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戦いの技式  作者: 叢月
哀薔薇の集編
27/76

第26話 敵影

         <戦いの技式>


         第26話 敵影

「イメージですよイメージ。自分の永気に働く“自己治癒力”を“身体能力の強化”に変化し、全身に力が溢れるようなイメージを」


適性判断を終えて一日が経ち、私は早速最適性だった強化式の習得に励んでいる。イメージしろと言われているけど、中々具体的にイメージがしにくくて苦戦しています。


ちなみに昨日のあのダメージはというと、伊敷さんが治癒式であっと言う間に治りました。やっぱり治癒式ってずるいね。


自己治癒力をって言われても、今までそんなに強くイメージした事はなかった。周りに比べて異常なスピードで傷が治っている自覚だけ。


改めてそれが永気の持つ本来の力であると考えると、これが中々イメージしずらいものだ。しかもそれを別の働きに変わるイメージを浮かべろだなんて…。


身体能力の強化は何となくイメージ出来る…漫画とかアニメでそういうの見るしね。多分パンチで岩とか壁とかぶち壊す感じのイメージであってると思う。


でも自己治癒力はよく分かんない…。傷が治っていくイメージは治癒式のものだし、それとは別の似たイメージが必要…。


これも才能が絡む技術らしいから、伊敷さんからアドバイスも貰えないし…、自力で正解にたどり着くしかない…。


もう一度初めからよく考えてみよう。まず自己治癒力と治癒式の圧倒的な違いは、間違いなく回復の()()だろう。


“時間経過”と“一瞬”、同じ効果でこの差…よく考えれば全然違う。時間経過で傷が治るのは自然なことだ。自然…自然…?


そうだ…!何も人間の体でイメージする必要はないはずだ…!簡単にイメージしやすい自然といえば…植物かな…?


時間経過で傷が癒えていくイメージを、植物の成長に置き換えて考えるんだ。


種を植えて芽が出て、それがすくすく育って花を咲かせる。本来は長い時間を掛けて進んでいくこの工程が、目に見えて進んでいく…。


そしてイメージの途中で、強化式に繋げるように考える。種から芽が育つまでを自己治癒力、蕾が力強く花を咲かせるまでを強化式として…


イメージしろ…イメージしろぉ…!芽が出て育って…、蕾が…蕾が今…咲いた!


目を開けると明らかに今までとは違うのを感じた。全身から力がみなぎるような初体験の感覚…これが強化式…。


「思ったよりずっと習得が速かったですねぇ。流石は最適性の強化式、覚えが良くて助かりますよ。それが最も基礎となる強化式、式名(しきな)を“幡 強化式(はん きょうかしき) (りゅう)”と呼びます」


おお~!めちゃくちゃカッコいい、良いね!


「後はそれを“式”として朝凪くんの中に保存するだけです。私の真似をして片手で印を結んでください」


伊敷さんの左手を見ながら指で印を結んでいく。今は両手でやらないと印が結べない私は、今後の課題が一つ増えてしまった…。


「まあ何はともあれ…これで準備が整いました。それでは朝凪くん、そのままさっき教えた式名(しきな)を唱えてください」


「はい! ふぅ…“幡 強化式(はん きょうかしき) 【流】(りゅう)”!」


式名を唱えた瞬間、体の内側に小さな衝撃が走った。今まで感じたことのない不思議な感覚…ちょっとクセになりそう…。


「ちゃんと成功したようですねぇ。それじゃあ一度強化式を解除して、今覚えた幡式を使ってみてください」


言われた通りに強化式を解除して…解除して…解除…。あれェ…!?思ったよりスムーズに解除できないぞ…!?またイメージしなきゃダメなの…!?


むぅ…、花が蕾にしまわれて…立派な茎がみるみるうちに縮んでいって…そして一気に種に戻る…!


お…お…?上手くいったのかな…?力がみなぎる時とは違って、変化した実感があまりない…。ちょっと心配だけど、ちゃんと成功したみたい。


私は一呼吸おいてさっき教わった印を結び、式名を唱えた。


「“幡 強化式(はん きょうかしき) 【流】(りゅう)”!」


唱え終えると同時に再び力がみなぎってきた。本当に私の中に保存されてるんだなって実感できる。便利だなコレー。


「さてさて朝凪くん、今のその状態での朝凪くんの力を実際に感じてみましょう。今からこれを投げるので、空中でパンチしてください」


そう言ってまあまあ大きめの石を取り出した。普段通りならただ手を痛めて終わるだけだが、今なら漫画みたいなことが出来るのか…!?


