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異世界転移で無双したいっ!   作者: 朝食ダンゴ


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デルニエール攻防戦 二日目 王国軍サイド③

 ほんの十数秒の攻防。クディカはその間に、吹き飛ばされた味方の状態を確認し終えていた。衝撃波を浴びたうちの何名かはその時点で絶命したようだ。生存している兵が何十といるが、その多くは負傷し、気絶し、あるいは馬を失い、戦闘を継続できそうな者はごく僅かである。幸いなのは、周囲の魔獣が丸ごと消滅したことか。


「将軍、ご無事ですか!」


 クディカのもとにデュールの隊がやってくる。離れた場所にいた彼らは衝撃波の影響を受けず、ほぼ全てが健在のようだった。


「他の隊はどこだ」


「すでに城門へ向かっています。将軍もお急ぎください」


「だが」


 周囲ではまだハーフェイの兵が戦っている。明らかに劣勢だ。足を止めた兵の末路は惨い。魔獣に捕まれば、踏みつぶされ食い散らかされ、死体すら残らない。

 彼らを見殺しにして撤退することは、ひどく口惜しい。

 視線からクディカの考えを察したデュールは、沈痛な面持ちで諫言を口にする。


「お気持ちはわかりますが、我々にも余裕はありません。彼らが敵を引き付けている間に退くべきです」


「……そうだな。その通りだ」


 クディカは将軍だ。私情に流され判断を誤ることは断じて許されない。ハーフェイはその本分を見失ってしまった。彼の部下が不憫でならない。


「撤退する!」


 手綱を操り、馬を転進させる。

 直後。横合いを駆け抜けていく騎馬が一騎。脇目も振らずソーニャへと猛進していった。


「あれは……!」


 ジークヴァルドだ。彼はハルバードを水平に構え、分厚い雄叫びを轟かせて巨人に突進。その衝撃力を存分に叩きつける。


「ああっ! ちょっとぉっ!」


 今まさにハーフェイにとどめを刺そうとしていた巨人は、十分に助走のついたジークヴァルドの突撃をもろに喰らい、その巨体を大きくのけ反らせた。


「借りを返しに来たぞ! 能器将軍!」


 明朗で、どこか陽気な声だった。


「白将軍! そなたらは城に戻られい! ここはこの老いぼれが引き受ける!」


「馬鹿な! お一人で何をなされる!」


「若者に借りを作ったままでは、死んでも死に切れんわ!」


 ジークヴァルドは勢いのままに連撃を放った。長大なハルバードを振り回し、巨人の四肢を切断する。老体とは思えぬ膂力と技巧。歴戦の将の腕前は未だ衰えていない。


「わ、わ、わ!」


 ほとんど球体になった巨人が重たげに転倒すると、ソーニャはそのまま地に足をつける。


「あーあ。またやられちゃった。もう別のに乗り換えようかしら。魔王様にお願いしないとねぇ」


 灰となって消えゆく巨人を物憂げな瞳で見つめるソーニャは、迫るハルバードをひらりとかわし、次いで迫ったバルディッシュを魔法障壁で受け止める。


「貴様には、ここで死んでもらうぞ……!」


「きゃーこわーい」


 鬼気迫るハーフェイの碧眼が、ソーニャの紅い瞳を射抜く。


「もらった!」


 ソーニャの背後に回り込んだジークヴァルドが、がら空きの背中めがけ渾身の刺突を繰り出した。騎馬の突進力を乗せた一撃は、しかし頑丈な魔法障壁によって防がれる。


「ぐうっ……! 硬い!」


 並の障壁なら容易く貫き通す威力も、ソーニャには届かない。


「ザコに用はないっての」


 パンプスが大地を叩いた。そこから膨れ上がった黒々とした爆炎。それは大蛇の如くうねり、いくつもの軌道を描いて二人の騎士に絡みつく。

 すんでのところで逃れた両者は、余裕のない表情で武器を構えなおし、再び攻撃の機会を窺わなければならなかった。

 三者の戦いに目を奪われていたクディカは、ふと我に返り周囲を見渡す。

 先程まで劣勢だったハーフェイの兵が、士気を取り戻し獅子奮迅の戦いを演じている。将軍達の戦いを邪魔をさせまいと、必死に魔獣の軍勢を抑えているのだ。ハーフェイ同様、彼らにも退く気はないようだった。ここが死に場所であると、既に覚悟を決めているのだろう。

 撤退を決意したクディカの心が揺らぐ。はたして今、本当に退くべきなのだろうか。混沌渦巻く戦場では、強靭な精神力を持つ彼女でさえ思考が不安定になる。


『――全軍に告ぐ』


 そんな折、だしぬけに通信魔法が飛んできた。公太子ソーンの力強い声である。


『これより我らが大将ティミドゥス公が、精兵三千を率いてご出陣される。地上部隊は城門前に集結せよ』


 思いがけずもたらされた通達に、クディカとデュールは揃って顔を見合わせた。


「どういうことだ?」


「いえ。なにがなにやら」


 このタイミングでティミドゥス公が出陣するなど、まさしく暴挙である。


「一体何を考えているのだ……」


 ティミドゥス公の愚かさは知る人ぞ知るところだが、わざわざ難敵の前に身を晒すほど危機に鈍感でもないだろう。何か思惑があるに違いない。それが事態を好転させるものであればいいが。


「デュール」


「はっ」


「お前は皆を率いて城門前へ行け」


「将軍はどうなさるのです」


「彼らと共にソーニャ・コワールを抑える」


 クディカの視線の先では、将軍らによる激戦が繰り広げられていた。見たところ二対一でも分が悪い。加勢が必要だ。


「またお一人で残られるのですか」


 デュールはモルディック砦からの撤退戦を思い出す。単騎で殿を務めたクディカが敵に捕らわれてしまった。つい先日の出来事だ。脳裏にちらつくのも無理はない。


「言うな。あの時とは状況が違う。それに」


 能器将軍と歴戦の老将。対するは魔王軍四神将が一柱である。


「あそこに飛び込めるのは、私くらいのものだろう」


 個の武勇に優れた者ではなくては、足手まといになるだけだ。


「いざという時は私よりお前の方が冷静に物を考えられる。頼りにしているんだ。副官の任を果たせ」


 真摯な眼差しを向けられ、デュールは表情を引き締めた。


「……わかりました。一時、兵をお預かりします」


「すまんな。皆を頼むぞ」


 言うや否や、クディカは馬を嘶かせ、将の戦いに身を投じる。


「ご武運を!」


 デュールも馬を翻した。彼に従い、百余りの騎兵が陸続と後に続く。

 乱戦の様相を呈するデルニエール攻防戦であるが、今はまだ序章に過ぎない。

 この戦いが佳境を迎えるには、然るべき役者が必要だ。

 誰しもが、英雄の出現を待ち望んでいるが故に。

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