第11話 開幕!昇格試験!
<戦いの技式>
第11話 開幕!昇格試験!
今までにない程目覚めの良い朝を迎え、身支度を済ませて準備万端の状態で家を出た。
「おはようございます朝凪さん。準備はよろしいでしょうか?よければ直ぐに試験会場に向けて出発しますので、車に乗ってください」
お母さんに「行ってきます!」と言い残し、私は三下さんと共に試験会場に向かった。目的地までは一時間程掛かるらしく、持参したサンドイッチを食べることにした。
窓の外に広がる朝日に照らされた街を眺めながら朝食を食べていると、三下さんが何かを渡してくれた。
「それは特別処置待遇を示すバッジになります。原則朝凪さんはそのバッジをつけたままで試験を受けてもらうことになりますので、外さぬようお願いします」
受け取ったバッジを襟に付け、素早くサンドイッチを頬張った。途中縮さんから激励のメールが届き、そこで少し緊張がほぐれた。
「三下さん、試験って具体的にどれくらい掛かるものなんですか?もしかして一日中行ったりしますか…?」
「それどころか、試験は三日間行われます。多忙になりますが、どうか頑張ってください」
三日かぁ…、思ったより長くてしんどくなりそうだなぁ…。ほぐれた緊張が倍になって再び圧し掛かってきた。
車は順調に進み、八時半位に目的地に到着した。着いた場所は小さめの競技場で、本部の人らしき人物が案内をしている。
「それでは朝凪さん、ここからは一人ですが頑張ってください。私含め第三支部の全員、朝凪さんの試験合格を祈っております」
私は三下さんに礼をして競技場の入り口に向かった。競技場の中に入った私は番号の書かれた札をつけられ、案内に従って一つの部屋に通された。
戸を開けると既に数十
目を閉じて集中し、微力な永気を感じようとしてみたが…
(…特に何も感じない…、やっぱり伊敷さんの言う通りだ…)
~数日前~
「永気の扱いはかなり上達しましたね。その上達の速さには目を見張るものがありますねぇ」
「ありがとうございます!えへへっ」
修業のおかげでかなりスムーズに永気を増幅させられるようになった時、そう伊敷さんに褒められた。シンプルに嬉しい。
「ですが心配なのはむしろ剣術の方ですねぇ。他の受験者と比べても、朝凪くんは剣術の実力が少し劣るでしょうし」
初耳である。てっきり永気の扱いが優れている方が有利になると思ってただけあって、そこそこびっくりしてしまった。
「以前にも話しましたが、歩位から香位へ昇格する条件はあくまで【永刃を使用した戦闘実技に合格】なので、ほとんどの受験者は永気修行を行ってはいません。
すなわち朝凪くんが永気修行に費やしていた時間分、剣術を鍛錬していた者が多いのです」
終わった…、剣術じゃ勝ち目がないなんて…。シンプルな斬りあいじゃ私の能力は真価を発揮出来ないというのに…
「そこまで落ち込む必要はありませんよ。形は違えど、してきた努力は無駄になりません。永気が優れているならば、その強みを全開に活かせばいいんですよ」
確かにその通りかも…、まだ希望は捨てたものじゃないわけだ。
「もし時間があるなら他の受験者の永気を測ってみるといいでしょう。周りと自分の永気量の差に驚きますよ?フフフッ…」
(永気を感じ取れないって事は、きっとこの人たちは剣術が優れているんだろうな…。でも私も負けないぞ…!)
