要塞都市デルニエール ①
デルニエール。要塞の名を冠する国内有数の大都市である。
中心に向かうにつれて標高が高くなる地形に、三層の防壁がそびえ立ち、三重の円の間には頑丈な壁が網目状に張り巡らされていた。中心部には貴族や富裕層が悠々と屋敷を構え、外周には地位を持たない庶民の家が所狭しと並んでいる。
要塞都市と謳われるだけあってその防備は極めて強固である。幾重にも防護魔法を施された城壁はいかなる攻撃を防ぎ、また経年による劣化がほとんどない。都市内部にも敵の侵入を防ぐ工夫や装置が点在しており、鉄壁の守りはまさに難攻不落を体現していた。
総督のティミドゥス公は元来用心深い性分で知られており、魔族領に近いということもあって都市の防備に多くの財源と人員を割いていた。
都市中心のゆるやかな山頂に鎮座する巨大な建造物。どの軍事施設よりも多くの金と労力をかけたティミドゥス公の居城であった。
まさにその城内。執務室にて。
苦々しい顔つきの額に脂汗を浮かべている恰幅の良い中年の男こそ、デルニエール総督ティミドゥス公であった。
「すまぬが、もう一度言ってくれんか。どうしたことか、急に耳が遠くなったのかと疑っておる」
彼は豪奢な椅子に座して、隠しきれない焦燥を声にする。
その言葉は、机を挟んで居住まいを正す二人の人物に向けられたものだった。
「お望みとあらば、何度でも申し上げましょう」
答えたのはデュールだ。生まれついての浅黒い肌と、屈強な身体つきの精悍な青年である。青い飾り布をあしらった金属鎧は、白将軍の副官を務める者の証であった。
「モルディック砦は陥落。我が軍はほぼ壊滅状態です。クディカ将軍は殿を務めるため戦場に残られました」
「……なんということだ」
束の間の絶句の後、そんな呟きが漏れた。
いくつもの指輪で飾られた両手が、ティミドゥス公のふくよかな顔を覆う。
「国王陛下が、音に聞くあの白将軍を遣わしたものだから、私は安心しておったのだ。だというのに、まさか半年も経たぬうちにモルディック砦を失うとは。おぬし達は……おぬし達は一体どういうつもりだ!」
「申し開きのしようもございませぬ」
公爵の拳が、広々とした机を強かに叩いた。
「やはり女は女だ。天下の白将軍などと持ち上げられてはいても結局はこの様。女の分際で騎士の真似事とはけしからん。身の程を弁えておらぬ。分不相応な夢など見ず、宮廷でお茶汲みでもしていればよかったのだ」
公爵が吐き捨てた言葉は、デュールの厳めしい顔に鋭い険をもたらした。
「お言葉ですが公爵様。将軍は立派に軍を指揮されました。たった数百の兵であれだけの期間を持ち堪えられたのは、まさに神業と言えましょう」
「そういうことは勝った時に申せ。敗者が何を言おうが負け惜しみにしか聞こえんわ」
丸い双眸がぎろりと動き、デュールの顔を捉えた。驕りに満ちたその目が、どうしたことか憐憫の眼差しに変わっていった。
「まぁ、なんだ。おぬしも災難であったな」
急に同情的になったティミドゥス公に訝しむデュールであったが、次に続く言葉を聞いて血相を変えた。




