第13話 奄仙島の戦い
<戦いの技式>
第13話 奄仙島の戦い
乗船して大体四時間から五時間程が経ち、今私は優美ちゃんとレストランに来ています。高級ホテルのような豪華なレストランは、流石に出される料理も一級品だ。
「うまぁ…!これだけで十分試験に挑んだかいがあるよ。 本当うまぁ…!」
「お前って意外と沢山食うのな…、多分誰よりも食べてるぞ?」
私の趣味の一つは食べる事なので、中々食べられなさそうなものを全開に詰め込みたいのだ。なんか死ぬかもな試験も控えているし、心残りが無いように食べなきゃね。
「それよりさ、お前あそこの変な奴のこと知ってるか?」
優美ちゃんが見ている方に顔を向けると、あの独特過ぎる眼帯をつけた人がいた。一度話した事はあるが、そう云えば名前も所属聞いてないな。
結局あの人が何者なのかは分からず、ただただ眼帯の印象が強いだけの人になってしまった…。
その後は満足するまで美味しい食事を堪能し、大浴場でこの日の疲れを汚れと一緒に洗い流した。流石に大浴場も広く綺麗で、なんだか眠ってしまいそう。
「なあ朝凪、明日の試験どうなると思う?」
「明日の試験?う~ん…、流血するんだろうなぁって思う…」
「だよなぁ…」
どうやら優美ちゃんも同じ様に考えていたらしく、二人で大きなため息をついた。きっと明日の試験は木刀じゃなく永刃を使うことになるのだろうと、何となく確信してしまっている…。
「…お互い頑張ろうな朝凪…」
「…頑張ろうね優美ちゃん…」
いつもより少し早めに眠って体力を回復させた私は、他の受験者と共に甲板に出て待っていた。既に船は島に着いており、緑生い茂るジャングルみたいな風景が広がっていた。
朝早くの潮風はとても冷たく、肌寒さが寝起きの体に堪える。ぶるぶると震えていると、ようやく熊澤さんが現れた。
「おはよう諸君!昨日はよく眠れたかな?」
そういうのは別にいいんで、試験について説明をくれませんかね?めちゃくちゃ寒いんで…
「もう見えているが、君たちの左側にあるのが奄仙島だ。これから君たちには、十七時まであの島で過ごしてもらう」
ん?十七時?それはつまり午後五時まで、あの島で!?ずっと!?
「これから試験に関する規則を話すが、その前に伝えておくことがある。これからの試験は永刃を使って行うため、死ぬ覚悟を持って挑んで欲しい」
やっぱりか…、これは任務と同じような緊張感がある試験になりそうだ。
熊澤さんはそこから試験の規則について話し始めた。ここでは簡単にまとめるとします。
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〈規則〉
受験者全員は試験開始から十七時まで奄仙島で過ごし、船に戻ることは出来ない。ただし戦闘で負傷した場合はその限りではない。
受験者はここで戦闘を行い、その結果次第で加点、減点を決める。
戦闘不可能であると自決した者は、戦いの意思がない事を遭遇した受験者に伝えて船に自力で戻って来ること。
対戦相手が気を失った場合、事前に渡しておく信号拳銃を上空に向かって撃つこと。
対戦相手が負けを認めた時点で戦いを辞めること。
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などの色々なルールが存在し、言わばバトルロワイヤル方式の試験みたいだ。試験内容は実力判断テストの延長のような感じで特に変化はない。
「早速試験開始と行きたいとこだが、今回は君たちの試験を邪魔する刺客が導入される」
試験を邪魔する刺客…!?ええ…、そんなのありですか…?
「君たちが島に入って一時間後に七人の刺客を放つ。この刺客は君たちに襲い掛かるが、仮に倒しても加点はされない。それを踏まえて戦うか逃げるかを決めてくれ!」
なるほど…、判断力や決断力が求められる訳だ。もし勝てそうな相手なら、修行も兼ねて戦うつもりだけど…
「刺客は全員君たちの先輩、すなわち階級【香位】の者が務める」
作戦変更!出来るだけ逃げる事を考えて行動する事にします!
