第31話 病室の三人
<戦いの技式>
第31話 病室の三人
「大変だ!!人が車にはねられたぞ!!」
「救急車だ!誰か救急車を呼べ!!」
<東大通り〔Perspective:グレナ〕>
ビルから投げられ…トラックにはねられ…、血溜まりの中で死に絶える…。アンタに相応しい惨めな最期だね…。
本当に死んだかどうか確認しに行きたいけど…あれだけ人がざわついてちゃ仕方ない…。直に救急車と警察が来るだろうし、もたもたしてる時間もないね…。
穴の開いた壁に背を向け、アタシのカバンを拾いに行く。今思えば、かなり重いあのカバンを持ってよく戦えたもんだ…。
朝凪との戦いを思い返しながら、雑に床に転がったカバンに手を伸ばして取り上げた。
…っ?このカバン…こんなに軽かったかい…?いや…確かにもっと重量があったはず…!?まさか…まさか朝凪…!
カバンのファスナーを開けて中を確認すると、中からはガラス片や床のタイルがぎっしりと詰め込まれていた。
「なんだいコレは…!?宝石はどこにいったんだい…!?」
確かに宝石が入ってた…入ってたのになんで中身が違う…!?中身をすり替えた…?いつ…?そんな隙は…
…っ!?いや出来る…中身を入れ替えるだけのチャンスがあった…!
アタシが能力でぶっ飛ばした後、建物内に姿を消したその時なら可能…!しかもビルに来るまで何度もぶっ飛ばしたから…どこで入れ替えたか分からない…!
クッ…!やってくれたね小娘ェ…!!やられてもなおアタシたちの邪魔をしようって事かい…!
思えば確かに変だった…。最初は重さで動きが鈍かったのに、途中からその感じが一切無かった…!もっと早く気付いていれば…!
─ハァ…。今更後悔したって遅いね…。遠くでパトカーのサイレンも聞こえるし…諦めて退くのが得策だね…。
カバンの中身を全て外に出し、スカスカのカバンを持って一階に飛び降りる。改めて見ると…少し派手にやり過ぎたかもね…。
「──グレナ様ァ…どこですかァ…?」
「こっちだよ。さあアンタたち、警察とL-gstが押し寄せて来る前にさっさと帰るよ。これ以上は戦いたくないからね…」
カバンを預けて、風穴の開いた壁から外に出る。サイレンがさっきよりも近付いて来ている…来られる前に戦いが片付いて良かったよ…。
「あの…グレナ様…?中の宝石はどこへ…?」
「隠された、だからどこにあるかは分からないよ。無駄話はそこまで…行くよ…」
「う~ん……えへへ…♪にし…西……いやそれは冤罪ですゥ!?…ってあれ?」
<城野総合病院〔Perspective:朝凪〕>
バッと飛び起きると、前にも見たことがある場所にいて、私はまあまあ硬めのベッドの上で足を伸ばしていた。
う~ん、この若干辺りに漂う消毒液の匂い…私好きだなぁ…。
「どんな夢見てたんだよお前…。嬉しそうにしたり急に焦りだしたり…随分と情緒のうるせえ夢だな…」
まだぽけーっと働かない頭で窓の外を見ていると、どこか聞き覚えのある…ようなそんな声が左側から聞こえた。
「あー、翔真だぁ…。………………………おはようっ!」
「ああ、おはよう…元気そうでなりより…。ただ重傷患者の目覚めってもっと静かじゃねえか普通…?」
あーなんか嫌な夢見たー by朝凪
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「それで?なんで翔真はここに?私が入院した事は誰から聞いたの?」
「聞いたわけじゃないんだ。見てた、お前が搬送されるとこ…」
そうでしたか…いやあお恥ずかしい…。さぞ私は血まみれでボロボロだったろうね、自分がどんな姿だったかは分からないけど。
「…朝凪、なんで隠してたんだ…?お前…L-gstの隊員なんだろ…?」
─っ!? …そっか、見てたんだっけ…。
「お前と別れた後、少し歩いてたら突然大きな音が聞こえて…音の方に向かった先でお前を見つけた。その後もずっと…戦ってるとこを見てた…。全部教えてくれよ…お前に何があったのか…」
………………………………………………。
「実は…、カクカクシカジカで…」
「そうか…そんな事があったのか…」
んっ?えっ通じたの?ちょっと冗談のつもりで言ったのに「そうか」って言わなかった?私の聞き間違いかな?そうだよねきっと?
