01-5 アレフ (人間 35歳 冒険者)
それから、
私は奇跡の水を汲みに来たという男の手伝いをして、洞窟の外まで連れ出してもらうことになった。
お互いに自己紹介をし、男はアレフと名乗った。
冒険者であり、頼まれごとをこなして生計を立てているのだという。
「私は、サツキ」
昔の源氏名を名乗ると、男は驚いていた。
生まれたての水の子には、普通前世の記憶などないらしい。
事後に思い出したと言うと、しみじみ感じ入ったように、
「よっぽど好き者だったんだな」と言われた。
何だか否定したい気がするが、事実なので仕方ない。
何も言わずに肩をすくめておいた。
アレフは奇跡の水を背負えるだけ背負ったあと、予備だという革袋を取り出して、私にも水を背負わせた。
私が持って帰る分は私が自分のものにしてもいいと言う。
そう言われれば私だって負けていられない。
アレフの真似をして、背負えるだけの水を背負って出発した。
洞窟の出口まで、数時間歩けば着くものだと思っていたが、どれだけ歩いても一向に景色が変わらない。
裸足の足に、アレフが布を巻いてくれていたが、長く歩くうちにはどうしても足裏が擦れて痛くなり、ペースが落ちてしまう。
「ごめんなさい、ちょっと、休憩」
何度目かの休憩のときに、アレフが奇跡の水を布に含ませて足に当ててくれた。
すぅっと痛みが消えていく。布を剥がしてみると、擦り剝けていたところが綺麗に治っていた。
「すごい!」
歓声を上げると、アレフがにやりと笑った。
「『奇跡』ってのは伊達じゃねぇぜ」
怪我も病気も一瞬で治る泉……好きだったRPGでよくある設定だが、実際に体験してみると、これほど便利なものはない。
その後の私は、ちょっとでも足の痛みを感じるたびに布を換えながら歩いた。
数時間……というのはあまりに能天気な予想だったようで、洞窟から出るまでにはなんとたっぷり三日かかった。(ちなみにその間、『食事』は2回摂った)
しかも途中で崖があったり水路があったり、巨大な獣とニアミスしたりと波乱万丈な道のりだった。
アレフがいなくて私ひとりだったら、とても生きて出られなかっただろう。
長い長い洞窟を抜け、太陽の光が見えたときには嬉しさのあまり飛び上がった。




