第21話 幕引き
<戦いの技式>
第21話 幕引き
前回のあらすじ!何かしらの方法で縮さんが助けに来てくれて、誰かしらの能力で気が狂いそうな熱さに襲われ、それを由さんに守られたのだった!
強熱が辺り一帯を包んでいるのに、何故かそれに反比例して鎮火した炎…。誰が見ても理解出来なそうな光景を生み出しているのは…あの人かな…?
由さんが生み出した(かもしれない)永気のドームの外に居るその人物はすごく凛とした雰囲気を放っており、ただ真っ直ぐ前を見つめて立っていた。
炎が消えたとは言え、まだ外は十分灼熱な筈なのに涼しい顔で立っている。あれが巷で噂の「カッコいい女性」ってやつか…
縮さんですら堪らず直ぐに永気ドームの中に避難する程だと言うのに…。あ…熱くないんだろうかあの人は…?か…感覚がないのかなぁ…?
軽く恐怖の感情を抱いていると、伊国があの人を見てポカンと口を開けている。伊国の知り合いかな?あ、伊国の支部の人か!
「に…西龍位…、何故こんな所に…」
龍位…!?てことはあれが伊国のとこの支部長って事か。支部長クラスの人まで出向いて来たのか…なんか本当に申し訳ありません…。
しばらくすると由さんに手で合図を出し、それに応える様に由さんは永気ドームを解いた。さっきよりもかなり温度は下がったが、まだ少し熱い。
気付くと海の方から幾つものエンジン音が近付いて来た。大きめの船が二艘、それを取り囲むように小型船が六艘海岸についた。
大勢の隊員と関係者は勢い良く島に立ち入り、隊員はすぐさま森へと入っていき、関係者は怪我をしている受験者の下に駆け寄った。
意識の無い者・重傷者を優先的に船に運び込み、軽傷の人はその場で応急処置を受けた。私たちは永気で自己治癒が出来る為、応急処置を先に受けた。
森からは拘束した異能犯を連行する隊員が続々と出て来た。出て来る出て来る…どんどん出て来る…、にしてもめちゃくちゃ居たんだなぁ異能犯…
む…?何か足音みたいなのが森の方から聞こえてきたぞ?しかもこっちに向かって来ている様な…これは…?
「ぅぁぁぁああああ!!あっっっつい!!」
草木を抜けて勢い良く砂浜に飛び出して来た人影…あれは…あ、眼帯さんだ。島内に居るのすっかり忘れてたや。命の恩人なのにすみません…
「なっ!?何故貴方様がこんなところに居るのですか!?」
何やら関係者がざわつき始めたぞ?あの独特な眼帯にびっくりしてるって感じでもなそうだし、あの人について聞いてみようかな…?
私は手招きで由さんを呼び寄せ、正体不明な眼帯さんについて聞いてみた。
「あの人の事?あの人は“東京第二支部支部長【龍位】帆野 霙”さんだよ」
また新しい驚きがここに!?あの人が…あの特別変な眼帯を身に着けた命の恩人が、東京第二支部の支部長!? …人は見かけに寄らないんだなぁ…
それにしても支部長か…、より一層なんで密航していたのかが分からないや…。でもなんか必死にごまかしてるし…ここは言わないようにするか…
必死に関係者に説明し終えた帆野さんは、目が合ってしまった私の所に向かってきた。あまり良い予感がしない…
「おお!あん時の仲良し三人組じゃないか!無事に森を抜けれたようだな、おめでとう!」
な…仲良し三人組…!?それって私と優美ちゃんと伊国の事かな…?別に悪い気はしませんけどね…えへへ…
「仲良しじゃないです」
こいつ否定しやがった伊国こいつ…!そりゃ確かにバチバチに戦い合ったけど、その後優美ちゃん含めて三人で共闘したじゃん!もう仲良しじゃん!
「なんだ違うのか?まあなんでもいいけど、とりあえずお疲れさん!未知の異能犯相手によく立ち向かったな、偉いぞお前たち!」
そう言って髪をわしゃわしゃされた。なんだか小学生時代に戻ったようでちょっと恥ずかしい…
「そんじゃお前らも早く船に乗って手当受けろよ?じゃあな新米組!」
言うだけ言って嵐のように去っていった。帆野さんだっけ…?なんかあの人と居ると調子が狂うなぁ…
その後帆野さんに言われた通り船に乗り込み、中で簡単な処置を受けた。受験者全員の乗船が済み次第、私たちは先に島を後にした。
縮さんたちは残って島の調査や旅客船の内部の確認を行わなければならないらしい。本当にお疲れ様です…
簡易ベットの上に座って、少しずつ小さくなっていく奄仙島を窓から見つめてさっきまでの事を思い出す。
つい数十分前まであの場所で…私は異能犯と戦っていたんだな…。燃え盛っていたあの島で…殺されかけたんだよなぁ、私…
途方もない時間をあの島で過ごしたような感覚がある…。なんでだろう…もしかして老けた?思わぬストレスで数年分老けたのかな?
