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戦いの技式  作者: 叢月
戦いの幕開け編
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第3話 能力戦

         <戦いの技式>


         第3話 能力戦

縮さんが向かう前に、伊敷さんが感じていた人の気配は全部で七人。だが突如として斬りかかってきたその人物は、伊敷さんの探知に引っ掛からなかった。


「おやおや、困りましたねぇ。どうやらお相手さんの中にも幡式(はんしき)が使える人が居たみたいですね」


少し離れた場所ですら、あの四人の男達とは何かが違うことが理解できた。


「縮さん…、頑張って…!」




‐縮サイド‐


静寂な森に、刃がぶつかり合う音が響き渡る。素早い動きで永刃を振り合う二人の手元は、既に常人の目に留まる速さではなくなり、拘束された男達も困惑している。


「貴方は誰?そこの人達とはどんな関係なの?」


「君には、関係ない。邪魔しないで」


少年は縮の永刃を弾き、顔に向かって斬りかかった。なんとか態勢を後ろに逸らして攻撃を躱した縮は、少し後退した。


それを分かっていたかの様に、少年は距離を詰めて追撃を繰り出した。斜めに振った永刃は縮の胴体を切り裂いた。かの様に見えたのだが…


突如少年の前から縮の姿が消え、何故か右側に移動していた。


「何をしたの?僕は確かに、君を切り裂いた筈なのに。それが、君の()()なの?」


「能力を教える訳ないでしょ。貴方が自分の能力を教えてくれるなら考えてもいいけどね」


そう言うと同時に斬りかかってきた少年の攻撃は、確実に縮の喉元を切り裂いた。だが次の瞬間にはまた姿が消え、今度は背後から縮が現れた。


その謎の現象を前に、少年は苦戦していた。斬った先から姿を消して別の場所に移動する縮に、困惑を隠せずにいた。


脚や腕を負傷した少年は縮から距離を置き、永刃を前に構えて力を込めた。その瞬間、少年の頭上に、ボーリング球サイズの“()”が現れた。


突然現れた眼に、縮も少し距離を置いて様子を見る。青白く揺らめくその眼は、瞬きもせずに真っ直ぐ縮の方を向いている。


「君の能力が分からない。だから一つずつ、君の能力を分析する事に、したんだ。それで今分かった。君、“技功派(ぎこうは)”の能力なんだね」


縮は少し動揺したものの、直ぐに心を鎮めて永刃を握る手に力を込める。


「それが分かったところで何も変わらないよ!そろそろ終わりにするね!」


縮は強く一歩踏み込み、素早く少年に斬りかかった。それを後ろに跳んで躱した少年は、左手から人魂の様なものを複数を生み出し、辺りに散らばらせた。


正面から斬りかかる幻覚を既に見せている縮は、少年の後方、斜め上から奇襲を仕掛けて一撃を食らわせようとしたその時だった。


バッと後ろを振り向いた少年と目が合い、一瞬ビクッと身体が硬直したその隙を突かれ、腹部を斬られてしまった。


(ぐぅ…!こいつ…、なんで今迷わず攻撃を…?後ろにいるのが分かっても、どっちが本体かは分からない筈なのに…!)


「…なるほどね。君の能力…、()()を見せる能力、なのかな?厄介な能力だね」


何故か少年は縮の能力をあばいていた。縮はその言葉を聞いた直後、ハッと何かに気付いて周りを見渡した。


攻撃をする直前に少年が散らばらせたそれは、小さい眼に変わっており、その全てが真っ直ぐ縮を凝視していた。


「どうせもう僕の能力分かってるんでしょ?僕の能力は“(まなこ)。今辺りに散らばってる全ての眼と、僕は視覚を共有できる」


「視覚を共有…?それがなんだって言うの?」


そうは言ったが、見えるだけでも三十個程ある全ての眼で、動きを監視されているということは、実質死角が存在しないということを縮は理解していた。


「最初は永気(ようき)を使って分身してるのかと思ったけど、そうじゃないって分かった。僕の頭上にあるこの眼は、()()()()を見ることが出来るから。

だから次は死角を消して、あらゆる角度、距離を変えて様子を見た。それで分かったんだ、君の能力の事。君から20メートル以上離れている眼にだけ、君の分身が見えなかった」


「なるほどね…、随分慎重派じゃない。でもこれで終わりじゃないわよ!」


縮は再び力を込め、能力を発動した。見せる分身の数を四人に増やし、それぞれ別々の動きで斬りかかるが、やはり防がれてしまった。


「無駄だよ。もう君の能力は理解したって言ったでしょ?もう君の攻撃は僕に通用しない、諦めた方がいい」


実質能力を封じられ、素の実力もほぼ同じ。苦しい戦いを強いられている縮に、少年はとどめを刺しにかかる。


「もう、終わらせる。“釘付けの紫眼(ヴィオレ・メイラ)”!」


少年の頭上に浮かんでいた青白い眼が突如変色し、一回り大きい紫の眼が現れた。


縮はその変化につい、(それ)と目が合ってしまった。その瞬間から視線を逸らす事が出来なくなり、その違和感から動きを一瞬止めてしまった。


その一瞬の隙を見逃さず、少年は腹部に永刃を突き刺した。貫かれた永刃に、月明りに照らされた血が滴り落ちる。


「残念だったね…、僕の勝ちだ。楽しかったよ、さようなら」


少年は頭上の眼を消し、腹部から永刃を抜こうと力を込めたその時、縮は刃の部分を掴んで永刃を抜かせないようにした。手に力は入っているが、息は荒く、血の勢いも増している。


