第20話 救いの手
<戦いの技式>
第20話 救いの手
「密航者…?そんな立派な犯罪者が何の用ダ?今更正義ごっこカ…?」
「密航っつっても違法じゃないぜ?これでもれっきとした隊員なんだ、合法的な密航ってやつだな」
果たしてそんな言葉あるのか…そもそも密航自体が違法なのではないだろうか…?まあ今は一旦その事は忘れよう…
眼帯の人のおかげで少し恐怖が弱まった。体が動くうちに二人の腕を引っ張って距離を取り、邪魔にならない位置まで移動した。
「気が利くねぇ、これで心置きなく周りを気にせず戦える…!楽しもうぜお嬢ちゃん…?」
「私を子供扱いするナ…!!」
両名一斉に踏み込んで鍔迫り合いが起こった。激しく響く金属音と飛び散った火花が、その勢いの強さを表している。
あの少女も眼帯の人も、反応出来ない程の速度で斬り掛かっていた。その後の斬り合いも目で追えない速度で繰り広げられた。
少女は短剣を、眼帯の人は双剣を使っての戦闘。今までとは明らかに構成の違う戦いに目が釘付けになった。
お互い一歩も退かない斬り合いが続いたが、少女は一度後ろに跳んでお札の様なものを取り出した。
「【此前旅越】…!!」
お札が空中で止まった…!?何の能力なのか全く分からない…あんなのを前にどうやって戦うんだろうか…
「なんだそれ面白いな!めっちゃ楽しくなってきたぜ!」
楽しんでるー!?何なんだあの人は…。やたら緊張感が無いというか何というか…そういえばあの時どうやって私を守ってくれたんだろう…?
恐神の太い首を貫ける程のあの突きを片手で受け止めたというのに、傷はおろか血すら出てないのは一体…?
なんて考えていると戦いに動きがあった。お札が突然眼帯の人に向かって飛んでいき、一枚が腕にくっついた。
それを剝そうとするが剝がれず、突然お札から大量の永気が溢れ出した。
その瞬間音もなくお札と共に姿を消した。何が起きた…!?お札に由来する能力じゃないの…!?眼帯の人はどこに…
少女はさっきまで眼帯の人が立っていた辺りに移動して短剣を構えた。そしてその一秒後、同じ場所に姿を現した。
少女は恐神の時のように首目掛けて短剣を振った。眼帯の人も背後の存在に気付いて顔を向けたけど…間に合わない…!
ドスッ!と再び音が鳴った。まさかと思ってよく目を凝らして見ると…
「痛ってえなぁ…!背後からとか…卑怯な手を使いやがって…!」
そう言って少女に蹴りを入れて吹き飛ばしたが、防いでいたからほとんどダメージはないだろう…。
そしてやっぱり刺さってない…!あれが…眼帯の人の能力って事…?
「卑怯な手だト…?どんな能力かは知らんガ、お前も十分インチキだろうガ…!」
「卑怯…?私が…?………確かにそうかもしれない!!」
認めるのそこ!?何だあの人マジで…、もっと緊張感持て!
「何なんだよこいつは一体…、ン…?」
突然何かのメロディーが鳴った。これは…スマホの着信音…かな…?必死に耳を傾けて音源を探ると、どうやらそれは少女のもののようだ。
少女は着信に出ずに放置していると、三回コールした後に切れた。それに合わせて少女は短剣を降ろして構えを辞めた。
「どうやら時間切れのようダ…。お前を殺せないのは心残りだがしょうがなイ…ここでお暇させてもらうゾ」
そこで私はまた少女と目が合った。そして私たち三人に向けて残りのお札を飛ばしてきた。まずい…完全に油断してた…!避けきれない…!
まずいまずいまずい…!どんな能力なのか分からない以上、絶対に触れる訳にはいかない…!動かせ体を…動かせ朝凪!
複雑な動きで避ける事は不可能と判断し、私は体重を後ろに傾けて崩れるように姿勢を落とした。
お札は私の上を通過する…と思っていたのだが、私の真上に来た瞬間に動きを止めた。嫌な予感がする…まさか追尾してたりするのか…!?