「嫌だなぁ…まだ老けたくないなぁ…」
「何の話をしてるんですか貴方は…?老けはまだ考える必要ないでしょう…」
隣りに居る伊国にツッコまれてしまった。恥ずかしい…まさか口に出ていたとは…
「本土に着くまで暇ですし、貴方の事を話してくださいよ…。どうして特別処置待遇を受ける事になったのかを…」
伊国は突然私の過去について聞いてきた。まあ私も伊国の過去を聞かせてもらったし、お返しに答えてあげよう。
私は優美ちゃんに話した時と同じ内容を伊国に伝えた…
「いやなんで触ったんですか?道に落ちてるそんな怪しい物に…」
「やっぱそう思うか…もう一回聞いてもやっぱ理解出来ねえなそこだけは…」
「止めてよ二人掛で責めるのは!私が一番分かってますぅ!興味のままに行動する事がどれだけ間違った事かなんてぇ!!」
一旦落ち着くのさ☆
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
過去の自分の愚かな行いを十分悔いた所で私たちは再び沈黙に入った。それぞれ色々考える事もあるのだろう。
私もそう…未だにあの恐怖が頭から離れない。こうして死なずに船に乗れたと言うのに、鼓動が聞こえる度にあの光景が脳裏に浮かぶ。
飛び散る血液、肉を突き破る音、そしてあの禍々しい永気…。今生きているのが不思議な程の衝撃だった。
口には出してないけど、きっと二人も同じ想いを抱いている筈…。私は…私たちは弱すぎた…。ほんの少し強くなった気になっていた…。
隊員たちが戦っている存在…それを今日実感した…。
「強くなりたいなぁ…」
それは無意識に口に出た言葉。心の底からそれを願って出た言葉だった…。
島を出発して小一時間が経った頃、船はようやく本土に到着した。港には沢山の救急車が集まっており、続々と受験者が運ばれていく。
救急車のサイレン、それが昇格試験の終わりを告げた…。
<海上>
縮たちが奄仙島に到着した頃と同じ時刻、暗い海の上に浮かぶ数艘の小型船がそこにあった。
「思っていたより救助活動が早い…。流石はL-gstと言ったところですかね。貴方もそう思いませんか…莉燔…?」
「知るかそんなもン…!あんなL-gstの事なんてどうでもいイ…!」
小型船に座りながら優しい潮風に当たっている莉燔はばつが悪そうにそっぽを向いた。
唯一燃え盛る炎で明るく輝く島も少しずつ光を失っていき、海は完全に真っ暗になった。
「まさか莉燔が血を流すとは…少し驚いてしまいましたよ」
押さえている右肩の部分が血で滲んでいる。それは帆野が最後に繰り出した【神縫】によるダメージだった。
「情報にない奴が既に島内に居タ…!お前の情報網も大した事ないナ…!」
「どこにでも居るものですね…頭の中が全く読めない厄介な輩は…。今後は気を付けないといけませんね…」
仮面の男はぽりぽりと頭を掻いて少し顔を下に傾けた。そして完璧に火が消えた島を横目に、数艘の小型船は動き出した。
「削いだ向こうの戦力は角位一人に桂位と香位をそれぞれ三人ずつ…、対してこちらが失った戦力は一般人が多数に、連れて来た五人の【不屑師団】の内二名…。五分五分の戦果ってとこですね…」
「どこが五分五分ダ…!L-gstの多少使える隊員と、こっちの使えない一般人と不屑師団とじゃ全く違ウ!明らかに【死を招く厄】の方がアドバンテージダ!」
莉燔は足を組みながら床をガンガン蹴って怒鳴りつけた。無意識に漏れ出る永気が船体を軋ませる様な音を生んでいる。
別の小型船に乗っている他の者たちも全員禍々しい永気に当てられ、恐怖を抱いて震えている。
「そうですね…これでL-gstも少しは【死を招く厄】《我々》を警戒してくれる事でしょう。そうなれば目的にも近付けるのですけれど…」
男は一切目を離さずに真っ黒な仮面の目に宿した野望を、少しずつ遠ざかっていく島を見つめながら浮かべていた。
「それよりこれからどうすル?いつまでこんな下らない宣伝行為を続けるつもりダ…?これ以上やる意味はないだろウ…?」
「一理ありますね…そろそろ次に移る予定でしたし、じきに【天崩師団】も全員揃います…。ここらで一度仕掛けてみても《・》いいかもしれませんね…」
