第22話 努力の対価
<戦いの技式>
第22話 努力の対価
昇格試験が終わって三日が経った。病院のベットと一体化しそうな程たっぷり横になった私は、僅か三日で退院の流れとなった。
ちなみに伊国と優美ちゃんは一日前に退院していった。伊国はともかく私より傷だらけだった優美ちゃんが先に退院って…
久し振りに家や支部にも行きたいが、それよりもずっと行きたいと思っていた場所に今回は行きます!あの病院から比較的近い所にあるあのお店…
それがここ「定食屋HARUKA」。あの健康第一に特化しすぎた病院食の日々のせいで、病名のある精神病に侵されそうだったからである。
ここは六年前に開店した比較的新しい飲食店で、帰宅部のお気に入りお食事スポットの一つ。ちなみに私は常連です!
がらがらがらぁっとお店の戸を開けて中に入ると、時刻が昼過ぎとあってかなりのお客さんで賑わっている。
「おや?誰かと思えば朝凪ちゃんじゃないか。久し振りだね、今日は一人?」
「あまなさん久し振り!相変わらず繫盛してるねぇ?」
この人がこの定食屋の大将“AMANA”さん。名前が似てるからって理由で仲良くなった私のお姉さん的存在です。
私はカウンター席に腰を掛けてメニューに目を通す。ここはメニューが豊富なおかげで毎日来ても飽きない程だ。
そんな私の今日の気分は…チキン南蛮定食!これでいこう!私は店員さんに注文を通し、料理が運ばれて来るまであまなさんと話して待つ事にした。
「最近めっきり来なくなったから、もう定食屋の味に飽きちゃったのかと思ったよ?」
「そんな訳ないじゃないですかぁ、ちょっと忙しくて来れなかっただけですよぉ!」
帰宅部時代は月四で定食屋に食べに来ていた筈だから、大体一月位は来ていない事になる。そりゃそう思っても仕方ないか…
よく友達と来てはご飯を食べながら他愛もない会話をしたものだ…懐かしい。もう少しであの日々が戻ってくる…かも…
「帰宅部エース(自称)の朝凪ちゃんが忙しいことなんて…もしかしてもう就職先を見つけないといけない時期だったりするかな?」
何ならもう既にL-gstに就職しているんだけどね。もう内定貰ってる様なものだけどね?
「あまなさんはどう?将来の夢とか目標とかあるの?」
この他愛のない会話…なんだろうねこの気持ちが和む感じ…。自分で思ってる以上に精神的ダメージあったのかな…?
「将来の目標か…、この手で日本を支配する事…かな…?ふっふっふっ…!」
あまなさんの料理の腕なら不可能ではないとは思うけど…何故そんな悪役みたいな言い回しを…?漫画の影響かな…?
「朝凪ちゃんはどうするの?当てがないなら定食屋で雇おうかぁ?」
「私はこのお店が潰れちゃうその日まで一生客でいるつもりだから遠慮しまーす♪」
そんな話を交わしていると、厨房からチキン南蛮定食が運ばれてきた。タルタルソースがたっぷりかかってめっちゃ美味しそう♪
~女子高生がお食事中ですので~
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「また来てね朝凪ちゃん、またのご来店を~」
はぁ…美味しかった…!やっぱりいいですなぁプロが作る味というのは…
腹ごしらえを終えて支部に向かおうと一歩足を前に出すと、スマホに三下さんからの着信が入った。
「もしもし朝凪です。そうです…ありがとうございます!え…?はい…はい…はい?えっと…定食屋の前です。はい…待ってまーす」
何やら私に用があるそうでわざわざ車で迎えに来てくれるそうです。詳しい内容は聞いてないので少し不安です…
迎えに来るまで立ちながら指パッチンの練習をしていると、着信から大体十五分程で三下さんの車が到着し、私は乗り込んだ。
「お久しぶりです朝凪さん。改めて退院おめでとうございます」
「ありがとうございます、そして色々ご迷惑をお掛けしました…」
私たちが奄仙島から救出された直後、縮さんを含む多数の隊員と本部の役員によって調査が行われたそうです。
まあ私が何か悪い事をしたわけではないが、調査が午前一時まで続いたとなれば不思議と罪悪感がこみ上げてくる…
「それでどうしたんですか三下さん?わざわざ迎えに来ていだかなくても、自分の足で支部に行くつもりでしたけど…」
「ただのお迎えではないんですよ。実は…朝凪さんに本部長から呼び出しがかかりまして…」
なにぃ…!?支部長とかではなく…直接本部長からぁ…!?これはただ事ではない様な気がする…気がする…
「えっとぉ…それは一体…どういう理由があって…?」
「すみませんが私も詳しく聞いてはいないんですよ。ですがそこまで緊張する事はないと思いますので落ち着いて大丈夫ですよ」
三下さんがそう言うなら落ち着こうかな…。でもやっぱり不安だな…。なにせ呼び出される理由が一切分からないからね…!
