19話 因縁
今回三人称視点です。
見づらい方はご容赦を……。
タケフツが、シュウオウが、ヒミカが、ロウが、突如として現れた強大な魔力の波動に反応した。
それは、大亮が彼らにぶつけた殺気や魔力とは比べ物にならない程の暴威。
彼らは瞬時に事の重大性と緊急性を理解した。
「びっくりしたー、なんだろ今の」
「雷? でもこんなに晴れてるのに……」
シュウオウの屋敷の庭で戯れていた子供たちが、きょとんとした顔で森の入り口の方を見やる。
「……お前ら、今すぐ屋敷の中に入れ」
「え?」
「いいから早く入れ! 絶対に出てくるなよ!」
タケフツはそう告げてその場を後にした。
残された子供たちは何かあったのかと不安そうだ。
「……皆、とりあえずタケフツさんの言う通り中に入ろうか」
一真が子供たちを中へと誘導する。
彼も何が起きているかはわからなかったが、何かが起きたことは理解した。
自分にできることは、タケフツの言う通りに子供たちを安全な所に移動させることだと判断した。
(また何かあったのか……? 大亮……)
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「ありえない……なんだこの魔力は」
ロウは力の波動を感じる岩壁方面へと目を向けている。
先ほど大亮が脱走したが、彼にとって最優先事項はそちらではなかった。
その魔力は相手に生理的な嫌悪感を抱かせるような禍々しさに満ちていた。
その悪意が、いつヒガン村に向かうかわからない。
「……恐ろしい殺気じゃの」
そう言って現れたのはヒガン村の長、シュウオウであった。
「長!」
「ロウ、大亮殿は出陣られたのだな?」
「申し訳ありません……監視を命じられていながら……」
「構わぬ、お主なら理解してようが、監視などほとんど名目よ。村の者が早まらぬようお主を置いたまで」
シュウオウは岩壁の方、大亮が向かった先を見やった。
禍々しい魔力とは別の、力強い魔力の存在を感じる。
(……大亮殿が向かってくれたおかげで、皆を避難させる時間が出来たのぅ……まずはそちらを優先するか)
幸い、今ヒガン村にはタケフツもいる。
闘えない者たちを避難させ、大亮の援護に向かえば敵が強大でも迎え撃つことは容易い。
代々、社の守り人としての役割を果たして来たヒガン村の住人は一般的な村に比べると屈強な勇士が多い。
シュウオウはこの危機、決して乗り越えられないものではないと判断した。
「ロウよ、ヒミカと若い衆と共に、女子供、老人の避難に向かいなさい。恐らくタケフツももう動いているじゃろう。避難が済んだらタケフツとワシで大亮殿の援護に向かう」
「……わかりました」
ロウは一瞬だけ顔を曇らせたが、その命を受諾した。
ヒガン村の一員として、村長と腕利き一人だけをあの暴威に晒す事に躊躇ったが、二人以外にあれに対処できる者がいるとも思えない。
ロウは自分の無力に歯痒さを覚えながら、村の者たちの無事を優先するため、それをぐっと胸に押さえ込んだ。
「……さて、そろそろ悪しき時代の遺物は終わらせる頃合いかの」
シュウオウは誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
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「ひゃははははは! いいねぇ、その眼! そうだそれだよ、そのお前じゃねぇと収まらねぇ! 一年前を思い出しちまうなあ! そうだろ『紅眼』ェッ!」
餓鬼のように醜い長身痩躯のその男は、興奮冷めやらぬ様子で叫ぶ。
「……その名で呼ぶなよ『クロちゃん』」
「誰がクロちゃんだテメェ! 黒雷様と呼べっつってんだろうがぁ!」
大亮が挑発すると黒雷はわかりやすく憤った。
煽り耐性はかなり低いようだ。
大亮の眼が紅く光ると、それに呼応するように大亮自身の魔力と身体能力も上がっていく。
今や大亮の魔力は黒雷に匹敵するところにまで達していた。
そして――
岩壁の上と地上。
かなりの距離があったはずの二人の体が、一瞬で交差する。
音速を超え、ガキィィィン! という音が遅れて響いた。
大亮の両刀に対し、黒雷は両手の指から刃のように伸びた爪で襲い掛かってきた。
二人はまるで重力という概念を無視しているかのように、岩壁の壁面に立ち、激しく打ち合う。
大亮という剣士の特徴を今ここで一つ述べるならば、そのスピード以上に受け流しの技術が挙げられる。
獲物の両刀は魔力でコーティングしている上、刀自体も高天ヶ原の技術で打たれたもので、通常の刀よりも当然硬度・強度は高い。
しかし大亮は、道具の性能や生まれ持った魔力に頼った闘い方を良しとしなかった。
それは常に傍にいた尊敬する家族たちが、皆そのような優秀な戦士たちであったからだ。
大亮は打ち合いの際、力で押し切ろうとは決してしない。
むしろ相手の獲物と自分の刃がぶつかり合ったその瞬間、わずかに刃先をずらして相手の攻撃を受け流すことを得意としている。
それによって武器と体力の消耗を抑え、あわよくば相手の体勢を崩して隙を作りだす。
「相変わらず気持ち悪ぃ戦い方しやがって!」
「そういうアンタは相変わらず気持ち悪い顔してるね」
挑発が効いたのか、黒雷の一撃が重く速く、しかし荒くなる。
しっかりと技術を磨いている大亮の戦い方に対し、黒雷の戦い方はその強大な魔力と身体能力に頼った純粋な暴力だ。
しかし、強い。
その魔力量と力が、純粋に種として普通の人間を遥かに凌駕していた。
ある程度膠着したところで、大亮が動きのリズムを変えた。
あえて速度を遅くし、緩急をつけたことで黒雷がわずかに戸惑う。
その一瞬にも満たない時間で大亮は両手に持った刀を逆手に持ち替える。
「ちぃ!」
「紅独楽」
黒雷が咄嗟に防御態勢に入る。
大亮は独楽のように回り、紅い光を放つ竜巻の如く黒雷に襲い掛かる。
ガガガガガガガガガガ!
さすがの黒雷も、高速であらゆる角度から襲い掛かる剣撃を前に、守りに徹するのが精一杯だった。
しかし徐々に耐え切れなくなり、その体にいくつもの刀傷が刻まれ、血が噴き出していく。
「調子に乗るなクソがあ!」
黒雷はそう叫ぶと、バチィッ! と激しい音を出して全身を放電させた。
決して威力は高くないが、タメもなく放たれた電撃を大亮は完全にレジストすることが出来なかった。
「くっ……!」
大亮は一足飛びで後ろへ下がり距離を取る。
若干体の様子がおかしい。どうやら電撃で少し神経が麻痺してしまったようだ。
その機を逃すまいと黒雷が襲い掛かるが、大亮も火炎魔術・火遁で炎の壁を作り出し、容易に近づかせない。
戦況は、ほぼ互角であった。