「だから小さい頃から落ちてる物を拾うなって言ってたろ?それに俺より先に隊員になったからって別に嫌いにならねえっつうの」
聞き間違いじゃないですねェ…!通じちゃったよ、言いたかった事全部…!なんだこれ…身の毛もよだつね。
「あとどうしてもトラウマが消えないんだったら、メンタルクリニックとかに通うのが良いらしいぞ?どっか紹介しようか?」
しかも伝える気の無いとこまで言っちゃてるし…!オイ誰か原理教えろ…!たかがカクカクシカジカに意味こもり過ぎだろ…!
まあでも言わなきゃならなかった事が結構あったし、それが一瞬で解決したのは良かった…のだろうか…?
「まあでも良かったよ本当…、お前五日も寝たきりだったから心配したぜ」
「えっ!?いつかって五日!?ガチマジ本気!?」
「お、おぅ…マジマジ…」
それはマズい…!何がマズいかと言えば、大部分は縮さんである。
ただでさえ出る涙の量が普通の人の十倍なのに、五日も寝たきりだった私が会いに行ったら…最悪その涙の多さで溺れ死ぬ…。
死ななかったとしても、全身がびしゃびしゃになるだろう。むぅ…どうしたものか…。縮さんの涙脆さは赤子にも匹敵するからなぁ…。
「ねえ翔真、涙でびしょ濡れにならない方法知らない?」
「はっ?何言ってんだお前…?やっぱまだ回復してないんじゃねえか…?」
翔真が私のおでこに手を当てて熱がないかを確かめだした。失礼な…別に変な事言ってないし…!ただそういう先輩がいるだけだし…!
“ガラガラガラッ!”
病室のドアが開く音が聞こえ、私と翔真は音のした方に顔を向けた。看護師さんが入って来たのかと思ったが…
「あっ!」
「あっ?」
入って来たのは片手にビニール袋を持っている見知った人物。火の付いていないタバコを咥えた珍しい人種のあの人は…穂岬先生!
私と目があった先生は、中に入らず何故かその場に立ち尽くしている。どうしたんだろうか…目覚めててビックリしてるんだろうか?
「…すまん、邪魔するつもりはなかったんだ…。先生は一階の受付の所に居るから…終わったら呼んでk」
「先生待って?なんか変な勘違いしてません?とりあえず入って来て先生?」
やっちまったかもしれねぇ… by穂岬の心の声
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「なんだ…ただ熱がないか確認してただけか。先生てっきりこれからキスするんだと思った…生徒の青春に水差しちまったって少し焦った…」
いつもの先生ジョークかとも思ったけど…なんか違うなぁ…。なんだろ…顔がガチだなぁ…。一回顔が青ざめた感があるもんだって…。
「いやー良かった良かった。安心したら腹減った、このりんご食っていいかな?えっと確か…翔真くんだっけ?」
「あっ、どうぞ。こんな物でよろしければ…」
私の見舞い品…!翔真が持って来てくれたカットりんごがぁ…!あとツッコミしていいなら、どうしてりんごの形「タコさん」にしたの?
どこを目指した結果の末にその技術を身に着けたの?難しいってりんごでタコは!絶対無駄になる部分の方が多くなるよその切り方!カワイイけども!
「しゃてしゃて、ほれじゃあさっしょくほんらいに入ろうかぁ」
それは構いませんけども…せめて飲み込んで先生…。軽く引いてるって翔真が、本当に教師かどうか疑ってるって翔真が。
「ゴクンッ。ふぅ…それで翔真くん、君は朝凪の件をどこまで知っているのかな?なんとなく朝凪が君に全部話しちゃった様な予感がするんだが」
やっっっべェェ…!!
「えっと…一応今に至ったまでの経緯は一通り…」
「そうか全部かぁ…。よし分かった、朝凪…こっち向け」
「はい…なんでしょうかせんs…って痛だだだだだだだだだだ!!」
きっとこうなる気はしたけれども…!しょうがないよね全部話しちゃったもの…!