どうする?いきなり本部長の口から「やっぱ特別処置待遇なしで。君、逮捕☆」みたいな事言われたら?私ショック死するかも…
小さな不安を抱いたまま、車は参月山へと入っていった。
「う~ん…マイナスイオンがうまいですなぁ…」
ここに来るのは二度目…いや三度目か。私が初めて異能戦をこの目で見たのも、確かここからそんなに離れていない場所だった気がする。
あの時縮さんと互角に戦っていた【眼】の能力を持つ異能犯…あのレベルの異能犯ともいずれ戦う事になるのだろうか…
なんてね…!考えてたって仕方ないし、そうなるまでに縮さん位に強くなればいい話だ。思い出に浸るのはやめよう。
私は三下さんの後に続いて本部内に入っていった。清潔感のあるロビーを抜けて、エレベーターで五階へと向かった。
「それでは本部長へ報告して参りますので、少しの間この部屋で待っていてください」
そう言って三下さんはエレベーターに乗って行ってしまった。それにしても待機場所が五階の会議室とは…また懐かしい所に…
ドアを開けて中に入ると既に二人の人物が中に居た。しかもその二人には見覚えが…というかがっつり知り合いが…
「何です…?貴方も呼ばれていたんですか…?」
「おう朝凪、早い再会だったな」
伊国に優美ちゃん…再会が早すぎてもはや懐かしくもないよ…。でも一応優美ちゃんに抱きついとこう。再会のハグ~
「そうだ、二人は何で呼ばれたか知ってる?私全然聞いてないんだけど…」
「あたしは特に聞いてないぞ?」
「僕も詳しい事は一切…」
むぅ…なんて説明不足な…。せめて大まかな要件だけでも伝えてくれたらありがたいのに…もったいぶりおって本部長め…
でも呼ばれたのが私だけじゃないから少し安心した。これで最悪怒られたりしても慰め合えるね
ちょっと心に余裕を持てたところで、待ち時間をどうにかして潰す事にしよう。幸い会議室には見れそうな資料がいくつかある。
適当に目に付いた資料を手に取って見てみると、何やら隊員の情報らしきものが書いてある。ちょっと興味深い…
「“鹿賀 稜太”能力【変装】…。“布川 翠”能力【仮死】…。“嵩紀良 雄都”能力【交換】…。何の資料なのこれ…?」
「資料が入っていた箱に書いてありますよ…。2034年…七年前の行方不明者リストって…」
ひいィィ…!なんか軽々しく覗いてしまってすみません…。興味深いとか思ってしまってすみません…。
これが一番厚みがあるからつい手に取ってしまったが、よく見ると他の年代のやつもある。結構いるんだ…行方不明者って…
ちょこんと気持ちが落ち込んだところで出入り口がノックされた。そして恐らく本部長らしき人物が中に入ってきた。
「やあ待たせてごめんね。少し電話が長引いちゃってさ…」
この人が本部長…なんか近所の優しいおじさんみたいな人だなぁ…。何だろうこの初めて会った感じがしない気持ちは…
「昇格試験は大変だったね。本土から異常に気付けていれば、もっと速く救出に行けたんだけど…すまなかったね…」
とんでもないです。何なら私は救出が来ないと思っていた人間なので、助けが来た時安心しすぎて気絶するかと思いましたし。
「今日君たちを呼んだ理由は二つあってね、まずは今回襲ってきた敵についてだ。今L-gstはあの敵の情報を集めているんだ」
なるほど…それで私たちを集めたわけか…。異能犯と遭遇した受験者で、やたら早く退院した私たちを…
本部長は今回襲ってきた【死を招く厄】の情報を話した。私は以前に遭遇した事があって知っていたが、二人は初耳だという。
「救助に向かった隊員たちのおかげで、【死を招く厄】の大半を拘束する事に成功してね。そこで聞き込みをしてみたんだ」
本部長の話によると、拘束した異能犯たちは全員奄仙島を襲った目的を知ってはおらず、所持していた永刃らしき物のただの日本刀である事が判明したという。
捕まった人たちは日本刀を永刃と思い込んでいて、その代わりに【死を招く厄】に従っていただけらしい。
騙されていたのはちょっとかわいそうだけど…でも嬉々として斬りかかって来てたし、まあ同情の余地はないか…
「まあ今のは特に重要ではなくて…問題は次だ。君たちは“天崩師団”という言葉に聞き覚えはあるかい?」
たえばす…?何だその聞いたことのない奇妙な言葉は…。むぅ…悔しいけどちょっとカッコいいなぁ…
「天崩師団の名を冠した者たちが、どうやら敵側の最高戦力らしくてね。あの日あの奄仙島に居たそうなんだ…」
敵側の最高戦力とそう聞いた時、脳裏にあの少女の姿が浮かんだ。桁違いの永気を放っていたあの邪悪のことが…
根拠はないが、恐らくあの少女が天崩師団と呼ばれる存在だろう…。私たちはあの日見た少女の特徴を細かく伝えた。
「…やはり君たちもそう思うか。実は君たちの前に帆野くんにも聞いてみたんだけど、今と同じ事を喋っていたんだ」
帆野…?ああ、あの眼帯の人か。実際に戦っていたあの人の意見ならまず間違いないだろう。それだけの強者だったって事だ…
「貴重な情報をどうもありがとう。さてと、話は変わってここからが本題だ。君たちの香位昇格についての話に入ろう」
おお!待ってました待ってました!敵の情報も重要だけど、私にとってはこっちの方が遥かに重要!この結果次第で私の修学旅行が決まる!
