第29話 傀儡
<戦いの技式>
第29話 傀儡
「ほらほらァ…!だんだん動きが悪くなってきてなァい…?注意しないと直ぐに袋叩きにあって殴り殺されちゃうわよォ…?」
あの女の人が能力を使って一般人を操りだしてから数分…。私は一行に打開策を見いだせないまま攻撃を避け続けています…。
少し乱暴して気絶させれば負担は減るかもしれませんが…気乗りしませんし出来ればやりたくないんですよね…。
それにもし意識がなくても関係なく操れるんだとしたら完全に気絶させ損…、ただ痛い目に合わせるだけになってしまいますしね…。
とは言っても…流石に攻撃を避け続けるのはしんどいです…。どうにか反撃できるタイミングを見つけないと…。
「ロベリア様…!余り時間を掛けていては危険です…!何か企んでいるかもしれませんし、増援が来るやもしれません…!」
「そ…そうです…。さっさとカバンだけ取り返して、に…逃げましょう…」
カバン…。L-gstを前にして直ぐに逃げるでもなく、あくまでもカバンを取り戻そうとする姿勢…。それ程の物って事ですか…。
「もう少しいいじゃなァい…、ここからが面白いのにィ…」
「ダメです!」
「ダメです…!」
「はぁぁい…」
何だか上下関係が分からない人たちですね…。
「しょうがないわァ…それじゃあ少し本気出そうかしら…!」
鳥肌が立つような永気の増幅…!ただでさえ戦いずらい状態なのに…一体何をしてくるつもりですか…?
「“幡 強化式 【流】”」
強化式…?この人混みに紛れて攻撃するつもりですか…?
いずれにせよ好都合…!近付いてくれればむしろ私の方が有利です…!上手くいけば一撃で倒せるかもしれません…!
「さァて…ここからが本番よォ…?面白いもの見せてあげる…♡」
手を前に構えると再び永気が白く変化し、そこから細い糸のような永気が複数飛び出した。
飛び出した糸は、攻撃を続ける一般人目掛けて猛スピードで近付いていき、纏っている白い永気にくっついた。
一体何をするつもりですか…?
「“継足し操童子”…!」
才式の影響か…女の人の永気が再び大きく増幅した。それに合わせて一般人とを繋ぐ糸も一層太く力強くなっていく。
やがて周りの一般人へもそれが移った瞬間…
「うっ…!速い…!」
突然動きに鋭さが増して、しかも力も強く…!なんとか体への直撃は防げましたが…永刃の側面に当てていた右手がじんじん痛みます…。
さっきまでとはまるで違う素早さに力強さ…、これは…まさか強化式ですか…?でもそうとしか考えられませんね…。
強化式を使い、自身の永気を繋げた者にその効果を与える才式…。与えられるのは任意の誰かか…、それともここにいる全員か…?
どちらにしてもより一層厄介な状況になりましたね…。もう何もせずに攻撃を避け続けるのも限界かもです…。
「うわぁ…!腕が…脚が…!体中が…痛い…!」
「頼む…!助けてくれ…!」
辛いのは私よりむしろ一般人の方ですか…。どうやら強化式の負荷も与えられてしまうようですね…。
対策をゆっくり考える間も与えてはくれないようですね…、上等です…!こちらも少し本気を出しますよ…!
<西大通り〔Perspective:ロベリア〕>
さっきからずっと避けの一手…、あくまで一般人たちには手を出さないつもりかしら…?
でもそれじゃあ…ウフフッ…!いつまで経ってもこのアタシには勝てないわよォ…?それとも…一般人たちが壊れて動けなくなるのを待ってるのかしら…?
だとしたら無駄よォ…?仮に貴方が一般人たちの骨を折っても、たとえ気を失わせようとも…、問題なく動かしていられるもの…!
これがアタシの能力…、【傀儡】の能力…!
≪【傀儡】派統:気功派≫
能力者の永気を纏わせた生き物を自由自在に操る事が出来る能力。自律的に行動させる事は不可能で、命令を出さないと動かせない。ただし、意識がなくとも命令を出せば動かし続けられる。操れる人数はそれぞれ男性五人、女性五人の最大十人。
貴方が疲れて動けなくなるまで攻撃は続く…、一般人たちに危害を加えないでそこを突破するのは不可能よォ…?
