第16話 悪戦苦闘
<戦いの技式>
第16話 悪戦苦闘
「ここで全力を出し尽くす!そしてお前を倒して、私は絶対に香位なる!」
私は声を上げて自分に言い聞かせた。そうでもしないと、伊国の放つ威圧感と永気に気圧されて動けなくなりそうだから。
伊国は少しの間私を見つめた後、大岩から降りてまたこっちを向いた。嫌悪を抱いた冷たい目線が、私の心に少しずつ恐怖を溜めていく。
このままでは気持ちに押しつぶされると思い、私は足を前に出して一気に距離を詰めて斬りかかった。
上から思いっ切り振った初撃は予想通り防がれ、追撃を試みて攻撃するも、表情一つ変えずに余裕な素振りで躱されてしまう。
まるで動きの全てが読まれているかのように一切攻撃が当たらない。防がれるか躱されるかで一向に状況が変化しない。
私は一度攻撃を辞めて距離を取った。このまま無策で攻撃を続けても、当たらぬまま無駄に体力を削ってしまいそうだから。
「もうお終いですか…?まあ所詮貴方のような半端者では、僕に勝てるはずもありませんがね…」
どこまでも上から目線でものを言われるが、事実今のままでは惨敗する未来が目に見えている。どうにかしなくては…
「それじゃあ今度はこちらから行きますよ…?精々格の違いを、その身で味わうといい…」
そう言うと伊国の体はフッと力が抜けたように少し傾き、次の瞬間には私の目の前に移動していて、永刃を強く横に振った。
反射的に後ろに跳んで攻撃を回避したつもりだったが、右腕に痛みを感じ、目を向けると服の上から血が滲んでいた。
咄嗟の回避行動のおかげで傷は浅いが、もし追撃されていたらと考えると前に出れない。上から目線は伊達じゃないようだ…
「どうです…?力量差が嫌でも理解できたでしょう…?今無様に降参するなら、これ以上痛い目に合わずに済みますよ…?」
「悪いけどお断りだね!それにたかがこの程度で理解できる程、力量差だって離れてないしね!」
とかなんとか言って虚勢を張っているものの、力量差が離れているのは確実で、正直かなり勝ち目の薄い勝負なのは間違いない。
でもだからといって降参はしたくない。だってこいつ…、めっちゃ嫌いだから!
「そうですか…。それならば泣き崩れる程の痛みを与えて上げるので、存分に後悔してくださいね…!」
再び伊国は瞬く間に私との距離を詰めてきた。真横から永刃を斜めに振り上げて斬りつけようとしてくるのを、私はギリギリで躱した。今度は攻撃を受けてはいない。
そして予想していた通り、伊国は追撃を仕掛けてきた。
流れるように永刃を振り下ろしてくるのを、なんとか体に当たる前に受け止めた。重い一撃で体が沈み、脚と腰に負担が掛かる。
受け流す事が出来ずにいると、腹部を強く蹴られて少し後退した。
「どうしました…?こんなものではつまらないですよ…?もっと僕を楽しませてください…」
どうやら遊ばれているようで、凄まじい不快感に襲われた。絶対本気出せてやる…!その上で勝ってやるぅ…!
不快感をバネしてに真っ直ぐ突っ込んでいった。出来るだけ速く、鋭い攻撃をお見舞いしてやろうと永刃を振りかざすが、やはり余裕の表情で受け止められてしまう。
それどころか姿勢を崩されて蹴りを入れられる始末…。中々思うように攻めらず、かなり苦しい展開になっている。
カウンターを狙おうにも動きが速いせいでギリギリ防ぐのが限界だ。控えめに言ってかなり分の悪い戦いだ…
「…所詮この程度ですか…。力の差がどうたら言ってましたけど、期待外れですね…。もういいです…もう終わりにします…!」
伊国はまた一気に距離を詰めて永刃を振ってきた。今度はがっつり顔目掛けて振ってきた。なんとか体を反らして躱したが、そのせいでまずい事態になった。
体を反らしたせいで体勢が不安定になり、次の攻撃を避けることも防ぐことも難しくなってしまった。そして案の定伊国は追撃の構えをしている。
絶対絶命のピンチに陥った私は、そこで一つの考えが浮かんだ。失敗しても成功しても、伊国に一撃を入れられる方法を…。
伊国は永刃を真っ直ぐにして突きを繰り出してきた。私は持ち前の動体視力をフルに使って永刃の側面に手を当てて軌道を変えた。
予想では今ので完璧に攻撃を受け流せた筈だが、不安定な姿勢のせいで力がしっかり伝わらず、左肩に刺さってしまった。
呼吸を忘れる程の激痛に襲われ、永刃から手を離してしまった。それでも私は叫びだしそうなのを必死に堪え、両手で伊国の手を掴んだ。
歯を食いしばって痛みを我慢し、体をしならせて伊国の顔面に蹴りを一発入れた。
