第30話 戦いの行方
<戦いの技式>
第30話 戦いの行方
-桃乃がロベリアに勝利した少し前-
<東大通り〔Perspective:朝凪〕>
“ドカーン!!”
あぐ…!むぅ…クッソー!ホント厄介だな…あの能力…!
近付かないと私は攻撃出来ないのに、グレナはガレキとか消火栓とかぶっ飛ばして攻撃してくる…!頭おかしいよ消火栓なんてさ…!
しかもこっちが近付いたら近付いたらで直ぐにぶっ飛ばされて距離を離されるし…、これすっごく不利だな私…!
何も出来ずにいるわけではないけど…確実に私の方が劣勢…。冗談抜きで分の悪い戦い…、なんとか勝機を見出さないと…!
「どんどんいくよォ…!“特攻吹砲”!」
またきた…!ガレキを使った遠距離攻撃…!勝つ方法を考える時間も与えてはくれない…、まず近付いてから考えよう…!
高速で真っ直ぐ飛んでくるガレキに永刃を合わせる。既にガレキには適応済み、スッとバターの様にガレキが切れる。
とりあえず近付かない事には始まらない。私は【脚】を使って間合いを詰めに入るが、グレナもガレキでそれを邪魔する。
ガレキの速度に自分の速度が合わさる事で、さっきよりも対処が難しい。実際何度か失敗して痛手を負った。
速さで翻弄しようにも、【脚】の速さで小回りの利いた動きをするのは難しい…。桃乃さんみたいに狙った位置にビタッと止まることすら簡単じゃない…。
だから私は建物やガードレールを蹴ってジグザグに進んでグレナに近付く。体力の消耗が心配だけど…こうでもしないとこのグレナには近付けない。
ガレキを避けて切って、また十分な間合いに入れた。重要なのはここから…如何に攻撃を受けずに攻めれるかの勝負…!
初撃はきっと防がれる…。最悪その瞬間にまたぶっ飛ばされる…。初撃は大振りでも重い一撃じゃないと話にならない…!
「“幡 強化式 【集】!!”」
【集】…伊敷さんから教わった三種類の強化式の一つ…!まだ上手く使いこなせないだろうけどやるしかない…!
≪強化式 【集】≫
全身に働いていた身体能力の強化を一部に集中させることで、【流】や【脚】以上の爆発的な力を発揮する。ただし強化出来るのは各部位ごとで、それ以外は生身。
「“燕躰打ち”!!」
「“砲撃砕”!!」
力と力が激しくぶつかり合い、衝撃で辺りに落ちていた物などが吹き飛ぶ。
素の腕力では遥かに私の方が劣ってるし、お互いが【流】を使えば力負けするのは必然…。でもこれなら…【集】ならいける…!
最後まで振り切り、グレナを後方へぶっ飛ばした。煙が立つ程の勢いで壁に衝突したグレナは、そのまま壁を突き破って中に消えた。
「ぐぅ…うう…!右手が痛む…!」
まだ【集】は発展途上…、体が負荷に慣れてない…。一回二回じゃなんともないけど…考えて使わないと動けなくなるかも…。
「アンタ厄介だね…、【流】と【脚】に加えて【集】も使えるのかい…。しかもまだまだ伸びしろがある…、殺さない手はないね…」
全然効いてないって感じがするなぁ…。これは考えて使ってる場合じゃないかも…、ガン攻めの短期決戦に持ち込むしかない…!
まだ建物内に居るグレナに向かって追撃を試みる。【流】を使って移動と攻撃の二つに専念して距離を詰める。
「真っ正面からの攻め…、アンタ芸がないね」
そう言うとグレナの右手周りの永気がほんのり赤みがかっていった。
「“永気空砲”!」
ガレキとは比べ物にならない速度で飛んできた永気の弾は、ほんの一瞬で私の頭を通過して背後へ消えた。
瞬きよりも少し遅い時間しか永気には触れていなかったが、頭部に感じた永気特有の圧力に、私は反射的に顔を下に傾けてしまった。
その直後…
「“特攻吹砲”!!」
腹部にグレナの拳がめり込み、私はまた謎の能力で背後のビルまで飛ばされてしまった。
咄嗟の事で完全に防御に失敗した…。あばら骨が軋んで痛む…、呼吸が出来ない…。またガレキが飛んでくる前に…体勢を整えないと…!
