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戦いの技式  作者: 叢月
香位昇格試験編
15/76

第15話 激戦日

         <戦いの技式>


         第15話 激戦日

昇格試験三日目_現在時刻10:00。


試験開始から三時間が経った今、私は既に受験者四人と戦い、その全てに勝利していた。


四人に勝ったと言っても、全く心に余裕が出来ない。冷静に行動しているつもりでも、頭の中から焦りが消えない。


それは他の受験者も同じなのだろう。今日出会った四人も、より多く点数を稼ごうと戦いを急いていた。


「流石に疲れてきた…。少し休みたいけど、不安だからなあ…」


試験が始まる前、熊谷さんは()()()()()()()()()事を私たちに伝えた。今日の試験終了時間を二時間増やした十九時まで行うと。


二時間延長…、考えるだけでめちゃくちゃ気だるく感じるのは私だけではない筈…。だが逆転を狙うならこれ以上ないチャンスという訳だ。


「…もう少し頑張ろうか。せめて正午までは戦い続けよう」


獣道を歩いて受験者と遭遇するのを待つ。昨日に比べて全員活発に行動しているのか、信号拳銃の音が頻繫に聞こえる。


出来れば刺客を避けながら上位十名(優美ちゃん以外)と戦って勝利したい。と言うかそれぐらいでしか希望が見えない。七十九位だよだって?


ただこの広い島の中で狙いに遭遇するのはかなり難しいだろう。作戦を立てずにただ練り歩くだけじゃきっと時間の無駄になる。


なので私は出来るだけ騒がしい方に向かって移動している。何故なら上位者を狙っているのは私だけではない筈だから!


きっと大勢から狙われる上位者の周りはなんかこう、すごい騒がしい筈だから…。


なので必死に聞き耳を立てながら島内を進んでいる。そして大体数分間そうしていると…


突如私に影が掛かった。このパターンは二人目の時と同じで、樹の上から様子を見ていた受験者の奇襲だ。


直ぐに永刃を上に構えて死角からの攻撃を防いだ。相手の番号は18番、狙っていた上位者ではなかった。


相手は無言で即座に斬りかかって来る。向こうも焦っているのか、永刃の振りがかなり甘い様に見えた。


本来ならば私よりも剣術は上な筈なのだが、焦りのせいで動きが単調になっているおかげで簡単に斬り伏せる事が出来た。


これで五人目。いいペースで点数を稼げているのではないだろうか。まぁ…、きっとまだまだ足りてないんだろうけどさ…


「にしても全然いないなぁ…。どこに居るんだろ?まさか隠れてたりして…」


隠れようと思えばいくらでも隠れられそうな広さだし、隠れてる人も何人かいそうなものだが…。ひとまずそれは考えないようにしよう。


今のところは大した怪我もしてないし、ほとんど能力も使ってないから永気もかなり温存出来ている。後は上位者と遭遇するのを待つだけだ。


だけどただ一人…、あの“伊国 零(いくに れい)とはあまり会いたくない。むかつくけど流石に一位とは戦わない方が賢明だろう。ばったり遭遇しない限り…


嫌な考えを頭に浮かべていると、右に二メートル離れた草陰で音が聞こえた。まさか…まさかそんなことが…?


草陰から勢いよく飛び出してきた相手に向けて、永刃を構えて反撃しようとすると…


「おわ!待て待て朝凪!よく見ろ、私だ私!」


「なんだ優美ちゃんか…、驚かさないでよ…」


ここにきて優美ちゃんとの遭遇。緊張で張り詰めていた心がほんの少しだけ緩んだ気がした。


昨日程ではないが、やっぱり優美ちゃんはあちこちに傷がある。二位ともなれば狙われてもしょうがないが、やっぱり目立ってるなぁ優美ちゃん…。


少し心に余裕が出来たのでちょっとだけ休憩することにした。私も優美ちゃんも試験開始から戦い続けていたから、もうへとへとだった…


「試験だからしょうがないんだろうけど、流石に狙われまくるのは骨が折れるな…。その感じだと、お前も結構戦ったんだろ?」


「うん…、まだ午前中なのにもう五人に襲われたよ…。なんとか上位者と戦いたいのに、この調子じゃ全然だよ…」


このペースで行くと昼過ぎまでに体力が限りなく減ってしまう。そうなれば満足に戦う事もかなわなくなって、最悪の場合手も足も出ずに負けてしまう。


「他の奴らも全員上位者を狙って動いてる。いっそどこかに隠れちまおうかな…」


なんか少し前にそんな事を考えた様な気がするが、どうやら現実味を帯びてきたぞ?


