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最弱だって守りたいものがある  作者: ととやん
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無職、魔王と出会う

秋の家は俺の家から徒歩五分位のところにある道場だった。入り口には『真田流剣術道場』と書かれた看板が掲げられている。真田流は先祖代々受け継がれてきた流派で看板や道場と連なる家の部分も趣がありいかにもという感じだった。


「ついたな。」


これから怒られるのかと思うと少し緊張する。


「うん。」


秋はいつも通りだ。さすがだ。


「姉ちゃん手が痛い。」


二人で手を繋いでいたそーすけが顔をしかめている。


「ごめん。」


全然さすがじゃなかった。秋も緊張している。よく見ると唇が震えている。


「ただいま。」


秋が玄関の引き戸を開ける。


「遅い。」


玄関を開けるとそこには秋のお父さんが腕を組んで立っていた。


「ごめんなさい。」

「先ほど戸田くんの家を出たと連絡があったが、30分以上も何をしていたのだ。」

「人助け。」


秋がきっぱりと答える。その答えでいいのか?


「なら良し!」


秋のお父さんもキッパリと答えた。それでよかったらしい。


「戸田くん。わざわざ娘を届けてくれてありがとう。」

「いえ。今日はおじさんに大事なお話がありまして伺いました。」

「娘ならやらんぞ。」

「ちがいます。」


この人は真面目な顔して何を言い出すんだ。


「ふむ。ならばどのような話かな?」

「昨日のゴリラの話なんですが・・・。」

「あぁ。その件ならもういいんだ。終わった話だ。」


俺が話し終わる前におじさんはにっこりと微笑んで話をきりあげた。


「そうなんですか?」

「変な気を使わせてすまなかったね。」

「そんなこと言って昨日の夜言い過ぎた~って悩みまくってたのはどこの誰かしら?」


おじさんの後ろから秋がそのまま大人になったような女性が現れた。


「お前は余計なことを言うんじゃない。」

「相変わらずユッキーは素直じゃないわね。電話きてからずっと玄関で待ってたくせに。」


30分以上腕組待機ですか。


「ユッキーはやめなさい。」


真剣な顔のままおじさんは威厳を保とうとしている。


「わかったわ。もうユッキーとは呼ばないわね。」

「皆の前ではやめなさい。」


皆の前じゃなければ呼んでほしいのか。最早威厳はないな。


「秋。おかえり。」

「ただいま母さん。」


威厳を保とうとしているおじさんをおばさんは無視をして秋に声をかけた。


「そちらの子は?」


無視をされているおじさんが横で「ユッキーと呼んでもいいぞ。」と力弱くいっているのを完全にスルーした。


「そうすけ。」


うん。それじゃ伝わらないだろ。


「よろしくね。そうすけ君。」

「こんにちは。」


そうすけが答えながら秋の後ろに隠れた。


「おいくつかしら。」


笑顔のままおばさんが質問を続けた。


「12歳です。」


え?そうなの?10歳かと思ってた。


「そうすけは親がワシに殺されてしまって帰るところがないので、どうしていいかわからなくて連れてきました。勝手なことしてすいません。」


話が進まないので横から補足した。


「気にしなくていいわ。人助けは大切なことよ。その鷲さんからそうすけを秋が助けたのね。」


今の会話だけでここまでわかるとは・・・この人エスパーか?