期待を膨らませていると、伊敷さんは石をぽいっと上に投げた。しっかり狙いを定めて落下してきた石に拳を合わせる。


石と拳がぶつかった瞬間、石は粉々になって辺りにばらけた。そしてその直後、予想していなかった事が起きた…。


「痛っったー--い!!骨が…骨に響く痛みが!!どうして…」


「今体験してもらった通り、強化式はあくまで力を強める効果なだけで、皮膚が硬くなったり頑丈になったりはしませんのでご注意を☆」


早く言ってよォォォ…!!骨に響くやつが一番痛いんだからァァ…!!ぐぅぅううう…うぉぉおおおお……!



   指が石みたいに粉々になるかと思った… by朝凪

     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



頭の中で「解除!」と念じるとすぐに幡式が解けた。さっきみたいに面倒くさいイメージしなくていいのは助かるね。


「他にも種類がありますので、あと二つほど教えておきます。まずは…」


「支部長ー、パトロールに行って来ますね~!」


声のする方に顔を向けると、門の前で桃乃さんが手を振っている。どうやらこれからパトロールに出発するみたい。


ちなみに今日は縮さんはお休み、どこかへ友達と遊びに行っています。


「おやそうですか、なら朝凪くんも行ってきてください。続きは帰って来てからにしましょう、どうぞお気を付けて」




パトロールは今までに何回か行ったことがある。支部周辺を見回りして、不審者や異能犯を見かけたら即身柄確保する治安維持活動の事。


桃乃さんと二人きりでパトロールするのは初めてだけど、これはもしかすると見れるかもしれないぞ…?そう、桃乃さんの()()を!


縮さんは能力を教えてくれたし、戦いの中でバンバン能力を使うので見慣れたものだが…桃乃さんはそうじゃない…。


だからこそ今日は桃乃さんの戦いを間近に見て、可能なら能力を知りたい…!流石に何でもかんでも聞くわけにはいかないからね…!


「どうしました?肩に何かついてます~?」


「あ、いえ…何でもないです。今日も張り切っていきましょうー!」


とは言え、基本的にパトロールで異能犯と戦うことなんてほとんどない。十回以上パトロールに同行しているけど、今までで一回しかない…。


街が平和ならそれが一番なのだが、今回ばかりはちょっとだけ異能犯の出現を願っちゃおうかな~なんて。 ※あるまじき発言


とか何とか考えていると、突然桃乃さんが歩きを止めた。


「後ろの方から誰かに見られてます…。もしかしたら不審者…もしくは異能犯かもしれません…」


「…多少ですけど、永気を感じますね、おそらく異能犯です。数は…五人…かな…?右に三人、左に二人…右に強い人がいます」


まさかまさかのそのまさか!異能犯キター! ※問題発言


背後の気配に気付かれない様に少し歩いて、桃乃さんの合図でバッと振り返って一気に距離を詰める。私が左の二人、桃乃さんが右の三人だ。


突然の行動に焦ったのか、謎の人物たちは狭い路地裏に勢いよく入っていった。逃がさないように私もその後を追う。


逃げたのは二人組の男で、手には永刃と思しき日本刀を握っている。突然能力で襲い掛かってくる可能性も頭に入れて追跡を続ける。


男たちは余程焦っているのか、路地裏に置かれているバケツや積まれている空箱などを撒き散らしながら、脇目も振らずに逃げている。


つまずいて転ばないように壁を蹴って地面に散乱した物を飛び越える。ただでさえ狭くて動きずらいんだから…面倒な事をしないでほしい…。


それから男たちを追って入り組んだ路地を進むと、少し開けた行き止まりに出た。逃げ場を失った男たちは、諦める様子を見せずに私に永刃を向けた。


「観念してください…!もう逃げ場はありませんし、抵抗するだけ無駄です…!」


「やかましいんじゃボケコラァ…!!お前みたいな社会を知らんガキに…そんなことを言われる筋合いはないんじゃァ…!!」


ヒィィ…!?えげつないくらいブチ切れちゃってる…。うーん参ったなぁ…逃げ場がなくなった時点で素直に諦めると思ったのに…。


早くこの人たちを拘束をして、桃乃さんの戦いを見に行きたいのに…!なんかもう戦う気満々だもんあの人たち…!


永刃(それ)を下ろしてください…!でなければ、ちょっと痛い目に合って貰いますよ…!もしかしたらめちゃくちゃ痛いかもですよ…!」


「やかましいっちゅうんじゃァァ!!死ねやガキコラァ!!」


忠告も意味をなさず、男は二人一斉に斬りかかってきた。


大振りで緩急がなく、時には味方に当たりそうになったりしている。私から見てもかなり初心者の動き…永刃を手にしてまだ間もないのかもしれない。


私も永刃を抜いて二人の攻撃を払うと、よろよろと後ろに下がって再び構えを取った。実力差は歴然…ここで一度試してもいいかも…。


私は一度永刃を鞘に納め、左手で印を結んだ。もちろん右手も使ってね!


