第19話 絶望
<戦いの技式>
第19話 絶望
突如として姿を現した【死を招く厄 不屑師団】と名乗る異能犯、“恐神 大知”。
三対一にも関わらず互角に渡り合う程の実力を持つこの男に勝つため、私は二人を集めて考えを共有する事にした。
「いきなりでごめんだけど、多分あいつの能力は【吸収】とかだと思う。さっき優美ちゃんの首を絞めてる時左手のところに永気が集中してたから、きっと能力の有効範囲は“手のひら”なんじゃないかな…?」
手のひらで触れ、触れた物や人から様々なものを吸い上げる能力ではないかと予想した。その場合出来るだけ接近せずに戦う事が望ましい。
だが“永気”も吸収出来るのであれば話は別。伊国の電撃で遠距離攻撃を仕掛けても、吸収されるんじゃ意味がない。永気の無駄遣いになってしまう。
私はそれを踏まえて二人に作戦を伝えた。ちょっと驚かれたけど確実に倒すにはこの方法が一番だろうと、強引に作戦を進めた。
「ガキ共がぁ…!ぶち殺してやる…!!」
作戦を伝え終わると同時に恐神もこっちを向いた。さっきよりも遥かに敵意剥き出しな表情はもはや鬼の様…。怖ぁ…
作戦を実行する前に、まずは確認しておかなければならない事がある。その為に伊国に合図を出して【飛電斬】を使ってもらった。
放たれた刃状の電撃は真っ直ぐ恐神に向って行く。この一撃で倒れてくれればすんなり戦いを終えられるのだが、やはりそう甘くない。
恐神は腰丈まである飛電斬を真正面から左手で受け止めた。そして徐々に小さくなっていき、最後は跡形もなく消えてしまった。
これで確定…恐神は永気も吸収する事が可能…。これで安心して作戦に移れる…。この戦いを制する事が出来る…!
「オラァ!!くたばりやがれクソ野郎が!!」
まずは優美ちゃんの攻撃で恐神の体力を削りながら注意を引いてもらう。その内に伊国の電気に適応を発動させておく。
それが終わった伊国は【轟破砲電】の準備に、私は身を隠しながら永気で限界まで回復を図る。
決定打には欠けるものの、あの恐ろしい異能犯と互角以上に斬り合えるとは…優美ちゃんも大概化け物じみている…
左手に掴まれないように警戒しながら鋭い攻撃をし続けているが、優美ちゃんにも疲れが見え始めてきた。次は伊国の出番だ。
優美ちゃんを退かせる為に、恐神に倒れていくように計算して樹を切断した。事前に伝えていた優美ちゃんは素早く身を退き、恐神は樹を受け止めた。
両手で受け止めた倒木を横に払った恐神に対し、伊国は溜めておいた轟破砲電を発射した。
予想通り恐神は倒木が原因で体勢が不安定になった。全身をのみこむサイズの電撃を前に、吸収以外の選択肢を塞いだのだ。
恐神は永刃を地面に刺して両方の手のひらで吸収にはいった。吸収しきれず直撃を食らって倒れて欲しかったが、少しずつ轟破砲電は小さくなっていく。
「カハハハッ!!分かる…分かるぞ…!これがお前らの全力…即ち最後の攻撃だ!!これを吸収し尽して、打つ手の無くなったお前らを一人ずつぶっ殺してやるぜぇ!!」
恐神の手のひらに永気が集中していってるのを肌で感じる。そうそれだ…その瞬間を待ってた…!意識の全てが轟破砲電に向くその時を…!!
吸収に集中して周りが見えていない恐神の前に、私は勢い良く飛び出した。作戦通り…轟破砲電を抜けて、最短で目の前に飛び出した。
普通なら電撃の力で弾かれる永刃を適応で守り、後は私自身が飛び込むだけで…死角から虚をつける…!
