最弱ステータス最弱ルートの最弱スタート
俺、戸田冬真は今日告白すると決めていた。
今までも何度も告白を決めては何度も言い訳をして先延ばしにしてきたが、今回こそは本気だ。本気だったら本気なのだ。なぜなら今日は好きな相手の女の子を放課後の誰もいない教室に呼び出したのだ。夕焼けが映える高校の廊下を爆発しそうな鼓動を抑えて3-Bの教室へ向かう。一歩踏みだすたびに心臓が口から出るかと思ってしまうほど心臓の動きがおかしかったが、なんとか教室の前まで到着した。教室の引き戸に手をかけて一呼吸置く。中から女生徒の笑い声が聞こえてくる。その声でまた心臓が跳ね上がった。
「大丈夫だ。振られたって死ぬわけじゃない。気持ちを伝えるんだ。もう後戻りできない。」
そう自分に言い聞かせるようにつぶやいてから勢いよく引き戸を引いた。そしてー
「春奈。好きだ!付き合ってくれ!!」
教室に飛び込むなり思いっきり目を瞑ってそう叫んだ。
言った。言ってしまった。これであとは相手の返事しだい。なるようにしかもうならない。
「そうなんだ。とー君も同じ気持ちだったんだ。うれしいよ。」
その言葉を聞いて俺は目を見開いた。真っ赤に染まる教室で彼女渡辺春奈は本当に嬉しそうに微笑みながらこちらを見ていた。セミロングの髪が赤く染まり大きな瞳からなる童顔な顔立ちの頬も夕日に照らされていた。その姿があまりにきれいすぎて見惚れて一瞬動けなくなってしまっていた。
「とー君。そんなにLGやりたかったんだ。あんなに俺はやらないって言ってたから本当に嬉しいよ。これでみんなで冒険できるね。今からじゃみんなに追いつけないと思うからレベル上げに付き合ってあげるよ。」
その言葉で俺は我に返った。
「そうか。ありがとう。俺も嬉しいよ。れべるあげ・・・。」
れべるあげ・・・!?口に出してからその異様な言葉に気づいた。というかLGってなんだ?思考が追い付かない。
「LGにカンストはないからなあ。やればやるだけ強くなれるんだが新規勢と一緒に冒険しにくいのはたまに傷だよな。」
そう答えたのは日向夏樹だった。スポーツ万能で茶髪ワックスのチャラ男属性。顔もそこそこいいので常にモテモテな奴だ。そして不本意ながらこいつと俺は保育園のときからの腐れ縁である。
そんなことより
「なぜお前がここにいる!」
「なぜって。春奈が皆で帰ろって言うからさ。」
「え?春奈が?」
きょとんとして春奈を見る。春奈もきょとんとして見返してきた。
「え?大事な話があるっていうから・・・。みんないたほうがいいかなって、ね?アキ。」
確かに一人で待ってて書かなかったけどさ・・・。ふつうわかるよね?
「え?う、うん。」
春奈の問いに気まずそうに返答したのは真田秋だった。おそらく俺がどうして春奈を呼び出したか理解していたのだろうが、無理やり連れてこられたのが容易に想像がついた。黒く長い髪と日本人ぽい顔立ちの少女で今はまだ幼さを残しているが将来は大和撫子という言葉ぴったりと合う女性になりそうな雰囲気がある。
「でも、これで四人でLGで遊べるね!わたしずぅ~~っと四人でやりたかったんだ!」
そんな秋の表情など無視して春奈は満開の花のような笑顔をしていた。俺はゲームというものに関心がなかったため今までLGの誘いを再三に渡って断ってきた。だがまぁこの笑顔を見れただけでもよしとするか・・・。いや無理だな。三日はふさぎ込む。もしかしたら五日かもしれん。
「じゃあ、じゃあ、今から登録しようよ。とー君。」
そういいながら春奈が俺に抱き着いてきてポケットの中のスマホを取り出そうとする。
「わかった。わかったからひっつくな。」
好きな女の子に抱き着かれるのはかなり嬉しいが、胸が体に当たってうれ・・・気が気じゃないのでとりあえず離れてもらった。
「それでルシフェルゲームだっけ?」
「うん。通称LGだよ。」
「お。これか?どんなゲームなんだ?」
俺はスマホでゲームをダウンロードしながら聞いてみた。
「うんとね・・・。世界的に大人気爆発爆進中でスマホ持っててやってない人なんてとー君くらいしかいいないゲームだよ!」
「うん。そうか。まったくわからん。夏希頼む。」
「え?俺か?」
「今ので内容わかると思うか?」
「まぁ、そーだな。」
