01-6 アレフ (人間 35歳 冒険者)
「おいおい、あんまり急ぐなよ」
アレフの声を聞き流しながら洞窟の外に走り出ると、人の気配など欠片もない、鬱蒼としたジャングルが広がっていた。
「ほら、行くぞ。道が細いから気をつけろ」
呆然と立ち尽くす私を、アレフが急かした。
「ねえ、街はどこにあるの?」
「街? あっちの方に行けばあるだろうが……。一番近いのでも、歩けば二日ってところだな」
「ここから二日!? 」
「お前が好き放題ヤるなら、体力回復を含めて5日はかかる……ちょっとは手加減しろよ」
そうぼやくアレフは、出会ったときから比べるとげっそりとやつれた風貌である。
心なしか、足も震えているようだ。
肩をすくめて聞き流しておいた。
「じゃあ5日ね。頑張らないと」
すまして言うと、
「すまん、冗談だ。忘れろ。我慢してくれ」
と、覇気のない声が返ってきた。
「なによ。体力ないなあ」
「…………」
何だかアレフから殺気を感じたので、これ以上からかうのはやめておいた。
男のプライドってやつは、どこに行っても厄介なものらしい。
でも、女の子にイジられるのは嫌いじゃなかったりするんだよね。加減が重要ってこと。
「2日か。長いけど、頑張ろっか!」
アレフに笑顔を向けると、驚いたような顔をしながら頷き返してくれた。
……単純。
「え、じゃあ、こっち行ったらいい?」
先程アレフが指した方向に足を向けると、アレフはにやりと笑って首を振った。
「お前2日も歩く気かよ」
「2日かかるって言ったじゃないのよ」
「歩けば2日って言ったんだ」
「だってここまで歩いてきたじゃない。」
「中には入れないんだよ」
「何が」
「リオンだよ」
「リオンって誰?」
「リオンは人じゃねぇよ」
「リオンが人かどうかなんて私が知ってる訳ないでしょ。バカなの? じゃあ、何?」
「見せてやるよ。こっち来い」
とっとと荷物を持って歩き出すアレフ。
私も慌てて後を追った。
「ちょっと待ってよ、もう!」
追っていくと、アレフは開けた草地で立ち止まった。
結構大きい空き地だが、木の影が大きく広がっていて、暑さが和らいでいる。
私は、はあはあと息を荒くしながら空き地に入った。
……なにも、興奮している訳じゃない。アレフの足が速いから、ここまで小走りで来るしかなかったのだ。
酷使した足が棒みたいに重たい。追いついて文句を言ってやろうと意気込みながら近づいていったが、途中でアレフが手をあげて止めにきた。
「最初だからな。もう少しゆっくり近づけ」
何のことを言ってるんだろう? 何もいないように見えるけど。
てゆーかリオンって、馬とかロバとかだよね、きっと。その子が、どこかに隠れてるの?
私は、言われた通りにそっと歩きながら、アレフの正面にある茂みや、その奥の木々のあいだをじっと見た。
目を皿のようにして見たけれど、馬はおろか、小鳥の1羽も見つけられない。
「何してるんだ?」
「リオンが近くにいるんでしょ?探してるの」
「違うぞ、そっちじゃない」
「じゃあどっちよ。そもそもリオンって何?馬じゃないの?」
何がおかしかったのか、突然アレフが吹き出した。
「なによ。そんなに笑って」
「すまんすまん。リオンは馬じゃない。で、見るのは上だ」
そう言いながら、アレフは真上を指さした。
「だから何か聞いてんじゃ……」
息が止まるかと思った。