不意をついた攻撃に対処が遅れた伊国は体勢が崩れ、追撃の手が止まった。その間に傷を押さえながら落とした永刃を拾いに行った。
「まさかあの状態から攻撃してくるとは…、僕とした事が油断していましたよ…」
ぺっ!と口から血を吐き、私に敵意のこもった眼光を向けた。永刃が刺さっていたとはいえ、かなり良い当たりの蹴りだったのに、全然ピンピンしている。
だが少なからずさっきの攻撃は効いているのか、向こうも不用意に攻めては来なくなった。言い換えればより警戒度が増したってことだが…
いずれにせよ左肩に深手を負った以上、もう出し惜しみをしている場合ではなくなった。永気を増幅させて体全体に巡らせ、負った傷を少しでも癒す。
気付くと伊国も永気を発していた。理由は私と同じくダメージを回復させているか、それとも…
「貴方の、その香位になろうとする覚悟を舐めていました…。その覚悟に敬意を払い、ここからは全力で、貴方を負かすことにしましょう…!」
さっきよりも格段に多くの永気を放ち、それは今までに戦った人たちとは比べ物にならない程の圧だ…
私もそれに応えるように、無意識に永気を全開にした。恐らくここからが本当の戦いになるだろう。
しばらくじっと向かい合ったまま構えていると、また伊国の体がゆらっと傾いた。変わらず物凄い速さだったが、ようやく目が慣れてきた。
正確に攻撃を防げる場所に永刃を置いて構えていたその時だった…。何か嫌な予感が全身に走った。鳥肌に似たゾッとするような嫌な予感が…
私は永刃で受けるのを辞め、回避する方向に切り替えた。脚に力を込め、体重を後ろに傾けて後方に跳んだ。
その直後、私の嫌な予感は的中した。伊国の永刃に纏っていた永気が突然青い光を放ち、バチバチと音を立てながら虚空を通った。
それはまるで生きているかのように形を変えて青白く発光している。それはまるで雷のようだった。
「よく避けましたね…。今ので決めきるつもりだったのですが…」
詳しい内容までは分からないが、恐らく気功系の能力だろう。もしそれが合っているなら、能力は見た目のまんまの筈…
青白い光に形を変える線のようなもの、そしてバチバチという低い音。伊国の能力は電気にまつわる類で間違いない。
「隠す必要もありませんし、僕に一撃を入れた貴方に敬意を表して教えて上げますよ。これが僕の能力【電撃】です。」
やっぱり予想通り、きっと能力派統も合っている。となれば、警戒すべきは相手の永気の動き全てだ。あの膨大な永気全てが、いつでも電になりえるのだから…。
私も必要最低限の永気を体に残し、残りの永気を全て永刃周りに集めた。なんとか電に触れられれば、ある程度あの稲妻の危険度も下がるだろう。
なんとか適応させようと隙を窺っていると、伊国は電気を稲妻のように変化させて永刃に纏わせ始めた。バチバチと光りながら凄まじいプレッシャーを放っている…。
自分から攻めに行くのをかなり危険と判断した私は、向こうの出方を見ながらじりじりと近付こうとすると、伊国に動きがあった。
私とはまだ距離があるというのに永刃を構え、鋭い眼光をこちらに向けている。それにただならぬ何かを感じた私は歩を止めた。
その直後伊国は永刃を私に向けて振り上げた。振り上げた永刃は、纏わせていたを真っ直ぐ私の方へ向けて飛ばしてきた。
だがこれはかなり好都合で、今永刃で触れられれば能力を発動させられる。でも万が一受け逃したりすると一気に敗北が近づくことになる。危ない賭けだ…
上から降り注ぎながら全身してくる稲妻に、全神経を集中させながら受けの姿勢を整えた。しっかり落ちてくる場所を見極め、私は下に潜り込んで永刃に稲妻を合わせる。
稲妻は見事に永刃の上に落ち、これで適応を発動させられると思った瞬間だった…
「うぐぅ…!体が…動かない…!?」
永刃に落ちた稲妻はそのまま腕を伝って身体中を走り抜けた。私はその時、自分の能力の解釈を間違えていた。
私の適応は触れたあらゆるものに適応出来る能力。それ故に、永刃に稲妻が触れた瞬間に適応出来ると思い込んでしまっていた。
だが実際はそうではなく、適応にはタイムログあるのをすっかり忘れていたのだ。
私の適応には、使用から発動までに順序がある。
①永気を永刃周辺に纏わせる
②その状態で適応させたいものに直接触れる
③適応発動
大まかに分けてこれらの順序があるのだが、②から③に移行するまでには一・二秒程時間が掛かり、その僅かな間は適応の力が働かない。
私はそれを忘れていた…。結果として適応しきる前に稲妻が全身を走り抜けてしまったのだ。思わぬダメージに少し動揺してしまった。
