めざめの騎士 ②
めざめの騎士。灰の乙女が失ったという騎士のことだろう。特定の人物を指すのか。それとも灰の乙女に仕える者に与えられる称号なのか。
カイトの疑問が顔に書いてあったのか、リーティアが察したように微笑んだ。
「乙女の生まれ落ちる時――誓願の騎士、また目覚む」
語感よく唱えられた言葉は、カイトの耳に障りなく、あたかも溶け込むような響きであった。
「灰の預言書に記された一節です。めざめの騎士を象徴する有名な御文ですね。人の身を具して生まれる以上、乙女といえど老いや病からは逃れられない。故に彼女は悠久の輪廻を繰り返し、巡礼の旅にその身を捧げておられます。めざめの騎士とは、ただ一人彼女に付き従うことを許された騎士であり、終わることのない輪廻の中を生き続けるまことの英雄なのです」
急に話が難しくなった。カイトの頭上にはてなが浮かぶ。
「乙女と騎士は、何度も何度も生まれ変わっては一緒に旅を続けている。ということですよ」
「へぇ。なんかロマンチックですね」
「ええ、同感です。二人を題材にした物語は、古今東西で創作されています。いつの世も、人の心を惹きつけるものは同じなのですね」
元の世界でも、歴史上の偉人や架空の人物をモデルに様々な創作がなされている。神の実在が確定している世界といっても、物語が人の生活を豊かにするという本質的な部分は同じなのだろう。
柔和な面持ちのリーティアの隣で、クディカは険しい様相になっていた。
「しかし、めざめの騎士は五年前に魔族の手にかかり、乙女の旅は途絶えてしまった。この国でも各地にマナの淀みが発生し、生態系に大きな悪影響を及ぼしている。我々は何としても、魔王と魔族を討ち滅ぼさねばならん」
灰の乙女はマナの調律を司る。永きに渡り放置された地には、大気中のマナに不純物が混ざり、偏りが生じて淀みとなる。それは生命を蝕む毒となり、あらゆる生命体を変質させてしまうのだ。灰の巡礼の使命とは、マナの淀みを解消し、正常な環境を保つことに他ならない。
「巡礼が滞った今、世界は緩やかな破滅の一途を辿っている。もしお前が魔王を倒すほどの勇者であれば、陛下もお前をぞんざいには扱わんだろう」
「その為には、カイトさん。あなたの力を陛下の御前で示さなければなりませんね?」
リーティアの一言が、カイトの背筋を震わせた。
「力?」
動揺を隠せぬまま、思わず聞き返してしまう。
カイトに戦う力がないことはこの場にいる全員が分かっているはずだ。それなのに力を示せとは一体どういうことか。




