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戦いの技式  作者: 叢月
香位昇格試験編
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第14話 危機

         <戦いの技式>


         第14話 危機

ぶっ倒すなんて言ったはいいもの、現状かなりまずい事態にあることに変わりはない。まずは何が起こっているのかを理解しなければ勝つことは出来ない…!


もう一度ほとんど動かない脚に意識を向けると、脚に弱い圧力が掛かっているのに気付いた。恐らくこれは永気だが、何故脚が動かないかまでは分からない。


「そらいくぞ受験生!死ぬ気で防げよ!!」


男の方を向きなおすと、空中で止まっている大木の内の一本が不自然な動きをしている。そして間もなくして、突然大木が私に向って真っ直ぐ飛んできた。


私は向かってくる大木に咄嗟に反応して、ギリギリで大木を切ることが出来た。おかげで衝突は避けられたが、かなりの速度で飛んできた大木の勢いは凄まじく、能力を駆使しても手にダメージがいってしまった。


「もう一本いくぞ!今度は防げれるかな?」


そう言うと再び大木が私目掛けて飛んできた。しかもさっきよりも速度が上がっている様に感じる。

手への負担も更に増すだろう…。


身構えようと不意に脚に力を込めると、動かなかったはずの脚が動くことに気付いた。纏われていた圧力を感じない事から、恐らく能力を解いたのだろう。


これでさっきと違ってしっかり踏み込みが効く、手への負担も少しは軽くなるだろう。そう考えて飛んでくる大木に永刃を振り下ろした瞬間、更なる違和感に襲われた。


「…!切れない!?どうして…、能力はまだ解いていないはずなのに…!?」


私の能力【適応】は、永刃に永気を纏わせている間だけ効果が発動し、永気を解除すると自動で能力が解けて今までに適応したことも全てリセットされる。


だから最初の戦いから今まで、私は永気を纏わせたままにしていた。それなのにどうして…


いくら踏ん張ったところで大木には勝てず、その速度と重量によって吹き飛ばされてしまった。大木は途中で他の樹に当たって静止したが、私はまだ吹き飛ばされた勢いのまま地面を転がっている。


今いる場所は凸凹な地面に加えて傾斜が少し下に傾いている。そのせいで中々止まる事が出来ず、体のあちこちが痛んでいく。


ぐるぐると回る視界の中で、一瞬目に入った光景に私は恐怖してしまった。転がる先には()があった。


必死に体を止めようと手や脚を動かしたが、速度が少し落ちた程度で勢いが止まることはなく、私は崖に投げ出された。


決死の覚悟で腕を伸ばすと、なんとか崖に捕まる事が出来た。これは死ぬってマジで…


助かったはいいものの、状況は悪いままだ。ただでさえ体中が痛くて手にも力が入りにくいのに、永刃を持っているせいで右手が塞がってしまっている。かなりまずい…



バキッ



出ました最悪の音が!崖で聞きたくない音ランキング堂々の一位!転落の悲劇!!


それから間もなくしてバキバキと音を立てて掴まっていた部分が崩落した。下を向くとかなり高い崖だったようで、この高さから落ちたら間違いなくぐちゃぐちゃのばらばらの自主規制(良くない言葉♡)になってしまう…


こういう時どうすればいいか、どうすれば助かるか…。命の危機を前にして、私は頭をフル回転させて考えた。


その結果物凄い速さで一つの考えが頭に浮かんだ。そしてそのまま行動に移り、私は崖に向かって永刃を突き立てた。


落下の勢いも相まって永刃は簡単に弾かれてしまったが、これでこの岩肌に適応した筈…。私はもう一度永刃を力強く突き立てた。


予想通り二度目は簡単に岩肌に突き刺さった。これで勢いが落ちて安全に着地する事が出来ると思っていたが…


「あああああ!ダメだダメだダメだ!!全然速度が遅くならないぃぃ!!」


岩肌に突き刺せたはいいものの、次は全く止まらないという危機に陥ってしまった。再び助かる方法を必死に考えた。そして重要な事を思い出した。


「そうだ!永気を解けば…、適応も全てリセットされる…!」


地面までの距離がみるみる近づいてくる。私は無我夢中で纏わせていた永気を外し、能力を解除する事に神経を集中させた。


能力が解けた永刃は直ぐにストッパーが掛けられた様に速度が落ち、地面すれすれの位置で止まった。


止まった勢いで永刃から手が離れた私は尻もちをついたが、大した怪我にならなくて心の底からホッとした。全身の力が抜けていくのが分かる…


上を見上げると、さっき落ちてきた崖がより高く感じた。我ながらよく大怪我せずにこの崖を降りれたものだ…。私の能力ありがとう…!


