第17話 善戦健闘
<戦いの技式>
第17話 善戦健闘
「まだ立ち上がってきますか…。いいでしょう…!もう二度と立ち上がる気が起きないように、徹底的に潰してあげましょう…!」
伊国の永気がバチバチと音を立て始める。正真正銘、これが最後の反撃になるだろう。ここで全てを出し切る!
伊国は手に電気を集め、早速攻撃を仕掛けてきた。さっきよりも広範囲な電気の網を永刃で切り裂き、私は一度後ろに跳んで距離を取った。
そして樹の影から樹の影へと移動しながら、伊国の周りをぐるぐる回る。攻撃のほとんどが広範囲な伊国の【電撃】なら、こうするのが一番得策だろう。
「飛電斬!」
次に伊国は永刃に電気を集め、私に向かって永刃を振った。纏っていた電気は刃のように形を変えて、すごい速度で飛んだきた。
だがやはり私の読み通り、木々が邪魔をして私には届かない。刃の形になったのでもしやと思ったが、太い樹が切れることはなかった。
樹をなぎ倒す様な力がない事を確認した私は、次の樹に移る過程で永刃を振った。回っている間に適応させていたから、大木は簡単に切れた。
突然自分に向かって倒れてくる樹に対し、伊国は一瞬動揺したような表情を見せたが、直ぐに能力を使って対処に出た。
【上向稲妻】とかいう技で倒れてくる樹の向きを変えた。流石に対処するまでがかなり速いが、ほんの少し意識が私から外れた。
「…! しまった…!今のに意識を向けすぎた…!」
私は樹の陰に隠れて息を潜めている。位置的には伊国の背後、反撃に出るには持って来いの位置取りだ。
私は近くに落ちていた小石を拾い、様子を窺って向こうの樹にぶん投げた。伊国がどこを向いているかは、永気の流れで何となく分かった。
コツッ!と小さな音が鳴り、伊国は直ぐに音の出た方に体を向けた。その瞬間に私も樹の陰から飛び出した。
縮さんから教わった、低い姿勢で音を消す歩行術。伊敷さんから教わった、心音を小さくして存在感を薄める隠密術。そして桃乃さんから教わった、あの剣術…!
私が近付いている事に気付いた伊国は振り向きざまに永刃を振ってきたが、気付かれることも頭に入れていた私は簡単に避けられた。
桃乃さんから教わったこの技は、剣の間合いの遥か内側、ほぼゼロ距離の状態で使える技だ。
日本刀とほぼ形が同じな永刃は、間合いの内側に入られると抵抗が出来なくなると桃乃さんが言っていた。つまり伊国は、この攻撃を防げない…!
刃を相手の体に押し当て、そのまま流れる様に体をしならせて前に動く。私が初めてものにした、桃乃さんの技…!
「【閃新】!!」
大きく斜めに伊国の体を斬りつけた。これが初めてのまともな攻撃だったが、同時にこれが最も大きな傷になった。
斬られた伊国は血を吐き、少し身をかがめながらこちらを振り返った。私はもう限界…、今ので倒れないなら私の負けだ…
「はぁっ…はぁっ…。まさかここまで追い込まれるとは…思いませんでしたよ…」
今の攻撃で、どうやら向こうも限界が近付いているようだ。私には願う以外に何も出来ない。出来てもう一振りかそこら…、頼む…倒れてくれ…!
「僕にも限界が見えてきました…。なのでこれで終わらせます…!この一撃に…僕も全て込めます…!」
伊国は右手を上に上げ、そこに永気を集め出した。今までのどの攻撃よりも多くの永気は、次第に巨大な電気の塊へ変わっていった。
適応の力を以てしても、被弾せずに斬ることは不可能だろう。あの規模の攻撃を素早く避ける事も出来ない…。
「【轟破砲電】!!」
伊国は私に向けて強大な一撃を放った。どうあがいてもこの状況は覆せない。何かしら奇跡が起きない限り…
(…どうせ勝てないなら…最後にひとつ…やってやる…!)