目的不明な悪意が少しずつL-gstに近付いていく…。L-gstと【死を招く厄】の全面戦争のカウントダウンが始まった…
<病院>
「むぅ…まさか人生でここまで包帯を巻かれる日が来るとは…。ビルから飛び降りた漫画のキャラみたいになってるよこれ…」
大急ぎで病院に運ばれた私は、大急ぎで医師の治療を受け、更に大急ぎでベットに寝かされた。すっごく速かったなぁ、あのお医者さん…
病院のベットも軽く漂う消毒液の匂いも、そのどれもが全く感じたことのない体験だった。なんかちょっと新鮮だね♪
ただ一つ文句を言うならご飯が全然美味しくない!一噛みごとに「健康」の一文字が全面的に前に出てくる…。これが噂の病院食か…
襲い来る「健康」を我慢して食事を済ませた私は再びベットに横になった。いつも私が暮らしていた街の夜景も、病院からだとまた少し違って見える。
交通ルールが正しく守られてる十字路をボーっと眺めていると、ドアの開くと私の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返った先にはお母さんが居た。
「あ、お母さん!なんか会うのひさしぶりに感じる!」
「あらあら、久しぶりって言ってもほんの三日間だけじゃない♪うふふっ♪」
この俗に言う「あらあら系」のおっとりとした人が私のお母さん、“桧凪 美唯那”…だったかな本名は…?
「びっくりしたわよ?仕事が終わったら急に「朝凪が病院に!」みたいな電話が来たものだから…。そうだ、病院生活が暇にならない様にこれ持ってきたの。はい、トランプ♪」
「お母さん?極力動けないだよ病人って?一人でトランプ遊びしろって事?トランプタワーぐらいでしか遊べないよ一人じゃ?」
このちょっと抜けてる所が流石お母さんって感じだ…。とりあえず渡されたトランプは返却する事にしよう。病院でトランプタワーなんてしてたら気が触れてしまう…。
鞄にトランプをしまうと、お母さんはベットに座って私の頭を撫でた。
「聞いたわよ…?他の受験者の為に必死になって戦ったって…。誰かの為に一生懸命頑張るのは良い事だけれど、あまり無理はしないでね…?」
すごく心がポカポカする…出たぞ全ての「お母さん」だけが持つ特殊能力!子供の心を掌握する“お母さん補正”!
優しい手に全てを委ねてしまいたくなるこの気持ち…。なんかこれ以上撫でられるとダメになりそうだから一度止めてもらった。
「どう、友達は出来た?しばらく学校の友達に会えてないから少し心配だったのだけれど…」
私は少し離れたベットに座っている伊国と優美ちゃんをお母さんに紹介した。
「えっと…姫野 優美って言います…どもッス…」
「いや別に僕は友達ってわけじゃ…」
まだ言うか伊国の奴め…!いい加減認めやがれ友達二号…!
「あらあら、よさげな友達が出来たわねぇ♪」
そんでよく今の伊国の発言を聞いてぶれずにその言葉が出るなあ…。お母さんってこんなにふわっとしてたっけ…?
とりあえず伊国と優美ちゃんの事を詳しくお母さんに説明した。それを聞いたお母さんは腰を持ち上げて二人の下に向かった。
「伊国君に優美ちゃん…支部が違うそうだけど、もし朝凪と一緒に戦う事になったらあの子事をお願いね…?あの子ああ見えてかなり危なっかしい所があるから、最悪気絶させてでもあの子を止めてあげてね…?」
何か二人に言ってるみたいだけど、距離が離れているせいでよく聞こえない。二人が小さく頷いていたし、仲良くしてね的なことかな?
言い終わったのか、お母さんはまた私の所に戻ってきた。
「それじゃあ私はもう帰るわね。何か必要なものがあったら連絡して?しっかり体を休めるのよ?ばいばい♪」
「またねお母さーん!」
駐車場からお母さんの車が出ていくのを窓から見送った私は、ベットに横になって目を閉じた。お母さんのおかげなのか、あれだけ頭から離れなかった恐怖の感情がすっかり消えていた。
ありがとうお母さん…。私絶対強くなるから…!もう心配かけさせない位に…めちゃくちゃ強くなるから…!応援しててね…お母さん…
【第21話 幕引き 完】
昇格試験終了!果たして結果は!? 次回に続く!
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