第28話 難敵
<戦いの技式>
第27話 難敵
「アンタに恨みはないけどね、こうなった以上生かしてはおけないよ…!増援が来る前に終わらせてやる…!」
向こうはやる気満々…どうすべきかな…。戦って勝てるかどうかなんて今の私には分からないし、こんな時の最適解が何かも分からない…。
増援が来るのを信じて時間を稼ぐべきか…。今ここで…私一人で…あの女を倒すべきか…。
「アンタたち!ここはアタシがやるから、そこのカバンを持って先に行きな!他の隊員に見つからない様に慎重にね!」
そう言われた後ろに居る二人の女性は、そばに落ちているカバンを重そうに持ち上げてその場を後にしようとしている。
マズいぞ…!最低でも全員ここに足止めしておきたいのに…!一人でも逃がせば、捕えるのはかなり困難になる…!
どうにか…どうにかして足止めの方法を考えろ…。何か…何かないか…?
全員の意識が一つに向くようなそんな方法は…、あるっ…!私のそこまで賢くない頭でも良い方法が浮かんだぞ…!
「さて、そろそろ始めようか。大人しくしてれば、楽に殺してやるよ…」
「そうですか、なら全力で抵抗させてもらいます…!別に死ぬ気はありませんけどね…!」
すぐに攻撃を仕掛けたいけど、まずはそれより先にすべき事をする!私は印を結んで強化式【脚】を発動させた。
そして目の前の相手ではなく、逃げた二人組の方へ全速力で近付いて行った。敵も咄嗟の事に反応が遅れて私に追いつけない。
私はそのまま一気に二人組に追いついて、大事そうに抱えていたカバンを取り上げた。
恐らくこの人たちは捕まるのもそうだけど、何よりカバンを取られる事を嫌がっている様に見えた。
それならこのカバンを取り上げれば、この二人組もただ逃げる訳にはいかなくなる…!あとはこのカバンを奪われないようにするだけ…
…って重い…!?何入ってるのか分からないけど…とにかくめちゃくちゃ重い…!これ抱えながら戦うのはちょっときつい…!
どこか取られにくい場所に置いとかないとヤバいかも…
「アンタたち!!その場に伏せな!!」
耳に入ってきたのは辺りに響くような大きな声と、何かが壊れた様な硬い音。嫌な予感が胸の中に広がっていく…、何かマズい…!
後ろを振り向くと、目に入ってきたのは何かは分からない赤い物。それがものすごい速度で私に向かって飛んできている。
咄嗟にカバンを前にしてそれを防ごうとしたが、まるで効果が得られず、私は赤い何かにぶち当たって遠くに飛ばされた。
アスファルトの上を転がって建物の壁に衝突したことでやっと止まった。数十メートルは飛ばされたようだ…。
脚や頭にはそこまでダメージはないが、体と腕…特に左腕へのダメージが洒落にならない…。左手は…最悪折れてる可能性まである…マズいぞ…。
指はなんとか動かせるけど…腕はほとんど使い物にならない…。
一体何が飛んできたのかを確認するために辺りを見渡すと、べこべこに変形した消火栓が少し離れた場所に転がっていた。
これもきっと…あのグレナって言う女の能力で間違いない…。
私と結構距離が離れてたのに…重たい消火栓をあの速度でぶっ飛ばせる能力…、詳しくは分からないけどかなり厄介だ…。
そして恐らくあの女の永刃は…両手に装着しているあのガントレットなんだと思う…。
前に伊敷さんが教えてくれた…、永刃は日本刀の姿が一般的なだけで、槍や斧などといった武器に変わるケースもあるらしい。
帆野さんの双剣も、奄仙島にいた少女の短剣もそうなのだろう。
「アタシを無視してカバンを狙うとは失礼な奴だね。アタシなんてカバンを持ってても余裕で倒せるって意思表示かい…?」
流石にそこまで思い上がってはいない。でもだからこそなんとかしないといけない…。左腕は使えない…それなら執るべき行動はただ一つ!
「…なんだいそりゃ?まさか背中にしょって戦うつもりかい…?」
私はカバンの持ち手に腕を通してリュックの様に背負った。動きにくさはあるが、今はこれが一番の得策だと思う。
隙を見てどこかにカバンを隠したいが、チャンスが来るまではこのまま戦う以外に道はないだろう…。
「それが原因で死んでも文句は言えないよ…!」
そう言い終えると同時に強く地面を蹴り、なんとか反応できる速さで距離を詰めて来た。振りかぶった右手で攻撃するつもりだろう。
永刃を構えて左手で印を結び、迎撃態勢を整えた。素の力じゃパワー負けしちゃうだろうから、ここは【流】で足りない力を補う…!