ピカッ!と一瞬強い光が発し、その直後島中に轟音が響き渡った。鳥は一斉に羽ばたき、動物たちは慌てて辺りを駆け回った。
相手を探して彷徨う者も、戦っていた者も、島にいる全ての受験者が動きを止めた。何かとんでもない事が起きたと、誰もが理解した。
もう既に朝凪に意識はなく、うつ伏せで気を失っていた。そして朝凪を倒した伊国は、右肩を永刃で貫かれ、背後の樹に固定されていた。
「まさか…あの状態で反撃してくるとは…。恐れ入りましたよ…貴方のその覚悟に…」
伊国が放った攻撃に当たる直前、朝凪は最後の抵抗として、永刃を伊国に向かってぶん投げていた。
永気を纏わせた永刃は巨大な電気の塊に飛び込み、あらゆる影響を無視して突き進んだ。そして朝凪が被弾すると同時に、伊国もまた重い一撃を受けたのだ。
右肩を貫いたまま勢いは止まらず、そのまま背後の樹に深く突き刺さった。
そして朝凪が気を失うと同時に永気が解け、適応の力を失った永刃は大木の木目に引っ掛かり、抜けなくなってしまった。
「参りましたね…、今の衝撃で…永刃と一緒に信号拳銃も落としてしまいましたか…。抜ける様子もありませんし…、万事休すですね…」
伊国は倒れている朝凪に目を向けた。絶望的な状況下であっても諦めない朝凪の姿が、頭の中に浮かんでいた。
[ここで全力を出し尽くす!そしてお前を倒して、私は絶対に香位なる!]
[私はまだ負けてない…!私は異分子なんかじゃない…!]
[全力で、お前に挑む!!]
朝凪は常に本気だった、必死だった。伊国が自分よりも遥か格上の相手と知っていてなお、全力で挑み続けた。そしてそれは…、伊国も気付いていた。
「…こんな状況で僕の勝ちとは…、とても言えませんね…。貴方の頑張りに敬意を表して…ここは僕が退きましょう…。貴方の勝ちです…桧凪朝凪…」
そう言って伊国は立ったまま気を失った。
-少し前-
「熊澤さん、こっちです!」
朝凪たちが乗ってきた旅客船は、奄仙島の北側の海岸停まっている。白い砂浜が広がるその海岸は、バカンスにうってつけだ。
ところ変わってここは南側の海岸。北の方とは違い、ここは切り立った断崖と大きな岩があちこちに立ち並ぶ危険な海岸。
たくさんの岩々が複雑な海流を生み、快晴であっても波が高いこの海岸は、漂着物がほとんど流れ着かない場所だった。
「これが例の小型船か…。中に人は居なかったそうだが、他に気になる物はあったか?」
「中を隈なく調べたのですが、空のペットボトルが数本あっただけで他にはなにも…」
熊澤も一度船に入って中を調べたが、言っていた通り特にめぼしい物は何もなかった。そしてそれがより一層強い違和感を引っさげていた。
「不自然な程に何も無い…、まるで買ったばかりの状態だ…。こんなものが偶然流れ着くなんて事があるのか…?」
「可能性は無くはないですが、普通に考えればありえない事です。もしかするとこれは…」
熊澤もその可能性を浮かべていた。これが漂着物でないとすれば、何者かがこの島に侵入したことを表す。
そしてその存在は間違いなく害意を持っている。万が一にそれが異能犯であった場合、受験者が危険にさらされる。
そう言って熊澤は一旦小型船をそのままにして旅客船へ向かった。道中身を隠せそうな場所を探ってみたが、怪しい人影は見当たらない。
(探知式でも怪しい反応は無い…。俺の考えすぎか、それとも幡式を使えるレベルの異能犯が居るか…)
ゴオォォオオオオン!!!
口元に手を当てて考えていると、島中に轟音が響き渡った。
(なんだ今のは…、一体何が起きてる…?まさか本当に異能犯が…!?一刻も早く戻らないといけんな…!)