胸を押さえながら必死に立ち上がると、予想だにしていない光景が近付いてきた。今まではガレキを使った攻撃だったのに、突然グレナが接近してきた。
「“砲撃砕”!」
私目掛けて振り下ろされたグレナの物凄く速い拳を、当たるギリギリで体重を傾けて避けた。攻撃が当たった箇所には大きく亀裂が入っている。
「運よく避けたね…。でも次はそう上手くはいかないよ…!」
まだ満足に動けるだけ回復してないのに…、せめてもう少し時間が欲しい…!
「ほらいくよォ!“砲撃砕”!!」
“幡 強化式 【脚】”…!
奥歯を噛み締めて激痛を堪え、出来る限りの力で横に跳んだ。
壁が思ったより薄かったおかげで、突き破って再び攻撃を避けれたが、一向に整わない呼吸に頭が痛くなる。
「チッ…!思ったよりタフだねアンタ…。普通ならまともに呼吸も出来ず動けないのに、大したもんだね…」
なんとか時間を稼いで呼吸だけでも整えないと…満足に反撃も出来ずに殺られる…。時間を…稼がなきゃ…。
「まあでも問題はないね…。どれだけタフでも、死ぬまで殴れば同じだ…。“幡 強化式 【流】”…!」
マズい…来る…!死ぬ気で攻撃を防がなきゃ…!
「“連射撃砕”!!」
「…“幡 強化式 …【集】…!」
容赦なく浴びせられる連撃を気合で防ぐ。息を止めて出来るだけ連撃のみに神経を注いで、永刃を振るう。
血管が破裂しそうな苦しみを堪えて、出せる全ての力で攻撃を弾き続ける。
グレナが【流】の状態とはいえ、【集】を使って互角な状態…。かなり力が落ちてしまっている証拠だ…。
それに…もう息が…持たない…!このまま連撃が続いたら…受けきれない…!
「しぶといね…!諦めてさっさと死にな…!こっちにもゆっくりしている時間はないんだからね…!」
…っ!それだ…!グレナは窃盗団…、グレナが今私と戦ってるのは、私が目的のカバンを持ってるからだ…!それなら…!
防御しながら隙を伺い…攻撃の合間にタイミングを合せ、私は体を落とすようにしゃがんだ。背負っているカバンを宙に残したまま…。
さっきまで私が居た場所に取り残されたカバンに、グレナはビタッと攻撃を止めた。連撃を無理やり止めた事で生まれた硬直は…反撃するのには十分だった。
“閃新”…!!
「ぐああああっ…!」
速度はいまいちでも、【集】のおかげで威力は十分…!続けてもう一回永刃を振るいたいけど…もう息が持たない…。
私は永刃から手を離して、時間稼ぎをするために右こぶしで背中をぶっ叩いた。グレナはいくつかの壁をぶち破って奥の方へ姿を消した。
「ぶはぁ…!ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
膝を付いたまま落ちているカバンに近付き、呼吸を整えながら背負い直した。焦らずゆっくり呼吸して、グレナをぶっ飛ばした方に進む。
「がァ…!ほんっとうに面倒な奴だね…!」
少し進むと、崩れた壁の下からグレナが姿を現した。まだどこか余力を残している様な感じがする…、【集】は一度解除するけど、気が抜けない…。
振り返ったグレナと再び目が合う。どれだけ余力を残していようとも、ダメージがない訳じゃない。その証拠に、息遣いが荒くなっている。
「もういいさ…、多少傷が入ったって宝石は宝石…。売り方次第でどうとでもなるだろ…、そこんとこは良く分からないけどね…。終わらせようか…次で…」
グレナの口から出た言葉に耳を傾けていると、突然私の方に崩れた壁の一部が向かってきた。
足を引っ掛けて蹴り飛ばしたのか…!腕にばかり集中していたせいで対応が少し遅れた…。ギリギリで躱せたけど…、その一瞬の隙を突かれて身を隠された…。
見通しの悪い室内は、壁が崩れているせいでどこからでも襲ってこれる状況が揃っている…。見失ったのはイタい…!
でもまだ不利じゃない…!グレナの永気は薄っすらとだけど感じ取れる…!対処の仕様だって…、…っ!?
消えた…!?永気が全く…感じ取れない…!?まさか…遮蔽式…!?
「がはっ…!?」
「もう逃がさないよ小娘…!」
戸惑った一瞬の隙をつかれ、左から飛び出して来たグレナに捕まってしまった。警戒してたつもりなのに…!
振りほどこうにも、左手はほとんど力が入らない…、素の腕力で劣っているから片手じゃどうにもならない…!
「言ったよ…次で終わりだって…。ここからがそうさ…自慢のタフさで精々死なないように願いな…。まあ無駄だと思うけどね…」
首を掴まれたまま持ち上げられ、足が地面が離れる。踏ん張りが効かなくなって更に力が入らなくなる…。マズい…!