流石に刺客の人は追って来ていない。ただ万が一に別のルートからここを目指しているかもと考えると全然落ち着かない…。休みたい気持ちを抑えて、足早にこの場所から離れることにした。


さっき居た地点から東に向かう事に決めた私は、まだ少しガクガク震えている脚を無理やり動かして歩き始めた。


ただあてもなく歩いていると、なんだかただ散歩しているみたいで試験の事を忘れそうだ。めちゃくちゃ眠くなってきちゃった…


その後も気の向くままに森を歩き続けると、流れの穏やかな渓流に出た。お日様も大体真上にあるし、今の時間は恐らく正午位なのだろう。


そんな訳で私は、近くの石に腰を掛けて昼ご飯を食べる事にした。靴下を脱いで渓流の水に足を浸しながらおにぎりを頬張る。


「…優美ちゃんどこに居るんだろ?頑張ってるかなぁ?」




それから数時間島を歩き続けたが、ここでまさかの事態に陥った。刺客の人に襲われて以来、全く他の受験者と遭遇しなかったのだ。


いっぱい戦いたい!みたいな考えは持っていなかったけど、半日以上戦っていないのは流石にまずいのではないだろうか…、いやまずいだろうな普通に。


気付けば時刻は十七時になっており、試験の終わりを告げるアナウンスが島中に響いた。これ以上ここにいる必要はないので、少し不安を抱いたまま船の方に向かった。


森を抜けると直ぐに船のある海岸に出た。どうやら結構近くまで来ていたらしい。無駄に歩かなくてラッキーだね。


「怪我してる人は医務室に向かってくださ~い!」


海岸では滝嶋(たきしま)さんが怪我人を誘導している。私も体のあちこちを石や岩肌で切ったりすりむいたりしている、念の為に行こうかな。


そんな事を考えていると、背後から優美ちゃんの声が聞こえた。呼ばれて振り返ってみると予想だにしない光景が目に入ってきた。


「あ、優美ちゃぁぁあん!!? 何々どうしたの!?」


森から出てきた優美ちゃんは、激しく車に轢かれたレベルの大怪我をしている。体のあらゆる所から出血しているせいで、もはやどこを怪我しているのか分からない。


「どうしたって、戦って怪我したに決まってんだろ?」


そんな当たり前みたいに言われても…。もしかして自分の怪我に気付いてないのかな?軽くつついてみようかな?


冗談はさておき、危機感のない優美ちゃんを大急ぎで医務室に連れて行った。もうなんか血まみれすぎて浮いちゃってるよ…


医務室に入ると、中には星菜(ほしはな)さんが椅子に座って待っていた。どうやら星菜さんが治療してくれるみたいだ。


「おおぅ…、随分と激しく怪我したわねぇ…。むしろなんでその怪我で今まで戦ってられたかが不思議でしょうがない…」


星菜さんは呆れた様な態度を示しながら優美ちゃんの方を向いた。私はとりあえず優美ちゃんを椅子に座らせて様子を見ることにした。


包帯やら絆創膏やらで処置をするのかと思っていたが、星菜さんはおもむろに片手を持ち上げて印を結んだ。


「【幡 治癒式 解(はん ちゆしき かい)】」


星菜さんはそう言って手を伸ばして、優美ちゃんの左手を握った。その直後、優美ちゃんの体を優しい緑色の永気が包み込んでいく。


(優美ちゃんの傷がみるみる治ってく…、傷を癒す幡式もあるんだ。これ私も使えたらいいのに…、伊敷さんとかから教えて貰おうかな…)


治癒式を使用してから数十秒後、処置は完了し、優美ちゃんはあっという間に完治した。


「これでおしまい。後は夕食の時間までに、そのべったりついた血を洗い流して来なさい」


「ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


私たちは医務室を後にし、汗と血を流すために大浴場へ向かった。ちなみに私も軽い処置を受けて全快になった!


