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最弱だって守りたいものがある  作者: ととやん
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無職、女の子に叱られる

「うおぉぉおぉぉおおぉぉ!」


ゴールデンゴリラの咆哮が全身を突き抜けていく。


「あ、これ死んだ。」


圧倒的な力量差を前にすると人間は恐怖心を通り越して平常心になるらしい。


「なに『悟り開きました』みたいな顔してんだよ。」

「そうだよ。ゴブリンよりは強いけど所詮はゴリラだよ。」

「いや、ゴリラはめちゃ強い気がするんだが?」

「所詮レベル100くらいの雑魚モンスターだよな。」

「いや、俺はレベル0なんだが?」

「トウマ。下がってて。」


俺を守るようにゴリラと俺の間に出た秋は腰を落とし右足を前にだした。さらに左腰に下げた刀に手をかけいつでも抜刀できる体勢をつくる。俗にいう抜刀術の構えだ。


「おー。秋はやる気だな。」

「油断大敵。それにおかしい。」

「おかしいってなにが?」

「レベルが低いゴブリンたちの中にゴールデンゴリラがいること。」


ゴリラの名前はゴールデンゴリラで合っているらしい。そのまんまだな。


「まあ、確かに組み合わせとしてはおかしいが、現実にこいつらいることが既におかしいからなぁ。」


いつものように夏希がボリボリと頭を掻く。


「気にしすぎかもしれない。とりあえず・・・斬る!!」


ゴリラへ向かって秋が地面を蹴る。ゴリラまでの距離は5mほどだったが一瞬で肉薄した。


「うおぉぅ!」


ドゴォォォオォォン!!