「そうだ、お前に良いこと教えてやるよ」


「良いこと?なになに?」




優美ちゃんと別れた私は島の中心に向かって歩いていた。中心に向かえば向かうほど木々が鬱蒼として、野生動物も多く見られるようになった。


何故中心に向かって進んでいるかと言うと、そこに上位者の何人かが居ると優美ちゃんに教えてもらったからである。


上位十名の内七名は程ほどに戦うつもりでいるらしく、ふらふらと彷徨う様に移動しているそう。優美ちゃんもそっちだ。


だが残りの人はそうではなく、むしろガンガン戦いたい考えを持っているとのこと。故に最も人が集まりやすい中心に留まって挑戦者を待っているのだろう。


それにしても自分から戦いを求めるとは…、どういう神経してるんだか…。とは言っても、今はそんな人たちにかけるしかない。


周囲に細心の注意を払いながら奥へ奥へと進んでいく。


しばらく歩くと、少し先の上空に発射された信号拳銃が見えた。位置的にかなり近く、私は直ぐにその場へ向かった。


木々を抜けて開けた場所に飛び出すと、やはりまだそこに居た。その場を後にしようとしていたのか、受験者は背中を向けていた。


私は直ぐに永刃を構えて永気を練った。相手の男も私の存在に気付き振り返る。番号は7番…、八位の人物だった。


「もう次が来たのか。今日はほんと良い日だな…!次から次へと練習台が現れる…!」


この人か…、優美ちゃんが言ってた戦い大好き人間は…。


「でもお前は今までの奴らとは違うな…。死角から不意打ちを仕掛けてこなかった。今も背後を取っていたのにも関わらず…、何故だ?」


「え…えっと~…、卑怯な真似が嫌い…だから…?」


こんな事を口にしたが実際は違う。実際はこの人を認識してから永気を練るのに、思ったより時間が掛かったせいだ。要は鍛錬不足だ…


「ふぅん…、まあどうでもいいけどさ。悪いけど手加減はしないからな…?不意打ちしとけば良かったなんて後悔するなよ…?」


「そっちこそ…、不意打ちされとけば良かったなんて思わないでね。負けた時の理由がなくなるんだからさ…!」




<船上 モニタールーム>


この部屋には、島のあらゆる所の光景が数十のモニターに映し出されている。島内で繰り広げられる戦いは全てこの画面に送られるのだ。


「流石に最終日ってだけあって、戦いのペースが速いっすね。中にはもう十人倒した受験者もいますよ?」


「予想通り、上位者が多くから狙われる結果になりましたね。これはかなり辛いだろうなぁ」


モニタールームには古塚(ふるつか)桂位、滝嶋(たきしま)桂位、そして熊澤(くまざわ)角位が戦いを眺めている。


ここで念の為にこの仕組みを説明しよう!広大な奄仙島には、知能が特別高い()()()()()と言うトカゲが無数に放たれている。


このトカゲは言語を理解する事ができ、様々な命令に従わせる事が出来るのだ。これにより、島内で人間を見つけた場合に可能な限り追尾を行ってくれる。


そして背中に取り付けられた小型カメラによって、島内の戦いをモニターに直接送っているのだ。ちなみにカメラは人感センサー付きの優れもので12000円。高いね。


「こうでなくては試験の意味がないからな。これからもっと白熱した戦いが起こる事を願うとこだが…、ん?」


モニター画面を見ていると、熊澤のスマホに電話が掛かってきた。それは刺客として島に送り込まれていた一人からだった。


「どうした、何かトラブルか? ああ…、ああ…、何? 分かった、今そっちに行く…」


そう言って熊澤は電話を切り、永刃を持って立ち上がった。


「悪いが俺は少し席を外す。何か異常が起こったら俺に連絡してこい」


熊澤はそう言い残してモニタールームを後にし、甲板に出て島に入っていた。熊澤は幡式を使い、物凄い速さで南の方へと進んでいく。それは船とは反対の方角だった。


森を真っ直ぐ抜けて最短で行こうとする熊澤の心に、一分(いちぶ)の不安が浮かぶ。嫌な予感が蝕んでいく…




「おらぁ!どんなもんじゃぁぁああ!!」


ボロボロになりながらも気合で八位に勝利にした。なんかやたら変な攻撃方法してきたせいでめちゃくちゃ苦戦したけどなんとか勝てた。


一先ず意識を失っている7番を安全そうな所に運び、信号拳銃を撃って直ぐにその場を離れた。正直私は連戦なんて御免だ。


目的だった上位者を倒すことに成功した私は、適当な場所に移動してお昼ご飯を食べる事にした。疲れた体に梅干しの酸味が染みますなぁ…。


一息ついてお米を頬張りながら、今の状況を頭の中で整理してみる。


そもそも一回の勝利でどれだけの点数が入るのだろうか?そして今の自分の点数はどれくらいなのだろうか…


せめて自分の点数と上位者の点数が分かれば、もう少し計画的に動けるというのに。色々と不明瞭な部分が多過ぎる様な…


そう考えてみると分からない部分が多い以上、何人倒しても安心できないんじゃなかろうか…?