私に向けられた拳を永刃で迎え撃った。金属が激しくぶつかり合う音と火花が辺りに広がり、互いに弾かれた。
グレナはすかさず左手での攻撃に切り替えようとしている。対してこっちはそこまで回転率良く攻撃が出来ない。
反撃はおろか防御も間に合うかどうかも分からないし、あと早速重たいカバンの影響が出てるゥ…!動きが…防御が間に合わない…!
ってとこで私の頭に名案浮かぶ…!弾かれた勢いをそのままに体を回転させ、背中に背負ったカバンで左手を弾いた。
咄嗟のこの行動によって一瞬動きに隙が生まれたのを見逃さず、私は勢いそのままに右足の蹴りを入れた。
「ぐゥ…っ!やってくれたねェ…!!」
鋭い蹴りが脇腹に入った筈なのに、まるで怯むことなく右手で私の首を掴んできた。【流】で強化した蹴りを受けておいて…なんて馬鹿力…!?
振りほどこうにも…力の入らない左手のせいで全然動かない…!右手の力を少しでも緩めれば首の骨を折られそうだ…!
必死に首を折られないように押さえていると、グレナは私のおでこに、握った左拳をピタッとくっつけてきた。
「“特攻吹砲”!!」
再び後方に引っ張られる様な強烈な感覚に襲われた。咄嗟に腕を掴んで抵抗しようとしたが、謎の力に抗えず吹き飛ばされてしまった。
建物の硬い壁に背中から当たっていき、勢いのまま壁をぶち破った。目がくらみそうな激痛に、思わず吐血してしまった。
何が入ってるのか分からない重たいカバンで衝撃を和らげられると思っていたが、中に何か硬い物が入っているらしく、あまり意味がなかった…。
カバン…、今の勢いでカバン落とした…。速く拾わないと…奴らが来る前に…、絶対に奪われる訳にはいかない…!
体を起こして建物内を見渡すと、奥の方に転がっているのが見えた。小走りでカバンを拾い上げて背負おうとすると…
“ジャラララッ!!”
何かが…何か複数の金属の様な物が落ちたようなそんな音…。それが私の足元から…?
音の方へ目を向けると、キラキラと輝く物がそこにあった。どうやらさっきのでカバンの一部に穴が開いたようだ。
これは…キラキラの指輪に…ネック…レス…?もしかしてこのカバンの中全部…?これって…
[そういえば朝凪ちゃん知ってる?最近世間を騒がせてる宝石窃盗団の話]
頭によぎったのはあまなさんの言葉。宝石店ばかりを狙う窃盗団…、もしあいつらがそうなら…尚更カバンを渡すわけにはいかない…!
「ネェお姉さぁん、それ返してくれなぁい?ウチらにとって大事な物なんだよねェ、そ・れ・♡」
「いきなり襲い掛かってきておいて、よくそんな言葉が言えますね!異能犯の持ち物なんて、即その場で取り押さえです!」
<西大通り〔Perspective:桃乃〕>
敵は三人、その中で異能犯らしき人は中央の女性だけ。他二人は背後で私を睨みながらも逃げ腰のまま…、攻撃してくる可能性は低そうです…。
咄嗟に持っていたカバンを取り上げましたが、正直これ重いのでずっと持ってたくないです…。出来れば適当に放置して戦いたいところですけど…
そうしたら後ろの二人が隙を見てカバンを回収しようとするでしょう。辛いですけど…このまま上手く戦う以外に選択はないですね…。
「うぅん…♡返してくれないのなら、力づくでやるしかないじゃなぁい♡手足を切り落として、動けなくなった貴方を愛でてあ・げ・る・!」
次の瞬間、目の前には鋭利な刃先があった。当たる寸前でなんとか防げたけれど、この速さは侮れないです…。
「アッハハハハハッ!!貴方中々やるわねェ、もっと殺したくなっちゃうわァ!さぁさぁ、受けるだけじゃアタシには勝てないわよ!」
絶え間なく続く連撃…、確かにこのまま防戦一方じゃ分が悪いですね…。
連撃の隙をついて攻撃のチャンスを生まないとですが…。まだ…まだ……まだ…………今っ!!
今までの攻撃よりも若干永刃を大きく振りかぶった一瞬を見逃さず、左手のカバンを女の人目掛けて…よいしょっ!!
カバンを取り返そうとしてるだけあって、急にカバンを放り投げられたら当然びっくりしますよね…!予想通りです…!
びっくりしたその間に生まれるほんのわずかな硬直に、カバンで遮った視界。反撃するにはもってこいの状況です!