後ろで「え~?なんで~?」と可愛くぷんすか怒りながら背中をぽかぽかしてくる小娘がいるが可愛すぎて全く怖くないので無視する。というより無視しないと頬が緩む。
「まぁ簡単に言うとアクションゲームだな。皆で敵をぶっとばす!」
夏希は自信満々に右手で拳を振り上げながら叫んだ。
「・・・えっと。それだけか?」
次があると思って待った間でできた変な空気に流されるように問いかけた。
「おう!それがこのゲームの醍醐味だ!」
今のところ二人から得た情報は世界中で大人気のアクションゲームってことだけだった。こいつら二人は天性でなんでもこなすから基本的に人に教えるのが下手だったのを忘れていた。
「頭が痛くなってきた。」
「お?風邪か?頭痛薬のむか?」
「そうだな。お前らがもう少し会話を覚えてくれるのが最高の頭痛薬だ。」
「がはは。そんなの俺たちに求めるのが間違っているだろう。なぁ春奈。」
「あはは。その通りだよね。相手を見ていってほしいよね。」
二人はと笑いながらそう胸を張ってきた。ダメだ。こいつら嫌味が通じない。
「秋。お前だけが頼りだ。教えてくれ。」
「うん。わかった。」
そう秋は頷いてから説明してくれた。
「LG大人気のアクションゲームなんだけど、他のゲームと違ったところがあってそれが人気のある理由になってるのがあって、例えば自分で技の内容を設定できたり、技を組み合わせて別の技にできたりとか自由度がすごく高くなってるのが魅力。」
「ほー。いろいろ考えてやらないとだめってことか。」
「うん。例えば裂空斬っていう色んな職業で覚えれる空気の刃を飛ばす初級技があるんだけど、その技の基本性能とかもいじれる。攻撃力を高くしたり飛距離を長くしたり技を出すまでの時間を速くできたり。でもどこか強くするとどこか弱くしないといけないから自分にあった性能にするのにいろいろ試行錯誤するのが楽しい。」
「なるほど。たしかに面白そうなゲームだな。お、ダウンロード終わった。」
「じゃあ一緒に職業作っていこう?」
「お。頼む。」
「ここで決めた名前とか、答えた質問でチュートリアル後に職業とか初期ステータス決まるから慎重に。」
「といっても、どう答えたらどうなるかなんて分かってないからきにしなくていいぞ。とうま。」
夏希は「がはは。」と笑いながら助言をしてきた。まぁ助言になってないが。気持ちだけ受け取っとくことにして画面に視線を落とした。
画面には名前を入力してくださいと書かれていた。めんどくさいので本名そのまま「トウマ」と入力した。
「あ、本名でやるんだ。私と一緒だね。」
俺のスマホ画面をのぞき込みながら春奈が問いかけてきた。
「考えるの面倒だし。痛い名前は恥ずかしいしな。」
「俺はシャドウナイトって名前だぜ!よろしくな!」
すぐ横に痛い名前つけているやつがサムズアップしていた。返す言葉もなく画面を見ていると質問が浮かんできた。
『あなたは男ですか?女ですか?』
『男』
『あなたの身長はいくつですか?』
『170cm』
『イケメンですか?』
『普通』
「私は好きな顔。」
秋がフォローを入れてくれた。ありがとう。
『お金は好きですか?』
『どちらかといえば好き』
なんかだんだん質問が変な方向に行ってる気が・・・。
『好きな神様の名前は?』
『アマテラス』
「この女好きめ。」
「チャラ男と一緒にするな。」
後ろで「なにをー?」と叫んでるチャラ男がいるが無視した。アマテラスは好きとかではなく思いついたのがこれだけであって特に深い意味などないのだ。
『守りたいものはありますか?』
『ある』
「宗教勧誘のような質問だな。」
「あはは。独特だよね。私も最初びっくりしたよ。でも私の時と全然質問内容違うね。私なんて胸のサイズ聞かれたよ。」
それは俺も知りたい。
『最後の質問です。あなたにとって一番大切なものはなんですか?』
その質問を見て思わず春奈の顔を見てしまった。
笑顔のまま見返してくる顔にドキッとする。ここにいる四人はご近所さんなのでずっと幼馴染だった。いつ頃からこんな気持ちを持ったのかはもう覚えていないが気づいたら好きだった。
「どうしたの?とー君いれないの?」
「あー。そうだな。」
『ここにいる3人』
俺はこいつらにだけは絶対に見せたくない回答を隠しながら入力した。
「おいおい。なに隠してんだよ。みせろよ~。」
そういいながら夏希は頭を両手でワシャワシャしてくる。