意識が飛びそうな激痛に必死に堪え、ただ一撃を食らわせる一心で気持ちを奮い立たせる。握る手に力を込める。
突然飛び出した私に恐神は驚きの表情を見せたがそれ以外に出来る事はなく、私は勢いそのままに永刃を密着させ、流れる様に刃を立てた。
「【閃新】!!!」
一撃を入れた私は直ぐに優美ちゃんに担がれてその場から離れた。そして今ので永気が乱れた恐神は、吸収しきっていない轟破砲電を受けた。
ほとばしる轟音がその威力を物語っている。全てを砲電しきったその場には、仰向けで倒れている恐神の姿があった。
なんとか倒すことには成功したが、こっちも痛手をもらってしまった。正確に言えば自分から貰いに行ってしまった…
「か…体が…、し…しび…シビビビ…、痺れて…痛い…!」
体が痺れて全く言う事を聞かない…。全身に小さな針を刺されているかの様な不快感…、意識が残ってるだけあってすごく辛い…。
「まさか本当に実行するとは…。正直あの作戦はめちゃくちゃでしたよ…?」
「あたしが言うのもなんだけど、お前も相当タフだよな…」
伊国の言う通り、確かにちょっと無謀な作戦だったかもしれない…。でもそのおかげで短期決戦に持ち込めたのは良かったのではないだろうか…?
実際周りの火の手はさっきよりも勢いを増している。長期戦になれば最悪の場合全員が焼け死ぬ可能性もあった。
一先ず力を合わせて恐神を拘束し、水場の近くに放置する事にした。水場ならそこまで火の手も強くないし、多分大丈夫…だろう…
それから再び旅客船に向かって歩を進めたが、炎上網が邪魔をしてそれ以上進めなくなってしまった。
そこで皆で話し合った結果、あまり火の手が強くなかった中央から南側の方に移動する事になった。とってもしんどいですね…
それからは異能犯と特に遭遇することもなく南側に入ったが、流石にもう全員息が絶え絶えだった…。
予想通り南側は火の手が全然なく、夜らしい闇が広がっていた。
「変だな…なんで南側だけ火を放ってねえんだ…?いよいよ目的がよく分からなくなってきたな…」
優美ちゃんの言う通り、奄仙島のほぼ全域が火の手に侵されているのに南側だけ無事なのは不自然だ…
「考えても仕方ありませんよ…。今はどうにかして救助を呼ばないと…」
そうは言っても打つ手がない。旅客船には戻れず、スマホは圏外で繋がらない。先に旅客船に戻れた誰かに期待するほかない…。
私たちは近くの岩などに腰を下ろして休憩をとった。枯れそうな永気を必死に練って傷を癒していると…
「あれ?優美ちゃん…いつの間にか永気出てない?元からだっけ?」
「あ?永気?なんだそりゃ?オーラみたいなもんか?」
まさか自覚がないとは…、初めて話したあの時に比べて見違える程の永気を感じる。戦いの中で成長したのかな…?漫画の主人公みたいだ…
もしかして能力も発現してたりして…いやないか…。ないか…?
「今はそんな事を話している場合じゃありませんよ…、これからどうします…?いつまでもここでじっとはしていられませんよ…?」
それはそうだけど…もう皆アグレッシブに動ける状態なんかじゃない。むしろ動いてはいけないレベルの重傷だ…。
異能犯と戦うことはおろか、長い時間歩く事もしんどい。敵が何人いるのか、救助がいつ来るのかも分からない。正直お先真っ暗だ…
ガササッ…
背後から耳に入ってきた小さな音。草木を分けて開けた場所に出てきた様な音…。慌てて逃げてきた感じには聞こえなかった…。
敵の可能性…!全員息を潜めて岩陰に隠れた。バレないようにこっそり音のした方に顔を向けた。
(あれは…子…供…?なんでこんなところに…?)
優しい月明かりに照らされたその少女は、この場に似合わない落ち着きを纏っている。それが明らかな異常であると、脳が訴えかけてくる。
あれが…あの少女が…、危険な存在であると…
「クソ…!あちこち生い茂っててうざイ…!だから森や山は嫌いなんダ…!むしゃくしゃすル…!」
怒りを抱いているからなのか、少女は無意識に永気を発している。距離はかなり離れてるのに、まるですぐ隣にいるかの様に感じる。
それ程までに圧倒的な存在感があった。“※ブチ切れ縮さん”の時と同じ感覚…、心臓を握られているような恐怖…。 ※第6話参照
ただただこちらに気付かず通り過ぎて行くのを願うしかない…。なのにだんだん嫌な予感がしてきた…これはまさか…?