「|幡 強化式【脚】…“輪天=逆薙ぎ”!!」
放り投げたカバンの下から素早く潜り込んで女の人に永刃を振るう。でも手ごたえはなし…ギリギリで防がれてしまいましたか…。
カバンを再び左手で持って、少し後退した女の人の様子を伺う。
「ふぅん、思ったより器用に戦うのね貴方…。いいわぁ…!手早く殺そうと思っていたけど、じっくり苦しめて殺してあ・げ・る♡」
そう言うと女の人の永気が白くなっていった。永気も倍以上に増幅しています…、何かやるつもりですね…。
「“操童子の令”…!」
増幅させていた永気が白い弾のように撃ち上がって空中で分裂し、それが辺りに散らばって見えなくなった。
「ウッフフッ♡、さあアタシは一体何をしたでしょうか…?」
直接何かしてくるタイプじゃない…?これから何か起きる…?派統は…?永気量から考えて…気功派なら効果範囲は百メートル弱…?
いずれにしても、あれが意味のない行動じゃないのは理解できます…。不意打ちの可能性も考えて攻撃しないとですね…!
姿勢を低くして、地面を強く踏み込んで、【脚】の力で一気に間合いの中に飛び込む…!何かされる前に倒す…!
今度はこっちが連撃を仕掛けてみましたが、上手く防がれてしまってますね…。流石に一筋縄ではいきませんか…。
更に追撃をしようと構えを取った直後…背後から私に向けられた複数の視線…!しかもすぐそばに近付いてきてる…!
即座に追撃を止めて、私は後ろへ高く跳んだ。そのすぐ後に、さっきまで私の頭があった位置に誰かの拳が振るわれた。
誰ですかねあの人…?スーツ…一般人ですか…?何故…どうして…?
周りの人たちも…あの女の人の仲間には見えないですけど…。それに…なんでしょう…、何か様子が変なような…。
「た…助け…、助け…て…!」
「勝手に…勝手に体が…動…くんだ…!」
…っ!?まさかさっきのって…!
「アッハハ♡気が付いたァ…?その子たちは今、自分の意志で動けないの。操り人形になっちゃったって事よ、カワイイわよねェ…?」
操り人形…、じゃあここに居る一般人たち全員が、あの女の人の支配下って事ですか…。よく見ると若干白い永気が見える。嫌な能力です…。
「無関係な人たちを巻き込むとは…、思ったより性格悪い人ですね…!」
「そりゃあ貴方に比べたら…アタシなんてドブみたいな女よ?でも別に構わないわ…?だって貴方を殺せば…少しは良く思えるでしょ…?」
うげぇ…。私がめちゃくちゃ嫌いなタイプの人です…。こういう人は自分以外の人を何とも思わない事が多いので…操られてる人たちの安全がすごく不安定です…。
それにさっきのスーツの人の攻撃…、明らかにあの人には出せそうもない力が出ていました…。無理やり力を引き出されている可能性がありますね…。
「さぁて、そろそろ殺される覚悟は出来たかしら?ぼちぼち始めるわね?さあ行きなさい貴方たち!その手であの娘を終わらせなさい!」
女の人が指示すると、周囲の人たちが一斉に私に襲い掛かってきました。動きは全員アスリートみたいに素早い。
それだけ体に負担が掛かっている筈…、あまり時間は掛けられませんね…。
感じる視線の数からして、操られてる一般人は十五人位ですかね…?乱暴せずに大人しくして貰うのは難しそうです…。
パンチにキック…、攻撃はどれも単純なものだけど、数が数だから避けずらい。反射的に反撃しちゃいそうになって動きずらい…。
一般人の対処を考えるよりも先に、元凶を叩くのが早いですね…!【脚】で一気に畳みかけるのが最善…!
縫うように一般人たちの間を素早く駆け抜けて女の人に向っていく。追って来る一般人たちとの距離も十分、これならなんとか…!
「そうくると思ったわァ…♡でも残念でしたァ、アタシの方が一枚上手だったわネェ…?」
あと数歩で永刃が届く所で、突然女の人の背後から人影が出てきた。恐らく小学生と思しき男の子が、自分の首にナイフを当てて立っている。
「アタシに何かしようとすれば…直ぐにこの子はあの世行き♡もう貴方には殺されるかカバンを置いて逃げるかの選択肢しかないわよ…?」
時間を掛けたら後ろの一般人の体への負担が増える…。かと言って女の人に攻め入れば子供が危ない…。
なんとかしなければなりませんね…。
【第27話 旧友と強敵 完】
厄介な能力にどう挑む! 次回に続く!
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