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俺なんて異世界来てもこんなもん  作者: 弘前平賀
1章 異世界の始まり
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23話 社の守り人

 ヒガン村出身の剣士、タケフツは前世において主に二つの流派を修めていた。

 一つは高松藩にいた頃に流行していた直心影流。もう一つは新選組入隊以降に修めた天然理心流だ。

 それぞれに当然、型や気構えなど異なるが、共通していたのは特殊な木剣を使用することだった。


 共に真剣と同様、もしくは遥かに上回る重量の木剣を使い、腕だけではなく体全体を合理的に使う感覚が自然と養われる。


 故にタケフツの剣は重く、速い。

 前世で実践の中で磨かれたその技術を、今世で二十年以上研鑽してきた。

 既にタケフツの剣は達人の域に達していると言って良いだろう。

 事実、純粋な剣のみの戦いならばタケフツは大亮をも凌ぐ。


「はあっ!」


 タケフツが鬼の一体に袈裟斬りを仕掛ける

 その一撃で鬼の分厚い筋肉に大きな傷が刻まれた。

 

「恐れるな! 異形のモノとはいえ、我らの力が通じない相手ではない!」


 タケフツがそう叫ぶと、村の戦士たちの士気が一気に上がる。

 鬼の群れが村へと入る前に討って出たタケフツたちは、唯一の入り口を守る様に陣形を組み、その進行を阻んでいた。

 皆、数的優位を保ちつつ連携を取ることで、なんとか鬼に対抗していた。


 また、二十体はいた鬼のうち、半数近くは現在進行系でビーチェらによって足止めされている。

 結果として想定していた数よりも敵勢は少なくなり、ヒガン村はなんとか敵の侵入を阻んでいた。

 

 何より、タケフツとヒミカの活躍が大きい。

 ヒミカにはタケフツほど武の才能はないが、魔術の才は村でも右に出る者はいない。

 水氷系と風系魔術を得意とし、広範囲を一度に攻撃する(すべ)に長けていた。

 このような乱戦において、ヒミカの存在はかなり大きい。

 

 見たこともない化け物()に始めは怯んでいた村人たちも、二人の姿に触発されたように果敢に戦っている。

 村に最後の砦としてシュウオウやロウが残っているのも彼らを奮い立たせた。

 彼らが後ろにいるのならば、残してきた家族の心配はいらない。

 あとは、自分たちが生きて帰るだけだ。


「ガアッ!」


 群れの中でも一際大きな赤鬼が、タケフツに向かって金棒を振り下ろす。

 力強く風を切りながら振り下ろされたそれを、タケフツは左半身を引いてさらりと避ける。

 鬼の怪力は脅威だが、全ての動きが大振りで予備動作もはっきりとしている。

 焦らず冷静に対処すれば回避は容易い。

 しかし、鬼の耐久力は桁外れだ。半端な攻撃ではまともに傷一つつけられない。

 長期戦になれば、疲労と焦りでこちら側が不利になるのは目に見えていた。


「出し惜しみしてるような余裕は無いな……」


 バチバチッという音と共に、タケフツの刀が帯電し始めた。タケフツの得意な属性付与魔術だ。

 その刀をタケフツは下段に構え、鬼へと素早く斬り上げた。

 鬼の胴体に剣撃が命中する。

 傷口はそれほど深くは無いが、感電したのか鬼は膝をつき身動きがとれない状態となった。

 そして、まるで頭を差し出すかのようにうなだれている鬼に対し、タケフツは刀を振り上げた。

 まるで、介錯のようだ。


「……嫌な事を思い出したな」


 前世での苦い思い出を連想してしまい、顔を一瞬しかめたタケフツはそのまま鬼の首を見事に斬り落とし、その姿を見たヒガン村の戦士たちは歓声をあげてより士気を向上させた。


「倒せない敵じゃない、これなら切り抜けられる」


 額から流れた汗を軽く拭い、タケフツは別の鬼へと斬り掛かっていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「……強そうだなとは思ったけど、まさかこれほどとはね……」


 その様子を、岩壁の上で回復に努めている大亮が見守っていた。

 最悪の場合は自分も微力ながら参戦しようと考えていたが、タケフツはおろかヒミカもヒガン村の戦士たちも想像以上の実力の持ち主であった。

 おかげで自分は回復に専念することが出来る。


 先ほどアリエルをシュウオウの元に向かわせ、村人全員で西の方へと逃げるよう忠告をしたのだが、シュウオウはまずこの第一陣を凌ぐことを優先した。

 ここで村を捨て、逃げる選択肢を選ぶことに躊躇いはない。

 しかし、決して少なくはない村の人間全てに「逃げろ」と言ってすぐに逃げられるわけがない。

 敵の力は強大だがまだ少数。

 村の戦士総出で対応すれば、逃げる時間を稼ぐことはできる。

 シュウオウは皆にそのように告げ、タケフツたちを迎撃に向かわせたのだった。

 

「……しっかしまた逃すとはね……学習しないなあ俺も」


 大亮はそう言ってふと後ろを振り返る。

 そこには焼け爛れた体で横たわる黒雷(こくらい)の姿があった。

 しかし、それ(・・)はもはや黒雷ではない。

 

 大亮に奥の手があったように、黒雷にも大亮に知られていない奥の手があった。

 黒雷は体の大半を残して本体のみ分離し、既にその場から逃げ出していた。

 黒雷の抜け殻の近くには、まるで生まれたての小さな蛇でも這ったかのような粘液の跡がある。


「……まあ、あっちもしばらくはまともに戦えないだろうし、とりあえずはいいか」


 数年来の因縁に決着をつけ損ねたが、大亮は既に次の戦いに頭を切り替えていた。

 大亮は若雷(じゃくらい)と直接戦ったことはないが、対戦経験のある姉から特徴は聞いている。

 黒雷と比べると力、速度共に劣るが、技と魔術のレパートリーが多く、次の動きが読めない相手だと。

 

 今からどれだけ回復に努めても全快することは不可能と判断した大亮は、若雷の足止めのみを考えていた。

 タケフツならばもしかしたら若雷ともご互角に戦えるかもしれないが、これは『道』を封印し損ねた自分の不始末。

 なんとか時間を稼いで、彼らを無事に逃がさなければならない。

 

「……大丈夫だ。このくらいの逆境、皆といた時はしょっちゅう乗り越えてきただろ」


 まるで自分に言い聞かせるように大亮は呟く。

 大亮はずっと家族の背中を見て、共に戦ってきた。

 あの人たちの家族だと胸を張って言うには、この程度で諦めてなどいられない。

 

 下で大きな歓声が上がる。

 どうやらまた鬼を仕留めたようだ。

 やはりヒガン村の戦士は練度が高い。

 シュウオウの指導が良いのだろう。


「さて、行くか……『道』から次が来てる気配があるし急がないと」


 大亮はゆっくりと立ち上がる。

 その眼はまだ死んでなどいない。

 未来を信じ、前へと進む覚悟を宿していた。

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