「うん。」

「えらいわー。」


おばさんに撫でられて秋は少し照れている。おばさんは秋と顔がそっくりだが性格はほんわりしててよくしゃべる。外見は母親、中身は父親から遺伝したのが秋という感じだ。


「そんなことより、その子はどうする気ですか?」


ユッキーから立ち直ったおじさんが秋に問いかける。


「行くところない。」

「警察には?」

「忙しい。」

「それは困りましたね。」

「うん。」


父娘とは思えないほど簡潔な会話が淡々と続く。


「とりあえず世界中がドタバタしてるわけだから、落ち着くまでそうちゃんはここにいるといいわ。」


おばさんがパンと手を叩く。


「ほんと?」

「お前・・・そんな勝手に。」

「ユッキー?真田流の心得は?」

「邪力無力弱力無力。」

「その心は?」

「邪悪な力は人の為にならず弱い力も人の為にならない。」

「ならば困ってる人は助けるべきだと私は思うわ。」

「仕方ないですね。ですが、家の手伝いはしてもらいますよ。」

「決まりね!ユッキー愛してるわ。」


嬉しそうにおばさんはユッキーに抱きついて頬にキスをした


「人前でやめなさい。」


腕を組んだまま平静を装うユッキー。・・・だが、頬が緩みっぱなしですよ?ユッキー。


「これで家族が二人も増えたわね。」

「二人?」

「正確には一頭と一人ですね。」

「一頭?」


秋の頭にクエスチョンマークが見える。


「昨日秋が飛び出したのを追いかけてたら偶然見つけて連れて帰ってきたの。」


娘ほったらかして何かを連れてきたらしい。


「紹介するからついてきて。」


そういいながらおばさんは俺達を中庭にある修練場に誘導した。


「紹介するわね。フェンちゃんよ。」


中庭に座っていたのは狼だった。小型犬くらいの大きさで犬ぽい印象を受けるが下顎から生えている牙が犬のそれとは違った。身体中あちこち怪我をしていて包帯を巻かれているが毛並み自体はキレイな銀色だった。


「なぜフェンちゃん?」

「首輪がついていてフェンリルって書いてたのよ。」


俺の素朴な疑問におばさんが答えてくれた。


「狼って人に懐かないって聞いたけど飼えなくもないのかな。」


そう思いながら狼の首輪を確認してみる。確かに首輪のネームプレートにフェンリルと書かれていた。


「狼とはいえ化物の名前を自分のペットにつけるってどうなんだ?」


『化物とは失礼な童だな。』


「え?」


ふいに頭に声が響いた。


「トウマ?」


秋が心配そうな顔で声をかけてくる。


『童以外には聞こえておらぬよ。』

「また・・・?」


周りを見回すが皆心配そうに俺を見ている。


『どこを見ている。こっちだこっち。』


と言われても頭に直接響くから方向がわからないんだよな。


『それもそうだな。』


ついに思考も読み取られた。


『フッ。童の思考を読むくらい他愛もないことだ・・・。』


笑ってないでそろそろ誰なのか教えてくれ。


『これはすまぬ。つい嬉しくてな。私だ。フェンちゃんだ。』

「え?」


目の前の狼に目が釘付けになる。


『よろしく頼む。童よ。』

「えええええええええ!!!!!?????」

「トウマ?大丈夫?」


秋が不安そうにまた声をかけてくる。


「大丈夫だ。もーまんたい。」

「兄ちゃん大丈夫じゃないってことだけはわかったよ。」


そうすけも心配してくれている。


『ふふふ。童よ。いいリアクションをするのだな。』


なんで狼がテレパシー使ってるんだよ。


『動物だって強化されてるいるんだ。別段不思議なことはないだろう?』


確かに。てか、なんで俺にだけ話しかけるんだよ。お陰で変な目で見られてるだろうが!


『ふははは。いやーすまぬすまぬ。しかし、これには理由があってな。』


ほう?納得できる説明を求む!


『訳あって隠れているのだが私がここにいると絶対に知られてはいけないのだ。』


訳?


『それは言えぬ。』


全然答えになってないだろ。てか、俺にはばれていいのかよ。


『童にはこの世界の新システムが干渉していないからな。童にばれても奴に知られることはない。』


俺はやっぱり元の人間のままってことなのか?


『察しがいいな。その通りだ童。童にはこの世界の新システムが一切適用されていない。』


それは・・・最弱ってことであっているのか?


『その通りだ。猫にも負けるであろう。』


猫にも・・・。その新システムってなんで俺だけ適用されてないんだよ。


『それはわからぬ。』


わかんねぇのかよ。


『分からぬ・・・が、お陰で私は童とこうやって話が出来る。だからついつい楽しくなって、からかってしまった。許せ。』


別にかまわないけど、猫にも勝てないのか・・・生きていけるだろうか?


『安心するがいい。これも何かの縁だ私が童を守ろう。』


それはありがたい申し出だ。今の俺じゃ学校行くのすらが怖いからな。しかしフェンちゃんぼろぼろじゃないか。そんなんで守れるのか?


『奴と戦ったからな。こんな傷で済んだだけマシだと言えるだろう。前回は体ごと吹っ飛んだからな。』


なんだそれ?悪魔とでも戦ったのか?


『まあ、世間的にはこちらが悪魔となっているがな。』


え・・・?


『あぁ。申し遅れた私の名前はルシフェル。』


「は・・・?」


『サタンやルシファー、フェンリルなどとも呼ばれている。改めてよろしく頼む童よ。』


「ええぇぇぇぇえええぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇぇ!!!!!!!??????」


俺の叫び声が昼下がりの町内に響いた。


やっと出てきたか。ルシふぇるさん

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