そして伊国はその隙を見逃さずに距離を詰めてきた。適応させて戦いを有利に進めるつもりが、状況は更に悪い方向へと進んで行ってしまった。
なんとか伊国の攻撃を防ごうとするが、まだ痺れが残っていて上手く体を動かせない。私は永刃で攻撃を受けたが、受けきれずに脇腹を斬られてしまった。
追撃しようとこちらを向いた伊国に対し、私は歯を食いしばって痛みに耐えながら永刃を振り、追撃を阻止した。
決死の抵抗のおかげで伊国は一度離れていったが、また永刃に電気を集めている。
最初に負った小さな傷は恐らくもう治りつつあるが、左肩と左側の脇腹の状態が良くない。長期戦はもはや不可能だろう…
そう感じた私は後の事を考えず伊国に向かって走っていった。時間が経てば経つほど不利になって、勝ちが遠のいてしまうからだ。
だがそう簡単に近付ける筈もなく、伊国は再び電気を纏わせた永刃を振り上げて稲妻を落としてきた。
「【下向稲妻】!」
さっきよりも多くの稲妻が地面に降り注ぎ、伊国への道を塞ぐ。それでも止まれない私は走りながら稲妻に向って行く。
避けられるものは最低限の動きで躱し、躱しきれないものは永刃で受け止めた。降り注ぎ続ける稲妻を斬りつけながら近付くと、伊国は次のアクションに出た。
身をかがめ、永刃を地面すれすれに振った。永刃から放たれた電気は木の根のように地面を張って近付いてきた。
降り注いでいた稲妻を全て受けこなし、地面から近付いてくる電撃を上に跳んで回避した。
「そう来ると思っていましたよ…! 【上向稲妻】!」
木の根のように広がっていった電気の至る所に丸い塊のようなものが出現し、その直後地面から空に向けて無数の稲妻が昇ってきた。
「噓…!まずい…!」
私は空中で姿勢を変え、下からの攻撃に永刃を合わせた。なんとか防ぐことは出来ているが、空中では攻撃を躱すことが出来ない為、永刃を振り続けるしか選択肢がない。
素早く永刃を振って防げば防ぐほど、肩と脇腹の傷が痛んで出血が止まらない。少しずつ限界が近付いて来ているのが分かる…
痛みを必死に耐え、なんとか私は全てを受けきって地面に降り立った。しかしそこで激痛に耐え切れず片膝を付いてしまった。
「よくあれを受けきりましたね…?でもその頑張りもどうやらここまでのようですね…」
伊国はゆっくり歩いて私に向かって距離を詰めてきた。
ここでチャンス到来!きっと伊国は油断して近付いて来ている筈だ。私はギリギリまで引き付けて、勢い良く斬りかかった。
「【超低電網】」
斬りかかった直前、薄い網の様なものが伊国の手から放たれ、私の身体を通り抜けて行った。
直後全身に痺れが発生し、動きが止まってしまった。稲妻ほど強い痺れは感じなかったが、ほんの数秒動けない間に伊国に蹴られて後ろに飛ばされた。
「そう来ると思っていましたよ…。もう降参したらどうです?貴方は十分よくやりましたよ…、異分子の割にはね…?」
私は地面に横になったままでいた。傷が強く痛む…、体が動かない…。自分の永気が少しずつ弱まっていくのが分かる…
(もう…降参してもいいって…思えてきたな…。痛い…辛い…、そして痛い…)
心の中に諦めが広がっていく。先の事が全てどうでもよく思えてくる。永刃を握る手から力が抜けていく…
どうする事も出来ない力の差を前に、私の闘争心が消えかかった。そんな時、ふと頭の中に色んな人たちの顔が浮かんだ。
(縮さん…桃乃さん…伊敷さん…、私もう…ダメかもしれないです…。あんなに色々尽くしてくれたのに…、ごめんなさい…ごめんなさい…)
体がどんどん重くなっていき、意識も少しずつ霞んでいくのを感じた。今の私には…、ここが限界だという事なのだろうか…
[朝凪ちゃんが合格するって信じてるから!]
諦めかけた頭の中に、縮さんの激励の言葉がふっと浮かんだ。
(そうだ…まだだ…!まだ諦めるわけには…いかないんだ…!信じて貰ったんだ…信じられてるんだ…、私はまだ…負けてない…!)
解きかけていた永気を再び増幅させ、私はゆっくり立ち上がった。
もう私にはほとんど戦っていられる時間がない。体力や永気量からしても、もってあと数分で私は動けなくなるだろう。
ここからはさっきよりも激しく攻めなければ勝てない。もう傷の心配をしている場合じゃない。ここからが本当の正念場だ。
「私はまだ負けてない…!私は異分子なんかじゃない…!私は…東京第三支部所属の、桧凪朝凪だ!!全力で、お前に挑む!!」
【第16話 悪戦苦闘 完】
まだ戦いは終わっていない!託された想いを背負って刃を振るう! 次回に続く!
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