第18話 【死を招く厄】
<戦いの技式>
第18話 【死を招く厄】
島の中央は他の場所に比べて標高が高く、崖の上からは旅客船が見える。そしてそれと同時に燃え盛る森が視界に入ってきた。
日が暮れて薄暗い空が広がる中、不自然なまでに明るい炎が思考を遅らせる。立ち上がる巨大な黒煙が、明らかな異常を伝えている。
「なに…これ…!?一体…何が起きてるの…!?」
「詳しいことは何も知らねえ…。急に数十人の変な奴らが現れて、火を付けたり斬りかかって来たりしてきたんだ…!」
これも試験の一環なのだろうか…?それにしては明らかに今までと違いすぎる。死ぬ可能性がある程危険な試験ではあるが、今までは説明はしっかり伝えられていた。
今回のこの炎上騒ぎは何か違う。それに何より、さっきから嫌な予感が止まらない…。得体の知れない何かが島にいる…。
「ここで黙って見ている場合ではありませんね…。何とかして救助を呼ぶか、自力で旅客船に戻らないと危険です」
「でも救助を呼ぶったってどうにも…、あ!優美ちゃん優美ちゃん!もしかして信号拳銃まだ使ってないんじゃない?そうなら助けを呼べるよ!」
どれだけ血だらけになっても助けを呼ばずに戦う優美ちゃんなら、きっと信号拳銃も未使用なのではと考えた。事実今も血まみれだし…
「確かにあたしのは使えるけどさ…、こんなに黒煙が上がってるんじゃ気付かないんじゃないか?せめてもう少し近付かないとさ…」
それもそうかもしれない。それに他の受験者も同じ事を考えているなら、もっと北側に移動すべきだろう。
私たちは話し合って旅客船に向かう事にした。だが火の手が思いの外強く、水場の多い西側を通る事にした。
何も起きなければいいと強く願うが、嫌な予感が少しずつ強くなっていく…
<船上 モニタールーム>
「何が起きるんだ!?何で熊澤さんは電話に出ない!?」
モニタールームに居た滝嶋と古塚もまた、突然のこの事態に混乱していた。
「おいこれ見てみろ!こいつらが森に火をつけて回ってやがる!何者なんだこいつらは…、一体どこから現れやがった!?」
北側のモニターには松明を手に持って森に火をつける十数人の男女が映っていた。しかもそれだけではなく、他のモニターにも同じ様な光景が映し出されていた。
端の方から中央に向かって火をつけている謎の集団は腰に永刃らしき刀を身に着けており、目的不明な異能犯であることを証明している。
「お前はここに残って受験者に今起きている事をアナウンスで伝えろ!俺はこいつらを拘束しながら熊澤さんを探しに行く!」
滝嶋は傍に置いていた永刃に手を伸ばし、熱から身を守る為に上着を羽織って背後を振り向こうとすると…
「それは困りますねぇ…。我々の目的遂行の為にも、貴方方にはここに残っていただかなければ…」
二人が振り返ると、扉の前には仮面を着けた人物が立っていた。永刃は抜いておらず、直ぐに斬りかかってくる様子はない。
「L-gst関係者じゃないな!?誰だお前は、名乗れ!」
滝嶋と古塚は同時に永刃を向けて永気を放つ。それを前にしても仮面の男はどこか余裕があり、冷静に会話を続ける。
「どうやらまだ我々の名はそこまで浸透していない様ですね…、まあいいでしょう。我々は【死を招く厄】…、これよりこの島に死を招く者です」
(【死を招く厄】…?そう云えば熊澤さんが前に言ってたような…、東京に急に現れた犯罪者集団だとかなんとか…。こいつらがそうか…)
永刃を握る手に力が入る。眼前の敵の存在に加え、受験者に迫る危機が二人を焦らせる。そして古塚が一気に間合いを詰めて攻撃を図る。
古塚が近付いているのにも関わらず、男は一向に永刃を抜こうとしない。やがて完全に永刃が届く距離まで近付き、大きく振りかぶった。
「ふぅ…血の気の多い方ですね…。“莉燔”、後は頼みましたよ」
「言われなくても分かってル!私に命令するナ!!」
男の背後から突然姿を現したのは小柄な少女。赤い帽子に青い服、おでこには小さなお札が貼られており、キョンシーの様な風貌をしている。
突然の事に一瞬体を硬直させて見つめる古塚に、少女は何の迷いもなく素早い動きで首に短剣を突き刺した。
抑える手の間から止めどなく溢れる鮮血が、床の一部をどんどん真っ赤に染めていく。落ちるように膝を付いて、やがて力なくその場に倒れた。
