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俺なんて異世界来てもこんなもん  作者: 弘前平賀
1章 異世界の始まり
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8話 神と人との境目

ちょっと日本の神話やら歴史上の人物やらの話が出てきますが、あくまでも「俺なんて異世界来てもこんなもん」の作中世界におけることなので、実際の神話・伝承・人物・その他諸々とは一切関係ございませんのであしからず。

娯楽作品内の設定としてお楽しみくださいまし。

高天ヶ原(たかまがはら)って聞いたことある?」


 大亮(だいすけ)は俺の目を真っすぐに見据えて問いかけてきた。


「……古事記とか日本書紀とかに出てくる、あの?」

「そう。日本の神話でお馴染みの」


 俺みたいなサブカル好きはもちろん、誰でも何となく聞いたことくらいはあるだろう。

 古事記をはじめ様々な文献・物語において神々が住む場所として伝えられている天上界。

 

「それが、ここだよ」

「……さすがに冗談だろ?」

「冗談は好きだけど、自分で言うのは苦手」


 大亮の顔はいたって真剣だ。冗談や嘘を言っているようにはとても思えなかった。

 じゃあ、この村の人たちは皆――


「言っとくけど、あの人たちは神様じゃないよ」


 また思っていることが顔に出ていたのか、それとも予測していたのか、大亮が俺の考えを遮るように言い放った。


神族(しんぞく)と人族は種族としてそもそも違うから。この村の人たちは、高天ヶ原に住んでるだけの人間。っていうか、この世界の人口はおよそ八億六千万だけど、99パーセント以上が獣人とか含めて人族だよ」


 ちょっとした新事実に、俺は驚いていた。

 天上界なんて世界に住んでいるのは、神様だとか天使だとか神獣だとか、そういった人智を超えた存在だけだとばかり思っていた。

 まさか自分とほとんど同じ人間が暮らしているなんて、夢にも思わなかった。


「神族はある程度まで育ったら歳をとらないし、人族では使えない特殊な魔術とかも使えるけど、人族は一真(かずま)たちと同じように歳を重ねるし、同じように生殖機能もある。唯一の違いは――」


 大亮は左手の人差し指を俺に向け、指先からライター程度の炎を発生させた。


「魔術。こっちの人間は、基本的に子供でも大なり小なり使える」

「ぜ、全員?」 

「全員。もちろん才能や努力で、使える魔術の種類や威力に個人差はあるけどね」


 大亮は左手を開き、それぞれの指先から小さな電気・火・氷・水・竜巻を発生させる。


「ま、普通に生活してる一般人は、生活用の魔道具に魔力流し込んで使うとかがほとんどだけど」


 ここが異世界だと聞いたときは結構落ち着いていた俺だが、高天ヶ原以降の話については、正直話が色々と突飛すぎて理解するのに時間がかかった。

 俺はもしかして、色々な研究者や学者が聞いたら卒倒するような話を聞かされてるんじゃないだろうか。


「あとこっちの世界には魔術を使う獣とかいるけど、そういうのは魔獣って呼ばれるね。さっきの鬼はまた違うけど、詳しく話すと長くなるから大体で覚えておいて」

「お、おう……」


 その後大亮は、魔術については全部説明すると本当に長くなると言い、重要なことだけをかいつまんで説明してくれた。

 

 いわく、本来人間には経絡(けいらく)と呼ばれる魔力を生成し循環させる器官があり、俺たちの世界――葦原中津国(あしわらのなかつくに)というらしい――に住む人間はこの経絡がほとんど退化しているのだそうだ。

 稀に先天的に経絡が活性化して生まれ、魔術を使える人間が葦原中津国にも生まれるらしく、おそらく卑弥呼や安倍晴明などはそういった人間だったのだろうと大亮は語った。

 退化しているだけで失っているわけではないので、過酷な修行や鍛錬で呼び覚ますことができるらしいが、かなりの才能を持った人間が途方もない努力をしてやっと、というレベルらしい。

 

 また、経絡を通じて体に魔力が循環している影響なのか、高天ヶ原人は髪や瞳の色が非常に多彩なのが特徴らしい。

 俺が、もしかしてここは異世界なのかと思った理由の一つがそれだった。

 瑠璃色の髪をしていたヒミカをはじめ、先ほど見た村人の髪の色も瞳の色も、元の世界ではコスプレ会場でしかまずお目にかかれないような鮮やかな色ばかりだったからだ。

 ……ロウはスキンヘッドに細目だったからなんとも言えないけど。


「以上。ここはどこだ、なんでこんな所にいるんだ、さっきの化け物や魔術とはなんだ、にお答えしました。あ、ちなみに今は高天ヶ原(こっち)の時間で深夜二時過ぎ。このヒガン村と森は、高天ヶ原の南大陸最北東端にございます」

「5W1Hに色々おまけして答えてくれたな……」


 正直異世界までは予想してたが、それ以降の話は想像以上にヘヴィで、頭と体にどっと来た。

 できれば今すぐ眠ってしまいたい……。 


「5W1Hなら、まだ聞かなきゃいけないことあるんじゃない?」


 ……そうだ。

 正直、ここが俺の住んでた世界と違うことは、森の中で既にわかっていたことだ。

 だから、ある意味これは俺が今一番聞きたかったこと。

 これを聞くまでは、まだ落ちるわけにはいかない。


「君は、何者だ?」


 思い出すだけで生きた心地がしない、あの笑顔。

 思い出すだけで心から安らぐような、あの笑顔。

 悪魔と天使の顔を持ち、化け物を相手に物怖じもしない胆力と、圧倒的なまでの強さ。

 俺のような葦原中津国人を、高天ヶ原全土を回りながら保護しているという少年。

 口元は隠れているが、顔立ちの幼さがわかり、小柄な体格も相まって女性のようにも見える。

 この少年は、いったい何者だ。


「……改めて自己紹介しようか。瀬戸大亮、一応十五歳」


 思ったより二、三歳上だったのは少し驚いた。

 成長期が少し遅れているのだろうか。


「一真と同じ、葦原中津国から来た人間だよ――」

 

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