「オイ朝凪ァ…!私を含めた教員全員が、お前の事情を生徒に隠してるのは何故だと思う…?何の為にお前を庇ってると思ってんだ朝凪ァ…?」
「それに関しては本当にすみませんありがとうございます…!ただ話の流れで言わなくちゃって思いまして…!あと普通つねるならほっぺじゃない!?なんで首の皮…!?痛だだだだだだだだだだ!!」
「なんか悪いな朝凪…。言えない事情があったのは知らなかったよ…」
そこは伝わってないんかいっ!! クソがァァ!! ※精神不安定
秘密を洩らしちゃう悪い首はこれかァ…? by穂岬
それも普通は口でしょうが…! by朝凪
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
医師から心配されそうな程に首の一部が真っ赤になって説教が終わった。長かった…とにかく長かった…。私が悪いからそれに文句も言えなかった…。
「──ったく…お前の今後の学生生活の為に秘匿にしているっつうのに…。もう二度とやんじゃねえぞ…?殺すぞ、お…?」
「怖いっ…!」
「次やったらお前ついでに翔真くんも殺すぞ、お…?」
「えっ、なんでですか…!?」
そりゃそうだ、完全にとばっちりだもん翔真…。可哀そ翔真。 ※他人事
「さて本題の一つが片付いたところで次いこうか。オイ朝凪、お前昇格試験に受かったのに何で死にかけてんだ?学校に戻って来るんじゃねえのか?」
「あっとそれは…色々事情があってですね…。…カクカクシカジカで」
「…………………………。」
説明するのが面倒でまたやってしまったけど…これどっちかな…?伝わっちゃったのかな…いやまあそのつもりで言ったんだけどさ…!
今考えてもクソ程原理分からんなコレ…!L-gst専門訓練学校では絶対習うのかなぁ…もしかして必須科目…?
「何言いたいのか全然分かんねえ…。どうした…心でも病んだか…?」
先生の反応にグサッてくる…。私は時間を掛けて先生に説明をした。その間、何故かちょっとだけ…ホッとした。
「はァん…講習がねェ…それに証明書の発行も遅れていると…。なるほどなるほど…それでなんで死にかけてんだお前は…?大人しくてろよ手続きが終わるまで」
う~ん…ごもっとも。でもしょうがないよ…だって色々あったもん、強くなりたい理由がさ…。……トラウマを克服する為に…。
「──ハァ…。前にも言ったろ…お前はまだ私の大事な教え子なんだから死ぬなって…。今回は運よく命があったが…次はどうか分からねえんだ…。言っても無駄かもしんねえが、無理だけはすんな…。墓参りが面倒だからな…」
先生…、ありがとう…。
「それにあと二ヶ月と少しで修学旅行だ。自分の為にも、それまでは死ぬなよ。どうしても死ぬんなら、先生に青春なキスを見せてからにしてくれ、頼む…!」
良い雰囲気だったのに…!最後の方にめっちゃ力入ってた、キスのとこに…!
「そんじゃ私はそろそろ行くわ、まだ仕事残ってるし…」
そう言って先生は腰を持ち上げた。最後に先生はプリンなどのスイーツが入ったビニール袋を置いて病室を後にした。
「最初はホントに教師なのかと疑ったけど、ちゃんと良さそうな先生だったな。ちょっと言葉遣いが怖かったけどな…」
「そう?親しみやすくて私は好きだけどなぁ」
まあ所見であれは怖いか…。元ヤンって言っても疑われなさそうだしね先生。
「俺もそろそろ行くよ。今日お前から聞いた事は誰にも言わないから安心しろ。何より俺が殺されちまうからな…あの先生に…」
私も今後は周りに注意して戦わないといけないな…。もしこれが翔真じゃなくてクラスメイトだったら大問題だったろうし…。
翔真は立ち上がって歩きだすと、ドアに手を掛けたまま顔をこっちに向けず、私に一つ気になる質問をしてきた。
「──なぁ…“沙月”の事…覚えてるか…?」
「沙月ちゃん…?うん…覚えてるけど…」
“瀧宮 沙月”…私や翔真と一緒の小中学校を卒業した、かけがえのない大事な友達。忘れるわけない…。
「俺の母が言ってたんだけど、沙月の奴…なんか最近家に帰ってないみたいなんだ…。もし沙月にあったら、家に帰るように言ってやってくれ…」
「…分かった、私も探したりしてみる。見つかったら連絡するよ」
翔真は「分かった」っと言ってドアの向こうに消えた。私はベッドに横になって、沙月ちゃんの事を頭に浮かべた。
沙月ちゃんはクラスの中の優等生で、誰にも優しい人気者だった。だからこそ…何かがあったとしか思えない…。何かに巻き込まれたとしか…。
確証はないけど、近い内に会える気がする…。出所の分からない予感の陰に隠れて、もう一つの予感も感じる…。
じわじわと胸を蝕むような嫌な予感が…。
「沙月ちゃん…」
【第31話 病室の三人 完】
なんとか繋ぎ止めた命。そして更なる事件の予感…。 次回に続く!
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