「見つけたぞォォ!!ガキ共ォォオオ!!!」
上から聞こえた怒号に顔を上げると、月に重なった人影が真っ直ぐ落下してきているのが見えた。
皆で咄嗟にそれを避けたが、代わりに開けた場所に出てしまった。そして案の定、少女と目が合ってしまった…。
「追いついたぞォ…!テメェら全員、後悔するほど惨たらしく殺してやる…!!」
なんでここに恐神が…!?まさかもう意識が戻ったの…!?何が何でも早すぎるでしょ…!拘束も解いてる…ぎちぎちに縛ってた筈なのに…。
「テメェらのせいで溜め込んだ力全部消費しちまった…!この分はテメェらの命で払って貰うぞゴラァ…!!」
溜め込んだ力…、それも【吸収】の能力の一部って事か…!吸収したものを力に変換…、厄介な…
これで状況は文字通り最悪…またお先真っ暗な状況に逆戻り。もうさっきみたいな作戦は通用しないだろうし…どうしたものか…
「おいお前…!何でそんなに血が出てル…?何をしていたんダ…?」
「うっせえぞ!俺は今からこいつらを殺すんだ邪魔すんな!邪魔すんならお前も殺…す……ぞ…」
あれだけ怒りに飲み込まれていた恐神は、少女の方を向いた瞬間表情が強張り、永気がみるみる小さくなっていった。
肌で感じる永気からは、さっきまでとは違って恐怖の念が表れている。動揺しているからか、冷や汗がすごい出ている。何かが…おかしい…
「生意気な奴ダ…、もういイ…。もうお前はいらない…、お前はここで死ネ…!」
少女が恐神を睨んだ瞬間、空気が重く変化した。
目の前の世界が黒く真っ暗になっていく…。ただただ禍々しい永気がひたすらその場に溢れかえっていた。
(なんだ…これ…。もう…どうやっても覆せない…。生物としての…次元が違う…、何もかもが遥かに段違いだ…)
少女は静かに足を前に出して恐神に近付いていく。恐神もまた私と同じで、恐怖に縛られてまともに動けていない。
「ちょ…ちょっと待ってくださいよ…!俺は…俺は“不屑師団”ですよ…!?【死を招く厄】の仲間…」
そこで恐神の言葉は途切れた。少女は一瞬で視界から消え、代わりに目の端に移ったのは、大量の血しぶきだった…
肉を無理やり突き破る不快な音が鈍く響いた。ドサッと膝を付いて倒れた恐神は、地面に血を広げるだけで動かない。
「“不屑師団”の分際で仲間ダ…?自分が何者かも分からない愚か者メ…」
うつ伏せで倒れる恐神の首から乱暴に短剣を抜いた少女の眼は、一切曇りのない澄んだ眼をしていた。それが一層恐怖を増幅させた。
「さて次はお前らだガ…、ムカつく奴を殺して正直もう満足しタ…。どうしたものかナ…逃がすか殺すカ…」
私たちの命はもうこの少女の手のひらの上だ。死ぬも生きるも気分次第…。それに抗う事すら、私たちには出来ない…。
「殺しておくカ。いずれ厄介な敵になるかもしれないしナ」
終わった…ここが私たちの最期なのか…。その考えが頭に浮かんだ瞬間、不思議と心音は静かになって呼吸が整ってきた。
これが死を悟るって感覚なのかな…?死を前にすると冷静になるって本で読んだ気がするけど、まさか本当だったとは…
少女はゆっくりとこっちに体を向けた。そして一気に私に向かって距離を詰めてきた。
体を強張らせて目を閉じた。色んな感情が溢れてくる。目の前に色んな景色が浮かんできた。これが走馬灯か…
(ごめんなさい…縮さん、桃乃さん、伊敷さん。穂岬先生、クラスの皆、そしてお母さん…ごめんなさい…)
ドスッ!という音が耳に入ってきた。どこを刺されたのかも分からない…刺されたのかすら分からない…。
それどころか確実に刃が突き刺さってであろう音はしたのに…、まったく痛みを感じることがなかった。
何が起こってるのか確かめるために恐る恐る目を開くと…、私の前に誰かが立っていた。優美ちゃんでも伊国でもない誰かの背中。
どこかで見たような気がする後ろ姿、そして頭部に目を向けると紐のようなものが見えた。あれは…眼帯…?
「なんだお前ハ…!何者ダ…!!」
「私か?私はただの、密航者だ…!」
【第19話 絶望 完】
眼帯の隊員再び!絶望を晴らせ! 次回に続く!
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