第12話 乗船と眼帯の隊員
<戦いの技式>
第12話 乗船と眼帯の隊員
昇格試験の実力判断テストが終わり、神奈川第一支部に所属する優美さんと昼食を取った。そして私たちは今…、走って競技場の入口に向かっています!
「お前のせいで早速遅刻しそうじゃねえか!白玉ぜんざいに三十分も掛けるんじゃねえよ!幸せそうな顔でゆっくり味わいやがって!」
「ご、ごめん…、白玉ぜんざいが美味しすぎてつい…!」
こうは言っていても、ちゃんと完食するまで待っていてくれた優美さん…。試験中はこの人と一緒にいる事にしよう。そうしよう。
大急ぎで入口に向かって走っていくと、目の前にようやく玄関が見えた。
「てめえもう一回言ってみろ!!」
玄関に着くなり大声が耳に入った。声の方に顔を向けると、数人の内の一人が胸倉を掴んで怒鳴っていた。
胸倉を掴んでいるのは24番の男で、彼は86番に惨敗した人だった。そして案の定掴まれているのが、その86番だった…
「しっかり聞こえなかったんなら何度でも言ってあげますよ。貴方は香位に相応しくないので辞退しろって言ったんですよ?」
まずい…、24番はもういつでも手が出そうな感じだ。それにしても酷い言い草だ…!いくら自分が勝ったからって、そんな言葉あんまりだ…!
「おいやめとけ!今やったって何も変わんねえぞ!これからの試験で見返せばいい!今は冷静になれ!」
怒りが爆発する寸前で後ろの人が止めに入ってくれた。あとはその人の言う通りに引き下がってくれたら…
「そっちの貴方もですよ?無様に気絶して負けた上に、相手はあの特別処置待遇を受けた異分子とは…。よくもまあ次に進む気が起きますね…、恥ずかしくて僕には到底考えられませんよ…」
「んだとゴラァ!!」
更に状況が悪化してしまった!止めに行こうにも、なんか私のせいでもある気がして足が前に進まない。あと異分子って言われた…、いつかぶん殴ろう。
「お前ら邪魔だぁ!!外に出るつもりがねえならどきやがれ!!」
噓でしょ優美さん?そりゃ確かに私たち急いでたけど、だからといってそんな特攻する?喧嘩してようとお構いなしだね、よし私も行こう!
優美さんの後に続いてささっと彼らの間を通り抜ける。その途中で私と戦った33番と目が合ってしまい、めちゃくちゃ睨まれた…。異分子が通りま~す…
なんとか障害物を通り抜けて集合時間に間に合った。食後にいきなり走ったせいで少しだけ気持ち悪い…。
喧嘩組も玄関から出てきたが、和解なんて出来るはずもなく、次からの試験は苛烈な戦いになりそうな予感がする…
「よし全員揃っているな!早速次に移りたいところだが、その前に今の順位を発表しておく!」
実力判断テストも含め、昇格試験は全て点数制。良い動きや判断が正確に行えていれば加点され、その逆が減点に繋がる。
なにより大切なのは勝敗が最も点数に影響するということ。勝てば加点負ければ減点、分かり易いことこの上ない。
熊澤さんは一枚の用紙を取り出し、二十位から一位までを順に発表していった。案の定一位はやはり86番だったが、私は驚いたのはそこではない。
「良かったな朝凪、お前五位だったぞ。あたしは圏外だったし、いい滑り出しが出来たじゃねえか」
それはそうだが、見方を変えると更に目立ってしまったということだ。ただでさえ周りから狙われやすいというのに…
「現在の順位は今言った通りだが、実力判断テストでの点数変動はかなり微々たるものだ!この先の試験の頑張り次第で大きく変動する!落胆するのはまだ早い!次の試験に全力で挑みたまえ!」
難しく考えるのは辞めにしよう。本番はきっとこれから…、今の順位は特に意味を持たないのだろう。
「それじゃあ全員駐車場のバスに乗れ!!直ぐに次の試験会場に移動する!」
言われるがまま三台の内の一台に乗り込んだ。この立派な競技場で全日程を行うと思っていたのに、まさか数時間のテストだけで離れることになるとは…
「このバスどこに向かうんだろうな?わざわざ場所変えてまで行う必要があるのかね?」
優美さんは隣で首を傾げている。私も疑問に思うが、わざわざ移動するのだからそれなりの理由があるのだろうし、何を言っても従うしかない。
三台のバスはやがて高速道路に出て走り続ける。試験の途中とは言え、移動中はやはりする事がなくて暇なものだ。 …優美さんとお喋りでもしようかな…
「ねぇねぇ優美さん、優美さんは何でL-gstに入隊したの?」
「あたしか?別に大した理由はねえよ、ただ興味があったから入隊しただけだ。あと「優美さん」っての辞めろ。お互い試験に挑む受験者なんだ、タメでいい」
そう言われたので、これから優美ちゃんと呼ばせてもらう事にした。
命を掛けて戦いに身を置く危険な仕事に、興味があったってだけで入隊するとは…、何と言うか肝が据わってますなぁ…!