「それでは全員下船しろ!下で軽食を受け取り次第島に入って、試験開始の合図を待て!以上!」
受験者の列に並んでゆっくり下船する。下には星菜桂位が軽食配っていた。軽食はおにぎりで、梅おにぎりを四つ貰って私は島に踏み込んだ。
島の中に入っていくとより一層生い茂った自然が広がっていた。高い樹木に切り立った崖、遠くの方には鹿?みたいな生き物も見える。手付かずの大自然とは正にこの事だ。
正直どこに移動してもあんまり変わらない様に思えるので、座れそうな岩に腰を下して朝ご飯を食べることにした。
「これからどうするかな~。戦わなきゃいけないのは分かるけど、自分から敵を求めて練り歩くのはなんか嫌だしな~。 お米おいし♪」
おにぎりを二つ食べ終えてお茶をひと口飲んだところで、島中に届くような大きい音が鳴り響いた。試験開始の合図だ。
腰を上げて永刃に手を伸ばした直後、背後から気配を感じた。永刃を抜いて構えると、案の定受験者がいきなり斬りかかってきた。
「よく防いだな…!やるじゃねえか不正女!なら正々堂々と点数を頂くだけだぜ!」
「不正…?何のことか今一分からないですけど、なんか不愉快なので倒させて貰いますね!」
お互い永刃を弾いて距離を開ける。じりじりと動きながら様子を伺う…、剣術で劣っている以上下手には動けない。
だがこのまま展開がないまま時間が過ぎいくと他の受験者が来かねない、そう判断した私は覚悟を決めて向かって行くことにした。
樹木を利用してジグザグに進み、51番の受験者に斬りかかった。一撃目はギリギリで防がれてしまったが、その勢いを使ったタックルが上手く決まり、相手を後ろにぶっ飛ばした。
相手は受け身を取って直ぐに立て直し永刃を構える。受け身の速度からしても、かなり訓練を積んでいる。やはり一筋縄ではいかない…
お互い距離を置くのを辞め、全力のぶつかり合いが始まった。
51番は緩急をつけた鋭い正確な剣術を、私は上手く攻撃を捌きながら的確な一撃を、それぞれがしのぎを削って戦っていた。
互角になんとか戦えていたが、ここで更なる不幸が降りかかってきた。考えていた中で最悪の事態、受験者の乱入だ…
一目見てこちらに敵意を抱いているのが分かる。攻撃を上手く捌きながら一度距離を離し、二人が視野に入る位置に移動した。
流石に二人を同時に相手するのはかなり辛い…。でもなんだろう…すごく嫌~な予感がする。鳥肌が立ちそうな位の嫌な予感が…
「手こずってるみたいね?手を貸して上げようか?」
「別に手こずってねえよ!わざわざ茶化しに来たのか?」
予感的中…、この感じだときっと同じ支部の隊員かそこらだろう。となると次の行動は…
「でもまあ丁度いいや、俺に手を貸せ!この不正女に痛い目見せなきゃ気が済まねえ!」
「不正?ああ、噂の特別処置待遇の事ね?いいわよ、手貸して上げる」
やっぱり共闘の流れ…、これはかなりまずい事態だ…。二対一で相手取るにはまだ実力が足りていない、気がする…
二人は永刃を構えると同時に向ってきた。男の方が動きが速く、女の方より先に永刃を私に振り下ろした。
さっきよりも遥かに重い一撃だったがその分隙も大きく、カウンターも十分狙える。だがそれは一対一の時ならだ…、今むやみカウンターをすれば、接近してくる女の攻撃をもろに食らってしまう。二対一では私の敗北になってしまう…
止む無く男の永刃を弾いて防御の姿勢に移る。一歩後ろに下がって女の攻撃に合わせて永刃を振ると、間髪入れずに次の攻撃が向けられる。攻め入る隙がない…
(このままじゃ一方的にやられるだけだ…!何か…何かこの状況を覆せる方法は…)
ギリギリの最中で考えを必死に巡られせていると、一つの方法を思いついた。ほんの少しの間だけ、二人を分断出来る方法が…!
私は強く踏み込んで後ろに跳び、樹に背を付けた。思った通り二人は私を挟み込む様に左右に分かれて斬りかかってきた。
素早く永気を永刃に纏わせ、樹の幹にコツコツと触れさせる。二人は防御しきれない様に永刃を横に振ってきた。
反射神経をフルに活用して当たる前にしゃがんで攻撃を回避した。体を回転させて後ろを振り向き、素早くしゃがんだ勢いを利用して幹に永刃を振った。
結構分厚い樹の幹だったが、【適応】の力で思ったより簡単に斬ることが出来た。二人の真ん中に倒れるように斬った樹は、バキバキと音を立てながら思った通りに倒れた。
二人は反射的にその場から離れ、様子を伺っている。このおかげで倒木を挟んで二人の間に距離が出来た。今が好機だ…!
倒れる樹に視線が移っていた内に私は別の樹の陰に隠れ、永気を手に集中させた。穣門でやった様に永気を球体に留めた。だが永気は小さい…、まだ修行が足りてないようだ…
留めた永気を半透明にし、女に向かって永気を飛ばした。飛ばした永気の動きを操り、私とは逆の方の頬に当てる事に成功した。
永気には独特な圧力が働いている。それが突然顔に触れたとなれば、当然無視は出来ずにその方向に注意を向ける、その僅かな隙を突く!
樹の陰から飛び出した私は真っ直ぐ女に向かって走り出した。それに気付いたもう一人が声を掛けたがもう遅い。私は素早く永刃を振って体を斬りつけた。
脚を狙ったからこれで実質あの女の人は戦えない筈。後はもう一人を何とかすれば切り抜けられる…のに…!