お札から永気が溢れ始めて膨張してきた瞬間に景色が変わった。さっきいた位置と違うところに移動している…。
「ふぅ、間に合って良かった。三人はとりあえずここで待機しててくれ、いいね?」
気付けば傍には優美ちゃんと伊国、そして眼帯の人が居た。まさかあの短時間で私たちを運んだのか…?速すぎないかいくら何でも…
私たちに指示を出すと直ぐに行ってしまった。少女の姿が消えているって事は、さっきの間に逃げたのか。
眼帯の人は双剣の片方を左脇に挟んで大岩に向かって走っていった。そして大岩に飛び乗って更に高く跳んだ。
月と重なる眼帯の人の左眼が薄っすらと赤く輝き、獲物を狙う鷹のような威圧感を放っている。
右手に握った双剣の片方を居合のように深く構え、闇が広がる森に向けて素早く剣を振るった。
「【神縫】!!」
手元が全く見えない速度で振り切ると、壁の様に縦の土煙が遠くまで立った。私の永刃よりも短いあの刃で、一体どうやってあんな攻撃を…
攻撃を終えて降りてくると、眼帯の人は少しの間その方向を見つめてからこっちに走ってきた。
「私は探知式苦手だから、あれでダメならもう追えないな…。でも多分戻っても来ないから、もう安心していいぞ…」
そう言われた瞬間、緊張が解けてその場に座り込んでしまった。一度は死を覚悟しただけあってか体に力が入らない。
事実助けて貰えなければ、今頃は天国で生まれ変わるのを待っていた事だろう…。眼帯の人に感謝せねば…あれ…?
「すいませんけど…眼帯変えました…?」
確か旅客船で会った時はそう…「Over Kill上等!!」とかなんとか物騒な言葉だった気がしたが…
「んあ?おお、誰かと思えばあの時の新人だったか。眼帯は一日ずつ変えてるんだがどうだ?今日のは結構自信あるぞ?」
なになに…、「小麦粉と片栗粉のハーフ」…?もはや何の自信を抱いているのか分からない!?言葉の意味すら分からない!?
今時の眼帯ってあんなにバリエーションあるの?パーティーグッズでも見たことないよあんなの…。すごいセンスのずれを感じる…
「えっと…お話の途中申し訳ありませんが、貴方はどなたですか?兵庫第一支部の人…じゃないですよね…?」
伊国の言う通り、この人と接点はあるけど誰かは知らない。思えば旅客船でも滝嶋さんに注意されていたっけ…
「え…!ええっとぉ…それはまぁ…今はいいんじゃないかなぁ…?はははっ…」
明らかに何かを隠している様子が表情にも態度にも出てる…何なら口笛すら吹いてる…。本当にいたんだ口笛でごまかす人…
その後何度も伊国に質問されるも、その全てに口笛を吹いてごまかしていた。結局どこの支部の人なのかは分からなかった。
「ほ…ほら君たち!いつまでもここに居るのは危険だし、そろそろ安全な旅客船に向かいたまえ…!」
「いやあの、旅客船までは炎上網が邪魔して行けないんですよ…」
実際それが原因で反対の南側に来たわけだし、それが災いしてさっき死にかけたわけだし…。
「ああそれなら問題ないよ。ここに来る前に、旅客船までの直線ルートを作って来たから」
ん…?作って来た?旅客船までの直線ルートを?どうやって…?
「見れば分かるだろうから説明は省くけど良いよな?私は念の為もう一度島内を回って、他に異能犯が居ないか見てくるから」
そう言って高く跳んで木から木へと飛び移って行ってしまった。一先ずこの場所から離れて、さっき言っていた旅客船までの道を探してみる。
直線って言ってたし、多分中央付近にあると予想しながら道を探す。分かりやすい道であってくれればいいけど…
「あ、あれかな?旅客船までの直線ルートって…?」
「あれなんじゃないか…?ずっと先に続いてるし…」
「間違いなくあれでしょうね…。方角的にも合ってます…」
地面が抉れて地表よりも低くなっている道らしきもの。炎も道に合わせて途切れているし、これを辿れば旅客船に戻れそうだ。
それにしてもこんな道を作れるなんて…一体何をすれば出来るんだろう…。完全に人間業の域を超えている気が…
まあいつまでもここに留まっておく訳にもいかないので、周囲に気を張りながら旅客船に向かった。
木の棒を杖替わりに使いながら大体三~四十分燃え盛る炎の間を歩き続けると、ようやく遠くの方に砂浜と旅客船が見えた。
森を抜けるとそこには他の受験者たちが居た。全員体が傷だらけで、中には意識が無く倒れ込んでいる人もいた。
私たちも遂に体力の限界に陥ってしまいその場に座り込んだ。周りを見渡す限り広がる地獄絵図…かなり酷い有り様だ…
旅客船の中に避難したいのに入るための橋が降りていない。それにいつもなら旅客船で待機している星菜さんも見当たらない。
それどころか今の惨状に気付いていないかの様な静けさすら感じる。何か…別の異常が旅客船の中で…?
「中に入れないのは想定外でしたね…これでは助けを呼べません…」
「手遅れになりそうな奴もいるし…本格的にまずい状況だなこりゃ…」
私と優美ちゃんと伊国の三人は永気のおかげで何とかなっているが、他の受験者はそうも言ってられない。もう時間がない…
手持ちの包帯だけじゃ全然足りないし、やはり旅客船に入って包帯やら薬やらを持ってくる必要がある。
でもどうすれば中に入れるのかさっぱり分からない…。いっそのこと船体の一部をくり抜いて中に入ろうかな…?
