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異世界転移で無双したいっ!   作者: 朝食ダンゴ


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マナと魔力

「あなたの論が正しいとしても、だからといってあれを欲しがる理由にはならないね。人質として利用するなら、それこそ厳重に監禁しておくべきじゃないか? 魔導碍牢ならこのデルニエールにも備えてあるんだし」


 魔導碍牢。罪を犯した魔術師などを幽閉する特殊な獄舎だ。魔法の構築を阻害する術式が幾重にも施されており、投獄された者は一切の魔法を使用できなくなる。四神将を管理するならこれ以上の環境はない。


「恐れながら。我々はソーニャ・コワールを人質ではなく、協力者として迎えたいと考えております」


「なんと」


 驚声を発したのはジークヴァルド。


「戯言を仰るな。魔族を引き入れるなど、内から喰い破られるのが落ちであろう」


 ソーンも同感だった。

 魔王に忠誠を誓う魔族、まして友情を抱くというソーニャ・コワールが、命を救われたからといって寝返るとは考えにくい。然るべき処遇を怠り、僅かでも自由を与えようものなら、デルニエールは再び戦火に見舞われるだろう。そればかりは何としても避けなければならない。

 そこまで考えて、ふと思い至る。

 大陸全土にその名を知られるリーティア・フューディメイムともあろう者が、あえて脅威を招き入れる愚を犯すだろうか。何やら秘めた思惑があるに違いない。だが、余計な詮索は無用だ。知ればきっと面倒に巻き込まれる。

 二本指を立て、ソーンはぐっと眉を吊り上げた。


「ふたつ、懸念がある」


「お聞かせください」


「ひとつはデルニエールの安全。もうひとつは陛下のご意向だ」


 民の生活を守れるのであれば、わざわざ手に余る四神将など引き受けずともよい。欲しいというなら喜んでくれてやろう。

 しかしカイン三世がそれを許容するだろうか。せっかく捕らえた四神将を一騎士に与えようものなら、貴族の責務を放棄したと見なされる可能性がある。そうなれば厳罰は避けられまい。

 リーティアは深く頷いてから、眼鏡の位置をすっと改める。


「ソーニャ・コワールの治療にあたり、彼女の身体に特殊なルーンを刻んでおります。魔導碍牢で使われている術式の類似ですが、効果は保証いたしますわ」

 聞き捨てならない説明だった。


「あれは乙女の御業。術士が刻めるものじゃない」


「はい。ですから類似なのです」


 魔導碍牢は、人々の願いに応えた灰の乙女によってもたらされた神器の一種と伝えられる。ルーン文字の発明によって世界に魔法が浸透し始めた時代に、魔法の悪用や犯罪を防止するのが主な目的だった。

 乙女は人々の技術体系に合わせルーン文字を用いたと言われているが、その術式は極めて複雑かつ難解であり、人知の理解をはるかに超越していた。乙女のルーンは再現できない。少なくとも今の魔法学体系ではそれが通説であり、稀代の術士だったメイホーンですらその常識を覆すことはできなかった。


「一体どんなルーンなんだい? 個人的にすごく興味がある」


 瞳の奥を輝かせるソーンに、リーティアは微笑みを深くする。


「魔導碍牢の構造はご存じでしょうか?」


「ああ、うん。魔法障壁で覆った純魔晶と灰元石を規則的に配置し、乙女のルーンを刻む。それによって生まれるマナの乱流が魔力の動きを阻害し、魔法の構築を制限する。だったかな」


 教本どおりの模範解答。ある程度の魔法学を修めた者ならば、このていど誰でも知っている。得意げに口にするほどでもなかったと、ソーンは密かに自省した。


「その仕組みをソーニャ・コワールの体内に構築したのです」


 つかの間の自失の後、ソーンは首を振った。


「不可能だ。そんなこと」


 貴重な資源を大量に用い、複雑な構造物で効果範囲を局地化し、神秘の力によって稼働する。そんな仕組みを生体の内部に構築できるはずがない。


「それができるのです。マナの本質を理解すれば、自ずと世の理も見えてくるものですわ」


 マナには濃度が高いところから低いところへ流れ込むという性質が備わっている。同時に、密度が高い一点に収束しようとする力もはたらいている。

 前者をマナの放散力。後者を凝集力という。

 この力の均衡はわずかに放散力に傾いており、空間に遍在するマナは均一に向かってゆるやかな流動を続けている。

 だが生命体の内部においてはこの力関係が逆転する。体内に取り込まれたマナ、すなわち魔力も前述の法則に従うが、肉体という限定された環境では凝集力に偏るのだ。

 普遍する一大原則と、無数の小さな例外。

 生命の根源であるマナには元来、世界の調和を保つ力が備わっている。

 そのバランスを意図的に崩壊させるのがルーン文字の作用である。魔力の持つ凝集力を増幅させ、その性質に指向性を与えることで様々な超常現象を生じさせる。所謂これが魔法と呼ばれる業である。


「我々の用いるルーン文字は魔力の凝集力を調整することしかできません。しかしながら、乙女の御業にかかれば放散力の操作など児戯にも等しい」


 ソーンは頭を回転させ、リーティアの言葉を理解しようと努める。


「魔導碍牢に刻まれた乙女のルーンは、閉鎖空間に封じ込めたマナの凝集力と放散力を常に変化させ続ける術式です。これに対し私がソーニャ・コワールに施した術式は、彼女が持つ強い凝集力を逆手に取り、断続的に放散力を強めることで魔力のはたらきを抑制するもの」


「ちょ、ちょっと待った」


 そこで思わず制止の手を挙げた。


「それじゃあなに? あなたは、乙女と同じ力を扱えるってこと?」

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