見なくても分かってしまう…、これは永気だ…!かなり微弱だけど確かに感じた、背後の木の上に一人いる。
「見つけたぞ受験生…!中々盛り上がってるじゃないか?僕も混ぜておくれよ?」
試験が開始されてからまだ数分だというのに…、次から次へとヤバい展開が続いていく。しかも相手は香位だ…、能力を持っていていてもおかしくない。
しかも先の戦いで息が上がってしまっている…。無理して戦わずにここは一旦退きたいところだけど…
「あまり新人を苦しませたくはないんだけど、こっちも仕事だから勘弁してくれよ?そろそろいくぜ新人…!」
やる気満々、大人しく逃がしてはくれなそうだ。何とか応戦しながら何処かに身を隠さないと負傷してしまう。
私に斬りかかってきた二人も既に見ているものが移っている…、三人全員考えている事が一緒だとすれば、逃げ遅れた奴が脱落する可能性が高い。
様子を見ながら一歩後ろに下がった瞬間、刺客の男の永気が一気に増幅した。肌がピリピリする感覚に襲われ、目が離せなくなってしまった。
「なんだこの感じ…!やべぇ…やべぇぞ…!おい立て!逃げるぞ!」
永気に中てられた51番の男に焦りが見え始め、無理やり女の人を引きずってその場を去ろうとしている。
刺客の男はまだ動かず、獲物を見定めている様に視線を向けている。そうしている内に二人はどんどん遠ざかっていき、やがて見えなくなった。
「残ったのは68番の君だけか。君は逃げなくても良かったのかい?それとも僕相手に余裕で勝てるとでも思ってるのかな…?」
永気を私に向けているのが感覚的に分かる…。止まっているのに呼吸がいつまでも静まらない。
「勝てるなんて大それた事は考えていませんよ…!ただきっと逃げ切ることが不可能だって気付いただけです…!」
香位に上がるには永刃での戦闘に長けている必要がある。そして香位から桂位に上がる条件はきっと他の何かが求められると考えれば、この人が幡式か能力を使える可能性が高い…。
戦っても何も良いことはなく、逃げる事も難しい…。この試験における一番の障壁は間違いなくこの刺客制度だろう…。
私はまだ上を見上げたまま動けないでいるが刺客の男も動こうとせず、お互い見つめた合ったまま硬直していた。
(…この子、歩位の割に状況がよく見えてるな。攻める気はあまりないけど、僕がどう動いても反応出来る構えを取ってる。逃げを前提にした受け身の姿勢…、この子は期待できるな…)
刺客の男は静かに降りてきて私の方に顔を向けた。
「君ならこの試験を突破出来ると思うけど、これも試験の一部だと思って必死に食らいついてみなよ新人…!」
向こうはやる気みたいだが、私は今考え付いた作戦を実行するつもりだ…。男が永刃を抜いて構えたのを確認した私は、全力で後ろにダッシュした!
男は突然のその行動にしばらくポカンとしていたが、直ぐに追いかけてきた。くそぅ…、もっと呆然としてていいのに…!
「おいおい待て待て!?結局逃げるのか?僕は君の逃げなかった姿勢を評価してたんだぞ!?」
「そんなの知りませんよ!評価はありがたく頂きますけど、逃げる以外道がないなら逃げますよそりゃ!」
とは言ったものの、やっぱり追ってくるか…。実際のところいきなり逃げ出す事で思考が止まって、その隙に逃げきれたらって考えてたのに…
何とか距離は空いているがやはり振り切れない。体力が尽きてしまう前に何とかしなければ、逃げる事はおろかまともに戦う事も出来なくなる。
このままじゃ埒が明かないと考え、私はさっきの手をもう一度使うことを決めた。幸いまだ永気を解いていないから、まだ適応は続いてる…!
走っている途中で私はバッ!と後ろを振り向き、近くの樹に永刃を振りかざして、二本の樹を男に向けて倒した。
流石の先輩も少し驚いている様に見える。絶好の逃げるチャンスの到来を見逃さず、私は直ぐに向き直って走り出そうとした時…
「驚いたな…!まさか君のような女性が軽々と樹を斬り落とすとは…。出会った時から君の永気には気付いていたが、まさか能力も持っているのかな…?」
嫌な予感がして振り向くと、倒れたはずの樹が空中で止まっている。どうなっているのか全く分からないし、何も見えない。間違いなく何かしらの能力だろう。
一度距離を取るために前を向きながら足を後ろに下げようとすると、直ぐに違和感に気付いた。
「足が、動かない…!なんだこれ…何かに掴まれてるような…!」
必死に足を持ち上げようと力を込めると、少しずつ足が持ち上がっていく。どうやら力はギリギリ私の方が上だけど、満足に動けないのに変わりはない。
「少し気が引けるけど、君にはここで一旦船に戻ってもらうよ!」
あの人は永刃を私に向けて永気を放ち始めた。私は逃げる事を諦め、覚悟を決めて戦う事を決意した。
「こんな所でリタイアは御免ですので、全力でぶっ倒させて貰います!」
【第13話 奄仙島の戦い 完】
試練に次ぐ試練!厳しい戦いはまだ始まったばかり… 次回に続く!
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