その後は大浴場で汚れを落として体を温めた。一部タイルが血で真っ赤になった事が原因で、少しパニックが起きていた。


それから私は髪を乾かして動きやすい服装に着替えてからレストランに足を運んだ。戦いで疲れたからか、昨日よりもお腹が空いている。


席に着いて夢中で食事に舌鼓をうっていると、熊谷さんがホワイトボードと共に出てきた。


「諸君!二日目の試験お疲れだ!ゆっくりご飯を食べている所すまないが、ここで今の成績上位者を発表する!!」


そう言ってホワイトボードに掛けられていた布を外した。そこには上位十名の名前が記されていたのだが…


「う…、私の名前が…ない…」


昨日は五位に居たはずなのに、もう私は外れていた。やはり後半の無接触が相当影響していると思われる…


一位は変わらず、あの伊国(いくに)とかいう奴だったが、私が注目したのは別のとこだった。


「お?すごい、優美ちゃんが二位になってる…!」


「マジか…?なんかだりぃな…」


本人はあまり喜んでいる様子はないが、これはかなりすごい事なのではないだろうか?


「そして今回は下位十名の名前も公開する!!ここに名の上がった者は、明日の試験で結果を残せなかった場合、最も失格の可能性が高い者たちと言う訳だ!!」


そう言ってホワイトボードを勢いよく裏返した。嫌な予感を感じながら恐る恐るホワイトボードに目を向けると…、嫌な予感が的中した。


「おい朝凪…、七十九位って何があったんだ…?五位から一気に転落しすぎだろ…」


おっと、これはかなりまずい状況になってきたぞ?残り一日を前にして失格が濃厚になってしまった…。先に縮さんに謝罪の連絡しとこうかな…


ほどほどに絶望しながら料理を口に運んでいると、熊谷さんはこんな事を言い出した。


「ここで唐突だが、明日の戦闘で今発表した上位十名に勝った者には、普通より多く加点する事を約束する!!上位十名は、これも試練だと思って受け入れて欲しい!」


逆転の可能性はまだ残ってる訳か…、諦めずに頑張ろう。そして出来るだけ受験者と遭遇するようにせねば…


「最後に、ここで合格出来る定員数を伝えておく!ここにいる八十六名の内、香位(かい)に上がれるのは上位十名のみだ!!」


七十六人落ちるの!?思ってたよりもずっと少ない!そしてめちゃくちゃ危うい!


「連絡は以上だ!君たちの健闘を祈っている!」


そう言って熊谷さんは去っていった。


試験の壁はかなり厚く高い。ここにいるほとんどの人を蹴落とさないといけない…。きっとここに居る全員も同じ考えのはずだ。


私は静かに料理を口に運んだ。明日に向けて…、戦う覚悟を抱きながら。


部屋に戻った私は、ベットの上で目を閉じて永気を練った。何かに集中していないと落ち着かない。


もう怪我を気にしてなんかいられない。出来れば上位十名の誰かを、出来れば優美ちゃん以外の誰かを狙って動かないといけない。


絶対に…合格するために…




静かに揺れる波のせせらぎが辺りを包む。ここは港…、朝凪たちが奄仙島に向かうために船に乗り込んだ港。今は小さなモーターボートが止まっている。


街灯はなく、小さな月明かりだけが照らすその場所に、数人の人物が立っていた。


「まさかこれで行くのカ?潮風は髪がべたつくから嫌いだゾ!」


「我慢してくださいよ。これ以上大きいと見つかってしまう可能性が高くなるんですから」


全身を黒い服装で覆い、フードで顔を隠す怪しい人物は闇に紛れて会話をしている。


「大体他の奴らは何をしてル!永刃を与えた一般人はどうしタ?全員怖くなって逃げ出したのカ?」


「一般人は時間を開けて後で合流する手筈だったでしょう?しっかり話を聞いていてくださいよ…」


がたいの良い男は、文句を言う少女に呆れた様子で説明をした。


「なんだその態度ハ…?“不屑師団(ディスリッテ)”如きが私に文句を言うのカ…?」


少女は男に対して威圧的な態度を示した。睨み付け、永気を放った。いつでも襲い掛かりそうな雰囲気がその場を包む。


「そこまでにしてください。我々は仲間、同じ思想の下に集まった同士なのですから」


そう言って長身の男は少女を止めた。月明かりに照らされた男の顔は、仮面によって隠されていた。


「そろそろ向かいますよ。決行は明日の夕暮れ…、いよいよです。いよいよ明日、L-gst(彼ら)との戦いが始まるのです。長い戦争のね…」


月夜に照らされ、キラリと輝く鎌の耳飾りが悪意を運ぶ。朝凪たちの背後から、死を呼ぶ者たちが近づいていく…。




【第14話 危機 完】

失格の危機と不吉な予感。試験最終日が始まる。 次回に続く!

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