熊澤は全速力で旅客船の停まっている北へ向かった。ちなみにさっきの轟音は伊国の
【轟破砲電】が原因だが、熊澤はそれを知らない…
十数分走り続けていると、熊澤のスマホに再び電話が掛かってきた。画面を見ると、それはモニタールームに居る古塚からだった。
「もしもし熊澤さん?実はさっき島内を映す画面の一部が途切れちゃったんですよ。西側の方の画面なんですけど、熊澤さんちょっと見てきてくれませんか?」
画面が途切れる理由はいくつかある。カメラの故障、もしくはイイトカゲに取り付けたカメラが外れてしまうか。もしくは…
その原因を確認する為、急遽島の西側に移動することになった。
島の西側は比較的地面が平らで背の高い植物が多く、戦いやすい代わりに身を隠しやすい絶好の奇襲スポット。誰かが身を隠すにはもってこいだ。
熊澤は草木を分けながら画面が途切れた原因を探していると、それは簡単に見つかった。地面に転がっているのは壊れたカメラとトカゲの死体。
イイトカゲは戦闘に巻き込まれないように木に登っている為、誤って受験者に殺されるなんて事はかなり稀な筈だが…
「これは人為的なものだな…。レンズだけが壊れているし、トカゲも正確に急所をやられている…。これは本格的にまずいかも知れんな…」
壊れたカメラを拾い上げて状況を確認していると、背後の茂みからガサガサッ!と音がした。受験者かと思って振り返ると…
「な…!?なんだお前は…!!?」
-島内中央 17:50-
「う~ん…、ん…?あれ…?私なにして…?」
長い眠りから目覚めた様に頭がポケーっとしている。傷だらけの腕に重怠い体、ここまで目覚め悪いのは初めてだった。
「ようやく起きましたか…。僕のせいとは言え、まさか五時間起きないとは思いませんでしたよ…。途中死んだかとすら思いましたよ…」
声のする方にゆっくり顔を向けると、樹に張り付けにされてる伊国が居た。なんか私の永刃が刺さってるし…、何してんだろあれ…? ※ちょっとまだボケてる
「目が覚めたなら早く永刃抜いてくれます…?痛くてしょうがないんですが」
まだ頭が働いていないまま、あちこち痛む体を無理やり動かして伊国の傍に向かう。そして永刃に永気を纏わせ、優しくスーッと永刃を抜いた。
ようやく解放された伊国は膝を付いて肩を押さえている。流石にあの状態で数時間放置されれば体に堪えるものがあるのだろう…。
私も立っているだけでかなりしんどいので、同じ様にその場に座り込んだ。
「貴方に頼み事するのは余り気が乗りませんが…そうも言ってられませんね…。すみませんが貴方の信号拳銃で助けを呼んでくれませんか…?」
なんかちょっとムッ!としたけど今はスルーしよう。実際文句を言っていられる状況じゃないのは事実だから…
一先ず腰に装着していた信号拳銃に手を伸ばし、取り出して空に向けて引き金を引いた。引いたのだが…
カスッ!カスッ!っと音が鳴るだけで全く撃ち上がらない。おっと~?何だか嫌な予感がじわじわと広がってきたぞ~?
「うん…うん…これはあれだ…、壊れてるや…これ完璧に…。私のはダメだね、伊国のは使えないの?」
「僕のも落とした衝撃で壊れてました…。引き金部分が外れて使い物になりません…」
なるほど…これは参った。どっちも満身創痍の状態で助けが呼べないとは…、果たしてどうしたものか…。
私はポケットの中などを漁って使えそうな物がないか探ってみた。すると後ろポケットに包帯を見つけた。となればする事は一つ!
