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俺なんて異世界来てもこんなもん  作者: 弘前平賀
1章 異世界の始まり
33/57

31話 終戦後の情報整理の前に、彼らと彼はその先へ進む――

ちょっと長くなってしまいましたが、切るよりこのままいくべきと思いました。

お付き合いください……。

「……ごめん大亮、俺そろそろついていけそうにない」


 ただでさえここまでの話で部外者気味なのに、急に女性が何人も出てきたら頭もこんがらがるわ。

 見るとシュウオウさん以外の皆も唖然としている。


「あまり説明とか得意じゃないから事実だけ。高天ヶ原(たかまがはら)の外にも、世界はある。この国は、その世界から逃げた(・・・)

「そもそも自分たちの国(日本)にしか異世界が存在しないなどと考えるのは傲慢とも言えるな」


 金髪の外人さんが何か言ってるが……


「ごめん大亮、その人今なんて言ったの?」

「Bice. Non capiscono l'italiano(ビーチェ、イタリア語で話しても皆わからないよ)」

「Oh, scusa(おお、すまんの)」


 なんか大亮が訳し始めた。

 さすが旅人……外国語ペラペラか!

 偏見極まりないけど。


「いや、俺片言しか喋れないよ?」

「わかりましたよサトリさん」


 いくら俺が顔に出やすいと言っても大亮のそれ(・・)はやっぱり妖怪レベルだと思う。


「話戻すよー、御神体(ごしんたい)ってのは要するに、高天ヶ原と中津国(なかつくに)を繋ぐため、そしてそれ以外の世界との繋がりを断つために存在する魔道具なのさ。こんなものがあるせいで、今世界のバランスが崩れてるんだよ」

「……何のためにそんなものがある」


 タケフツさんが大亮に尋ねる。

 その目には少し怒りのようなものが見える。


「最低限のことだけ知りたい? それとも、一生命の危険に晒されるかもしれないけど全部聞きたい?」

「俺は全部だ」


 タケフツさんの本気に応えたのか、大亮は問いに答えると言った。

 ただし、選択を迫って。

 ここから先は、安易に足を踏み込んでいい領域じゃないのだろう。

 大亮は先ほどの恩義からか、話してもいいが覚悟はあるか? と前置きしたようだ。

 その表情だけで、ここから先の話が如何に危険か理解できた。

 それは皆も同じらしい。

 ……そしてタケフツさんは即答した。


「儂はもうある程度は知っておるからのう……カンナ、ヒミカ、ロウ。そして一真殿は席を――」

「私、全部聞きたい」


 シュウオウさんの言葉が終わるより先に、ヒミカがそう宣言した。


「ヒミカ、命に関わるかもしれない話なんだぞ? お前がこれ以上――」

「ロウさん、お父さんもお母さんも、(やしろ)を守って死んでいったんだよ?」

「……!」

「お父さんもお母さんも、社の守り人であることを誇りに思ってた。死んじゃうその時も、魔獣から命を懸けて社を守ったんだってどこか誇らしげだった。その社が、本当は存在しちゃいけなかったなんて言われて、このまま出ていくなんてできると思う?」


 ……これか。タケフツさんの目に怒りが宿っているように見えた理由は。

 俺なんかが聞いていい話だったんだろうか。

 ヒミカの顔にはタケフツさん以上の怒りが滲んでいた。


「……聞かせなさいよ。私たちの誇りを、私たちの受け継いできた想いを、否定するだけのご高説を」

「……言葉が悪かったのは謝るよ。別に貴方たちを否定するつもりはないんだ。むしろ本当に尊敬するよ」


 大亮は上手く体を動かせないながらも、頭を下げて謝意を示した。


「……はあ、お前ら2人が聞くというのに俺が聞かないわけにもいかんだろ」

「ロウさん……」

「……あの時、ミカフツとリオン(お前らの両親)を守れなかったのは俺の責任だ。あの2人に生かされた身としては、なおの事聞かねばならん」


 後から聞いた話だが、ロウさんとヒミカたちの両親は、少し歳の離れた幼馴染で親友だったのだという。

 まだヒミカが5歳、タケフツさんが11歳の時、村に災害級――魔獣にはそういうランクのようなものがあるらしい――の魔獣が現れ、村の戦士たちが何人も命を落とした。

 当時21歳だったロウさんも当然参戦していたのだが、不覚を取り、ここまでかと思ったところでヒミカたちの両親が庇ってくれた。

 母親の方はほぼ即死、父親は何とかその魔獣に反撃して深手を負わせたが、その時の傷がもとで亡くなったという。


「あらあら、皆、物好きですねえ……まあヒガン村の住人らしいと言えばそれまでですが」

「……お主も言ったところで残るのであろうなあ」

「当たり前ですよ。よくわかってるじゃないですか」

「何十年共に生きてきたと思っておるか」

「そうですよ、ならば私に長年こんな隠し事をしていた件について、後でお話があるのもわかってますね」

「……」


 ……結局皆残るのか。

 ……俺には、正直命を懸けてまで聞かなきゃいけない理由はない。

 元々この高天ヶ原の住人でもないし、元の世界に戻ることだけが目的だった。

 ……けど、なんだろうこのモヤモヤは。

 なんかスッキリしない。


「一真は下がりなよ。知っちゃったら、下手したら元の世界に帰れなくなるよ?」

「……そうですね、一真さんはただ巻き込まれた身。これ以上命を危険に晒す必要はありませんよ」


 俺の様子を察したのか、大亮とタケフツさんが退室を勧めてくれる。

 だがそれでも、俺はなぜか踏ん切りがつかずにいた。

 ……何だ?

