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15話 自己満足

「お願いです! オレを地下迷宮まで護ってください!」


 少年は俺らに勢いよく頭を下げ、大きな声でそう叫んだ。


「ちょ、ちょっと待った。どうしたんだよ一体」


 突然のことで俺も訳がわからず、とりあえず少年の頭を上げさせた。


「どういうこと? 地下迷宮って、ソウエンの近くの地下洞窟のことよね?」

「……はい」


 少年はこくりと頷いて返答した。

 その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 話についていけない俺は大亮に近づいて話しかける。


「大亮、地下迷宮って?」

「んーとね、高天ヶ原にはいくつか迷宮って呼ばれる、いわばダンジョンみたいな場所があってね。不思議なことに、一定の期間で中の構造が全く変わるんだよ。いまだに全容が明らかになってなくて、冒険者や軍が調査してる」


 俺らが話してると、ヒミカが少年の頭をなでながら話を続けていた。


「どうして、地下迷宮に行きたいの? あそこは子供が行くようなところじゃないわよ。魔獣だってたくさん出るし……」

「……リンザの花」

「え?」

「リンザの花が欲しいんだ」


 ……リンザの花?

 俺が顔に疑問符を浮かべて大亮を見ると、大亮も「知らないよ?」と顔をふるふると横に振っていた。

 タケフツさんも何のことやらといった表情だ。


「もしかして願いの花のことかな?」


 ククリがぽんと手を叩いきながらそう言うと、少年がこくりと頷いた。


「今、街でちょっとした話題になってるんだよ。その花に願いを込めて誰かに渡すと、その願いが相手に伝わるっていう」

「……そう、それです」


 どうやらソウエンの街でそのようなおまじないが流行してるらしい。

 その花が近くの迷宮にあるから取りに行きたいということのようだ。


「うーん、おまじないみたいな依頼だと組合は中々受理してくれないかもね」

「さっきもそう言って断られました……報酬も全然足りないって……」

「なんでその花が欲しいの? 好きな子にあげるのかな?」


 少年は言いづらそうに口をつぐんでしまった。

 皆どうしたものかと困っていると、妖怪並みに察しのいい大亮が少年の顔をじっと見つめ出した。


「……もしかして家庭の事情?」

「……っ!」


 大亮がそう言うと、少年は何かが堪え切れなくなったようにポロポロと涙を流し出した。

 

「ど、どうしたの? 大丈夫?」

「お、お父さんとお母さんが、いっつも喧嘩してて……」

「……」

「もう喧嘩しないでっ……て、い、言っても、子供は黙っ、てろって、聞いてくれなくって……!」

「……そう、辛かったね。頑張ったね」


 ヒミカは頭を撫でながら少年を優しく抱きしめる。

 優しくされた少年は、今まで我慢していたものを全てぶちまける様にわんわんと泣き出した。


「……ねぇ、兄さん」

「言わなくていい。俺も構わない」


 タケフツさんはその大きな手を少年の頭に乗せ、目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。


「その依頼、俺たちが引き受けた。報酬はいくらでも構わない」


 少年ははっと驚いた様に顔を上げる。

 そしてタケフツさんの優しくも力強く表情を見て、また目を潤ませた。


「タケフツいいのー? 軍属が依頼なんか受けちゃって」

「組合を通したものじゃないなら構わないだろう」

「わっるいんだー」


 ククリがタケフツさんをからかうが、タケフツさんとヒミカの意志は固いらしい。

 その表情には迷いがなかった。


「い、いいの?」

「依頼しておいて何遠慮してるのよ。任せなさい」


 兄妹はすっかり乗り気だ。

 俺は隣の大亮を確認すると、思わず視線が交差した。


「一真、少し帰るの遅くなってもいいかな?」

「言うと思ってたよ。もちろん」

「ごめんね」


 そう、俺も大亮も、こんな話を聞いてじゃあここでさよならなんて思考は持ち合わせていなかった。

 最初から俺らも同行するつもりだった。

 俺たちははっきりとタケフツさんたちに告げる。


「俺らも行くよ。そんな長引く仕事じゃないだろうし」

「なんの得にもならないぞ?」

「自己満足にはなるでしょ」


 大亮はひらひらと左手を振って応えた。


「ん〜アタシも行こうかな、暇だし」


 ククリは右手をちょこっと上げて参加を表明する。

 顔を見るに嫌々というわけでもなさそうだ。

 むしろ良い暇つぶしが出来たことで少し楽しそうですらある。


「あ……ありがとうございます!」

「そういえば、君の名前は?」

「あ、リクです。皆さんよろしくお願いします!」


 リクと名乗った少年は、俺たちに深々と頭を下げた。


「……どんな理由があるか知らないけどさ、子供を泣かせる親は最低だよ」


 隣にいた大亮が、誰に聞かせるでもなく小さく呟いた。

 その表情には僅かながら怒りが浮かんでいるように見えた。

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