29話 いつの時代も女性とマイペースな奴が1番強い
若雷こと若雷と鬼の大群を退けた俺たちだったが、今度ばかりはもうダメかもしれない。
なんて威圧感……なんてオーラだ。
俺みたいなド素人ですらわかるほどの圧倒的なパワー。
それはまさに、人間の中にある根源的な恐怖を呼び起こすかのようだ。
俺、ヒミカ、タケフツさん、シュウオウさんの4人は今——
村に戻って早々に、カンナさんにお説教をくらっていた。
「まったく貴方たちと来たら……たった一人で森に入るわ、村の事を放ったらかして戦いに行くわ、それを止めもせずについて行くわ……何を考えているのですか?」
村に戻って広場へと移動し、真っ先に出迎えてくれたのは般若……もといカンナさんだった。
とうの昔にロウさんが皆を連れて脱出しているだろうとタケフツさんらと話していたのだが、予想に反して広場には全員が残っており、その中心にはカンナさんがいたのだ。
俺はきょとんとするばかりだったが、ヒミカやタケフツさん、シュウオウさんは滝のような汗をダラダラと流し、明らかな動揺を見せていた。
そしてカンナさんが一言、「おすわり」と言い放っただけで、俺を含めた四名が即座に正座をして今に至る。
……一人足りないと思ったろう?
大亮なら今俺の隣で……じゃなくて背中で寝てるよ。
あの後、どうやら限界が来たのか大亮は電池が切れたようにパッタリと倒れ込んだ。
話を聞くと、若雷と戦う前にも同じような化け物と一人で戦ってたらしい。
昨日も夜遅くまで俺を探し回って戦ってくれていたし、忘れがちだがこいつはまだ十五歳なんだ。
明らかに過労だろう。
「ヒミカ、そしてあなた。私は言いましたよね? 誇りは大事ですが、誰かや自分の命を粗末にするなと」
「は、はい」
「いや、だからなカンナよ、儂らは大亮殿や一真殿の命を助けるために行ったわけでな……恩人に対し自分たちだけ助かろうなどというわけには……」
「ロウから聞いておりますよ? タケフツと随分楽しそうに救援へ向かう話をしていたと……」
(ロウッ! 貴様!)
(申し訳ありません長……)
……俺でも今二人のアイコンタクトの内容わかったぞ。
ロウさんがすごい勢いで目を逸らしたところを見ると、カンナさんに詰め寄られたな……。
しかし俺は味方だぜロウさん。俺だって今のカンナさんに詰め寄られたらと思うとぞっとする。
「ま、まあ確かに武人として血が騒いでしまった部分があるのは否定せぬが、結果的にヒガン村の武人として恩義を返し、命も救えたではないか。何も問題あるま――」
「あるに決まってるでしょうが」
ぴしゃりとカンナさんは言い切り、その能面のような顔からさらに怒りのオーラを発した。
「いいですか、あなたたち。今回の件は結果論にすぎません。確かに結果だけ見れば万事解決と言えるでしょう。しかし、敵勢の戦力が未知数だというのに、いくら腕利きとは言えそんな人数でどうにかしようとするなど、長としても、武人としても、大人としても、正しい行いとはとても言えません」
「「「……はい」」」
三人が示し合わせたかのようにそろって返事をし、うなだれてしまった。
……村長と村最強の戦士が衆人環視の中、正座させられて説教されているという状況はあまりにおかしいと思う。
「カズマさん」
「は、はい!」
はい、いよいよ俺来た。
覚悟を決めろ。気をしっかり持て。
「……ご友人の身を案じたこと、そのために自らの危険を厭わぬ姿・心意気は素晴らしいです。しかしそれで皆に迷惑がかかってしまったことは、理解してくださいね?」
「……はい、本当にすみませんでした」
俺は深々と頭を下げる。
我ながら本当に勝手なことをしたと思う。
こういう時の独断単独行動がどれだけ周りに迷惑がかかるか、頭ではわかってたつもりだったのに、あの時は場の空気に苛立っていたり大亮の心配ばかりして気が回らなかった。
反省しなきゃだめだ。
「ただ、村の者があなたに不快な思いをさせ、このような事態となったことも事実。この場にて失礼ではありますが、心よりお詫び申し上げます」
「いえ、なんであれ迷惑をかけたのはこちらですから」
カンナさんが頭を下げ、俺も合わせて再び頭を下げる。
すると、ずっと俺の背中で眠っていた大亮が、バランスを崩してずるりと地面に叩きつけられてしまった。
「ぶべし」
「あ、わ、悪い大亮!」
「……もーにん」
おはよう、でも今それどころじゃないんだ大亮。
「お目覚めですか、ダイスケさん」
「……どちら様でせう?」
あ、そうか大亮は初めてカンナさんに会うのか。
……とりあえず何故お前は地面に落ちた時の体勢からまったく動かないんだ。
「ヒガン村村長、ホノムラ・シュウオウの妻カンナと申します。以後お見知りおきを」
「これはこれはどうもご丁寧に。このような体勢でご挨拶するのは大変心苦しいのですが、実は指一本動かせそうもないのです助けてください」
動きたくても動けなかったのか!
俺は慌てて大亮の腕を掴み、頭を脇の下にくぐらせて肩を貸した。
「……ふふっ、仲がよろしいのですね。色々言わねばならぬこともありましたが、忘れてしまいました」
カンナさんは口元を隠し、笑いながらそう言った。
(……大亮ってこういうの得だよなあ)
俺は大亮を見てそんなことを思っていた。