「はっ!!」
強化式を施した十五人に囲まれていた桃乃が、突然大きな声と一緒に上へ跳んだ。何をするつもりかしら…?
「“幡 妨害式 【乱】”!」
うっ…!これは…体に弱い電流が流れている様な感覚…。相変わらず好きにはなれないわねェ…、気持ち悪いわァ…。
効力はまあまあ…、それでも半分位は能力を抑え込まれてる…。
操ってる一般人たちの動きも、与えている強化式の効き目も格段に悪くなった…。ホーント厄介ねェ…。
満足に能力を使えない状況を作って、その内にアタシを叩く作戦かしら…?でも残念ねェ…そう上手くはいかないわよォ…?
アタシの“継足し操童子”は、何もただお人形を強化するための才式じゃないのよ…!
右手の永気に能力を込めて、適当なお人形と永気を繋ぐ。そして強化式の時と同じ要領で、アタシに掛けられた妨害式の効果を移せば…
「残念だったわねェ…私には妨害式が効かないのよォ…♡さあ次は何をするの…?諦めて降参でもしちゃう…?」
「バカ言わないで下さい…!絶対捕まえますから…!」
捕まえるねェ…、ただの虚勢か…それともまだ何か策があるっていうのかしら…?何をしたって無駄だけどね…!
「“幡 妨害式 【乱】”!」
また妨害式…?何度やったって無駄なのに…もしかしてもう打つ手がなくなっちゃったのかしら…?
いや…違うわねェ…、さっきみたいな不快感がないもの…。
それなら一体誰に…?妨害式の 【乱】は一人にしか適用出来ない筈…。一般人の誰か一人に掛けたのかしら…?
仮にそうだとして…たった一人に妨害式を使う事に一体何の意味があるというの…?他の幡式が使えない分、デメリットの方が遥かに大きいのに…。
高く跳躍して妨害式を掛けてきた桃乃の着地地点には、ゾンビのように群がる一般人が待機してる。
勝ったわね…!人質がいるからアタシには攻められず、それを覆すための妨害式もアタシには効かない…、文字通り打つ手なし…!
スタッと地面に降り立ち、そこに容赦なく殴り込む一般人たち…、次にアタシが見るのは屍かしらねェ…♡
…ちょっと時間掛かってるわねェ…。いつまで経ってもお人形の動きが止まらない…、中々仕留めきれない…。
一般人には[桃乃を殺せ]って命令を出しているから、命令を遂げたら自動で停止する筈…なのだけど…。
…っ!弱るどころか…永気が増幅してきてない…?予想していなかった永気の増幅…それにアタシは反射的に体を一瞬強張らせた。
その瞬間、一般人たちの間を縫うように駆け抜けてアタシに向かって来る桃乃が目に入った。
手には何も持ってない…カバンを手放して勝負つけに来たわけね…。
強化式を使ってない筈なのに凄い速度…。しかも一般人が全員遠くに集められて直ぐに追いつけない…。
地面に降り立った後、直ぐにこうやってアタシに攻めてこなかったのはこの為…。十分にアタシから一般人たちを引き離す為…。
「…でもそれで良いのかしら…?こっちにはまだ人質が居るのよォ?もしかして忘れちゃったのかしらァ!」
確かに虚は衝かれたけれど、こっちには子供が残ってるわ…!今ここで子供を自害させれば、貴方は絶対動揺するでしょうねェ…?
そこをアタシが永刃でバッサリ…!貴方に勝ち目はないわよォ…!
「“自害しなさい”!!」
命令は出したわ…、さあ落胆しなさい…!子供を救えない自分に絶望なさい…!
「嫌だ…、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
手に持ったナイフを勢いよく喉元に突きつけようとする子供。そしてやっぱり止めに行くわよねェ…、L-gstだものねェ…!
でも止めるのは不可能よ…!その子供にも強化式は与えてる…、何をしたって止められないのよォ…!
もう少しで喉元に突き刺さるナイフと、それに伸びる無駄な救いの手。でも結末は変わらない…、子供も桃乃もあの世行き…!
“ドスッ!”