一秒にも満たないほんの僅かな時間で起きた衝撃的な光景を前に、滝嶋は啞然として動けなかった。倒れた古塚の眼は生気を失い、人形の様に動かない。
「次はお前ダ…。大人しくしていれば痛い目にも合わないで済むゾ…?」
「悪いけど仕事柄そうも言ってられなくてね…!君をここで拘束させてもらう…!」
全身から発している永気を操作して永刃へ流していくと、みるみるうちに形が変わっていき、刀の形だった永刃は鎌に変化した。
滝嶋は自分の背丈と同じ位の大きさの鎌をぶんぶん振り回して機を窺っている。
「【形状変化】か【鎌化】か…、いずれにせよ下らない能力ダ…!そんなもので私を捕まえられると思っているのカ…?」
目の前で鎌を振り回しているにも関わらず、一切怯むことなく威圧感を放って近付いていく。コツッ、コツッと距離が縮んでいく。
鎌の間合いに入った瞬間、滝嶋は一歩足を前に出して少女の脚に狙いを定めて鎌を振った。風を切る音が遅く聞こえる程の速度で振られた一撃は正確に脚を捉えていた。
だが少女は表情一つ変えずにこの攻撃を跳んで避けた。振った勢いで体が後ろを向いてしまった滝嶋の背中に、少女は短剣を素早く三回突き刺した。
広がる激痛に歯を食いしばりながら鎌に永気を流し、槍に変形させた永刃を背後に勢いよく突き出した。少女は小さな刃の側面でそれを受け止めて後ろに跳んだ。
(噓だろ…!?あんな短剣で今の突きを防いだのか…!?ありえないだろそんなの…)
的確に鎌を避けた動体視力。背中を三回突き刺し、その上で意表を突いた攻撃を受け止めた反射神経。常人離れのその能力に、少しずつ焦りが生まれ始めた。
「所詮こんなものカ…。程度が知れたナ…もう終わりにするゾ…!」
少女は上着のポケットに手を入れて三枚のお札を取り出した。お札には読めない文字が書かれており、はっきりと分かるのは「5」と書かれた数字だけだった。
それを宙にばら撒くと、お札は落ちることなく空中で止まった。お札は不自然にひらひらしながら狙いを定める様に動いている。
少女が手を前に出すと同時に三枚一斉に滝嶋目掛けて飛んでいく。槍で一掃しようと横向きに振るが、お札はひらりと避けて体にくっつく。
剥そうとお札に触れるも、引き剥がせない力でくっついて離れない。次第にお札に纏っている永気が爆発的に増大し、お札はいきなり消失した。
そして少女も同じ様に、何が起きたのか理解が追いつかない滝嶋の目の前から一瞬で姿を消した。そしてドスッ!という鈍い音が鳴った。
そこで滝嶋の目の前は光を失った様に暗くなり、次第に音や感覚も無くなっていった。背後から首を一刺し…、喉を貫通しての即死だった。
二つの死体を前にただ冷たい眼で見下ろす少女は、短剣についた血を払って部屋を後にした。その場には、静寂と血の匂いと死体だけが残された。
廊下を抜けて階段を上がり、甲板に出た少女は男の隣に並んで立った。
「どうでしたか莉燔?L-gstとの戦いは…?」
「所詮あんなものかって感じだナ…。正直ガッカリしたゾ…」
大きなため息を付いて退屈そうな表情を浮かべる。
「まあそう気を落とさず。それよりこれからどうしますか?我々の仕事は終わったので私は小型船に戻りますが、貴方はどうします?」
「さっきのガッカリのせいでストレスが溜まっタ…。私は島の中で二~三人殺してから戻ル。先に戻って待ってロ…!」
そう言い残して少女は燃え盛る島の砂浜に飛び降り、炎上網に飛び込んで見えなくなった。
<島内 西側>
「誰だお前!いきなり斬りつけて来やがって!!」
優美ちゃんと合流して西側に移動していた私たちは、熱さに耐えながら川を見つける事に成功し、川を辿って北側に向かう途中だった。
突然岩の陰から姿を現した男は、目が合った途端に近付いて永刃を振り下ろしてきた。咄嗟に背後に跳んで回避するも、優美ちゃんの右腕が少しかすってしまった。
「よく避けたじゃねえか!!今までの他の受験者とは何か違うなぁ!!いいぞもっとだ!もっと俺を熱くしてくれ!そして派手に死んでくれ!!」
筋肉が沢山詰まった体に狂ったように血走った眼、一目見ただけでヤバい奴なのが分かる。ていうか眼が!眼が怖い!子供だったら見ただけで号泣するレベル…!
しかも他と違うって言ってた…。他の受験者もこいつに襲われたのだろうか…?このイカれた異能犯に…!