「“幡 強化式(はん きょうかしき) 【流】(りゅう)”!」


いつまた強敵と戦う事になるか分からないし、それまでに使い勝手をしっかり分かってないといけないからね…!ちょっと悪いけど実験台になってもらおう。


男の一人がまた大振りに永刃を振るう。それを最小限の動きでかわし、がら空きのお腹目掛けてパンチをお見舞いした。


男は勢いよく後方へ吹っ飛び、壁に叩きつけられた。なんというか…ちょっとごめんなさい…。そういえば石を粉々に出来る位強かったねこれ…。


もう一人の男は今のを見て流石に勝てないと思ったか、永刃を手放して投降してきた。


L-gst(エルジスタ)お手製の拘束具で手を縛り、桃乃さんと別れた地点まで戻る。結構速く捕まえられたし、まだ桃乃さんも終わってないじゃないかな?


戻ってくると、やはりそこに桃乃さんの姿はない。私は近くの電柱に二人を繋ぎ止めて桃乃さんが追って行った方向に向かう。


微弱に感じる永気を頼りに進んで行くと道路に出て、そこに桃乃さんの姿があった。良かった、まだ一人生き残ってる…! ※良くない言葉


「よくも俺の仲間をやってくれたなァ…!もう容赦しねえぞォ…!!」


いいぞ異能犯…!どうにかして桃乃さんの能力を引き出すんだ…!お前なら出来る…お前ならやれるぞ…! ※もはや悪役


「私だってもう容赦しませんよ…!一撃で終わらせます、後ろの朝凪ちゃんを待たせるわけにはいきませんので…!」


私が来たことがもうバレてる…!?つくづくいいなあ視線を感じ取れる力…!


なんて思っていると、男は永刃を上に構えて地面に向かって思いっきり振り下ろした。するとガキンッという音と同時にアスファルトが割れていく。


どうやらあのリーダーっぽい男は能力者らしい。だが桃乃さんはそれを軽々と跳んでかわし、身を低く構えた。


「“幡 強化式(はん きょうかしき) 【脚】(きゃく)”…!」


それを唱えた瞬間桃乃さんはその場から消え、一瞬で男の目の前に移動していた。追撃しようと永刃を振り上げていた男は、ぎょっとして体が固まっていた。


「う…うおおおォォ!!?」


突然間合いに入られた事にびっくりした男は、叫び声を上げながら勢いよく振り下ろしたが、もう既に手遅れだ。


「“輪天(りんてん)逆薙(さかな)ぎ”…!」


桃乃さんは一瞬で背後に移動し、男は目にも止まらぬ早業で切り伏せられた。


何がどうなって一体何をしたのかまるで分からなかったが、一つ言える…。桃乃さん容赦ねえぇ…。


そりゃ「一撃で」っとは言ってたけど…もう少し出番をあげても良かったんじゃないですか…?


あと全然能力見れなかった…!多分だけど使おうとも思ってなかったように見えた。


せっかく私の方早く終わらせたのに…まあしょうがないけどね…それは…。



     次の機会に期待するかぁ… by朝凪

     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



捕らえた男たちは本部の人たちに連行されていった。これから事情聴取されるんだろうね。


「さてさて~、悪を捕らえた事ですし、もう少しこの辺りをパトロールしましょうか~」


「了解です!出来ればもう何人か異能犯を捕えちゃいましょう!」


私と桃乃さんは再び街のパトロールを始めた。きっと今日はもう戦うことはないだろう…でもどこか()()感じがする。


嫌な予感とは別の…何か()()()()()が起こりそうな予感が…。




<???>


朝凪と桃乃がパトロールを行ったその日の夜。街の空を厚い雲が覆い、強い雨が絶え間なくビルや道行く人に降りかかる。


大通りと違って人気(ひとけ)の少ない路地は、雨の影響かほとんど誰も通らない。降りしきる雨の音だけがその場を包んでいた。


「ウフフッ…。アハッ…アハハハハハハッ!真っ赤、真っ赤ね…。雨に流される(あか)って…どうしてこんなに素敵なのかしら…?アハハハハッ…!」


人気(ひとけ)の少ない路地のさらに奥、そこは近隣住民が別の道へ出るための近道。急ぐ社会人や野良猫が多く使うその場所は、悪にとっても最適な場所だった…。


男はその日残業で帰りが遅れ、速く家に帰ろうとその場所に入った。それが…彼の人生(今まで)を終わらせた…。


壁に寄りかかって倒れる男の体にはいくつもの傷が残され、流れ出る血が雨水に混ざってより遠くへ運ばれる。既に男は絶命していた…。


地に伏す肉塊のそばで…()()を持った女は愉快に笑う。


雨音にも負けない声で…狂気を帯びた笑い声を上げる…。




【第26話 敵影 完】

新たな悪意が血を流す。  次回に続く!

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