「断る。特に夏希だけには死んでも見せん。」
夏希の両手を払いのける。
「かー。これだからトウマは、空気読んでほしいぜ。」
「そんな空気はない。」
もちろん春奈は大事だ。だけど俺にとってはそれと同じくらいこの3人で話すバカみたいな時間も大事だった。
『登録完了!これよりチュートリアルを始めます!』
「あ、トウマ。始まるよ。まずは操作方法とか簡単なところから覚えていこう。私が横でフォローするから安心して。」
「ありがとう秋。二人とは違って頼りになる。」
「え~?私もとー君に教えたい。」
不満そうに反論してくる春奈。
「却下。」
「え~?なんで~?」
「じゃあ、聞くがモンスターを倒す方法をどうやって俺に教えるんだ?」
「え?そりゃあこうズバーンって感じで攻撃すればいいんだよ!」
春奈はそう鼻息荒く自信満々に教えてくれた。
「だから却下なんだよ!」
「トウマ敵がでてきたよ。操作してみよう」
不満そうな春奈を無視してスマホに視線を落とす。スマホの画面にはこのゲームの最低級モンスターゴブリンが映っていた。全体が緑鋭い歯と赤く鋭い目が特徴的だった。腰には動物の皮のようなものを巻いていて、右手には棍棒をもっていた。
「こいつ倒せばとりあえず職業とスキルを一つ貰えるから頑張って。」
「よーし。一丁やるか。」
そう気合を入れて俺がスマホの画面を触ろうとしたその瞬間だった突然地震が起きた。
「きゃー。」
春奈の叫び声が教室に響いた。いや春奈だけではなくほかのクラスや学校中から悲鳴が響いている。それくらい強い衝撃が一気に伝わってきて、揺れはまだ強くなっていた。
「やばい。みんなとりあえず机の下に隠れろ。」
珍しく焦りの色が見える夏希が必死に俺たちに指示を出す。
「わかった。」
俺たち四人は強い揺れに苦戦しながらも机の下に隠れた。教室にある花瓶が倒れたり机や掃除用具入れも倒れていく。5分ほど強い揺れが続いただろうか。地震が治まり始め机の下からようやく出られるようになった。
「結構すごい揺れだったな。がはは。さすがに焦った。」
「はぁ~。こわかったあ。」
「トウマ。無事?」
「お、おう。なんとかな。あ、俺のスマホどこだ?」
地震のせいでめちゃくちゃに散らかった部屋を見渡す。
「あそこ。」
秋がそういいながら教室の引き戸のほうを指さした。
「うわ。まじか。あんなところまで地震でとんでいってたのか。買ったばかりだってのに壊れてたら母さんに殺される。」
そういって扉の前まで飛んで行っていたスマホを拾いスマホに傷がないか確認する。
「ほっ。傷はなさそうだな。」
「あはは。とー君のお母さん怖いもんね。」
「普段は優しいんだが、怒ると山姥だ。」
「そんなこといっていいのか?おばさんに全部ちくっちゃうぞ?」
「それは殺人と同意になる。」
「秋に同意だ。マジでやめてくれ。」
そんなバカ話をしているときだった後ろの引き戸が突然吹き飛んだ。
「ぐはぁ!?」
引き戸に吹っ飛ばされた俺はそのまま机やら何やらで散乱した教室を転がる。
「トウマ。大丈夫?」
「あー。なんとか。ゴリラでも巡回に来たか?」
ゴリラとは体育教師のあだ名である。ゴリラみたいな顔、ゴリラみたいな体格、そしてなによりゴリラみたいな顔なのでそう呼ばれている。え?ゴリラみたいな顔が二つあったって?キノセイダヨ。
「・・・えっと。ゴリラのほうがよかったかもよ?とー君。」
「悪い夢ならさっさと覚めてほしいね。さっきの地震で頭打って気を失ってるって言われたほうがまだ信じれるってもんだぜ。」
春奈と夏希が先ほどぶっとんだ引き戸の方をみたまま固まっていた。
「おいおい。ゴリラよりやばいやつなんてこの世にいるわけ・・・」
そんな軽口はすぐ後悔することになった。
そこにはゴブリンみたいな顔、ゴブリンみたいな体格、そしてなによりゴブリンみたいな顔の生物がそこにいた。え?ゴブリンみたいな顔が二つあったって?そんなこと今気にしている場合か?
とにかくそのゴブリンみたいな生物は右手に棍棒を持ったさっきまでスマホの画面に映っていたゴブリンと全く同じだった。それがそのままそこにいたのだ。
「・・・いました。」
いやいやそんなわけないじゃああああああああんっていう心の叫びに答えるようにゴブリンは咆哮を挙げた。
投稿遅いと思いますが楽しんでもらえれば幸栄です。