「【死を招く厄 不屑師団】が一人、俺は“恐神 大知!自己紹介終わり!」
一方的に自分の紹介を終えた恐神と名乗る男は、地面を強く蹴って攻撃を仕掛けてきた。
単純な攻撃だった為に全員それを避けれたが、反撃に出られないプレッシャーの様なものを発している。むやみに反撃に出れば、命を落としかねない気がする…
四~五m離れた位置でも肌で感じられる程の永気が、すごい圧迫感を生んでいる。更には悪意や害意の様な意思すら感じた。
様子を見ながら攻めるタイミングを窺っていると先に伊国が仕掛けた。永刃を振り上げ、恐神目掛けて複数の稲妻を落とした。
地面に降り注いだ勢いで辺りに土煙が立つ。倒せないにしてもダメージ位は受けていて欲しいものだが…、果たして…
「カハハハッ!他と違うとは思っていたが、まさか能力所持者すらいるとはな!いいぞいいぞ、もっと俺を楽しませろ!!」
土煙を払った恐神はまるで効いていないかの様にぴんぴんしている。むぅ…、だからこういう戦闘狂の異能犯は嫌いなんだよなぁ…
だがそれを抜きにしてもほぼ無傷なのは頂けない…。あの永気量なら十中八九能力を使える筈だから、まずは能力を把握しないといけない。
でもゆっくり考えている時間は与えてくれない。恐神はまた斬りかかろうと姿勢を低くして飛び込む構えを作った。
伊国は電気を纏わせ、優美ちゃんは片手を空けて反撃と回避の両方の構えを取り、私は能力発動を狙って永気を増幅させる。
勢いよく飛び込んだ先は優美ちゃんだった。攻撃をなんとか受け止め、金属と金属が激しくぶつかり合う音が響いた。
自分より圧倒的に力のある恐神の攻撃を受けて吹き飛ばない事にも驚いたが、それどころか鍔迫り合いの状態から恐神を押しのけた。なんちゅう馬鹿力…
優美ちゃんと距離が離れたのを見逃さず、伊国も再び稲妻を降り落とした。だが簡単に後方に跳んでそれを躱した。見かけによらずかなり軽快だ。
少し様子を見ていて分かったが、恐神は今伊国に意識を強く寄せている。不意を突かない限り電撃は一向に当たらない気がする。なんとか気を引かねば…
「伊国!私が接近戦で注意を引くから、何とかサポートお願い!」
伊国に補助を託して真っ直ぐ恐神に走って行く。分かりやすく動けば動く程、警戒する為に私に意識を向けなければいけないだろう。後は上手くそこを突いて欲しいが…
距離をどんどん詰めていくと、左側から優美ちゃんも近付いて来ていた。これで二対一で接近戦を仕掛けられる…!意識もかなり分散させなきゃいけないだろう。
私は素早く永刃を振り、優美ちゃんは馬鹿力でゴリ押し、生まれた隙に伊国が【飛電斬】で攻撃する。このまま押し切れそうな流れだったが…
突然恐神は左腕を伸ばして優美ちゃんの首を締めた。如何に力が強くても急所を突かれては満足に抵抗出来ず、徐々に顔色が悪くなっていく。
救出しようと左腕を狙ってみたが防がれ、押し負けて後ろに飛ばされた。伊国も下手に攻撃が出来なくなり、一気に流れが悪くなった。
早くしないと優美ちゃんが殺される…。だからと言って焦って行動すれば、最悪の場合全員が死ぬ羽目になってしまう…。
「どうしたお前らぁ!来ねえとこの女が死ぬぞぉ!!それとも見殺しにして逃げるかぁ?どうすんだよおいおいおい!!」
そんなの助けるに決まってる…!だが手段を誤る訳にはいかない…!どうする…どうする…、考えろ…考えろ…! って、ん…?
何やら恐神の様子がおかしい。さっきまでは片手で余裕そうに優美ちゃんを掴んでいたのに、突然両手で絞め始めた。だが表情には焦りの様なものが見えた。
「なんだ…この女…!急に…力が増してやがる…!うおォォオオ…!!」
「ボキッ」という嫌な音と共に恐神は雄叫びの様な悲痛な声を上げた。解放された優美ちゃんは首を押さえて苦しそうにせき込んでいる。
悲痛な声にあの鈍い嫌な音…、ま…まさか骨を折った…のかな…?どれだけ規格外の馬鹿力してるの優美ちゃん…?
「ゴホッ…ガハッ…!くそ…、お前ら気を付けろ…!あいつの手のひらが何か変だ…!力を…吸われた…!」
力を吸われた…?それが恐神の能力なのだろうか…?もしそうならかなり有利になる。手のひらに気を付けておけばいいのだから。
恐神は折れた左手首の痛みで動きが止まっている。攻めてもいいが、大抵この場合即カウンターを狙ってくる可能性がある為、私は一度二人を集めた。
そして相手に聞こえないような声で二人に私の考えを伝えた。数的有利があるとはいえ、全員ぼろぼろの状態では長期戦が不利になる。
この作戦で恐神に勝たねばならない…でなければ負ける…。成功するかは分からないが、何とかしてこの窮地を抜け出す…!
何としても突破口を見出して、三人で旅客船に戻る…!
【第18話 【死を招く厄】 完】
三人で招かれた死を払え!! 次回に続く!
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