「抵抗しない方がいいよ?どうせその怪我じゃ、そんなに長くは生きられない。直ぐに楽にして上げるから、手を離してよ」


「はぁっ、はぁっ…。もう終わったつもり…?戦いはまだ…、続いてるよ!」


ニッと笑った縮と目を合わせた直後、少年の前から縮の姿が忽然と消えた。次に目の前に広がった光景は、澄みきった青空に一面に咲き誇る花畑だった。


頬を撫でる暖かい風が、花の香りを運んでくる。突如広がったその光景に、少年は立ち尽くして眺めていた。


(なんだ、ここ?これも、あの人の能力、なのかな?辺りに散らばらせた眼も、全部同じものを見てる。幻覚を見せる能力じゃなかったのかな?)


少年は左に首を向けたが、その先にも花畑はずっと続いている。少し強い風が吹き、数百枚の花びらが少年に向かって運ばれていく。


体の正面から飛んできた花びらは、少年を包み込むように通り過ぎていった。そして…、激痛が走ると同時に、元の暗い森に戻ってきた。


(なんだ…?何が起きた…?なんで僕は斬られてるんだ…?)


腕から血が流れ、胸部に血が滲みだす。突き刺された筈の縮の姿は消えており、縮の血すら付いていなかった。


「分かってても理解できないでしょ?それが私の“(しき)”の強みだよ」


少年が後ろを振り返ると、再び別の風景が全体に広がった。


さっきの花畑とは違い、そこは流れのゆるらかな渓流だった。空は同じく澄み切っていて、風が木々の葉っぱを優しく揺らしてた。

浅い川の真ん中にポツンと立っている少年の前には小さな滝もあった。


(まただ…、また何かされた、のかな?幻覚、とは思えないほどリアルだ…)


水の流れる音や鳥の囀り(さえず)までも耳に届き、足元を流れる水の温度まで感じることもできた。周りの眼も変わらず同じ風景を見ており、まったく機能していない。


ただ前を見つめるだけの少年の近くで、魚が一匹跳ねた。水飛沫が高く上がり、少年にぽたぽたと降りかかった。


その瞬間に再び激痛が走り、同じ様に元の場所に戻っていた。傷の数も増え、遂に少年は片膝をついた。


「もう降伏した方がいい…。これ以上やっても、ただ治療に時間が掛かるだけだよ」


いつの間にか少年の前に姿を現した縮には、やはり腹部に突き刺された傷はなかった。縮は永刃を少年に向けて、降伏を促した。


「嫌だよ、絶対に。僕はこんな所で捕まる訳には、いかないんだ…!」


少年は立ち上がって距離を取ると、永刃を地面に突き刺し、両手で()を結んだ。


「もう、容赦しない…!君を殺して、僕は帰る…!!“大式(たいしき)”…!!」


印を結んだ瞬間に、背筋が冷えるような悪寒を感じた。倍以上に永気が膨れ上がる少年に、縮は再びさっきの“式”を使おうと接近した。その時…


「そこまでだ“伽崎(とぎざき)。ここは一旦退くぞ」


突如少年の背後に、謎の男が現れた。その男は少年と同じ耳飾りを着けていた。


「でも負傷した敵の前だよ?こっちは二人だし、今殺した方がいいと思う…」


「周りをよく確かめろ。こいつとは別に、上の道路に三人いる。数的有利を取られている上に、恐らく応援も呼んでいる筈だ…、ここは大人しく退くぞ」


突如現れた男は、こちらの人数と応援要請に気付いており、この少年よりも遥かに実力が上回っている事が伺えた。


「…分かった。言う通りに退くよ」


「大人しく逃がす訳ないでしょ!犯罪者は全員捕まえる!」


一気に距離を詰めて二人に斬りかかったが、謎の男に防がれて押し飛ばされた。空中で体勢を整え、再び二人の方に視線を送った時には、もう既にそこには居なかった。


縮は直ぐに探知式で気を探ったが、恐らく向こうも遮蔽式(しゃへいしき)が使える為か、追う事が出来なくなった。


「逃げられちゃったか。あの男…、かなりの実力者だったなあ。私でも勝てたかどうか…」


永刃を鞘にしまって探知式を解除したところで、スマホに一本の電話が入った。


「もしもし、支部長?敵に逃げられちゃったから、直ぐに探知式で居場所を教えて。私の探知式じゃ、探るのちょっと難しそうで…」


『いえ、ここは我々も退きましょう。たった今救護班が到着したので、後は彼らに任せて、私達は本部に報告しに行きましょう』


「了解、直ぐに帰還します。はぁ~疲れた~…」




その後私達は、戦い終えた縮さんと共に本部に向かい、さっき起きていた事を報告した。敵の特徴と能力、縮さんが実際に戦って感じた相手の実力など。


それが終わって、私はようやく帰宅した。その日はご飯とお風呂を済ませ、早めにベットに横になった。


部屋の明かりを消して目を閉じても、頭の中にあの戦いが浮かんできて中々眠れない。見たこともない非現実的な光景に飛び散る血、その全てが鮮明に脳裏に残る。


(あれが…、異能犯罪者との戦いか…。私もいつか、戦うのかな…?)


そんな事を考えている内に私は少しずつ眠気に誘われ、今日を終えた。


私の戦いの日々が始まった…




【第3話 能力戦 完】

次回!今回の戦いを振り返っての勉強会!

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