その後も数分おきに受験者と思われる隊員が入室してきた。思ったより暇ができたので大雑把に人数を数えてみると、大体八十人ちょっとの受験者が揃っていて、残る空席は一つになった。
それから間もなくして最後の受験者が入って来た。私も周りの受験者と同じ様に入室した受験者に目を向けると、その人物が他の受験者と違うことが肌で分かった。
入って来たその受験者は、私にも感じ取れるだけの永気を発していた。それは間違いなく、永気修行を行っていた証拠である。
余裕の表情で席に着き、イヤホンを外すことなくそのまま聴き続けている。何というか只物ではない雰囲気を放っている。
少し待っていると勢い良く前の方の戸が開き、四人の人物が入って来た。恐らくこの人たちが試験官なのだろう…、集中しなくても感じられる程の永気を放っている。
「全員揃っているな?これから試験についての説明を始める!質問は認めるが、くだらん質問をした者は即減点する!良く話を聞いておくことだ、いいな!」
一瞬でピリッとした空気が張りつめ、緊張感が一層増した。男は一歩下がり、女性の隊員が前に出て説明を始めた。
「皆さんおはようございます。私たちは今回の昇格試験を任された兵庫第一支部の隊員です」
説明によると、昇格試験は各地方ごとに行われるらしく、試験官が自分の支部の隊員への優遇を避けるために、基本的に試験官は別地方の支部に一任されるらしい。
「さっき大声で皆を威圧したのが“熊澤角位で、その隣にいる二人の男が“滝嶋桂位と“古塚桂位、そして私が“星菜”と言います。ちなみに私も桂位です」
角位が一人に桂位が三人、果たしてどんな試験が待っているのやら…。
「まず試験スケジュールを教えますね。一日目はこれから実力判断テストを行い、その後別の場所に移動して貰います。それ以降のスケジュールは…忘れちゃいました!えへへっ」
結局今日のスケジュールしか分かってない…!何だこの人…、こんなおっちょこちょいな人が試験官で大丈夫なのだろうか…
「まあ試験のスケジュールなんて事前に知ったところで意味ないですし、気にせず先に進めましょうか!それでは皆さん、早速競技エリアに移動してくださ~い!もう何言っていいかほとんど覚えてないので~」
ますます不安なってきた。もはや緊張よりも不安の方が勝っている…。あやふやな説明に減点の可能性がある質問が相まって絶望感がすごい…。私ちゃんと合格できるかなぁぁ…
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
先導の後をついて行き、私たちは競技エリアに移動してきた。高い天井に観客のいない観覧席、中央には明らかに戦いの場とも言える様な台が設置してある。
既に何人かは戦う心構えをしたのか空気が重くなったように感じる。全員が入場すると、それと同時にアナウンスが響いた。
[それではこれより、実力判断テストを開始します!まず前方のモニターをご覧ください!]
言われるがままに前方の馬鹿でかいモニターに目を向けた。画面に映ったのは一から八十六までの数字で、それがぐるぐると回っている。
少しの間回り続けた後、「23」と「59」の二つが表示された。これが受験者の番号であるのは理解できた、そして恐らくこの表示された番号は…
[モニターに表示された受験番号の方は、中央の闘技台に移動してください!詳しい説明はそこで致しますのでよく聞いといてください」
二名の受験者は前に出て闘技台の上に立った。そこに姿を現したのは、確か…熊澤角位と呼ばれていた人だった。
熊澤さんも闘技台に上げって二人の前に立った。手には木刀らしき物が二本握られていて、それを一本ずつ二人に渡した。
「それじゃあ早速始めようか…!ルールは簡単だ、負けを認めるか場外に相手を出すまで戦い続けろ…!気絶させても問題ない、反則行為は一切ないから安心して戦ってくれ、以上!」
二人の受験者はそれぞれ距離を取り、お互いに構えて木刀を相手に向けた。熊澤さんは手を上げ、一気にその手を振り下ろした。
「始め!!」
合図と共に一斉に前に踏み込んで木刀をぶつけ合った。いよいよ昇格試験が始まった…。緊張するけど、必ず受かってみせる…!
その後数分間戦い続けた結果、59番の受験者が勝利した。負けた方は即失格かと思っていたが、そのままその場に待機するように言われていた。まだ何かあるのかもしれない。
またモニターに映る数字が回転し、次は「14」と「62」が表示された。私の番号は「68」なので、戦いはまだお預けだ。
それから受験者同士の戦いは続いていき、二十戦目が終了した。変わらずモニターに対戦番号が表示され、そしてついに私の番が来た…。
「私の相手は「33」番の人か…、うう…緊張してきた…。…でも弱気になっちゃダメだよね!よし!朝凪頑張ります!」
頬をぱんぱんと叩き、覚悟を決めて闘技台に立った。戦う相手と向かい合い、私は集中して永気を高める。
熊澤さんの合図と同時に一歩踏み込んで前に出るが、予想以上に相手の動きが速い。あっという間に間合いの内側に入り込まれた。
相手の男は低い姿勢から素早い突き攻撃を繰り出す。動体視力と反射神経のおかげでギリギリなんとか避けられたが、反撃をする前に距離を置かれてしまった。
(むぅ…、めちゃくちゃ速いぞこの人…!今の私にはできない動き…。やっぱり伊敷さんの言う通り、剣術じゃ勝ち目は薄い…。それなら…!)
再び相手は素早く動いて一気に間合いを詰めに掛かる。私は半歩下がって永刃を前に構え、次の攻撃に備える動きを見せた。
(剣術と素早さは向こうが上だけど…、鍛えた観察力と実戦経験があればなんとかなる筈…!誘うんだ…、最初の突きを…!)
