、出来れば力を貸して上げたいけど…支部長はなんて言うかな…?
「…まあ調査の為なら無下に断る訳にもいきませんし、ちゃんと了承しますよ…。その代わり、縮くんの事を頼みますよ?」
「流石伊敷っ!話の分かる奴だぜっ!そんじゃ縮っち、今から第二支部に行って準備しようか。潜入開始は明日だっ!!」
「はやっ!!?」
<〔Perspective:朝凪〕>
「むぅ…私が寝ている間にそんな事が…」
せめてもう一日早く目覚めたかったなぁ…。そしたら帆野さんに会えたのに…、推薦してくれたらお礼言いたかったのに…。
「…ってそうだ!伊敷さん、宝石は!?私がカバンの中身を入れ替えた時に放置しちゃった宝石ってどうなりました!?」
「安心して大丈夫ですよ。あの後ちゃんと警察が回収して、元の宝石店に返却されたみたいですから」
ハァ…なら良かった…。気を失った後にあのグレナに回収されたらどうしようかと思った…。でもそっか…ほんと良かったー。
宝石の相場とか全然分かんないけど…絶対とんでもない額の筈だもん…。そのくらい詰まってたもんあのカバンに…。
…ちょっとだけポケットに入れとけば良かったかな…なんて…。
「むしろ被害が出たのは建造物の方ですけどネェ…。穴の開いた壁に割れ散らかったガラスに…数えたらキリがないですよ…」
「私の方とは違って、朝凪ちゃんの相手はバチバチの攻撃型だったらしいですしねー。そうゆう時って大体こうなりますー…」
確かに…あの時は戦いで精一杯だったから気にしてなかったけど…思い返すとかなり派手に戦ってしまった記憶が…。
なんなら私もグレナをぶっ飛ばした時に壁を壊しちゃったかも…。あれー?これマズいのでは?マッッズいねコレね…。
「一応今回の件で朝凪くんが何か罰せられるなんて事はありませんが、今後戦う時は十分に注意してくださいよ?」
「はい…すみませんでした…」
もしかしたらバレてないかもと思ったけど…バレてたぁ…。どうやら街の監視カメラにばっちり映ってたみたい…。おーまいがー…。
「気にする事ないですよー朝凪ちゃん。むしろ宝石を守り抜いたんですから、もっと評価されるべきですー!」
うーん…守り抜いたと言っていいのだろうか…?ただ単純に戦いづらいから中身を抜いて入れ替えただけなんだけどな…。
あと割と雑に扱っちゃった様な気がする…。まあ宝石って硬いし…きっと平気だよね…?弁償とかマジ勘弁…。
「確かに評価されるべきなんですが…桃乃くんと比べられてしまっているようでしてネェ…。酷な話ですよホント…」
桃乃さんは宝石を取り返して、しかも異能犯をちゃんと捕まえたんだから流石だなぁ…。能力使ったのかな…?ちょっと見たかったなぁ…。
せっかく幡式を習得したのに…まだまだ力不足感が否めない…。まだ強化式しか習得してないとはいえ、それだけじゃ多分足りない…。
やっぱり…あの力が必要なのかも…。また後で色々聞いてみよう、伊敷さんとか縮さんに…ってあれ?
「縮さんが居ないのって、もしかしてさっき言ってた潜入捜査ですか?」
「そうですー。今朝方、帆野さんと一緒に薔薇の宮に向かいましたー」
おお…✨潜入捜査…カッコイイ…!漫画とかアニメでよく見るやつ!一度は夢見るめちゃくちゃカッコイイやつ!
「ということは…!縮さんは今…!」
「そうですネェ、今頃は薔薇の宮をくまなく調査しているでしょうネェ」
-今朝-
<勹裡区 薔薇の宮>
住宅街が多く並ぶ勹裡区の一角、周囲に比べて一際大きな建物がそこにあった。
四十人近くの患者と十数名のスタッフが働くその場所は、例え関係者であっても男性は入ることが許されない完璧な男子禁制の場。
ここに入った患者の多くは、長い期間この場を離れる事はなく、そのままスタッフとして働くケースも少なくない。
本来は心の傷を癒した後、元の生活に戻れる様にサポートするのが目的なのだが、悪い意味で傷ついた女性の心のよりどころになってしまっている。
云わば、依存している状況である…。
そしてこの日…。新たな女性が二人、薔薇の宮に仲間入りした。
「はいっ皆さん。今日は皆さんの新しい仲間を紹介したいと思います。兎永さん、篠崎さん、入って来て」
多目的ルームに集められた患者たちの前に、ドアを開けて二人の女性が入って来た。片方は右目に痛々しい眼帯を着けた茶髪の女性、片方は右手に包帯を巻いた黒髪の女性。
-兎永 蜜子-
「よろしく…お願い致します…」
-篠崎 芽歌-
「どうぞ…よろしく…」
多目的ホールに集められた患者たちの暖かい拍手に迎え入れられ、うつむいている二人は輪の中に入った。
こうして二人は薔薇の宮の一員となった。潜入捜査の始まりである…。
-兎永 蜜子(本名:帆野 霙)- -篠崎 芽歌(本名:縮)-
【第32話 帆野参上! 完】
帆野と縮、潜入成功!窃盗団の正体を掴め! 次回に続く!
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