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最弱だって守りたいものがある  作者: ととやん
8/16

無職、人の死を見る

食欲をそそるパンの焼けた匂いで目が覚める。昨日の晩御飯は拷問に近かったせいかご飯の匂いに体が反応したらしい。

体をお越し「ん~。」と一伸びする。

昨日色々あったせいか晩御飯のあとすぐに睡魔に襲われベッドにダイブしたのを思い出した。


「さすがに朝飯は白米だけじゃないよな。」


そうして横に置いた手に柔らかい感触を感じた。


「ん?」


見ると俺のパジャマを着た秋が横で寝ていた。

そして俺の手は秋の胸に置かれている。


「ラノベかよ・・・。」


俺はそっと秋から手を離し秋の頭まで布団をかけ自分も布団に再び潜った。


「ふー。」


一呼吸おいてもう一度起き上がりベッドをそっと降りた。


「さすがに朝は白米だけじゃないよな。」


何事もなかったようにもう一度伸びをした。


「白米だけにしてもいいわよ?」


部屋のドアを開けると目の前に笑顔の母さんがいた。


「見てたの?」

「最初から。」


母さんはにっこりと笑ったまま返答する。全部じゃないですか。


「不可抗力だよね?」

「わざとじゃないならすべてが許されると思う?」

「そ、そんな世の中だったら皆幸せになれると思う。」

「そうね。トウマの言うとおりね。うっかりトウマの朝食だけ作り忘れたからトウマだけ白米ね。」

「横暴だ!」

「あらあら。そんな世の中だったら皆幸せなんでしょ?」


母さんはにっこりと微笑んで部屋をでていく。


「おはよう。トウマ。」


ピシャッ!と閉められたドアを見ていると後ろから眠そうな声がする。


「おはよう。」


振り返ると眠そうな眼をこする秋がいた。


「なぜ。俺のベッドで寝てるんだ?」

「昔よく一緒に寝た。」

「そうだけど小学生の時の話だよね。」

「・・・だめ?」


秋がしゅんとする。

ダメじゃない。ダメじゃないし柔らかかったけど、朝食が白米になるんだ!


「まあ、たまにはいいか。」


俺は心の叫びを必死におさえてぶっきらぼうに答える。


「うん。懐かしかった。」

「たしかに昔はよく四人でくっついて寝てたな。」

「うん。トウマのお母さんの朝御飯楽しみ。」


秋は昔からうちの母さんが作る料理が好きだった。毎日食べてる俺には分からないがめちゃくちゃうまいらしい。

今日の朝御飯は焼いたトースト、コンビーフとキャベツの炒め物にめちゃくちゃ甘い紅茶だった。炒め物はパンの上に乗っけて食べるとおいしいし甘い紅茶はパンを浸して食べるとベストな甘さになる。どれも秋が好きなメニューで俺の好物でもあった。