私はわざと永刃を斜めに構え、腹部に攻撃できる隙を作った。相手も訓練してるだけあって判断が速く、直ぐに構えを修正して突きを繰り出してきた。
ギリギリまで引き付けて木刀の側面で受け止める。直撃は避けたが、突きの勢いで私の体は後方に押された。
永刃でのカウンターを狙っていたが、突かれた勢いでバランスが崩れて足が地面から離れてしまった。
焦りながらも直ぐに相手の木刀を掴み、離れた脚をしならせて顔に蹴りを入れた。その時私は思った、(あ…、完全に力加減間違えた…)と…。
完璧に顎にクリーンヒットしてしまった蹴りは、ただでさえ普通に当たっても脳震盪が起きる可能性があるのに、焦っていたせいで反射的に本気で蹴ってしまった…。
相手の男は崩れる様にその場で倒れてしまい、気絶したことで決着が着いた。
「33番の気絶により、68番の勝利!次の戦いがあるから、お前は速やかに退場せよ」
そう言われたのでそそくさとその場を後にした。負けるつもりは無かったが、変に注目を集める様な戦いはしないようにと心に決めていたのに、初の気絶による勝利のせいで視線を感じてしまう…。
その後も戦いは続いていき、全てが終了したのは十一時頃だった。正直他の人の戦いを見れば見るほど自信が少しずつ減っていった。
特に印象に残ったのは86番の戦いだった。私が唯一永気を感じられたその男は、圧倒的な力の差を見せつけて勝利した。
相手の攻撃を全て防ぎ、じわじわと痛めつけて降参を誘った。必要以上に相手をいたぶるその戦い方が、私は正直好きじゃなかった…。
「これにて実力判断テストは終了する!各自二階の食堂で昼食を済ませ、十二時に競技場の入り口に集合とする!以上!」
一回しか戦っていないというのにすごく疲れてしまった…。いつもより早い昼休憩だが、目一杯体を休めて次に備えよう…
競技エリアを出て階段を上り、だだっ広い食堂に足を運んだ。受験者全員が入ってもまだまだ余裕がある食堂は、カウンターまでの距離もかなり遠い。あんまり良くないと思うよこれ…
だが広いだけあってメニューはかなり豊富で、ラーメンやオムライスなどからデザートまで幅広く扱っている。とりあえず私は海鮮丼と白玉ぜんざいを注文し、受口から受け取った。広いだけあって調理もめちゃくちゃ早い。良いことですねこれは。
受け取った料理を持って空席に向かうが、気のせいか他の受験者にすごく見られている気がしてならない…。やっぱり気絶させちゃったのが原因だろうか…?
ひとまず気付いていないふりをして席に着いた。割り箸を手に取って小さく会釈し、海鮮丼をひと口食べてもまだ視線を感じる…。なにこれめっちゃ気持ち悪い…、川嶺かよ…(※失礼)
その後も視線を感じながら黙々と食べていると、女性の隊員が私の前の席に座った。
「さっきの戦い見てたよ?よくあの体勢から蹴りを入れられたね!でもあたしも負けないよ?戦うことになったらフェアに戦ろうな?」
すごくフレンドリーな人だな…。縮さんとちょっと雰囲気似てるかも…。何はともあれこの人のおかげで周りの視線が弱まった気がする。
「あたしは神奈川第一支部の“姫野 優美”!あんたはどこ所属?」
「えっと…、私は東京第三支部の“桧凪 朝凪”って言います。よろしくお願いします…」
私がそう言うと、優美さんは何故か固まってしまった。これはきっとあれだ、私の支部についてだ…、絶対そうだ…。
「東京第三支部ってあの…!?関東で一番ヤバいって言われてる問題支部の…!?」
ほらねー!!そうだと思ったよこの流れは!県外の支部にすら知られるレベルって、本当に何があったんですか伊敷さん!?
「あんたすごい所に所属してるな…、一応聞くけど何をしたらそこまで悪評がつくわけ…?間違って人殺しちゃったり…?」
そのことについては一度縮さんと桃乃さんに聞いてみたが、どういう訳かその原因を知ってはおらず、縮さんが配属された時から問題支部認定されていたそう。
「実は私も詳しくは知らなくて…、さっきから変に視線を感じるのってもしかしてそのせいですか…?」
「ん~、それは違うんじゃない?多分そのバッジのせいだよ。あんたが特別処置待遇を受けてる隊員だからじゃない?よく分かんないけどさ…」
なるほど…納得です…。思い返せば「他の受験者から狙われやすい」って縮さん言ってたし、その対策として永気修行を始めたんだった…。
「まあ別に気にすることないだろ?悪く言う奴には言わせとけばいいんだよ。それに何か事情があるからその処置を受けたんだろ?それならあんたは悪くないしな。ほらさっさと食っちまうぞ!集合時間に間に合わねえ!」
そう言われて大急ぎで昼食をかきこんだ。今まで色んな人と出会った経験からか、この人からは…、優美さんからは人柄の良さを感じた。孤独に試験を戦い抜かないといけない…密かに心の中でそう思っていたけど、どうやらそうはならなそうだ。
【第11話 開幕!昇格試験! 完】
新たな戦いと新たな出会い! 次回に続く!
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