表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移で無双したいっ!   作者: 朝食ダンゴ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/152

自らが望む道

 周囲がざわつく。迷うことなく歩みを進めるカイトに、兵士達は困惑を隠せない。

 まもなく最前線に到達しようかというタイミングで、デュールがカイトを制止した。


「何をしている。下がっていろ。キミの出る幕じゃない」


 デュールは厳しい視線でカイトを嗜める。

 だが、もはやそんなことで怯むカイトではなかった。デュールの手を押しのけ、前進を続ける。


「おいカイト!」


「デュール殿、よいのです」


 追いかけようとしたデュールを、今度はリーティアが呼び止めた。


「フューディメイム卿……? 一体どういうおつもりですか」


「ルーク・ヴェルーシェとは、カイトさんが戦います」


「そんな……勝てるわけがない。彼を殺す気なのですか!」


 デュールが声を張ったのは、カイトを惜しむ故だ。出会って間もないとはいえ、戦いの手ほどきをした師弟の関係である。教え子であり仲間であり、そして国家の希望であるカイトを無駄死にさせることを、デュールは私人としても公人としても看過できなかった。


「クディカを止めなかったのです。それを口にする権利はありません。あなたにも、むろん私にも」


「将軍とカイトは違う!」


「何が違うのです。クディカなら勝てるとお思いですか」


「……私は将軍の強さを存じています。将軍が勝てなければ、一体誰が勝てるというのでしょう」


「その答えが、今からはっきりします」


 リーティアは視線で会話を打ち切った。納得しないデュールを尻目にカイトの後を追う。

 当のカイトは、やはりクディカの剣に道を阻まれてしまっていた。


「下がれ」


 険しい声。


「生き急ぐなと言ったはずだ」


 言わずもがな、彼女の耳にはデュールとリーティアのやり取りも届いていた。カイトが戦う決意をしたことも知っている。


「悪いけど、ここは俺に譲ってもらいます」


 カイトにも退く気はない。戦うべき時に戦わないのは無謀に等しい。恐れることは何もない。あるとすれば、この場で自身の臆病に負けてしまうことだけ。

 彼の心は強い使命感に満ちていた。クディカの言った生き急ぐという評価は正鵠を射ている。それは、半ば戦意の暴走であった。

 リーティアが静かに杖をかざすと、カイトの全身が魔力のベールに包まれる。透き通った翡翠の光。純粋なマナの輝き。


「クディカ、こちらへ。あなたには軍を率いる責務があります」


「本気なのか?」


 振り返ったクディカは、信頼する幼馴染に怪訝な声色をぶつけた。


「お前の考えが皆目わからん。ここで勝てばデルニエールを救えるのだぞ」


 彼女にとって最も聡明で思慮深いはずの親友が、途端に不可解な存在に変わっている。これまでも意見の食い違いは多々あったが、話し合えば理解できる程度のことだった。ところが今のリーティアには、有無を言わせぬ底知れぬ迫力がある。


「リーティア。お前は……何を知っているのだ?」


「私は乙女の意思に従うまでです」


 カイトの手がクディカの剣を押し下げる。


「なに……!」


 抗い難い力に為す術なく、クディカは道を譲ることを強いられる。

 最早クディカに、歩みを進めるカイトの背中を追うことはできなかった。


「カイト! これはお前だけの戦いではない! 国を背負っているのだぞ! わかっているのか!」


「国なんか背負っちゃいない」


 ルークの正面に身を晒し、カイトは立ち止まる。敵の姿をまっすぐに捉えて。


「俺が背負うのは、命だ」


 亡き妹と交わした約束。

 それがカイトの戦う理由なのだから。


「悪いな。待たせちまって」


 金の隻眼がカイトを射抜いた。


「白将軍ではなく、卿が相手か」


「ああ」


「……卿からは何も感じん。俺を謀る気か」


 カイトには歴戦の気配も、強者の覇気もない。

 形だけの一騎討ちに応じ、弱兵を犠牲に戦力を温存する。ルークの目にそう映ったのも至極当然。誇りをもって挑んだ一騎討ちを、軽んじられ、愚弄されたと感じたに違いない。


「やはり人間」


 その一言には、種族に対する侮蔑が凝縮されていた。誠意を欠き、矜持を持たず、信念を捨て要領を追い求める。人間の持つ汚点に、ルークは落胆を隠さない。


「興醒めだ」


 故に彼は一切の手心を捨てた。音を置き去りにし、十数歩先に立つカイトを一刀のもとに斬り捨てんとする。

 クディカの目もデュールの目も、ルークの初動を捉えることはできない。強化された将の動体視力すら凌駕する速度。そこに敵の目を欺く技術などなく、ただ速さのみがあった。

 誰もがカイトの死を予感しただろう。


「速ぇな」


 横薙ぎに迫る漆黒の大剣。カイトは鞘から露わにした僅かな剣身で、殺意に満ちた初撃を受け止めていた。

 轟いたのは爆音。刃を交わす音だとはおよそ想像もつかない響き。

 意想外の防御に見開かれる金の隻眼と、全神経を集中させた黒い双眸が、刹那の間隙に絡み合う。

 一拍遅れて、激突の衝撃が一帯に波及した。

 突風の如き衝撃波は軍の兵馬らを煽り、吹き飛ばし転々とさせる。余波に耐えられたのは一部の実力者のみ。


「クディカ、デュール殿。皆を退避させてください。巻き込まれます」


 臙脂のローブを靡かせるリーティアが、激突する二人から目を離さず言った。


「退避後は迂回してデルニエールへの進軍を再開してください。カイトさんが敵を抑えているうちにできるだけ先に進むのです」


「お前はどうするのだ」


「カイトさんの後衛術士として、ここに残ります」


「……わかった」


 こうなってしまった以上、カイトに全てを委ねるしかない。リーティアが下した判断を最も理に適っていると信じる他なかった。


「デュール! 急ぐぞ!」


「はっ!」


 彼らは迅速だった。頭を切り替え、次の手を打つ。

 目的はルークの打倒ではなく、デルニエールの防衛なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