「この組み合わせはきつくないか?」

「あらあら。甘い紅茶があるだけでもありがたく思いなさい。母さんの優しさよ。」

「けど、この組み合わせはきついだろ。」


俺の前には白米とパンとの組み合わせがベストなめちゃくちゃ甘い紅茶があった。白米とはどう考えても合わなかった。


「文句いうなら食べなくていいわよ。」

「いただきます。」


飯抜きになる前に俺は白米を掻き込む。食べてみると合わないだろうと思っていた白米と甘い紅茶の組み合わせは思ったよりも最悪だった。

気を紛らわせようとテレビをつける


「あらあら。怖いわね。」


母さんがニュースを見て顔をしかめている。

テレビから流れてきたのは破壊つくされている街や自衛隊が巨大モンスターと戦う姿だった。


「ここら辺だけじゃなかったのか・・・。」

「この辺はゴブリンだからまだ安全。」


ニュースによると日本だけではなく世界中で同じ現象が起きているとのことで場所によっては死者どころか壊滅してしまったところもあるようだ。


「場所によってモンスターが違うのか?」

「ゲームではそう。場所によって出現モンスターが違った。」

「てことはこの辺がゴブリンじゃなかったら俺は・・・。」


俺の言葉に秋はフルフルと首を横に振った。


「トウマは私が守る。」


秋の目からは強い決意のようなものが見えた。


「だめー!にいちゃんは僕が守るの!」

「ち・が・う!わたしよ!」


横で一緒に朝食を食べていた蓮と蘭がまた秋に対抗しだした。騒ぎ出すとうるさいので話をそらすことにする。


「学校行く前に秋の家よらないとな。」


俺はちらっと時計を見ると7時半を指していた。秋の家を経由することを考えるとそろそろ家を出ないと遅刻になる。


「学校なら一週間お休みよ。」

「え?」


唐突な母さんの言葉にキョトンとしてしまった。


「学校がゴブリンの死体だらけなのと損傷が思ったより酷いらしいわ。あと一部生徒がスキルなしらしくて、これからの対策も考えないといけないとも言ってたわ。」


一部って俺のことだろうけどやんわり隠してくれたんだろうな。ゴリラもいいところあるな。


「そうなのか。てかそれならもう少し寝れたじゃん!なんで教えてくれなかったのさ。」

「え?トウマが狼になっ・・・。」

「さて!いつ秋の家にいこうか?」


母さんの言葉の続きを聞く前に理解した俺は途中で話題を変える。


「んー。とりあえずトーストお代わり!」

「あらあら。あきちゃん相変わらずいい食べっぷりね。ちょうど一人白米になったからお代わりは多めにあるわよ。」

「それ俺のーー!アイタッ!」


思わず手を伸ばしたが母さんの手刀が叩き落とした。


「もうトウマのものではないわ。さあ、あきちゃんお代わりよ。」

「ありがとう。」


受け取ったトーストを今度は紅茶に浸してから食べる。


「おいしい。」


本当に幸せそうに呟く秋と満足そうに見つめる母を睨みながら俺は白米を口に運んだ。




学校も休みということもあり、朝食を食べてから少しだらだらして家を出た。


「秋の父さん怒ってた?」

「うん。敵味方関係無く斬るのは凶刃。私はそんなこと教えた覚えはない!って・・・。」


昨日のことを思い出したのか秋の顔に影ができた。


「そうか。けど、確認してたら俺が死んでたかもだしな。」

「うん・・・。」


原因が俺の非力さにあるので何を言っていいかわからず重い空気が秋との間に流れる。


「あ、あのさ・・・。」


ドオオオオン!


俺の言葉は凄まじい爆音によって掻き消された。


「なんだ!?」


見るとそこには人と同じくらいの大きさの大鷲が飛んでいた。


ドオオオン!


また爆音が響く。


「紅丸!」


秋が紅丸を顕現させ大鷲へ突っ込んでいった。


「三日月!」


秋が腰の捻りを加えた抜刀術を繰り出す・・・!