肉に強く深く突き刺さった鈍い音が耳に届く…。そして同時に溢れ出す鮮血が…アタシの勝利を物語る…!
「子供は救えなかったわねェ!そしてこの一撃で貴方も死ぬのよォ!!」
永刃を振り上げて勝ちを確信したその時…、脳内に走る違和感がアタシの動きを止めた。何か…何かが変よ…?
子供が…倒れない…!?喉元をナイフで突き刺したのにどうして…!?
子供と桃乃が密着してるせいで今どうなっているのかが分からない…。見える位置に回り込んで確認すると…
ナイフは確かに皮膚に刺さって肉を突き破っていたけれど、それは子供の首じゃなく桃乃の左手だった。
刃が貫通した手のひらで子供の手を直接押さえてる…!?なんて無茶な…!?
いやそうじゃないわ…!桃乃…なんで押さえてられるの…!?いくら子供とは言え、強化式を与えているのよ…!?それを強化式無しで…!?
…ッ!分かったわ…!あの時の…あの二回目の妨害式…!あれはこの子供に掛けえたのね…!
でもまだよォ…!その状態じゃアタシの攻撃は防げないでしょう…!子供諸共首を刎ねてあげるわァ!
「“幡 強化式 【流】”!」
“パキンッ!”
なっ…!?ナイフが刺さったまま刃をへし折った…!?なんて荒業…、一撃じゃ仕留め切れないかもしれないわね…。
でも子供を守りながらアタシの連撃を受け切れる訳がない…!自害のリスクを消したとこで、所詮ほんの少しの延命に過ぎないわァ!
「はぁぁぁ…、ふんっ!」
アタシが狙いを定めて永刃を振り下ろそうとすると、桃乃は自分の左手に向かって膝蹴りを入れた。
強化式で強まった膝蹴りが折れた刃に当たり、勢いよくアタシの右肩目掛けて飛んできた。
右肩に刃が突き刺さって激痛と一緒に血が滲む。思わぬ不意打ちに体が固まった一瞬に、桃乃が間合いに入るのを許してしまった。
マズいマズい…!マズいわ…!
「“閃新・双撃”!!」
「キャアアアアア…!!」
ほんの一瞬の隙に胸と背中の両方を斬られた…!素の剣術や実力はアタシの方が劣ってる…、このまま斬り合えばアタシの負け…、それなら…!
反撃する考えを捨てて、アタシは子供に近付いて永刃を向けた。
「そこまでよ…?それ以上近付いたらこの子供の首が落ちちゃうわよォ…?」
意識を失わなくて助かったわ…。もう桃乃を倒すのは諦めましょう…、カバンだけ回収して今は逃げなきゃね…。
「“カバンをアタシの下に届けなさい”…!」
命令は出した…。さっきの攻撃で“継足し操童子”が解除されちゃったみたいだけど、“操童子の令”が残っていて良かったわ…!
カバンを回収したら、子供を人質にしながら逃げればいい…!桃乃の足止めは一般人たちに命令すればいい…!
「さあ…貴方は永刃を置いて両手を上に上げなさァい…?子供の首が落ちるところを見たくはないでしょう…?」
「どこまでも汚い人ですね…! …こうなったら仕方ないです…」
永刃を地面に突き刺して両手をゆっくり上げていく…。本当は隙だらけな貴方を斬りつけたいけれど…、もうそんな余裕は見せないわ…。
「ほらほらァ…!さっさと両手を上に…」
ゆっくり手を上げ、両手が耳の高さまで上がった所で突然、桃乃は両手を前に出した。そして…あれは…、まさか印…!?
「“大式”…!」
<第三支部 居間〔Perspective:伊敷〕>
-少し前-
「うーん…、やはりお茶は玄米茶に限りますネェ…」
朝凪くんの現在地を縮くんのスマホに送った後の一服…、とても格別だなんて事は別にありませんけど。
正直もう私のやる事ないんですよネェ、お茶飲む以外に。こういう時“支部長”って損な役職だと思います今日この頃。
冗談はさておいて、皆さんの状況をちゃんと把握しないとですね。
縮くんは朝凪くんの所に着くまでもう少し時間が掛かりそうですネェ。縮くんはあんまり強化式の適性が高くないので仕方ありませんが…。
心配な朝凪くんの方は…、どうやら良い状況じゃなさそうだ…。
ちゃんと攻めれていますし、反撃もしっかり出来ていますが、戦況はやや劣勢ってとこですかネェ…。一撃の攻撃力に差があります…。
あまり気にしていなかった桃乃くんも、少し苦戦している様子ですネェ。
永気量だけで見れば桃乃くんの方が遥かに有利なんですが…、まあ負ける事はないでしょう。気にするのは朝凪くんだけで十分ですかネェ。
万が一の場合も考えて、縮くんには速く着いてもらいたいとこでs…
…っ!