「伊国!包帯あった包帯!ほら、服脱いで!」
「とりあえず何故そうなったかの理由を話してくれます?」
説明中~説明中~
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「大体分かりました…。確かに僕の方が傷は深いですが、僕に気遣いは不要です…。貴方だけで使ってください…」
「はいはい、そんな事言わない言わない。無理は良くないんだよ?いいから早く服脱いで?せめて応急処置だけでも…」
その後も数分間同じ様に言い争い、最終的に伊国が折れて手当をする事になった。
先ずは胴体に包帯をぐるぐる巻いて手当を行う。それにしても酷いなこの怪我…、やったの私だけど…。
包帯を巻いていると徐々に辺りが薄暗くなり始めてきた。試験終了まで残り約一時間、「流石にもう戦えないな…」っと思っていると、伊国が口を開いた。
「何故貴方はあそこまで香位になる事に拘るんですか…?昇格試験は来年もあるでしょう…、そんなに血だらけになってまで目指す理由は何なんです…?」
「それは…どうしても修学旅行があるのと、先輩たちの期待に応えたいから…かな…?」
あと他に例を挙げるなら、私を悪く言った奴らを見返したいとかそんな感じ。まあこれは胸の中にしまい込もう…
「私もひとつ聞いていい?何でそんなに私の事を目の敵にするの?やっぱり私が特別処置待遇を受けてるから…?」
私がそう質問すると、伊国は俯いて口を閉じた。そのまま少し時間が過ぎ、小さなため息を付いて話し始めた。
「そうですね…手当のお礼に教えて上げますよ…。あれは…」
伊国には二人の友人がいた。生まれた場所も性格も違えど、共に同じ夢を追いかける「同士」とも言える存在が。
伊国は訓練学校でこの二人と出会い、毎日のようにL-gstの隊員を目指して切磋琢磨していた。
全員で試験に合格し、共に同じ支部の元で頑張ろうと誓っていた…。誰も掛けることなく道を歩もうと…。
だが現実はそこまで甘くない…。どんなに努力しようと、どれだけ強い想いを抱いていようと、一瞬で無下にされることがほとんどだ。
その日、三百名以上が入隊試験を受けたが、合格したのは僅か二十五名だけだった。
市民の平和を守り、時には命を掛けて危険な異能犯と戦わなければいけないとなれば、当然試験は難しくなるのは当然だ。
結局試験に受かったのは伊国だけで、他二人は無残に散ってしまった。
人間の心は脆いもので、たとえ誓い合った夢であっても、一度の大きな挫折で立ち上げれずに諦めていく者も多い。そして二人も同じだった…
二人は夢を諦め、切なさを背中に抱えたまま伊国の前から姿を消した。隊員になったと引き換えに、伊国は友人を失ったのだ。
「その後でしたよ…特別処置待遇の存在を知ったのは…」
先輩と鍛錬していたある日、一枚の用紙が支部に届けられた。それはL-gst側の責任で一般人に特別処置待遇を交附した事の報告書だった。
その時初めて伊国は「特別処置待遇」の存在を知り、同時に怒りにも似た感情が心の中に溢れていった。
それは次第に嫌悪へと変わった。特別処置待遇なんていうシステムに、そしてそれを受けて不正に入隊した者を嫌った…。
「僕が貴方を嫌う理由はこんなとこです…。何か事情があって仕方なく隊員になったのは知っています…、それでも…簡単に受け入れる事が出来なかったんですよ…」
顔は見えなかったが、伊国の声には哀しみが見て取れた。私は少し罪悪感を覚えながら、右肩の手当てに移った。
ある程度手当てが終わり、私も自分で怪我の部分を包帯で包んでいると、どこからか焦げた臭いが漂っていることに気付いた。
伊国の電撃でも同じ様な臭いがしていたが、今回のはそれとは違って四方八方から臭いが漂っている。そのせいで発生源がよく分からない。
すると奥の方の草陰がガサガサと音を立てだし、勢い良く誰かが飛び出してきた。
「朝凪、無事だったか!それに、げっ…伊国も…」
飛び出してきたのは相変わらず血まみれの優美ちゃんだった。よくもまあ…こんなゾンビみたいに血まみれになるものだなぁ…
「どうしたんですそんなに慌てて…?無事だったかって言ってましたが…」
「おおう、そうだった忘れた!大変な事が起きたんだ!とにかくあれを見てみろ!!」
少し高い崖の上に登って優美ちゃんが指差した方に目を向けると、森のあちこちに炎が広がり黒煙が上がっていた。
「なに…これ…!?一体…何が起きてるの…!?」
【第17話 善戦健闘 完】
ギリギリ掴み取った勝利!そして新たなる脅威が近付く! 次回に続く!
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