「がぁ!」


が、急上昇して大鷲は攻撃を回避する。

しかも技のあとの隙を見逃さず大鷲は急降下しつつ秋に鉤爪で襲いかかる。


「くっ!」


秋は鞘で鉤爪を防いだ。


「ん?」


視界の奥に赤と青の混ざったものが動く。


「あれは・・・。」


眼を凝らして見てみるとそれは背中を赤く染め蹲る警官だった。


「トウマ。だめ!」


秋の制止を無視して俺は警官に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「ぐ・・・君は・・・?」

「戸田冬馬って言います。今救急車呼びますね。」


スマホで電話をかけようとした俺の腕を警官の手が掴んだ。


「き、救急隊が来れば、あ、あのワシの犠牲者が増え・・・る。」


苦しそうに咳き込みながら必死に言葉を紡ぐ警官。咳き込んだときに離れた俺の腕には赤い手形がベットリとついていた。


「ですが、このままでは貴方が!」

「それが警官の仕事だ・・・。そんなことよりこの子を頼む。」


必死に笑顔を作る警官仰向けになると陰から10才くらいの男の子が出てきた。どうやら、この子供を守ろうと盾になって背中をやられたようだ。


「おじさん!おじさんも逃げようよ!一人にしないで!」


男の子が泣きながらおじさんにすがり付いた。


「すまん。坊主。父さん母さんは守れなかった。許してくれ。」


苦しそうに頭を下げる警官の目からは涙が溢れていた。


「トウマ君だったか・・・。これを。」


警官は懐から警察手帳を取り出し俺の手に握らせた。


「妻にすまないと・・・。」

「受け取れません。自分で渡してください。」


俺の言葉に警官は力なく首を左右に振る。


「すま・な・・い。頼んだ・・・ぞ。」


その言葉と同時に警官の手は地面へ投げ出された。


「おじさん?おじさん!うわあぁぁぁあん!」


少年が警官にすがり付いて大泣きを始める。俺は手元に残った警察手帳を開くきれいな奥さんであろう人と小さな女の子そして警官の三人が楽しそう写る写真が入っていた。


「トウマ!」


秋の声で俺は我に返る。秋は大鷲に何度も攻められていたが全て防いでいた。


「秋!子供がいる!」

「そう。」


何度目かの鷲の攻撃を防ぎ秋は刀を鞘に納めた。


「真田流・月の型・・・。」


再び急降下してくる鷲に対して抜刀術の構えをとる秋。


「双月!」


抜刀した刀をワシに向けて斬りつけるが鷲は少し減速することでかわし、そのまま秋のがら空きの胸へ向かって嘴を突きだしてきた。


「ぎょあぁあぁぁあ!!」


断末魔をあげたのはワシだった。鷲は確かに刀はかわしたが次に放たれた鞘をもろに頭に受けて壁まで吹っ飛んでいき壁にめり込んだ。最初の斬撃はおとりでワシはまんまと懐へ誘い込まれた形だった。


「こいつはなんてモンスターなんだ?」

「ちがう。」


秋は首を横にフルフルと振った。


「ちがうとは?」

「こいつはモンスターじゃないただの大鷲。」

「こんなでかい大鷲なんているのか!?」


秋は再度首を振る。


「それもちがう。強くなったのは人間だけじゃない。」

「え・・・まさか・・・?」

「そう。動物も強くなっている。」

「まじか・・・。てかなんでそんなこと知ってるんだ?」

「新聞に書いてた。」

「そういえば朝食のあと秋は新聞を読んでたな。」

「トウマは危機感なさすぎ。」


少し不満そうな顔をしてから秋は少年に声をかけた。


「名前は?」

「沖田・・・蒼介。」

「いい名前ね。私は真田秋。」

「お兄ちゃんは?」

「俺か?俺は戸田冬馬だ。よろしくな!そーすけ!」


俺は勤めて明るくそーすけに笑いかけた。


「うん。よろしく。」


そーすけの顔からは少し笑顔がこぼれたのを見て秋は安堵の表情を浮かべた。

そのあと警察に電話をして警官が一人死んでることとまだ危険があるかもしれないことを伝えた。

それから警官が来るまでの間はそーすけの話を聞いていた。

朝この通りを家族三人で歩いていると急に大鷲が襲ってきて自分を守ろうとした親二人が死んでしまい、そーすけも襲われそうになったところにさっきの警官が現れた。そのままそーすけを庇うように守ったため背中に大きな傷を負うことになる。最初は拳銃で抵抗したが二発撃ったくらいで拳銃を弾かれてしまい。もうやばいってところで秋が乱入したらしい。


「君達。」


急に声をかけられて振り返るとそこには警官が立っていた。


「通報してくれたのは君達か?」

「はい。俺達です。」

「そうか。協力感謝する。」


そういうと警官は仰向けに倒れている警官に近寄る。


「藤田ぁ・・・。」


悔しそうに顔をしかめる警官に声をかける。


「あの・・・。」

「なんだ?」


警官が振り向く。そこには悔しいという表情はすでになかった。


「お知り合いですか?」

「あぁ。同期だ。」

「これ、奥さんにって・・・。」


そういって警察手帳を警官に渡す。


「あと、すまないって伝えてくれと・・・。」

「そうか。すまなかった。本官はこの辺を見回ってから死体処理をする。」

「一人でですか?」

「あぁ。どこもかしこもモンスターで被害だらけだ。害獣駆除で人手が足りぬのだ。」

「なら、俺たちも。」

「ならん。市民の安全が脅かされることは出来ぬのだ。君達はすぐに避難するように!」


そういって警官は立ち去っていった。


「とりあえず・・・そーすけどうする?」

「ほっとけない。」

「だよな・・・。」


俺達はどうしていいかもわからず、そーすけも連れて秋の家へいくことにした。


おそくなりました!

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