「…また上位者探しに行こうかな…、もう一人位…」


おにぎりを食べ終えた私は、昨日医務室で手に入れていた包帯を使ってかるく応急処置を施して歩き始めた。


九位か十位を狙って戦いを挑みたいところだが、もう選りすぐりをしている状況ではないのかもしれない。


正午が過ぎ、試験終了まで残り六時間半になった。現在私は普通の受験者五人と上位者一人の合わせて六人を倒している。


「これがどれだけの点数になっていることやら…。ここでドカッと稼がなきゃダメかな…?」


低い枝をかき分けながら中央周辺をぐるぐる進んで行くと、突如どこからか樹が倒れる様な音が聞こえてきた。


音は右の方から聞こえていて、恐らくそこまで距離も離れていない筈だ。私は直ぐに音の鳴った方へ駆けて行った。


真っ直ぐ進んで行くと、とある臭いが微かに漂っている事に気付き、私は一旦足を止めた。


(なんだろう、何か焦げたような臭いがする…。もしやこの先に居るのって刺客なのでは…!?)


あまりに不自然なその臭いの元は、何かしらの()()なのではないか。もしそうなら不用意に進んで見つかるわけにはいかない。


受験者同士が戦っているのなら※漁夫の利を狙いたいところだが…、万が一刺客だった場合を考えて、ここはリスクを減らすべきだろう。 

         ※漁夫の利… 他人の戦いに乗じて、苦労なく利益を得ること


私は体の向きを変えて別の方へ足を動かした。正直今の今まで刺客の存在を忘れていた為、下手に動き回るべきではなかったのかもしれない…


戦っている人が逃げて来てもいいように、わざと草木が生い茂って所を抜けて、さっきの場所から少し離れた開けた場所に出た。


一先ずここから離れるように動きながら点数を稼ごう。そう考えながら一歩踏み出したその時…


突如背後に永気を感じた。見なくても分かる…、空間の一部分だけが別のものに変化したような独特な気配だった。


ゆっくり後ろを振り向くと、そこに居たのはあの伊国だった。大きな岩の上に立ちながら、こちらを睨み付けてくる。嫌な感じだ…


「また僕に挑みに来た受験者かと思いましたが、まさか異分子の貴方だったとは…。見ただけでテンションがここまで下がったの初めてですよ…」


思った通り嫌な感じだ、それはもうすっごく嫌な感じだ!また言った、また()()()って言いましたよあの男!なんかもう…クソめ…!


「大してやる気も出ませんが、貴方のような人でも点数は得られますしね。良かったですね、貴方のような異分子でも僕の役に立てるんですから」


(何なんだこの人マジで!この人本当に隊員なの!?※川嶺(かわみね)と同じかそれ以上に性格が悪いんですけど!!)   ※第5話参照


めちゃくちゃ頭にくるが、相手にされずに逃げられるよりかはましだ。一位のこの男を倒せば、上位に食い込む事も可能だろう。


幸い向こうも私と()る気だ。私は怒りを無理くり鎮めて、伊国に向けて永刃を構えた。


「どうやら戦う覚悟はあるようですね。無様に背中を向けて逃げ出すかと思いましたよ…?」


「予想が外れて残念だったね…!異分子だと思って甘く見てると、痛い目に合うしなんなら合わせちゃうよ…!」


そう言うと向こうも鞘から永刃を抜いた。他の受験者とは比べ物にならない威圧感と、刺客にも引けを取らない程の永気が、前に進もうとする私を阻む。


永気量は私よりも格段に上であり、確実に何かしらの能力を持っている。そして間違いなくこれが今まで一番激しい戦いになる。


一敗でもすれば試験合格が絶望になると、何となくそんな気がする。それと同時に、この戦いに勝てば十位以内に食い込める気がする…!


相手の放つ強者のオーラに気圧されて動かなかった体を強引に動かし、今まで抑えていた永気を増幅させて姿勢を整えた。


「ここで全力を出し尽くす!そしてお前を倒して、私は絶対に香位なる!」




【第15話 激戦日 完】

朝凪ⅤS伊国!更なる激戦の火蓋が切られる! 次回に続く!

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