異世界転移！
けたたましいクラクションが生命の灯を吹き飛ばす。
伊勢海斗。享年十六歳。死因、交通事故。
最期の瞬間、彼は人生最大にして渾身のガッツポーズを取った。
「転生だ！」
根拠のない確信があった。死して辿り着く先が地獄や天国ではないと。
何故そんなことがわかるのか。わかってしまうのだからしょうがないとしか言いようがない。
視界は暗転する。
「ようこそ。創世の宮へ」
透き通った声。幼くもどこか厳かな響きは、人の声とは思えないほど耳心地がよい。
はっと目を見開いて、それから何度か瞬きを繰り返す。次第に視界は鮮明になり、声の主をはっきり捉えることができた。
簡素な純白のワンピースを纏い、短い髪を吹きもしない風に靡かせる少女。
大きな双眸は愛らしく、小さな鼻はつんと高く、整った唇は品よく結ばれている。背景に溶けるような灰色の髪は、少女に儚い印象を添えていた。
浮世離れした雰囲気。その表情に温度はなく、無機質な存在感を剥き出しにしている。
「かわいい」
率直な感想が口をついて出た。
「すっげぇかわいい！」
この世のものとは思えないほどの美少女。絶世の、とはまさにこのことだろう。
「キミが俺を召喚してくれたのか！ ありがとう！ ありがとう！」
カイトは目に見えて浮かれていた。舞い上がっていた。今にも小躍りでも始めようかという勢いで、抱きつかんばかりに少女に詰め寄った。
「俺、伊勢カイト。キミは――」
カイトが言い切るのも待たず、少女は小さな手のひらを顔の高さまで持ち上げて、まったく無表情のままカイトの頬に強烈なビンタを打ち込んだ。
「へぶっ」
自分より頭一つ半小さい少女のビンタで、地に転がされるカイト。
「いってぇ……」
と言っても、痛みより驚きが勝っていた。気付けにはちょうどよかったかもしれない。
少しだけ冷静になったカイトは、赤くなった頬をさすりながら立ち上がる。そこでようやく自分の体を確認した。トラックに轢かれてバラバラに四散したはずの肉体は元通りになっていて、高校指定の学生服を着たままだ。
「えっと。やっぱりキミは、女神様ってやつなのか？」
高鳴る胸をおさえ、カイトは努めて平静に尋ねた。
「どう思うのもあなたの自由」
返事はにべもない。
「さっき言ってた創世の、なんだっけ」
「宮」
「それがこの世界の名前？」
カイトは周囲に視線を巡らせる。見渡す限りの白い灰。遠く地平線の彼方まで灰以外の全てがなく、けれど濁っているわけでもない。純粋な一色である。
反して、空は異様なほどに鮮やかだ。子どもが好き勝手に絵の具を塗りたくったような色とりどりのビビッドカラーが躍っている。
ここがまともな世界でないことは一目瞭然であった。