「まず先に伝えておくけど、今年の香位昇格試験は中止という形で締めくくる事になった」
え…中止…? まさか…そんな事って噓でしょ…?
中止って事は…簡単に言えば香位に上がる機会すら消えてしまったって事…?え…それは普通に落ち込んじゃうよ私?
中止した分後でまた開催されるんだろうけど、修学旅行まではもう三ヶ月もない。他の受験者の回復を待っていては確実に間に合わないだろう…
「ああいうイベントにはアクシデントが付き物だけど、流石に異能犯が急襲して来たとなれば中止せざるを得ないんだ…」
それはそうかもしれないけど…でも…今まで香位になるために沢山努力してきたのに…。それがこんな事で無駄になんて…
やるせない気持ちがじわじわと心を蝕んでいく感覚を覚えた。あんなに努力したのに…なんだろうこの湧き上がる無気力感…
「あの…お言葉ですが本部長…。試験中止の発表だけならば、直接各支部に報告書を出せば済む話な筈です…。そうしなかった以上、僕らをここに呼んだ何か特別な理由があるのでは…?」
確かにそれはそうだ。敵の情報にしたって支部長経由でいくらでも報告する方法はある。わざわざ本部に呼ぶ必要はない筈だ。
「君たちをここに呼んだのはね、実は君たち三人の香位昇格を特別に認める事にしたからなんだよ」
お…?何かすごく期待できそうな言葉が聞こえてきたぞ…?認める…?今香位昇格を認めると言いましたか…!
特別って部分にちょっと嫌な思いがあるけど…その話が本当なら希望が持てるぞ!修学旅行に行けちゃうよ!
「何故その様な処置を…?それでは他の受験者たちが納得しないのでは…?」
ちょっとやめてよ伊国…もしその考えが覆っちゃったらどうすんのさ…!二年位恨み続けてやるからなぁ…!
「伊国くんの言う通り、納得しない者も出てくるだろう。だが私としては、やはり頑張った者にはそれに見合ったものを与えたくてね。君たちは歩位の身でありながら凶悪な異能犯に勇敢に立ち向かい…動けない者たちの為に立ち上がった。十分すぎる功績だよ」
うーん…こうして評価されるのはやっぱり嬉しいですなぁ…。あの時頑張って良かったなぁ本当に…
「それにね…君たちの香位昇格は帆野くんからの推薦でもあるんだよ。「伊国・姫野・桧凪、以上三名の香位昇格を【龍位】帆野の名の下に推薦する」っとね」
帆野さんありがとうございます!もう二度と変な眼帯とか思いません!多分…きっと…恐らく…
「そういうわけで君たちの香位昇格は正式に決定された。だから本部長の私自らその事を伝えるために君たちを呼んだわけだ」
なるほどね…まあ試験中止で香位昇格が取り消しとかいう最悪なパターンにならないなら、この際もうなんでもいいけどさ…
「それじゃあ改めてまして…。“埼玉第一支部所属【歩位】伊国 零”、“神奈川第一支部所属【歩位】姫野 優美”、“東京第三支部所属【歩位】桧凪 朝凪”、以上三名の香位昇格を認める!おめでとう、若い才能たち」
ついに…ついに香位になったんだ…!やった…やったよ私…!やったよ…縮さん、桃乃さん、伊敷さん、先生…!
【第22話 努力の対価 完】
努力の末に手にした念願の香位の称号! 次回に続く!
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