ゴリラが秋目掛けて振り下ろした両手が轟音と粉塵をあげる。


「秋!」


あまりにも強烈な一撃に思わず声を挙げてしまった。ゴリラの放った一撃の衝撃波が体全体を突き抜けた。


「真田流 月の型・・・。」


上から棲んだ感情のこもってない声が聞こえた。


「まじか・・・。」


見上げるとそこには天井に着地している秋がいた。重力さんが仕事をしていない。


「三日月。」


天井から跳躍した秋は空中で抜刀。腰の捻りをしっかりと加えた抜刀術はゴリラの右肩から左脇腹にかけて斜めに斬撃を加えた。


「うぉ・・・う。」


断末魔と言うには弱々しすぎる呻き声をあげたゴリラが斜めにスライドしていき地面に転がった。


「かっこいい!アキかっこよすぎ!」

「真田流ってあんなに飛べたのかすげーな。」


漫画みたいな一撃に夏希と春奈が騒いでいる。そんな二人を無視して秋がこっちへ向かってきた。


「大丈夫?」

「あ、あぁ大丈夫だ。ありがとな。」


俺は笑って答える。


「そう・・・。」


秋はほっとしたような表情を浮かべる。そして・・・。


パチン。


乾いた音が廊下に響いた。俺は一瞬何が起きたかわからなかった。


「今のがドラゴンなら死んでた。」


その言葉が胸に重く突き刺さる。そしてさっきまで自分のすぐそばまで死が近づいていた事をやっと認識できた。


「痛い・・・。」


頬を触り自分がビンタされたことに気づいた。


「死んだらそれも感じない。」


そう言い残すと秋は踵を返して歩きだした。


「あんなに怒ってる秋は初めて見るな。大丈夫か?」


夏希が珍しくふざけた様子なく心配している。


「まあ、とー君は最弱だしね。一番油断したらダメだよね。」


さっきゴブリンで死にかけたというのに周りがいつもと同じ馬鹿話をしていたから気が緩んでいたのかもしれない。


「落ち込んでないでいくぞ。」


夏希が背中をバンバンと叩いて歩きだす。


「アキはそれだけとー君を心配してるって証拠だよね。」


春奈も夏希の真似をして背中をバンバンと叩いて歩きだした。


「そうだよな。ニートだもんな・・・。」


俺はじんじんする頬をとニートという言葉で砕けそうな心を押さえながら三人の後ろを追いかけた。


「つけられてる。」


下駄箱で靴を履き替えていると唐突に秋がぽつりと呟いた。


「え?」


唐突すぎてなんのことか理解できなかった俺は思わず間抜けな返答をした。


「ゴールデンゴリラのあとからずっと誰かにつけられてる。」


やっと言葉の意味を理解して周りをキョロキョロと見回した。すると柱の影からはみ出ているお腹を見つけた。

「おいおい。かわいいお腹が柱からはみ出てるぞ。諦めて出てこいよ。」


夏希が調子よく柱から出ているお腹に問いかけた。


「ぐふふふ。よくわかったな。流石は真田秋。」


柱の影から太った生徒が姿を表した。おかっぱ頭に肥太ってパンパンになった腹。顔には吹き出物があちこちにできていた。


「お・・・お前は・・・。」


夏希が体全体を震わせながら声を絞り出す。


「中学の時同じクラスだった田島くん?元気ー?今何してるのー?」

「誰だよ田島って!田中だよ!そもそも同じ高校の制服きてるだろうが!」


夏希は全く覚えていないようだが、こんなキモオタデブという言葉が似合うようなやつをよく忘れられるな。彼は隣のクラスの・・・。


「もう。ナツったら失礼だよ?隣のクラスの平沢くんだよね?」

「ちがーう!た・な・か!田中だっていってんだろうが!しかも同じクラスだよ!」


同じクラスだった・・・。今世紀最大のミステリーだな。


「平沢でも田島でもいい。なんのよう?」

「だーかーらー!田中だ!」


そう田沢は叫んでから一呼吸おいて話を続けた。


「どうやら君たちもLGを中々やり込んでるようだからパーティーにいれてやってもいいかなと思ってね。」

「断る。さよなら。」


そういって秋は踵を返して歩きだした。


「だ、そうだ。じゃあね。デブ島君。」

「ごめんね。アキは人見知りだから。また明日ね。オタ沢君。」

「いや、もうそれ名前間違うとかじゃなくて悪口だからな?」

「・・・ロス。」


後ろから呻き声のような言葉が聞こえたので振り向くと、そこにはこめかみに青筋を浮かべて色々切れてしまってる中田くんがいた。


「ブッコローーース!出てこい僕の最強の下僕!スカイウルフ!」

「スカイウルフだって!?」


夏希が驚愕した顔で振り返る。


「アオーーーーン!」


遠くから遠吠えが聞こえる。


「ぐふふふ。お前らはこれで終わりだ。僕のスカイウルフはレベル2000を越える。かなりの力がない限りまともに太刀打ちはできないぞ。」

「だったら・・・スカイウルフが来る前にお前を倒すだけだ!」


そういって手に持っていた深紅の槍を片手に田辺君に突っ込む。


「ダークソウルブラストォォォ!」


なんとも中二病ぽい名前を叫びながら槍を突きだすと、穂先より真っ黒な竜巻が田中島君に向かって放たれた。


「ひ!ひぃいいいいい!」


中島君が驚愕して動けない間に黒い竜巻は目の前まで迫っていた。そして・・・。


ズゴオォォオオォォン!!


辺りを包む爆音と共に粉塵を巻き上げた。


「す、すげえ・・・。」


中二病みたいな名前とは裏腹に破壊力は半端じゃなかった・・・が。


「ぐふふふ。僕のスカイウルフの方が一足早かったようだね。」


未だに巻き上がる粉塵の中から嫌な笑い声が聞こえてきた。


「く・・・。」


夏希が苦虫を潰したような顔をしているところを見るとあまり良い状況ではないらしい。

少しずつ晴れてきた粉塵の中から銀色に輝く毛並みの狼が現れた。その頭には金色の角と背中には毛並みと同じ銀色に輝く羽が生えている全長4mほどの狼だ。


「キレイ・・・。」


春奈が見惚れるほどその狼は美しかった。全身を包む銀色の輝きは神々しささえ感じる。


「ぐふふふ。もう終わりだよ君たち。いくのだ!スカイウルフよ!」

「アオォォオオン!!」


スカイウルフが雄たけびを挙げただけで突風のような衝撃を受ける。


「ガゥ!」


俺たちが怯んだところを見逃さずにスカイウルフは地面を一蹴りした。


「なっ!?」


速かった。今までみたゴブリンやゴリラは元より秋の速度よりも更に上にみえる。


「ぐぅう!?」


スカイウルフが勢いそのままに夏希に噛みつきそのまま校舎の外へ飛び出していった。


「夏希!?」


急いで夏希を追って外へでる。


「夏希!大丈夫か!?」


学校の外に出ると大量のゴブリンの死体があちこちに散らばっている。まだ敷地内でゴブリンやでっかいカラスみたいなのを倒し続けている生徒もいたがその生徒全員が校舎をぶっ壊して飛び出してきた夏希とスカイウルフに視線を集中させた。


「なぁ。あれスカイウルフじゃねえか?」

「スカイウルフって神獣の・・・?」

「マジか!超レアモンスターじゃねえか。」


周りがざわざわしだした。


「夏希!!」

「心配すんな!ちょっとびっくりしただけだ!」


夏希はスカイウルフの牙を槍でしっかりとふせいでいた。

しばらく迫り合いをしたあと同時に夏希とスカイウルフが後方に飛びのいた。


「ぐふふふ。チャラ男はこれで終わりなんだな。いい気味だ。」

「おい。オタッキー。スカイウルフなんてもん消しかけたんだやり返されても文句は言わねえよな?」

「ぶひゃひゃひゃ。それが出来るならやればいいさ。僕のスカイウルフに勝てるならな!」


その言葉を聞いて夏希は頭を掻きながら「フッ」と笑った。


「見せてやるよ。俺の相棒を!」


夏希の相棒ってだれだ?まさかニート少年か?

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