 俺は一体何が引っかかっている?


「……森で会った時から思ってたけどさー」


 大亮は俺の目を見て――


「一真ってホントに優しくていい人だよね」


 そう、伝えてきた。


「……は?」


 だが、俺にはその言葉の意味がわからない。

 今の流れで、今の状況で、というか今までの俺の行いを見て、何をどうしたらそんな感想を抱くのか理解できなかった。


「……そうね、あんたホントお人良しだわ」

「確かに、滅多に見ないですね一真さんのような人は」


 大亮だけでなく、ヒミカやタケフツさんまでも俺にそんな言葉をかけてくる。

 なんなんだ?

 皆何を言ってるんだ?


「ちょ、ちょっと意味がよく……」

「ああ、自覚ないなこれ」


 大亮が少し呆れたような目で俺を見ている。

 

「一真ってさ、誰かの命がホントにヤバいって思ったら、黙ってられないでしょ? それこそ自分の事なんかお構いなく」

「……え?」

「あの女の子の時もそうだし、あの騒動の中俺を心配して探してくれたし、俺を命懸けで助けてくれたし……今だって、1人だけ安全な場所に逃げるのが嫌なんじゃないの」


 ……別に、そんな風に意識して行動してきたわけじゃない。

 でも、なんて言うんだろう。

 ……自分でも納得してしまった。

 腑に落ちた……っていうのかな。

 ずっと引っかかってたんだ、ユキを助けた時の事とか他にも色々。


 何で、一度は何もかも疲れ果てて見捨てようとまでしたのに、体は勝手にユキを助けに行ったのか。

 何であんなに、戦ってる人たちを(ないがし)ろにするような村人たちの態度に怒ったのか。

 何であんな化け物みたいな蜘蛛女の前に立ちはだかったのか。

 けど、誰だって目の前で誰かに死んでほしいなんて、危ない目に遭ってほしいなんて思わないだろ。 

 ましてや、自分だけ安全な場所にいる時に。


「……別にそんな考えて行動したわけじゃねえよ」

「じゃあ、一真って人間の根源がそうなんじゃないの?」

「……タケフツさんたちが命懸けで鬼と戦ってる時、意地汚く隠れてたんだぞ」

「あ、そうなの? てかあんたに命の心配されるような状況になんかなってないわよ」

「序盤はともかく、数的有利もあったしほぼ優勢のままだったな」

「そもそも聖人君子でもなし、いつでもどこでも人助けしなきゃいけない理由なんてないでしょ。1回隠れたからって、一真が今までしてくれたこと全部否定する理由にならないね」


 違う、俺はただの凡人で、そんな風に言ってもらえるような人間じゃなくて。

 特別なことなんて何も無い、ただ自分に出来ることすらやらない人間になりたくなくて。

 助けてもらったのに、その恩すら返せない情けない男になりたくなくて。

 何もかも無くしたけど、何も出来ない男になりたくなくて。


「……俺はただ、大亮には助けてもらったから、それで……」

「自分で言ったよね? 他人の命を救うのって、生半可なことじゃないって。どんな理由があっても、一真はそれを知った上で、それでも俺を助けてくれたんだよ?」

「……俺は……そんな立派な人間じゃ……」

「……一真さ――。いや、一真」


 タケフツさんが、力強く俺の名を呼んだ。

 ずっと俯き気味だった顔を上げて、タケフツさんを見る。

 彼は、真っ直ぐに力強く俺を見つめている。


「もう、自分を卑下して誤魔化すのはよせ。お前は、命を懸けてユキを守ってくれた。だからこそ、俺も(おさ)も、ヒミカも、お前を心から助けたいと思った」

「……私は別に……そこまで……いや、まあ、うん」

「それはきっと、大亮も同じだ」


 大亮はこくりと頷いた。


「一真は、いい人だよ。だから死んでほしくないって思った」

「俺もだ。もちろん他にも戦う理由はあったが、お前を死なせたくないから俺たちはその力を貸した」

「……けど……けど俺がしたことなんてただの時間稼ぎくらいで、結局皆の力がないと何も出来なくて……!」


 いつの間にか、俺はまたボロボロと涙を流して泣いていた。

 タケフツさんは、そんな俺に近づき、優しく肩に手を置いた。


「一真、俺たちは、お前だから(・・・・・)その力を惜しまず貸した。お前が取るに足らん男なら、俺たちはとうに見捨てていたさ」

「……」

「“誠実である”というのは立派な才能で、誰かがお前の為に力を使いたいと思ったのならば、それは立派なお前自身の力だ、一真」


 ――ずっと。

 ずっと何もしてこなかったから、全部無くしたんだと思ってた。

 こんな状況になって初めて、自分が今まで何もしてこなかったことに気付いた。

 こんな状況だからこそ、この空っぽな自分が俺の本性なんだと。


 ――けど。


『本当にありがとうございます!』

『助けてくれて、ありがとう』

 

 こんな状況で、その言葉をもらえたのは。

 こんな状況で、心の思うまま動いた結果として皆が助かったのは。

 ちゃんと俺の力なんだって。

 そんな風に思ってもいいのかなぁ……。


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