「あんたは?流石に特別処置待遇を受けるだけあって、それなりの深い訳があるんだろ?」
私は優美ちゃんに今に至るまでの経緯を説明した。元はただの女子高生で帰宅部のエース(自称)だったこと、道でたまたま巧刃器に触れてL-gstに入隊せざるを得なかったこと。
そしてそれを聞いていた優美ちゃんは一言…
「いや触んなよ…、そんな道端に落ちてる怪しい物に…」
「だよねぇ!自分でも何で触ったんだろうって思うもん時々!」
過去に戻れるならあの日の自分に問いただしてみたいものだ…。触れた事については別に言うことは無いが、あの時に沸いた興味について言及したい…。
「そんなアホみたいな理由で戦う羽目になるとか、楽しいか…、今の人生…?」
「やめて!昔の感情が蘇ってきちゃうから!」
前は痛いのも戦うのも嫌だったし、今も痛いのは勘弁だ。でもなんだかんだ言って今の状況には満足している、と思う。
「まああんたが良いなら別にいいけどさ。それより、さっきの奴には気を付けた方がいいよ。あの86番に目をつけられたら試験どころじゃなくなる…」
あいつか…、私を異分子って言った嫌な奴…!実力のある嫌な奴…!
「あいつは“伊国 零”って名前だった気がする。あんまり接点はないけど、一応私と同期なんだよ」
そうだったのか。あいつが優美ちゃんと同期…、あの自主規制野郎と…
「あいつは入隊した時から周りよりも頭一つ抜けてて、先輩たちから天才って呼ばれる程実力のある奴だった」
悔しいけど確かにその実力は本物だった。素の技術じゃ今の私には勝ち目がないだろう…
「代々L-gstの隊員として戦ってきた一族の子供で、かなりプライドが高いんだよね…。また会っちゃうとかマジだりぃ…」
すごい、めちゃくちゃ生気の無い顔してるよ…。これは見たことがある…、穂岬先生も時々こんな顔してたな…。生徒の保護者と会う時とか…
「とにかく気を付けろよ?無事に試験を終わりたいなら、あいつには近づかない方がいい…」
伊国…か…。根拠はないけど、何か嫌な予感がする…。優美ちゃんの言う通り、あまり関わらないようにしよう…。 でもいつかぶん殴ろう絶対に。
バスはひたすらに進んでいく。目的地を告げられていないから、次の試験の予想すら全く出来ない。戦う事になるのは何となく分かるが、きっとただの戦いにはならないだろうな…
あれから二時間くらい走り続けたバスは、ようやく目的地に到着して止まった。寝ていた優美ちゃんを起こして外に出ると、予想外の光景が広がっていた。
白い外装にお洒落な模様、そしてこの大きさ…、まごうことなき船ですねこれは!これが次の試験の舞台…、なのだろうか…?
「これから諸君らには、この船に乗って試験場所まで移動してもらう。これから各自の番号と同じ部屋の鍵を渡すから、受け取った奴から乗船しろ。試験の説明はその後だ」
言われるがままに鍵を受け取り、ほとんど理解できないままに乗船した。中はめちゃくちゃ綺麗で豪華で、これだけで試験に挑んだかいがあった程だ。
温もりのある暖かい明かりが点いた廊下を通って、68番の札が掛けられた部屋の前に立った。鍵を開けて中に入ると、開放感のある窓が目の前に広がった。
室内はそこまで広くは無かったが、それでも一人部屋としては十分すぎる位だった。ベットに寝転んでふかふかの感触を堪能していると、アナウンスが流れてきた。
[全員の乗船を確認しましたので、これから目的地に向かって発進します。1から10番までの受験者の方は正面ロビーに集まってください!それ以外は自由で]
私の番はまだ先になりそうだ…、暇だし船内の中でも散歩しようかな?
永刃を置いて部屋を出た私は、とりあえず気の向くままに通路を進むことにした。壁に飾ってある絵画を眺めながらゆっくり歩いて行くと、広いホールのような所に着いた。
とテーブルが並んだ居心地の良いその場所は、外が一望出来て居心地が良さそうだ。椅子もふかふかだし、ちょっと座って景色を楽しもうと思っていると…
「ちょっと困りますよ!これは関係者以外立ち入り禁止なんですから!」
突然奥の通路から声が聞こえてきた。何やらもめているようで、少し気になった私はこっそりと現場を見に行った。
声は通路を右に曲がった方から聞こえていた。そっと顔を出して覗いてみると、そこには滝嶋桂位と、知らない女性が立っていた。
「別にいいだろ?ほらこれ見ろ、隊員のバッジ!隊員なんだから無関係者じゃないだろう?」
黒髪ポニーテールのその女性は、意識しなくても感じられる程の永気を纏っていて、かなりの実力者であることが伺える。
ただそれより気になってしまうのは右目に着けている眼帯だ。黒の眼帯に「Over Kill上等!!」と書かれている。これはあれだ…、俗に言うイタい人だ…。どこに売ってるのあんなの?