船体を眺めてくり抜いても大丈夫そうな部分を探していると背後から足音が聞こえてきた。一瞬眼帯さんが戻ってきたのかと思ったが、足音は複数だった。
直ぐに足音のする方に体を向けると、明らかに受験者ではない格好をした四人の男がこっちに向かって歩いてくる。恐らくは異能犯だろう…
友好的でない事だけは分かるけど…正直もう戦って勝てる気がしない。抵抗してもあっけなく殺される未来が見える…
だけど誰かが気を引かないと全員殺される…!なんとか標的を私に絞らせて…ここから離れないと…!
そう思っても中々体が動かない。一度下した腰はどしんっと重く、持ち上げるだけでも一苦労な程に体が弱まっている…
他の受験者もその存在に気が付いたが、やはり逃げ惑う様な体力は残されておらず、絶望的な表情を浮かべて見つめる事しか出来ない。
伊国と優美ちゃんは立ち上がってくれたけど、仮に三人で斬りかかったとしても結果は変わらない気がする…。
対して異能犯は永気を感じないから能力は持っていなそうだが、ほとんど無傷の状態だ。純粋に力負けしてしまうだろう。
男たちは何の躊躇もせずにどんどん近付いてくる…。考えろ考えろ…!どうすれば打開出来る…?どうすれば切り抜けられる…?
…ブロロロロッ!
耳を澄ますとどこからかそんな音が聞こえてきた。エンジンのようなその音は少しずつ向かってくるように大きくなっていった。
背後…即ち海の方から聞こえる音の方に顔を向けると、かなりの速度でこっちに向かって来る小型船が目に入った。
島と衝突すれすれの所で向きを変えた小型船、その後方から三人の人影が飛び出した。そしてその内の一人がすごい速度で私の方へ近付いて来た。
咄嗟に身構えたが、その人物は私を素通りして異能犯たちに斬りかかった。一瞬で異能犯を吹き飛ばした人物…その背中には見覚えがあった。
「皆大丈夫!?ごめんね遅くなって!!」
「え、縮さん!?なんで…どうして…どうやって…?」
見慣れた背中に聞き慣れた声、そして安心出来る存在感。見間違えじゃない…確かに縮さんだ、縮さんが助けに来てくれた!
でもどうやって…?スマホは圏外だし船には入れないし…まさか信号拳銃な訳ないだろうしな…。む…?なんか…ちょっと熱くなってきたような…
どうやって救助を呼べたのかを考えていると謎の違和感に襲われた。確実にさっきよりも気温が上がってる気がする…。
というか熱い!めちゃくちゃ熱い!気温がなんかサウナと同じレベルじゃない!?それにしても痛い痛い痛い!傷に大ダメージ!
痛すぎて気を失う寸前を彷徨っていると、突如謎の熱から解放された。もうなんか色々起き過ぎて頭が痛い…
縮さんが助けに来てくれて…、そしたら何故か突然熱くなって…、と思ってたら急に熱くなくなって…もうよく分かんないや…
「おっす新人ちゃん、久しぶりだね元気?」
「うぇ…?あ…由さん!久しぶりですね、あの時はどうも」
皆覚えてるかな?この人は以前、御ノ諏タワー周辺で川嶺に襲われた時に助けてくれた恩人の一人、篠崎 由さんです。
東京第一支部に所属する角位の一人で、縮さんの同期です。
「由さん、さっきの異常な熱さは何ですか?もしかして由さんが原因ですか?」
「ううん違うよ?俺はその熱から皆を守ってるんだ。何ならその為だけに呼ばれたまである…」
なんかちょっと面倒くさそうだ…。まあもう十九時位だろうし…気持ちはわかる…
よく周りを見ると広範囲に永気で作られたと思われるドームが張られていた。これは見覚えがある…確かに由さんの能力だ。
見るのは二度目だがやはり能力の詳細が分からない。前は永刃が体をすり抜けたし、今は熱を全く感じない…。何だろう…由さんの能力…
「あのバカげた強熱は別の隊員の能力で、別に攻撃しようなんて意図はない。その証拠にほら、森を見れば分かるだろ?」
そう言われて森の方に目を向けると、あれだけ激しく燃えていた炎がどんどん弱くなっていく。みるみるうちに消えていく。
救助が駆け付けてから僅か数分で鎮火した。あれ程の大規模な火事をこんな僅か短時間で…先輩方は皆揃って化け物じみてるなぁ…
何はともあれ、ようやく緊張感から解放された気がした。ここに居る全ての受験者がそう思っている事だろう。
本当に散々な目にあった…。これで香位になれなかったら…なんかやるせないなぁ…
【第20話 救いの手 完】
救助到来、危機的状況は過ぎ去った! 次回に続く!
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