「“幡 強化式 【流】”…!」
強化式を発動させたグレナは、必死に振りほどこうとしている私のお腹に拳を当てて、体を上に突き上げた。何か…嫌な予感がする…!
「死にな…!“特攻突貫吹砲”!!」
説明し難い衝撃がお腹を襲い、天井を突き破って上へぶっ飛ばされた。内蔵が圧し潰されたかのような激痛に、多量の血が口から溢れた…。
意識が薄れ、今自分がどの階までぶっ飛ばされたのかも分からない程視界が悪い…。体中の力が抜けて、永刃を手放してしまいそうになる…。
やがて勢いは止まり、体が自由落下し始める。体が動かないままどんどん底が近付いてくる状況に焦りを感じるも…、何も出来ない…。
下に目を向けると、何故かグレナが私に向かって跳んできた。首を掴まれてどこかの階に引きずり込まれる。
「念の為に確認しに来て良かったよ…。もう虫の息とは言え、そのタフさならあの高さから落ちても生きてそうだったしね」
そうなってたかは分からないけど…止めを刺しに来られるのは絶望的な気分…。正直もう抵抗する気も起きない位に…絶望的…。
次の攻撃を防げるかも分からない…というか多分防げない…。
力の入らない体からスルッとカバンが滑り落ちた。ドサッと低い音が鳴り、グレナの視線が自然とカバンを追って下を向く。
その時、ほんのわずかに抵抗心が沸いた。背負っていたカバンの重みが消え、体が軽くなったからだろう。
「…“幡 強化式 …【集】…!」
強化式に気付いたグレナはバッと私の方を向いたが、もう防御も間に合わないだろ…!吹っ飛べ…!!
【集】を込めた渾身の右拳を伸ばした。手応えあり…!感触も悪くない…!これで倒れてくれ…これで終わって…っ!?
「痛ったいねェ…、油断も隙も無い奴だよほんと…」
吹き飛ばない…!?というか…ほとんどダメージがない…!?なんで…!?
「疑問かい…?【集】を使ったのに全然効いてないのが不思議でならないかい…?幡式が使えるんだから、“妨害式”だって聞いたことあるだろう…?」
妨害式…!?幡式の効果を妨害…そんなことも出来るのか…!?
「今のは流石にヤバかったよ…妨害式が間に合わなかったらやられてたかもね…。実際今のだって、妨害しきれなかった分かなり効いたし…」
そんな…、今のが最後の攻撃だったのに…。最後の力を振り絞ったのに…。
再び絶望の中に落とされた私を、グレナは首を掴んだまま壁に叩きつけた。壁は崩れ、外の空気が流れ込んできたのを感じる。
「アンタは良くやったよ…。アタシもここまでの相手と戦ったのは久々だった…」
掛けられた称賛の言葉が、逆に心を締め付けた。より一層「敗北」の二文字が頭に浮かんだ…。もう…無理かも…しれない…。
「これで終わりだよ…今度こそ死にな…。天国に行けるといいね…」
そう言うとグレナは私を持って振りかぶりだした。もう次に何をしようとしているのかが嫌でも分かる…。
「“突発砲火撃”!!」
次の瞬間、私は空気が肌を叩くような速度で地上に向かってぶん投げられた。みるみるうちにグレナが遠のいていく。
マズい…マズい…!この速度で地面に叩きつけられたら…多分死ぬ…今度こそ死ぬ…。腕を犠牲にしてでも受け身を取らなきゃ…
“ファァァァァァァァァァァァン!!!”
…えっ?
“ドシャン!!”
最後に目に映った光景は、私に向かって突っ込んできた大型トラックだった。いや…私の方か…突っ込んだのは…。
目の前が真っ暗になり、目を閉じているのか開いているのかさえも分からない…。
少しの間宙を漂った私の体は、やがて地面に強く叩きつけられた。勢いのまま十数メートル程アスファルトの上を転がって止まった。
目が見えなくなった私には今、痛み以外の感覚はなく、どの方向を向いて倒れているのかも分からない…。
「───!!──────────!!」
「────!────────!!」
誰かが喋っている様だけど何も聞こえない…。脈打つ鼓動の音だけが耳に鳴り響く…。でもそれも…少しずつ小さくなっていく…。
それと同時に意識も薄れていく…。呼吸もだんだん辛くなっていく…。
「──────な…!────さな…!──────朝…っ!」
途切れかけた意識の中で、誰かが私の名前を呼んでいる気がした…。
──だ…れ…?
【第30話 戦いの行方 完】
敗北での幕引き。静かに命が弱くなる…。 次回に続く!
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