2.変態野郎
次に、花咲姉が目を開けた時、何やら天井の白いところに寝ていた。
(病院?)
「病院ではありませんよ。ここは何処でもない場所です」
(何処でもない場所?私、そんな所知らないわ。無の世界、とかだったら分かるけど)
「そんな感じです」
白い天井しか見ていなかった私の目にひょこっと顔を写したその男はこの場所の説明をしてくれた。
金髪碧眼のカミサマっぽいイケメン顔。古代ヨーロッパのお話に出てくるような白い服。誰、と舞は瞬間的に思った。この人、一度も見たことも、会ったことも無い、と。
「私ですか?私は貴方達で言うカミサマ、ですかねぇ。この世界に、本当のカミサマは実在しませんから。本当のカミサマの仕事がその世界を統括する事であるならば、私もその部類に入りますかね」
(ふぅん。何か言いたそうにしてるけど、何?)
「いえ。ただ、驚かれないんだなと思ったのと、いつまでそうしてるのか、と……。私は性別は無いですけど精神自体は男ですから、いつまでもそのように無防備に寝転がっていられると、その、抑えきれなくなる、と言うか……」
確かに、そのカミサマが言うように、舞は大の字になって寝転がっている。もう、刺された時の痛みは目を覚ました時には消えていたのだから、起き上がることも可能だったはず。なのにそれをせず、そのままの状態で精神は男と言うカミサマの前にいたら…。そうなる可能性もある、と言うことである。
(この変態野郎!)
舞は飛び起きてカミサマから距離をとった。ガルルル…と犬のように威嚇しながら。
「そんなに離れないで下さいよ。話したいことがあるのですから」
(何?此処からでも十分話せるけど。私は無用心に変態野郎に近づきたく無いだけ)
「何もしませんから。それでですね、貴方は地球にとって非常に重要な人物であったので、貴方は昨日亡くなる運命では無かったのです。その運命から大きく外れてしまった貴方はもう地球の輪廻には戻れない。そこで」
一度言葉を区切ったカミサマは、両手を広げて言葉を紡いだ。ババーン、と言う効果音の付きそうな声で。
「貴方に異世界転生をしてもらおうと思います!」
(…………何?ラノベ?)
「…反応、薄いのですね……」
(いや、自分が死んでて変態野郎に会ったんだから、もしかして、とは思ったけど、本当にそう言われたから。この後能力とか聞かれるんでしょう?)
「その通りです!よく分かりましたね!さあ、貴方の望みは何です?」
望み。そう問われて明確に何が欲しいか考えても、特に欲しいものがあるわけでは無いから思い浮かばない。別にチート能力などいらないのだから。ただ楽しく生きるためには。前世では記憶力のせいで特別扱いされた。今世でそれは御免だ。ならば。
(普通に楽しく生きられるようにして下さい!)
「……普通に楽しく、ですか。分かりました。ではそのように手配いたします。では、これから貴方が向かう世界についてご説明いたしますね。その世界は、地球より発展の遅れた世界で、剣と魔法の世界です。魔法は、世界中に分布されているナノマシンによって魔力を魔法に変換させて使います。ナノマシンは一般常識では認知されていませんので、他言しないようにお願いします。それと、貴方は異世界に渡るのは初めてですので5歳からのスタートとなります。それと、元々の能力が高い為、地位が貴族になる事はご容赦ください。何か、質問はありませんか?」
(普通に、楽しく生きられるんだよね?)
「はい。最初我慢していただければ、幸せな人生を送れるはずです」
(なら、いいや)
魔法と剣の世界。その言葉に心を踊らせる舞。ナノマシン達とは話せるのかな、どんな人生を過ごせるのかな、と、次の人生への期待が大きくなる。目をキラキラと輝かせ、手をワキワキと動かす舞を見てカミサマも流石に苦笑した。
「それじゃあ、もうあまり時間がないので現実世界に飛ばしますよ。次の人生、楽しめるよう、見守っておきますね」
(それは遠慮するわ。変態野郎に見られるとか、気持ち悪くてゾクゾクする)
「そうですか。じゃあ、回数を減らしますね」
(見るんかい)
「ええ。面白そうなので。では、何か困ることがあったらナノマシンに聞いてください。それでは」
カミサマのその言葉を境に、舞はまた意識を失ったのであった。