「ダメですって!この試験を任せされている兵庫第一支部の我々以外は、例え隊員であっても試験に干渉する事は許されていません!」
「細かいこと気にすんなよ。それに口出ししたいって言ってる訳じゃないんだぞ?ただ試験を観戦したいだけだ」
両名一歩も退かないまま話は続いていく。正直会話の内容に興味はないが、あの眼帯の人が気になってしまうのは何でだろうか?
その後も言い合いは続いたが、アナウンスで滝嶋さんが呼ばれた事で終了した。最後に滝嶋さんは「目的地に着くまで余計な事はしないように!」っと言い残して去っていった。
「まったく…頭の固い奴だな…。さてと、それじゃあ着くまでどうするかな…、ん?」
「あ…」
しまったー!目を合わせてしまったー!まずい…絡まれる…
「おやおやぁ?君さては受験者だなぁ?少し私と話さないか新人…?」
何とも言えない威圧感のようなものに気圧され、私はこの人とおしゃべりをする事になってしまった…。
私と眼帯の人はさっきのホールに行って腰を下ろした。改めて見るとかなり美形な顔つきをしているし、スタイルも良い完璧な人に見える。眼帯が無ければ…
「さてと、聞きたいことは色々あるけど何から聞くかなぁ?そうだ!初任務に行ったことはあるか?どうだったよ初任務は?」
「初任務ですか?そうですね…」
そこからは私の初任務について話した。正直初任務って川嶺の一件と穣門暴動事件のどっちなのか分からないので、一応どっちも話すことにした。
川嶺に襲われ、危うく殺されそうになった所を縮さんと篠崎さんに助けられたこと。
永気修行を経て能力を発現させ、そのおかげで穣門暴動事件で異能犯にギリギリで勝利できたこと。その二つを詳しく説明すると…
「えぇ…、マジぃ…?」
何故か私はドン引かれてしまった。全く理由に心当たりがない…
「君すごいな…、歩位の身で能力を持ってるだけでも普通じゃないのに、異能犯にも勝ったの…?え、君本当に人間?」
「ここまで引かれたのは初めてですよ?人間の証見ます?目の前で連立方程式でも解いてやりましょうか?」
_一旦落ち着くのさ_
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「すまんすまん、気を悪くしないでくれ。ただ歩位の身でそこまで経験済みの隊員を見たことがなくてな、つい本気で引いてしまった。ごめんな」
「いえいえ、そこまで気にしないでください。ちょっと傷つきましたけど…、私は平気なので」
なんとか誤解を解くことが出来たようだ。わざわざスマホで連立方程式の問題集を解いて見せて良かった。
「でもまあ君の言う事が本当なら、昇格試験も余裕だろ。ただもう一人強そうな奴がいるっぽいから、注意すべきはそいつだな」
もう一人の強い奴…、絶対あの性格悪そうな86番の事だろう。この人もそう言っているし、やはり注意して間違いはないのだろう。
そう考えていると、アナウンスから[61~70番の方は~]と流れてきた。
「すみません、私もう行かなきゃいけないのでこれで失礼します!」
「おう、試験がんばってな!次に会ったらまた話し相手になってくれよな!」
眼帯の人に別れを告げて、私は正面ロビーに向かった。ちょっと迷子になりながらもなんとか到着すると、古塚桂位から今後の事についての説明が始まった。
「これからこの船は、L-gstが所有する奄仙島という無人島に向かっている。すなわち次の試験はそこで行われる」
何となく分かってはいたことだが、まさか島を所有しているとは…。それに島で試験を行うってなると、あまりいい想像が出来ない…。
古塚さんの話では、明日明後日は奄仙島で朝から晩まで試験を行い、帰って来るのは最終日の夕方なのだそう。
最後に死なないようにって古塚さんが言った気がしたが、今は考えないようにしよう…。不安で眠れなくなりそうだし…
「明日の朝七時に甲板に集合し、その後直ぐに試験が始まるから時間厳守で頼むぞ。この後は特に試験はないから、明日に備えて体を休めてくれ。あと夕食は夜六時からだから忘れないようにな」
私は話が終わった後真っ直ぐ部屋に戻って来た。ベットの上に寝転がり、窓の外に目を向ける。外にはウミネコなのかカモメなのか分からない鳥が、同じ進行方向に飛んでいた。
「命がけの試験か…、またギリギリの戦いになるのかなぁ…。不安だ…」
【第12話 乗船と眼帯の隊員 完】
体を休めて試験に備えろ!死ぬかもしれない試験に… 次回に続く!
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