「…おやおやこれは…、この圧倒的な永気の膨張は…。まったく…“大式”を使うほどの相手でもないでしょうに…。後でまた注意しないといけませんね…」
<西大通り〔Perspective:桃乃〕>
「ハァッ…ハァッ…、貴方もひどいわねェ…。そんな技があるのなら…もっと早く使えばいいのに…、いけずねェ…」
「別に隠してた訳じゃないです。ただほいほい使える様な技じゃないだけです。むしろ貴方の才式が羨ましいです…使いやすそうで…」
左手を怪我してまで隙を作ってなんとか攻撃を食らわせたのに、倒しきれず焦った私はつい大式を使ったてしまった…。
あぁ…、支部長はきっと気付いてるんでしょうね…。帰ったらまた注意を受ける羽目になるんでしょうね私は…。
う~ん…、「子供も人質にされて仕方なく…」って言えば、ワンチャン許してくれたりしないですかね…。
「…っと、これで良しです…!関係者が来るまで大人しくしてるんですよ…!」
「こんなにぎちぎちに縛られてたら嫌でも動けないわよォ…」
永刃は没収しましたが、念を入れてしっかり拘束しないと不安ですからね…!あと一般の人たちを巻き込んだ罰です。
部下と思われる二人も拘束しましたし、ひとまず一件落着ですかね。後は…
「皆さーん!この後L-gstの関係者が来ますので、全員ここで待機していてくださーい!その後病院で検査を受けてください!」
あのロベリアは一般の人に攻撃してないですし、私も攻撃してないので、目立った外傷はないと思いますけど…。
私も病院で手当して貰いたいですし、一度支部長に連絡を…
ってうわぁ!?なんか縮さんから五件くらい電話が掛かってきてます…!これは…絶対何かありましたね…多分朝凪ちゃん関連で…。
てことで直ぐに支部長に電話を掛けましょう。縮さんがパニックに陥ってたら泣きすぎて会話にならないかもですし…。
“♪♪♪~♪ ♪♪♪~♪ ♪♪♪~♪… ”
「もしもし支部長、お疲れ様ですー。縮さんから何度か電話が来てたんですけど、何かありましたか?…あっ、そうですかやっぱり朝凪ちゃんが…」
支部長によると、朝凪ちゃんも同じように敵と交戦中で、縮さんも今朝凪ちゃんの所に全速力で向かっているとのこと。
「分かりました、私も直ぐに向かいます…!はい…はい…?あっいえそれはその…はい…使ってしまいました…すみませんです…」
〚西大通りの戦い 勝者:桃乃〛
<東大通り>
桃乃がロベリアと戦っていた最中、朝凪と謎の人物グレナの戦いはより一層激しいものになっていた。
横転した車、辺りに散乱するガラス片、周囲に響く轟音…。それら全てが、そこで起きている戦いの激しさを野次馬に伝える。
今朝凪たちの姿は見えない…、高くそびえ立つビルの中で戦っているのだ。そんな今もビルの窓ガラスが割れ、風に煽られている様に少し揺れている。
“ドゴオオオン…!!”
地上四階の部分の壁が突然、大きな音を立てて崩れ落ちた。そして穴が開いて中が丸見えになったその場所に、二人の人影があった。
「アンタは良くやったよ…。アタシもここまでの相手と戦ったのは久々だった…」
そこにはグレナと、首を掴まれて持ち上げられている朝凪の姿があった。
「これで終わりだよ…今度こそ死にな…。天国に行けるといいね…」
【第29話 傀儡 完】
桃乃の勝利…!そして朝凪は…!? 次回に続く!
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